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第一章

45.納屋での密会

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(何? 途中でやめるとかすっごく気になるんだけど。その目つきからして私の事だよね)

「なんだっけ、忘れちゃった。とにかくひみつね!」

 伯爵家のにとって嬉しい話で盛り上がった3人はいつもよりご機嫌で料理を平らげ、食欲の失せたグロリアだけが皿の上の料理を分解して時間を潰していた。
 


 翌朝、グロリアは薪割り中のセティを見つけて納屋に引き摺り込んだ。

「と、言うわけでして急ぎ今後の対策を立てるべきかなぁと」

「マジかよ~。別名で文通って、そこまでやるか? あー、ジェニにバレたら僕消滅しちゃうかも」

「ん? 元神って消滅するの?」

「するする。自由に動き回ったり自分の意思で何かしたりできなくなってから誰にも感知されなくなる。グロリアはそれを狙ってるんでしょ?」

「樹里⋯⋯マルデルを消滅? うーん、それはちょっと怖すぎるかなあ。そう言えば、どうしたいのか具体的に考えた事なかった。
樹里と飛偉梠の2人との縁が完全に切れさえすれば、後は別に⋯⋯あ、でも二度とおんなじような事ができなくなれば良いとは思う」

 性格の悪さは大なり小なり誰にでもある。それに特殊能力が加わっているのが問題なのだとグロリアは思っていた。

「飛偉梠は⋯⋯元々ただの人間だし特別な力もなさそう。あの性格は問題ありだけど、あんな奴は掃いて捨てるほどいるし。
って事は、樹里が昔の記憶も能力も全部完璧に失くして、ごくごく普通の人間になって⋯⋯モブ顔かもうちょい下になれば十分かなぁ」

「随分甘いんだね」

「そう思う? あっ、でも」

「でも?」

「ううん、なんでもない」

 グロリアはもっと過激なお仕置きを狙っている筈のジェニの事を思い出した。

(巨人族と人間じゃあ仕返しとかお仕置きのレベルはかなり違いそうだし、恨む理由や気持ちの強さも違うし)

 ジェニや3匹と毎日のように会っているうちに他人とは違う距離感になり、今世の親や妹と比べるのはバカらしいくらい信頼できて安心していられる。

(彼らの復讐を手伝いたい気持ちの方が強くなってるのかも。でも、ジェニ達は私が手伝うのを望んでない気がするし、私なんかが口にしちゃいけないと思う⋯⋯なんか距離を置かれてる気がするしね)



 ロキと彼の子供達。

 アースガルズでオーディンと愉快な仲間達から受けた仕打ちに怒り、オーディンの奸計で貶められた子供達と復讐の為に戦っている⋯⋯グロリアはその予想があながち外れてはいないと思っている。

(と言うことはジェニの最終目標はフレイヤじゃないって事だよね)

 当時の主神テュールの座を奪う為に利用されて拘束されたフェンリルは、いつでもどんな時でも警戒を怠らず自由でいることを一番に望んでいる。周りにいる誰の事も信じていないように見えながら、誰よりも周りのことを考えている気がする。

 呑気にご飯をねだるヨルムガンドはかなりの甘えん坊で一人になるのを極端に嫌がる。水は好きだと言いながら滅多に水場には近付かず、陸地の生き物達に興味津々で肉や野菜やお菓子ばかりを欲しがる。

 ヘルは誰かと戯れ合うのが苦手で一人になりたがり、たまに人間界にやってきても直ぐにヘルヘイムの屋敷に戻って行く。口が悪く喧嘩っ早いのは甘え下手だから。
 妖艶な仕草と突き放した態度でマウントをとってくるが、実はお節介なほどの世話焼きで要領が悪い。

(其々が、オーディンから受けた傷を抱えてるんだよね。信じて裏切られる不安と捕まって逃げ出せなくなる恐怖、水に閉じ込められ家族と引き離された悲しみ、ひとりぼっちで冥界に叩き落とされて死者に取り囲まれた重圧感と甘えられる人を失った寂しさ)

 一番辛いのはロキだろう。子供達を助けられずオーディンに振り回されていた時、何を考えていたのか。

(今のジェニを見ていたら、子供に興味のない自分勝手な人には見えないもん。悪態をつきながらも付かず離れずで子供達を気にかけている要領の悪い人って感じ)

 ガルムは彼等の癒しになっている気がする。ヘルの寝所に忍び込んでは叩き出され続けていたガルムは、ヘルヘイム出入り禁止を言い渡されている。

(それでもめげないのって凄いよね。しかもああ見えてガルムの中で最強だって言うし)

 彼の存在は歪に歪められた家族の架け橋になっているのかもしれない。



 グロリアが物思いに耽っているのを心配そうに見ていたセティが肩を叩いてきた。

「怖いけどロキに相談してくる。怖いけど」

 大事なことだから2度言ったのか、恐怖に駆られて気付いてないのかセティの青白くなった顔からは読み取れなかった。

「ジェニは口だけだから大丈夫だよ」

「それはグロリアと3兄弟に対してだけだって。ロキは振り幅が大きいんだよね。こう両手で輪っかを作ってさ、その中に入れた奴にだけ優しいんだ」

「セティもその中に入ってるんじゃないかな」

「ううん、前にグロリアが言ったのと同じ理由で入れてない。仕方ないけどね」

 目を細めて少し寂しそうに笑ったセティの背中をグロリアがバンバンと叩いた。

「この先私達が敵同士になる事があったとしてもセティは私の大切な友達だし、クソ女フレイヤとかの塵神ちりがみとは全然違うから」

「うん。さー、大急ぎで薪割り済ませて行ってくる。『塵神』って初めて聞いた」

「よろしくね。私はこの後家庭教師の先生が来るの。
塵って土ぼこりやごみ以外に俗世間や都会のけがれって意味もあるし。『クソ神』より『塵神』って良いネーミングでしょ?」

 ニパッと笑ったグロリアの頭をセティがゆっくりと撫でてくれた。

「家庭教師、増えたんだ」

「そう。侯爵家の嫁に相応しい知識を身につける為だって、馬鹿馬鹿しいでしょう? 嫁じゃなくて魔力タンクだってのに」

「アイツらの言動を思い出したらそう思うけど、この世界の知識を身につけるのは良い事なんじゃない?」

「そっか⋯⋯セティ、えらーい」

 ムッとしたセティがグロリアを睨んだ後コソコソと小屋を出て行った。少し時間を空けて出たほうがいいだろうと思い、外の様子を伺っていたグロリアの胸元の指輪がポワッと温かくなった。

「ん?」

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