上 下
38 / 248
第一章

37.キラキラ危機一髪

しおりを挟む
(付き合いの短い僕にもわかる! これ、最高に危険なやつ)

 誰にも気づかれることなくたらりたらりと冷や汗を流すセティは『どうか生きて帰れますように』と必死で願っていた。

(グロリアの鉄拳とか回し蹴りとか凄いって聞いたもん。どうかそれまでに怒りが治りますように。
あっ、ロキ達がここに乗り込んできたりしないよね。父様、母様⋯⋯僕にグロリアの怒りから逃げられる加護を! お願い、速攻で届けてぇ)

 緊張より怒りの方が優ったグロリアは無意識にフラグを立てたセティの恐怖に気付かずもっと話を聞き出そうと身を乗り出した。



「君と同じ伯爵家の令嬢だが魔法もそれなりには使えるんだよ。その上に特殊能力があって我が家で後見することになったから、いずれ君にも挨拶をしてもらうかもしれん。今後の研究へのインスピレーションが湧くかもしれんからな」

「では、その方の特殊能力は直感とかひらめきのような?」

「詐欺師や占い師でもあるまいに、そんな曖昧な話などするわけがなかろう。
ここだけの話だが、マルデルには先見の力があって魔力の多い『役立たず』の君の情報もその力で知らせてくれたんだ。
ごく稀に魔力が合わない者達もいるんだが、シグルドの魔力には君の魔力が一番合うそうだ」

(はい、ギルティ!! そのマルデルってのが樹里に間違いないじゃん!
アイツが私を飛偉梠のとこに呼び寄せて生贄にしようとしてるわけだ!? あのクソ女、冗談じゃない!!)

 ワナワナと怒りに震える手を握りしめているグロリアの前で侯爵が新しいネタを披露しはじめた。

「数年前まで面識はなかったんだが、マルデルが父親と面会を申し込んできたので興味本位で会ってみたんだ。上下水道の構想を持ちかけられて驚いたよ。
特に公衆トイレなどという発想は想像もしていなかったが、マルデルは先見の力でそれを知ったと言って随分と詳しく説明してくれたんだ」

 下水道が流れる上に座席式の便座を設置し、便座の前に貯水槽を置いて処理用の海綿を設置した公衆トイレは現在魔導塔で開発中だと言う。

(これ、おかしくない?)

 井戸からポンプで水を汲み部屋でオマルを使う暮らしが激変するのは嬉しいが、グロリアの中で樹里臭にが追加された。

 自分を美しく見せる事と美味しそうな男を物色する事しか頭にない樹里と、最高値を叩き出す程の無意味で高い自己肯定感しかない飛偉梠。

 勉強嫌いの二人と離れたい一心で猛勉強した花梨は塾と徹夜で窶れ果てながら、他県にある一流と呼ばれる名門大学に進学した。地元の三流大学にしか行けなかった2人と遠く離れ大学で幸せを噛み締めていた一年⋯⋯。

 花梨の暮らすマンションの玄関に立ち塞がった2人が『大学辞めたからこっちに引っ越してきたの~、これからもよろ~』

 それから一年もしないうちに花梨ご臨終。

(高校の勉強どころか中学の勉強も怪しいんじゃないかって言われてた樹里が上下水道の構想⋯⋯ぜーったい、ないわー。
先見の力が本当で、女神の力を取り戻したからって言うならキラキラバルドルは潰す!
魔力うんぬんは元女神あるあるの知識なのかなぁって思ったりもしてたけど⋯⋯なんか妙に詳しすぎるのが怪しいし。
それにさあ、貯水槽だの海綿だの? 樹里が知らなそうなが出るとこみると協力者がいるとしか思えないんだよなあ。もしそんな不届き者がいるならソイツも潰したほうが世のため人のためだよね。
そう言えばキラキラが消した記憶ってフレイヤの能力に関するものだけ? フレイヤの時とか、その後転生した時の記憶なんかはどうなってるの?)

「さて、すっかり遅くなってしまったな。ちゃんと理解できたなど期待はしておらんが、なんとなくの雰囲気くらいは理解できただろう? 君はこの実験がどれほど重要なのかだけ分かっていればいいんだ。それがわかった上で実験台になれば魔導具への抵抗が減るからな。
無駄な時間はこれくらいにしてさっさとはじめるとしようか」

(勝手にベラベラと話しはじめたくせに。まあ、途中からは私が調子に乗らせたのもあるけどさ!)



 脳内で怒りを爆発させていたグロリアだったが、ふと冷静になって頭を働かせた。

(このまま素直に実験に協力してもいいけど、流石にこれは酷すぎると言って逃げ出したほうが良くない?
『Movere』は大丈夫だけど、体内の器官が壊れるかもしれない『Cessiōne』はヤバすぎるよね。
ん? ああ、そっか。昨夜ジェニがピアスとイヤーカフを置いていってくれたのはこの為だったんだ。予想より酷い話だったら相談とか助けてとかして良いよって事なのかも。
⋯⋯どうしよう)

 実験は予想をはるかに超えた危険なものだった。グロリアの魔力はルーン魔術を行使するために使っているので、身体の中の機能を壊されたらこれから先どうなるのか想像もつかない。

(ただ、実験に協力せずトンズラできるかなぁ⋯⋯セティが助けてくれるとしても厳しそう)

 侯爵が激怒しようが騒ぎ立てようがグロリア的にはどうでもいいが、家を追い出されたら行くところがない。

(でもでも、馬鹿オヤジ侯爵達をボッコボコにしたいしな~。うん、すご~く楽しそうな気がする。暴走護符でこの屋敷ごと木っ端微塵とかすっごく魅力的~。緊張し過ぎて魔力が暴走しちゃってぇとか言ったら誤魔化せないかな?
さてさて、どうしよう)



「あの、実験の前にお花摘みに行かせていただけませんでしょうか」

 一発で仕留めるか今回は大人しくするか⋯⋯決めきれないグロリアは取り敢えず時間稼ぎを願い出てみた。

「はぁ、仕方ない。後ろのドアを出て向かい側にあるから行ってきたまえ」

 立ち上がりながらチラリとシグルドを見ると退屈そうな顔であくびを噛み殺している。

(さっきまで船漕いでたよね! この状況で欠伸? そういえば昔っから他力本願な奴だったわ)

 イラっとしたグロリアが見るんじゃなかったと後悔しながらドアを出ると、青褪めたセティもグロリアの後に続いて部屋を出てきた。

 心配そうなセティの肩を叩いてから向かいの部屋に一人で入ったグロリアは壁にもたれてポーチに手を添えた。

(この屋敷を破壊してもジェニんちに住ませてもらうのは⋯⋯なしだよなぁ。魔法が使えるとか10年後とかなら生活できる気がするんだけどなぁ。
⋯⋯仕方ない、ちょっと相談してみよう。ピアス出てきて)

 心の中でグロリアが願うと右手の中に固い金属の感触が現れた。

【ふわ~!】

「ごめん、寝てた?」

【ったく、オッサンの無駄話が超長えんだからよお。暇すぎて⋯⋯んで、社畜のリアはどうすんだ?】

「我儘言っていい?」

【⋯⋯お、おま⋯⋯お前、まさかと思うが今まで我儘言ってなかったって思ってたのか!?】

「え~、結構いい子⋯⋯いえ、ごめんなさい」

【よく出来ました、後で飴ちゃん一個やる。んで?】

「例えばなんだけど、実験やったって勘違いさせる方法ってないかな」

【あー、なくはないけど。ほんとにそれでいいのか? 実験が成功したって思わせたらこの先も狙われ続けるぜ?】

「暴走護符で家ごと破壊しようかとも思ったんだけど⋯⋯自活の方法を見つけられるまで時間稼ぎする方が良いのかなあと思ったりして」

【⋯⋯ふーん、まぁいいけど。んじゃこの後の説明するからよく聞けよ、先ずは⋯⋯】

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

理不尽な理由で婚約者から断罪されることを知ったので、ささやかな抵抗をしてみた結果……。

水上
恋愛
バーンズ学園に通う伯爵令嬢である私、マリア・マクベインはある日、とあるトラブルに巻き込まれた。 その際、婚約者である伯爵令息スティーヴ・バークが、理不尽な理由で私のことを断罪するつもりだということを知った。 そこで、ささやかな抵抗をすることにしたのだけれど、その結果……。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

Messiah~底辺召喚士の異世界物語~

小泉 マキ
ファンタジー
いつの時代も人類が世界を滅ぼす。 それとも世界が滅びる運命にあるのか。 時は現代。 今日も学校へ通い、好きなアニメを見て、勉強をして、『青春』を満喫している少女が一人。 しかし、突如として日常は崩れ去った。 最強少女が運命に立ち向かう異世界物語をどうぞお楽しみください。 ※初投稿で、頭脳明晰でも無く、拙い文章で、更に王道ですが、異世界物としては多分他に無い設定や展開だと思います。 睡眠の傍らにでも置いてください。 批判も指摘も甘んじて受け入れる所存です。 是非とも一言頂けると嬉しいです。 画像はフリー素材ですが、不都合ございましたら削除します。 よろしくお願い致します。

処理中です...