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第一章
75.3匹がいないのは超絶寂しすぎる
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あのボヤ騒ぎをヒントに漸く護符ができた。
相変わらず目を覚まさないグリモワールに『ねぼすけ』と文句を言い、ひと睨みしてからジェニの屋敷に向かった。
(今日もペラペラのまま、見事な薄さは知恵をどこかに置き忘れたからかも~。
あ、幼稚園で習った歌があったな~。歌い続けたら起きるかなぁ)
「起きよ~起きよ~おねんねしているグーリーちゃーん♬ ⋯⋯ダメだ、虚しすぎる」
いつも通り裏口からそろっと中庭に侵入したグロリアは、3匹が出迎えてくれない今の状況に馴染めないでいた。
(頑張って調べてるんだから、何もしてない私が文句なんて言っちゃダメなんだけどね。うーん、寂しいよう)
心の中だけならいいよねと自分に言い訳をしながら遠目に屋敷を見つめていると、テラスから出てきたセティが大きく手を振ってくれた。
(あっ、パパンのとこから帰って来たんだ!)
セティはヴァーリとヴィーザルの過去を詳しく知るために、キラキラに会いに行っていた。
「お帰り、セティ。キラキラさん元気だった?」
「うん、グロリアに謝ってたよ。フノスのことや今回の叔父上の事なんか」
テラスの階段に腰かけた二人は顔を見合わせて相手の動向を伺った。
「えーっと、どっちから報告する?」
「セティからにしない?」
「それってグロリアは時間がかかるって言う事?⋯⋯実験は却下だからね。今日はジェニがいないしヘルが来てくれる気配もないから」
先手を打たれたグロリアが顔をひきつらせた。
「えっ! そんな⋯⋯あっ、でもセティに確認してもらうだけでも勉強になるんだけどなぁ。ほら、グリちゃん寝てるから相談できる人がいなくてさあ」
「⋯⋯返事は話を聞いてからにしようかなあ。グロリアってとんでもないこと言い出すから」
媚を売るように下から見上げたがグロリアの上目遣いは逆効果になったことしかなく、今回もセティの顔を引き攣らせて終わった。
「えー、その評価は納得いかないなあ。私の周りのみんなと比べたら可愛いもんだと思うけどな」
「比べる対象を間違えてるよ。で、取り敢えず僕のほうの報告なんだけどね、大した情報がなくて申し訳ないって父様が謝っておられた。
ヴァーリはラグナロクの後も司法神としてとても誠実に仕事をしてたんだって。それから暫くして人間界に興味があるって言ってからはずっと人間界で人として生きているんだ」
仕事の種類はその時々で違うらしいが、一緒に人間界に降りたヴィーザルとはずっと一緒だと言う。
「それと、ヘズとの仲は特に問題はなかった。元々ヴァーリがヘズを手をかけたのは予言に従っただったって分かっているからヘズは気にしてなかったし、ヴァーリも同じだったみたいだからね。
だからと言って仲が良かったわけじゃなくて、他の人とおんなじ扱いって感じだったって」
(やっぱり神同士は『予言だからね~』で全て片付くんだ)
「ヴィーザルの方はヴァーリと仲が良かったから同行することにしたんだろうって仰ってた。彼は無口だから余程の事がない限り人と話さないんだ。だから直接聞いたわけではないって」
「そうか⋯⋯ヴァーリは人間界に興味かあ。仲良しの兄弟が突然人間界に行くってなったらヴィーザルが一緒に行ってやるってなってもおかしくはないよね」
話の内容からするとグロリアにとって非常に珍しい真面な元神族のように思える。
(でもなぁ、なんか胸がぞくぞくするんだよなぁ⋯⋯何でなのかわからないけど、すっごくイライラモヤモヤすると言うか。うーん、なんだろう)
「ヴァーリの母親ってそんな運命をもった子供を産むのって気にならなかったのかなぁ」
「あっ、それはやっぱり結構抵抗したんだって。それをお祖父様がごり押ししたって父様が他の神から聞いてた」
「やっぱり、普通はそうだよね。巨人族や神族と人間の考えは違うかもだけど、母親としては嫌だと思う。ってか、それってヴァーリは知ってたりするの?」
「うん勿論だよ。ヴァーリの使命はとても重要なものだからいろんなところで話されてるし、僕も何度も聞いたことがあるよ」
グロリアは何事もないように頷いたセティにまたしても違和感を覚えた。
(やっぱり神族の考え方って不思議。母親に『そんな子産みたくない』って言われたようなもんだよね。お役目を終わらせた後は真面目に仕事してたなら気にしてなかったのかな)
「なんかヴァーリがどんどんかわいそうな子に思えてきた。
産まれて一夜で育って復讐を果たしたんだっけ。で、ヘズはヴァーリに殺された後キラキラさんと一緒に復活したんだよね。それって何か意味があったのかなぁ」
「意味⋯⋯予言だからね。理由は分からないけど当然必要な事だったんだよ」
(予言だから必要ねえ)
「オーディン自らニヴルヘイムに下りて死んだ巫女からバルドルの運命を尋ねて齎された予言だから、僕には予想がつかないだけで大切な予言だったことは間違いない」
「ん? 態々ニヴルヘイムの巫女に聞きに行ったの? 巫女って沢山いたはずだよね、なのに態々罪人が送られるニヴルヘイムにいる巫女をご指名?」
「そう聞いてる。オーディンだから行けたし戻ってこれたんだと思う。普通は行ったり来たりできるとこじゃないからね」
グロリアの質問の意図を勘違いしているセティが少し自慢げに頷いた。
(手間暇かけて罪人だった巫女を選んで予言させたとか)
『自分の望む答えだけをくれる運命の女神を探す術式は成功率が中々上がらなくて、相手を洗脳する術式に切り替えたのはかなり早い段階だった』
(自分の望む答えをくれる巫女がその人だけだったから態々そんなとこまで遠征したとは考えられないかな? それでもやっぱりそこまでする意味が分かんないけど。
今はヴァーリよね。罪人の巫女の予言で無理やり孕まされたお母さんから産まれて、翌日には予言の実行じゃ~とかってロキに騙されて兄ちゃんを殺した異母兄を殺させられた。んでその後は真面目に司法神やってたと。これが人間の話なら『解せぬ』って言う、間違いなく言う)
「司法神としてもそれなりに優秀で、評判も悪くなかったんだって。罪に問われた奴から二つ名をディスられることはあったらしいけど、正しく生きてたから⋯⋯ラグナロクを生き残った神の一人なんだ」
『復讐者、ヘズの敵で殺し手』
(母親に望まれずに産まれて、司法神としてはそれなりの評価? 正義を司る復讐者ってディスられる?)
グロリアはセティの顔をじっと見つめた。
(オーディンの息子でそれなり評価を貰ってるヴァーリと、孫で最高の司法神と言われたセティ。予言によって強制的に作られた子供がそれをディスられる⋯⋯それでも健気に心正しく生きる。⋯⋯うーん、ありえん。その辺がもやもやの原因かな? それとも私の心が澱んでるだけ?)
「キラキラさんはヴァーリ達の異母兄弟でしょ? 近況だとかフレイヤの窃盗の件とか話したりしてないの?」
「叔父上達がいるのもフレイヤの魔剣があるのも人間界でしょ? 父様は人間界には干渉しないって言うルールに縛られてる。だから、叔父上達やフレイヤの件には関われないんだ」
「⋯⋯はあ?」
相変わらず目を覚まさないグリモワールに『ねぼすけ』と文句を言い、ひと睨みしてからジェニの屋敷に向かった。
(今日もペラペラのまま、見事な薄さは知恵をどこかに置き忘れたからかも~。
あ、幼稚園で習った歌があったな~。歌い続けたら起きるかなぁ)
「起きよ~起きよ~おねんねしているグーリーちゃーん♬ ⋯⋯ダメだ、虚しすぎる」
いつも通り裏口からそろっと中庭に侵入したグロリアは、3匹が出迎えてくれない今の状況に馴染めないでいた。
(頑張って調べてるんだから、何もしてない私が文句なんて言っちゃダメなんだけどね。うーん、寂しいよう)
心の中だけならいいよねと自分に言い訳をしながら遠目に屋敷を見つめていると、テラスから出てきたセティが大きく手を振ってくれた。
(あっ、パパンのとこから帰って来たんだ!)
セティはヴァーリとヴィーザルの過去を詳しく知るために、キラキラに会いに行っていた。
「お帰り、セティ。キラキラさん元気だった?」
「うん、グロリアに謝ってたよ。フノスのことや今回の叔父上の事なんか」
テラスの階段に腰かけた二人は顔を見合わせて相手の動向を伺った。
「えーっと、どっちから報告する?」
「セティからにしない?」
「それってグロリアは時間がかかるって言う事?⋯⋯実験は却下だからね。今日はジェニがいないしヘルが来てくれる気配もないから」
先手を打たれたグロリアが顔をひきつらせた。
「えっ! そんな⋯⋯あっ、でもセティに確認してもらうだけでも勉強になるんだけどなぁ。ほら、グリちゃん寝てるから相談できる人がいなくてさあ」
「⋯⋯返事は話を聞いてからにしようかなあ。グロリアってとんでもないこと言い出すから」
媚を売るように下から見上げたがグロリアの上目遣いは逆効果になったことしかなく、今回もセティの顔を引き攣らせて終わった。
「えー、その評価は納得いかないなあ。私の周りのみんなと比べたら可愛いもんだと思うけどな」
「比べる対象を間違えてるよ。で、取り敢えず僕のほうの報告なんだけどね、大した情報がなくて申し訳ないって父様が謝っておられた。
ヴァーリはラグナロクの後も司法神としてとても誠実に仕事をしてたんだって。それから暫くして人間界に興味があるって言ってからはずっと人間界で人として生きているんだ」
仕事の種類はその時々で違うらしいが、一緒に人間界に降りたヴィーザルとはずっと一緒だと言う。
「それと、ヘズとの仲は特に問題はなかった。元々ヴァーリがヘズを手をかけたのは予言に従っただったって分かっているからヘズは気にしてなかったし、ヴァーリも同じだったみたいだからね。
だからと言って仲が良かったわけじゃなくて、他の人とおんなじ扱いって感じだったって」
(やっぱり神同士は『予言だからね~』で全て片付くんだ)
「ヴィーザルの方はヴァーリと仲が良かったから同行することにしたんだろうって仰ってた。彼は無口だから余程の事がない限り人と話さないんだ。だから直接聞いたわけではないって」
「そうか⋯⋯ヴァーリは人間界に興味かあ。仲良しの兄弟が突然人間界に行くってなったらヴィーザルが一緒に行ってやるってなってもおかしくはないよね」
話の内容からするとグロリアにとって非常に珍しい真面な元神族のように思える。
(でもなぁ、なんか胸がぞくぞくするんだよなぁ⋯⋯何でなのかわからないけど、すっごくイライラモヤモヤすると言うか。うーん、なんだろう)
「ヴァーリの母親ってそんな運命をもった子供を産むのって気にならなかったのかなぁ」
「あっ、それはやっぱり結構抵抗したんだって。それをお祖父様がごり押ししたって父様が他の神から聞いてた」
「やっぱり、普通はそうだよね。巨人族や神族と人間の考えは違うかもだけど、母親としては嫌だと思う。ってか、それってヴァーリは知ってたりするの?」
「うん勿論だよ。ヴァーリの使命はとても重要なものだからいろんなところで話されてるし、僕も何度も聞いたことがあるよ」
グロリアは何事もないように頷いたセティにまたしても違和感を覚えた。
(やっぱり神族の考え方って不思議。母親に『そんな子産みたくない』って言われたようなもんだよね。お役目を終わらせた後は真面目に仕事してたなら気にしてなかったのかな)
「なんかヴァーリがどんどんかわいそうな子に思えてきた。
産まれて一夜で育って復讐を果たしたんだっけ。で、ヘズはヴァーリに殺された後キラキラさんと一緒に復活したんだよね。それって何か意味があったのかなぁ」
「意味⋯⋯予言だからね。理由は分からないけど当然必要な事だったんだよ」
(予言だから必要ねえ)
「オーディン自らニヴルヘイムに下りて死んだ巫女からバルドルの運命を尋ねて齎された予言だから、僕には予想がつかないだけで大切な予言だったことは間違いない」
「ん? 態々ニヴルヘイムの巫女に聞きに行ったの? 巫女って沢山いたはずだよね、なのに態々罪人が送られるニヴルヘイムにいる巫女をご指名?」
「そう聞いてる。オーディンだから行けたし戻ってこれたんだと思う。普通は行ったり来たりできるとこじゃないからね」
グロリアの質問の意図を勘違いしているセティが少し自慢げに頷いた。
(手間暇かけて罪人だった巫女を選んで予言させたとか)
『自分の望む答えだけをくれる運命の女神を探す術式は成功率が中々上がらなくて、相手を洗脳する術式に切り替えたのはかなり早い段階だった』
(自分の望む答えをくれる巫女がその人だけだったから態々そんなとこまで遠征したとは考えられないかな? それでもやっぱりそこまでする意味が分かんないけど。
今はヴァーリよね。罪人の巫女の予言で無理やり孕まされたお母さんから産まれて、翌日には予言の実行じゃ~とかってロキに騙されて兄ちゃんを殺した異母兄を殺させられた。んでその後は真面目に司法神やってたと。これが人間の話なら『解せぬ』って言う、間違いなく言う)
「司法神としてもそれなりに優秀で、評判も悪くなかったんだって。罪に問われた奴から二つ名をディスられることはあったらしいけど、正しく生きてたから⋯⋯ラグナロクを生き残った神の一人なんだ」
『復讐者、ヘズの敵で殺し手』
(母親に望まれずに産まれて、司法神としてはそれなりの評価? 正義を司る復讐者ってディスられる?)
グロリアはセティの顔をじっと見つめた。
(オーディンの息子でそれなり評価を貰ってるヴァーリと、孫で最高の司法神と言われたセティ。予言によって強制的に作られた子供がそれをディスられる⋯⋯それでも健気に心正しく生きる。⋯⋯うーん、ありえん。その辺がもやもやの原因かな? それとも私の心が澱んでるだけ?)
「キラキラさんはヴァーリ達の異母兄弟でしょ? 近況だとかフレイヤの窃盗の件とか話したりしてないの?」
「叔父上達がいるのもフレイヤの魔剣があるのも人間界でしょ? 父様は人間界には干渉しないって言うルールに縛られてる。だから、叔父上達やフレイヤの件には関われないんだ」
「⋯⋯はあ?」
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