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第一章

77.キング・オブ・チョロイン

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「⋯⋯ヴァーリはさ、なんで自分で上下水道の話を国に持ってかなかったんだろう?」

「って言うと?」

「ヴァーリがそんなに素晴らしい元神なら、フレイヤに関わる危険を察知できないとは思えないなぁって。あっ、フレイヤを大好きな元神もいっぱいいるだろうから、その一人なら納得なんだけどね」

「よくわかんないけど、ヴァーリは民間医療専門だから伝手がなかったとか?」

「すごい評判だったなら貴族から色んなオファとかあったと思うんだよね。そういう人は警戒してたけど、フレイヤなら大丈夫だと思ったのはなんでだろ」

 上下水道の構想がマルデル最初の提案で、そのすぐ後に魔導具の話が出たらしい。いつからヴァーリ達がマルデルと交流があったのかはまだ分かっていないが、ヴァーリ達が良い人だと考えれば考えるほど気になってしまう。

(二人とも何を考えてたのかは口にしてないみたいだから、ジェニの調査結果が出るまで要注意で保留かなあ)



「ヴァーリとマルデルがいつ知り合ったのか分かれば⋯⋯。そうだ、フノーラをつついてみようかな」

 きょとんと首を傾げたセティは金平糖を食べようとしていたらしく口をポカンと開けていた。

(うっ、可愛すぎる!)

「ほら、マーナが言ってた『女の人か女みたいな名前』がリンド医師なら、直接会って話ができるかも」

(シェラード教授対策にピッタリかも! 1回で終わったのはラッキーだったけどしょっちゅう連絡してくるらしいんだよね。数理学は好きだし教授が嫌いってわけじゃないけど⋯⋯面倒くさい人だったからなぁ)

「ジェニに怒られそうな気もするけど、いい案だとは思うよ」

「でしょでしょ。今夜にでもジェニに相談してみるね」



 セティと二人で緑茶の準備をして、以前ヘルに貰ったお菓子を出した。

「これ『きんつば』って言うの。うち神社だったから子供の頃はこういう和菓子ばっかり食べてたんだよね」

 大納言小豆に薄衣をつけて焼き上げたきんつばは、ほのかな塩気があんの甘味を引き立ててお茶がすすんでしかたない。

「うん、すっごく美味しいね。母様が好きそうだなぁ」

 お土産に持っていきたいセティは期待のこもった目でちらちらとグロリアの顔を見ていた。

「あと何個かあるんだよね~。実験手伝ってくれる人へのお礼にしようかなあ」

「げっ! そ、そう言えば、グロリアが言ってた逃◯中ってゲーム、来年の闘技大会からに決まったって。なんでも街を一つ建設するから、今年の大会には間に合わないってなったんだって。
ゲームの為に街を作るなんて一体何を考えてるのか、僕には信じらんないよ」

「マルデルには本当の街とハリボテの街の区別がついてないんじゃないかな。ってことは、とんでもない金額になって頓挫する可能性が出てきた」

「ハリボテって?」

「見かけだけ本物っぽく作った物のことかな。本物らしくても本当は竹や木なんかで枠を組んだりしてるから壊れやすいし安くて早くできるの。
本当の街を作るなら修理とかその後の利用法とかも考えなくちゃ元は取れないけど、魔法ありの戦いでしょう? 強度とかを考えて建設しなきゃってなると、とんでもない金額になるんじゃないかな」

 剣あり魔法ありの戦いの為に態々街を作るなど真面な神経では考えつかない。

(映画のセットとかのイメージで考えてそうだけど、あれは興行収入を見込んでスポンサーを見つけるからできるんだよね。グラ◯ィエーターのマキ◯マス、カッコよかった。もっかい見たいなぁ)

「どのくらいの規模の街を作るつもりなのかによるんだろうけど、何か知ってる?」

「本物の街を作る予定で侯爵家が動いてるとしか聞いてないんだ。『Cessiōne』が認可されたら元がとれるとでも思ってるのかなぁ。街なんか作っても毎年闘技大会で壊してたんじゃ永遠にペイしないよね」

 侯爵達が借金を抱えるのは本人の自由意志だが、マルデルが我儘を言って自滅するのなら一日も早い方がいい。

「シグルドの事だから計画がどうなろうとギリギリまで『Cessiōne』で遊んでそうな気がするもん」



「でね~、セティに護符を見て欲しいんだよね~。それほど威力の強くないものだから、ぜんっぜん心配いらないし。お願いしますっ!」

「えー、それはちょっと。ルーン魔術ってほとんど分かんないし、僕の防御力とか知ってるでしょ?」

「うん、今のグリモワールくらいぺらっぺらかな~」

「ぐうっ! だからさ、誰かいるときのほうがいいと思うんだ。ポーチから出した途端ボンっとか⋯⋯何が起きるか分かんないんじゃない?」

「いや、そこまで酷くないよぉ。最近は結構コントロール上手になって来たしね」



 グロリアが準備した護符はメイドが持っていた例の護符の改良版。グロリアが先日起きたボヤ騒ぎの話をするとセティの眉間にしわが寄った。

「グロリアが悪い!」

「うん、その通りです。物の管理ができてなかったって反省してる。だけど、今日はそこじゃなくてですね⋯⋯火の魔法が使えない人が火の魔術を使えたってところに大注目なの。その時本人が使おうとした魔法がどうなったか知りたいの」


『なんか違う魔法が⋯⋯乾かないから風の魔法を使ったのに、なんでか火が出て。私、火の属性魔法は使えないはずなのに』


 転移や鑑定などの魔法に特化しているセティは火・水・風・土の四大魔法なら初級魔法が使える。攻撃として使うには弱すぎるが、発動できさえすれば実験には問題ない。

(セティが試してくれるなら、やっぱり雷からかな)

「魔術と魔法は同時発動できるのか、魔術が行使された時は魔法が消されちゃうのか。本当はその理由も知りたいんだけど今回は諦める。どっちにしても確実に使えるならシグルドを混乱させるのに一歩近づいたことになるから」

「どういう意味?」

「魔法の威力を強くするのはリスクがあり過ぎるでしょ。元の威力よりどのくらい強くするのかきっちり指定できればいいんだけど、ルーン魔術ってその辺はすごくおおざっぱと言うか⋯⋯まだ知らないだけかもだけどね。
で、予定していなかった魔法が追加で出たり予想外の魔法が出たりすれば混乱はするけど危険は少ないかなぁと」

「うーん、確かにまあ安全そうな気は」

(おっ、あと一歩?)

「魔法を消す方は簡単に作れたの。後はこの実験が上手くいけば⋯⋯きんつばにゴ○ィバのチョコレートつけようかなぁ」

「ゴ○ィバ? やるやる! ミルクチョコなら2回やってもいいよ」



 チョコにつられたセティが護符を手に屋敷に背を向けて仁王立ちした。

「じゃあ、やるよ」

 右手を前に出してセティ全力の風魔法を塀に向けて打った。


 バリバリバリ⋯⋯ドーン!


「すごい!! 雷ってカッコいい⋯⋯あー、この護符欲しいっ」

「魔力の流れはどうだった?」

「あっ、雷に夢中で忘れてた。今まで使えなかった魔法が使えたのが嬉しくてさ」

「いいよ、じゃあもう一回ね。魔力の流れとか減り具合よろしくね」



 雷の次は水で、その次は土、最後は氷。興奮状態に陥ってやたらめったら試した結果、セティは顔が少し青褪め地面に座り込んだ。

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