前世が勝手に追いかけてきてたと知ったので

第一章

66.検証不足と堂々巡り

「うん、魔力が合うとか合わないとかって話があったでしょう？」

「うん、侯爵が偉そうに言ってたね」

　グロリアとセティはその場で座り込んで話を続けた。

「それが本当かどうかは情報が足りなさすぎてなんとも言えないの。
例えば、この『Movere』に貯めた魔力はダメだったけど別の人が魔力を譲渡したものなら使えた。しかも失敗した時と全く同じ魔法を同じ状況で使った結果がそうなら相性があるのかもしれない。
でも、魔法が使えなかったって言って終わってて魔導塔にフィードバックして調べてなければ、原因はうやむやのままで終わっちゃってる。
それから、元々その魔力に適合する属性みたいなものはないのか。
それに、『Movere』自体が魔力になんらかの変質を起こしてないかを確認してるのかどうか。魔導具には魔石を使うから、それの属性が影響してないかを調べたのか。

魔導塔の研究者なんて、あんな非道な魔導具を作って悦に行ってるような人だもの『魔導具のせいじゃねえ』とか言って相性があるとか適当な事を言って誤魔化してないのか。
侯爵が『Movere』の利用価値が下がらないように適当に言っただけって可能性だって考える必要があると思うの」

「なんか、すっごくありそう。侯爵も研究者も俺様最高って感じがするもん」

「でしょう？　だから、もっと詳しく話を聞いたり調査したりしないと魔力が合う合わない問題は保留ね」

　この国で『Movere』を使ってる人や欲しがっている人はごく限られている。騎士団や魔法師団以外にはほとんどいないに近く『欠陥品』と呼ばれている人自体も少ない。その中で『Movere』を欲しがるとなると一体どのくらいいるのか。

　販売先が限られているなら高い値段をつけてペイする元を取るのが一般的で、希少価値を高めるためにも安価な値段はつけられない。

「貴族や裕福な平民にしか手が出せない値段なら益々『Movere』のせいじゃないからで終わらせてそう」



「でも、魔力溜まりに問題がある人に『Cessiōne』が有効なのは変わらないよね」

「有効なのは確かだけどさっき言った魔力の暴走問題はあるかも。上位の魔法が使えない人が何をイメージして訓練してるのかよく分かんないから何とも言えないんだけど⋯⋯。
力の強い魔法には多くの魔力が必要になるって言うのは常識だから、『Cessiōne』を使う人は必要以上の魔力を流そうとする可能性があるんじゃないかって気がする。
魔力を増やせばもっと上位の魔法が使えるかもって欲をかいてドーンと魔力を流したら⋯⋯。今まで使えてない魔法にどのくらいの魔力を流すのがベストかなんてわかってないはずだもん。魔力暴走が頻発しないといいけど」

「魔力が暴走する危険か⋯⋯『Cessiōne』は魔力を譲渡する側だけにリスクがあるって言ってたけど、実は使用者にもリスクがある。しかも、使用者側のリスクはドンドン強くなっていくんだね」

　魔法を行使する回数が増えるだけなら問題ないが、使いたくても使えなかった上位の魔法が使えるようになったら欲深い人間はもっともっとっとなりかねない。

「それにもっと大きな危険があるの。『Cessiōne』って魔力タンク代わりに使えるって言ってたでしょ？　って言う事は魔力の譲渡する側と同じリスクが使用者側にもある」

「ん？」

「侯爵とシグルドは気付いてなかったけど、第３の目と胸の器官を休眠させるのが譲渡側でも、使用者側だって第３の目を休眠させなきゃ『Cessiōne』を使えない。
それと、使用者側は魔力溜まりではなくて『Cessiōne』だけから魔力を使うのか切り替えるのか⋯⋯そこで体内の器官に問題が起きそうな気もする」

「うわぁ、僕も気付いてなかった」

「実は私もほんの数日前まで気づいてなかったんだよね」

　魔力を抜かれる側の負担や危険を減らすことばかり考えていたグロリアは魔力が魔導具に溜まった後の事は頭になく、侯爵が言っていた『使用者はノーリスク』の言葉を鵜呑みにしていた。

「なんかもう『Cessiōne』が呪術具と同レベルに思えてきた」

　溜息をついたセティが芝生の上に大の字になって寝転んだ。

「それ以外にも、人の身体ってバランスが取れるようになってるから、魔力の少ない人はそれなりの理由がある場合もあるんじゃないかって思ったり」

「バランスかあ」

「さっきの遺伝子情報に絡むんだけどね、魔力が少なかったから無事だった何かがあるかも知れないでしょ。魔力暴走はコントロールできないほど大量の魔力が流れたってことでおきる。元々の魔力量が少ない人の遺伝子が少量の魔力にしか耐えられない場合、どうなるのかなって」

　セティの横に並んで寝転んだグロリアは『うーん』と声を出して背伸びした。

「はぁ、あの魔導具をなんとかしたいなあ。今こうしてる間も、アレで魔力を吸い取られてる人がいると思うと⋯⋯」

　グロリアが先日マックス父親達から聞いた内容を話すとガバッと起き上がったセティの顔が青褪めた。

「開発中だけじゃなくて、あの『廃人製造機』を人に使ってるの！？」

「多分バンバン使ってると思う。シグルドの事だから絶対調子に乗って使いまくっては『魔力を補充しろ！』とか言ってそうだもん」

「⋯⋯うん、僕もそう思う」

「はあ～、健康被害なく使用者側に不具合を起こす方法ないかなあ。で、使えないから譲渡もストップするの」

　仰向けに寝転んでいたグロリアがゴロンとうつ伏せになり、芝生の向こうに見える花壇を見て首を傾げた。

（あれ？　今日は妖精さんはお出かけ中？　さっきセティの髪の中から覗いてる子がいたはずなのに）


「ん？　それってどう言う」

「ほら、今シグルドが調子に乗ってるのって自分には被害がないからでしょ？」

「そうか⋯⋯⋯⋯なら、たまに予想よりでかい魔法がでて何か壊したり、強い魔法撃つぞって張り切ってる時に不発になったりしたら『ざまぁ』になりそうだね」

　ぽやっと話していたグロリアがガバッと起き上がりセティの肩を掴んだ。

「はっ、それよ！　不定期に魔力が余分に流れたり魔力の流れを阻止したりするようにできれば⋯⋯魔導具には手が出せないけど、シグルドの荷物とかに護符を紛れ込ませるのならできそうじゃない？
想定したのより強力な攻撃になったり、魔法が出なかったりしたら⋯⋯セティ、凄い！　そう、あの性格だもの、絶対魔導具の不具合のせいにするはず」

「いいね、そうなれば魔導具は研究者のとこに戻されるから練習はできない」

「練習できないなら『Cessiōne』に魔力を譲渡する必要はない！」

　目を見合わせたグロリアとセティがハイタッチしてニヤリと悪どい顔で笑った。

「誤動作させる護符⋯⋯大急ぎで研究してくる！」

　一目散に家に向かって走り出したグロリアの背中に向かってセティが声をかけた。

「無理しちゃだめだよー！」

　裏口のところで立ち止まったグロリアが満面の笑みを浮かべ、元気良くサムズアップして帰って行った。

「誤動作させる護符ってどうやるんだろ？　でも、グロリアなら作りそう。なんたってハニちゃんだもんな～」