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第一章

37.キラキラ危機一髪

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(付き合いの短い僕にもわかる! これ、最高に危険なやつ)

 誰にも気づかれることなくたらりたらりと冷や汗を流すセティは『どうか生きて帰れますように』と必死で願っていた。

(グロリアの鉄拳とか回し蹴りとか凄いって聞いたもん。どうかそれまでに怒りが治りますように。
あっ、ロキ達がここに乗り込んできたりしないよね。父様、母様⋯⋯僕にグロリアの怒りから逃げられる加護を! お願い、速攻で届けてぇ)

 緊張より怒りの方が優ったグロリアは無意識にフラグを立てたセティの恐怖に気付かずもっと話を聞き出そうと身を乗り出した。



「君と同じ伯爵家の令嬢だが魔法もそれなりには使えるんだよ。その上に特殊能力があって我が家で後見することになったから、いずれ君にも挨拶をしてもらうかもしれん。今後の研究へのインスピレーションが湧くかもしれんからな」

「では、その方の特殊能力は直感とかひらめきのような?」

「詐欺師や占い師でもあるまいに、そんな曖昧な話などするわけがなかろう。
ここだけの話だが、マルデルには先見の力があって魔力の多い『役立たず』の君の情報もその力で知らせてくれたんだ。
ごく稀に魔力が合わない者達もいるんだが、シグルドの魔力には君の魔力が一番合うそうだ」

(はい、ギルティ!! そのマルデルってのが樹里に間違いないじゃん!
アイツが私を飛偉梠のとこに呼び寄せて生贄にしようとしてるわけだ!? あのクソ女、冗談じゃない!!)

 ワナワナと怒りに震える手を握りしめているグロリアの前で侯爵が新しいネタを披露しはじめた。

「数年前まで面識はなかったんだが、マルデルが父親と面会を申し込んできたので興味本位で会ってみたんだ。上下水道の構想を持ちかけられて驚いたよ。
特に公衆トイレなどという発想は想像もしていなかったが、マルデルは先見の力でそれを知ったと言って随分と詳しく説明してくれたんだ」

 下水道が流れる上に座席式の便座を設置し、便座の前に貯水槽を置いて処理用の海綿を設置した公衆トイレは現在魔導塔で開発中だと言う。

(これ、おかしくない?)

 井戸からポンプで水を汲み部屋でオマルを使う暮らしが激変するのは嬉しいが、グロリアの中で樹里臭にが追加された。

 自分を美しく見せる事と美味しそうな男を物色する事しか頭にない樹里と、最高値を叩き出す程の無意味で高い自己肯定感しかない飛偉梠。

 勉強嫌いの二人と離れたい一心で猛勉強した花梨は塾と徹夜で窶れ果てながら、他県にある一流と呼ばれる名門大学に進学した。地元の三流大学にしか行けなかった2人と遠く離れ大学で幸せを噛み締めていた一年⋯⋯。

 花梨の暮らすマンションの玄関に立ち塞がった2人が『大学辞めたからこっちに引っ越してきたの~、これからもよろ~』

 それから一年もしないうちに花梨ご臨終。

(高校の勉強どころか中学の勉強も怪しいんじゃないかって言われてた樹里が上下水道の構想⋯⋯ぜーったい、ないわー。
先見の力が本当で、女神の力を取り戻したからって言うならキラキラバルドルは潰す!
魔力うんぬんは元女神あるあるの知識なのかなぁって思ったりもしてたけど⋯⋯なんか妙に詳しすぎるのが怪しいし。
それにさあ、貯水槽だの海綿だの? 樹里が知らなそうなが出るとこみると協力者がいるとしか思えないんだよなあ。もしそんな不届き者がいるならソイツも潰したほうが世のため人のためだよね。
そう言えばキラキラが消した記憶ってフレイヤの能力に関するものだけ? フレイヤの時とか、その後転生した時の記憶なんかはどうなってるの?)

「さて、すっかり遅くなってしまったな。ちゃんと理解できたなど期待はしておらんが、なんとなくの雰囲気くらいは理解できただろう? 君はこの実験がどれほど重要なのかだけ分かっていればいいんだ。それがわかった上で実験台になれば魔導具への抵抗が減るからな。
無駄な時間はこれくらいにしてさっさとはじめるとしようか」

(勝手にベラベラと話しはじめたくせに。まあ、途中からは私が調子に乗らせたのもあるけどさ!)



 脳内で怒りを爆発させていたグロリアだったが、ふと冷静になって頭を働かせた。

(このまま素直に実験に協力してもいいけど、流石にこれは酷すぎると言って逃げ出したほうが良くない?
『Movere』は大丈夫だけど、体内の器官が壊れるかもしれない『Cessiōne』はヤバすぎるよね。
ん? ああ、そっか。昨夜ジェニがピアスとイヤーカフを置いていってくれたのはこの為だったんだ。予想より酷い話だったら相談とか助けてとかして良いよって事なのかも。
⋯⋯どうしよう)

 実験は予想をはるかに超えた危険なものだった。グロリアの魔力はルーン魔術を行使するために使っているので、身体の中の機能を壊されたらこれから先どうなるのか想像もつかない。

(ただ、実験に協力せずトンズラできるかなぁ⋯⋯セティが助けてくれるとしても厳しそう)

 侯爵が激怒しようが騒ぎ立てようがグロリア的にはどうでもいいが、家を追い出されたら行くところがない。

(でもでも、馬鹿オヤジ侯爵達をボッコボコにしたいしな~。うん、すご~く楽しそうな気がする。暴走護符でこの屋敷ごと木っ端微塵とかすっごく魅力的~。緊張し過ぎて魔力が暴走しちゃってぇとか言ったら誤魔化せないかな?
さてさて、どうしよう)



「あの、実験の前にお花摘みに行かせていただけませんでしょうか」

 一発で仕留めるか今回は大人しくするか⋯⋯決めきれないグロリアは取り敢えず時間稼ぎを願い出てみた。

「はぁ、仕方ない。後ろのドアを出て向かい側にあるから行ってきたまえ」

 立ち上がりながらチラリとシグルドを見ると退屈そうな顔であくびを噛み殺している。

(さっきまで船漕いでたよね! この状況で欠伸? そういえば昔っから他力本願な奴だったわ)

 イラっとしたグロリアが見るんじゃなかったと後悔しながらドアを出ると、青褪めたセティもグロリアの後に続いて部屋を出てきた。

 心配そうなセティの肩を叩いてから向かいの部屋に一人で入ったグロリアは壁にもたれてポーチに手を添えた。

(この屋敷を破壊してもジェニんちに住ませてもらうのは⋯⋯なしだよなぁ。魔法が使えるとか10年後とかなら生活できる気がするんだけどなぁ。
⋯⋯仕方ない、ちょっと相談してみよう。ピアス出てきて)

 心の中でグロリアが願うと右手の中に固い金属の感触が現れた。

【ふわ~!】

「ごめん、寝てた?」

【ったく、オッサンの無駄話が超長えんだからよお。暇すぎて⋯⋯んで、社畜のリアはどうすんだ?】

「我儘言っていい?」

【⋯⋯お、おま⋯⋯お前、まさかと思うが今まで我儘言ってなかったって思ってたのか!?】

「え~、結構いい子⋯⋯いえ、ごめんなさい」

【よく出来ました、後で飴ちゃん一個やる。んで?】

「例えばなんだけど、実験やったって勘違いさせる方法ってないかな」

【あー、なくはないけど。ほんとにそれでいいのか? 実験が成功したって思わせたらこの先も狙われ続けるぜ?】

「暴走護符で家ごと破壊しようかとも思ったんだけど⋯⋯自活の方法を見つけられるまで時間稼ぎする方が良いのかなあと思ったりして」

【⋯⋯ふーん、まぁいいけど。んじゃこの後の説明するからよく聞けよ、先ずは⋯⋯】

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