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第一章

88.ちっこい繋がり

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「あ、ヘルはマナー講師より上品で優雅な動きしてる! あの華麗な仕草から罵倒して瞬殺して気品が粉々にならないってすごいよね。艶っぽいっていうのかな、すっごい妖艶に笑ってるんだけど、ごめんなさいって土下座しろって『目からビーム』が出たり、そっちの方が勉強になりそう」

「⋯⋯褒めてるのか貶してるのか。だが、グロリアにしちゃあ的確な認識だな」

「マナー講師よりハードル高そうだよ」

(竹刀代わりになる物を探して、部屋で気分転換に素振りとかしようかな。モップは細すぎるし、庭の木を削るのはハードすぎるかな)

 ジェニの軽口を完全無視して全く別のことを考えていたグロリアの顔を覗き込んだジェニが首を傾げた。

「なんだ? 言ってみろよ」

「この辺に竹ってない? 1・2本減ってもわからないくらいワッサワサの竹林」

「竹ってなんだ?」

「⋯⋯ん? えーっと、なんでもない。なんとなく聞いてみただけだから」

(そうか、名前も知らないくらいだから近隣の国にもないんだね。ハリボテの話をした時に竹って言った気がするけど、セティは気にしてなかったから知ってたのかなあ。今度会ったら聞いてみよう。
木より軽くてよくしなるから⋯あ、でも竹刀の作り方がわかんない)



「グロリアは闘技大会って見に行った事なかったよな」

「うん、すっごく楽しいって聞いてる」

 今年も数ヶ月後に行われる闘技大会は予選と本戦を合わせ20日かけて行われる。

「前国王の代までは剣術のみと魔法のみに分かれてたんだが、現国王は剣術と魔法の同時使用可能な部門を増やしたんだ」

 学生の部と成人の部がそれぞれ3種類⋯⋯以前より開催期間が長くなり、参加者も観覧希望者も増えていると公式に発表されている。

「最初の頃は儲けが爆上がりで国にとっちゃめちゃめちゃおいしかったみてえだが、ここんとここの国には目立った選手が出て来なくて他国の奴ばっかりが優勝してるんだ」

 自国で長年開催している大会での優勝者が他国の者ばかりでは国の威厳が保てないと、開催そのものを疑問視する者達が増えはじめている。

「でも、参加者や見に来る人は増えてるって聞いてるよ?」

「他国からの参加者は確かに増えてるな。見に来る奴は減ってるんだが、国のメンツがあるからかなりあげ底数字を上乗せして発表してるんだ」

 大会参加費や観覧席への入場料は国庫に入るが賞金や賞品の代金は国庫・王家・貴族・商人が負担する。

 優勝者の名誉だけでなく毎回準備される高額な賞金や目を見張るほど豪華な賞品も他国に奪われてばかりで面白くないと、スポンサーになってくれる貴族が減りはじめ王家の負担は上がり続けていた。

「もしかして『フリー』の部門を作るのってそのせい?」

「そのせいと言うよりそこを狙ったって感じだな。国の体面を保つ為に情報を誤魔化して資金をかき集めてる国に、新しい部門ができりゃ参加者も観覧希望者も増えるって提案したんだ。
このネタでスポンサーが獲得できれば王家は大喜びだし収入が増えりゃ国庫は潤う。大人の選手と違って入学前のガキどもの移動には親やら使用人が何人もついてくる。って事は宿屋や店も繁盛する。
と、ここまでが公の提案で提案者はクソビッチマルデルとフレイズマル侯爵な」

 参加者が子供でも関係者は危険を承知して申し込むのだから問題はなく、部門の新設は国全体を潤し活性化する可能性はあるだろう。

(前世持ちの私から見たら子供にそんな危険な事をさせるなんて! って感じだけどね。親に言われたら拒否なんてできないだろうけど痛いし怖いし普通は嫌だも思うはずだもん)

「文書化してない部分で、選手の実力不足は『Cessiōne譲渡の意』で底上げすれば優勝は間違いないと唆してやがるんだ。ガキの魔力量なんてそれほど多くねえんだから『Cessiōne』を使えば試合を確実に有利に進められるってな。
これで成果を出して認可に漕ぎ着けるつもりだろうが、国も調子に乗りやがって認可前の魔導具だが参加者が勝手に使うのは『国が制限する法律はないんですから問題にはなりませんねえ』とか言い出しはじめてやがる」

 魔導具の認可・不認可の基準は国によって異なるが、この国では『認可された物のみ販売を許可する』という一文のみ。

「国と魔導具を広めたい人だけがwin-winってやつなのにね」

「マルデルのぶっ飛んだ願いも『派手な方が目立って宣伝になる』ってゴリ押ししたようだしな。まあ、やりすぎて開催が来年に持ち越しになったんだからざまぁってやつだがな」

「街を一つ作るなんてどうやって認めさせたのかって思ってたけど、そう言うカラクリかあ。確かに宣伝としてはいい案かも」

「作れないなら既存の街か村を使えとか言ってたんだせ、信じられんほど見事なクズだよな」

 闘技場での戦いよりも街中での戦いの方が見る分には楽しいだろう。カメラによく似た魔導具で戦いを映せばテレビで番組を見るときのような楽しみ方ができるのかもしれない。

「マルデルが国の内情まで計算に入れて話を進めてるなんて⋯⋯あ、侯爵がマルデルの願いを叶えるために考えたってのが一番しっくりくるかも」

「今わかってる中ではリンド達とクソビッチが会ったり連絡を取り合ったりしてる気配はねえんだよな」

「そう言えば魔導具の構想にリンドさん達って関わってないのかな?」

「分からん。王宮にある書類にある発案者はフレイズマル侯爵とクソビッチで魔導具開発の責任として魔導塔の筆頭研究者イーム・V・ルードニル公爵が載ってた」

(ん? ルードニル公爵ってどこかで聞いたような)


『ルードニル公爵からの誘いでは断るわけにはいかんだろうが! しかもマーウォルス公爵も来られるそうだし』


「あ、ルードニル公爵って今日伯爵夫妻グロリアの両親とフノーラが会いに行った人だ。侯爵から声がかかったって言って慌てて出かけたんだ。マーウォルス公爵って人もいるって」

 スルトの調査によりイーム・V・ルードニル公爵はヴァフスルーズニルと言う名の元巨人族だと判明している。彼はオーディンと命を賭けて知恵比べをして負けた過去を持つ頑固なジジイ。

「マーウォルス公爵⋯⋯ 王族で最高裁判所長官の曲者だな。長男はティウ・T・マーウォルスで元の名前はテュール、フェンリルを騙して拘束した奴。
何の為にシュビレー伯爵夫妻を呼んだのかは侯爵家を張ってるマーナの連絡待ちだな」

 群れで行動する性質を持つマーナも寂しがりやのイオルも長時間一人で行動するのは気分的な疲れも大きいだろう。

「帰ってきたらパーティーしよう。ケーキバイキングとか喜びそうだよね」

「そりゃ、グロリアとグラネが一番喜びそうだな。ちっこい繋がりか?」

「ぐぐっ、言い返せないのがムカつく」



「お、忘れるとこだった⋯⋯」

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