前世が勝手に追いかけてきてたと知ったので

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第一章

32.最強王者決定戦

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「神様とか元神様ってほんとーに勝手よね。はぁ~」

 グロリアは肩をすくめてから態と大きな溜息をついた。

「へ?」

「キラキラさんの前に強制連行された時、勝手に私の心の声を聞いて平然としてたよ?」

「それはまあ、普通の事だからね」

「それがおかしいと思うの。神様だから特別仕様で当然なの? 人間如きのプライバシーなんて関係ないの?」

「だって立場というか、そういうものだし」

「そっちは勝手に覗くのに、偶々聞こえただけで悪質で不敬っておかしいじゃない」

「いや、だって」

「神様って当たり前のように転移して、どこからともなく物を取り出すんでしょ? 元神様も」

「まあ、元神となると加護のあるなしで変わるけど⋯⋯神々は元々特別な存在だからさ」

「そう言う選民意識って超かっこ悪い。『神様だぞー』って一括りにしてるけど真面じゃない神だって結構いるよね」

「グロリアはフレイヤを恨んでるからそう思うのは仕方ないけどさあ、元々神は巨人族や人間を支配する為の存在なんだから特別な能力があって当然だろ?
それに、前世でフレイヤがやらかしたのが事実だとしても全ての神をフレイヤと一緒にするのは間違ってるし、彼女がかつて『愛の女神』『豊穣神』として存在していたその功績は誰にも奪えない」

 キッパリと言い切りビシッと人差し指をグロリアに突きつけたセティの目には、今まで見た事がないほどグロリアを警戒し蔑んでいる感情がはっきりと表れていた。

(何かが起きる時のきっかけは些細な事ってホントだね。セティの事は脅して無理やり巻き込んだようなものだし仕方ないか。
セティと会ってから家にいても楽しかったなぁ⋯⋯)

 最も賢明かつ雄弁な神と言われたフォルセティ。平和を愛する優しい神は黄金の柱と銀の屋根でできた宮殿に住み、尊崇され彼の判決に従いさえすれば安全に生きることができるとまで言われていた。

(フレイヤが元女神だろうと関係ないくらいフレイヤとオッタルを絶対に許せない私と『神という存在』は崇められて当然だと考えているセティ。根本が違うんだから分かり合えなくて当然だよね。
たかが人間を守っていたのは多分セティの優しさとか慈悲だったんだと思う。それを見ないふりしてたのは間違いだよね。
⋯⋯悪だと決めつけているロキの指示に従うのも納得いかなかったんだろうなあ)

 出会ってから今までの間、セティはいつも真っ直ぐで献身的で⋯⋯助けられてばかりだったグロリアは突きつけられた指をぼんやりと見つめていた。

 このまま適当に誤魔化して有耶無耶にしてしまえば優しいセティは深く追求せず今まで通りの関係が続けてくれるだろう。

 迎えが来たら直ぐにフレイズマル侯爵家に連行される予定のグロリアは侯爵家でどんな扱いをされるのか、帰ってくる時どんな状態になっているのか想像もつかない。

(ここで『ごめんね、言い過ぎちゃった』って言えば、セティはいつもの笑顔で許してくれて心配そうな顔で見送りだってしてくれるはず)

 グロリアの待遇に腹を立てたり心配したりしてくれるセティは優しくて大切な数少ない友達だと思っている。

(神様だもん、特別なのが当たり前だよね~⋯⋯って言いさえすればセティはこのまま私のそばにいてくれるって思うけど、それってダメダメな考えだよね。
セティがいてくれたら安心だとか助かるとか、セティの優しさを利用してるだけだもん。
無理やり私の事情に付き合わせて振り回してきたから、セティにあんな冷ややかな目で見られても仕方ないんだ。
こんな関係は間違ってて⋯⋯終わりにした方が)




「⋯⋯セティのお爺ちゃんってさ、最高神って言われてたんだよね」

「う? うん」

 突然話が変わり訝しげな顔をしたセティが小さく首を傾げた。

「ロクでなしのクソ爺だったよね~」

「あ、それは酷すぎだよ。お祖父様は過激な方だったから勧善懲悪の方とは言えないけどさ、偉大な功績をいくつも残しておられるんだからそんな言い方は失礼にあたる」

「そうかなぁ、『ゲニウスの本』はずーっとクソ爺と一緒に行動してたんだよ~。で、悪事の片棒担いでたみたい」

 多分『ゲニウスの本』がポーチから外に出ていれば『担がされただけだ!』と騒ぐかもしれない。

「へ?」

「本を読み進めてたらさぁ、クソ爺のやった作戦と計略なんかが書いてあったの。その時の術式と結果も」

「それは凄い! 彼はね偉大なる最高神って言われてるんだけど、書き記された神話には間違いとかがたくさんあって⋯⋯。
偉大故に悪評を立てられたり足を引っ張るための嘘を広げられたりするのはよくある事だけど、それを訂正する事ができればって思ってたんだ。
グロリアには本の内容が分かりにくくて誤解したのかもしれない。うん、本当の意味を理解できれば『クソ爺』なんて言わないはずだよ」

「偉業を達成した素晴らしい神様なら私だってクソ爺なんて言わないし、『ゲニウスの本』に書かれてる内容はセティの期待とは真逆なのがいっぱいあるから」

 自分の望む答えをくれる運命の女神を探す術式は成功率が中々上がらなくて、相手を洗脳する術式に切り替えたのはかなり早い段階だった。
 加護を与えた相手が勝利に近付いた時点で加護を取り上げたのは、特定の戦士が年寄りになる前にエインヘイヤル 死んだ英雄に入れたかったからとか、敵側が財宝を献上してきたからとか。
 ページのはじめにはオーディンの目的が書かれ、計画・作成した術式・結果・受け取った財宝や権利が見合っていたかの総評、計画から結果までの全てが几帳面に書き込まれていた。

 何度も見直し修正や追記がされていたので、記憶に留めておくには情報量が膨大すぎたのか几帳面な性格だったのか。

(主神の座を奪う為だとか欲しくなった能力を奪う為だとか⋯⋯読めば読むほど、なんでもかんでも独り占めしたい傲慢で我儘なクソ爺にしか見えなくなってくんだよね。
あちこちに相手を陥れる罠を仕掛けるのを楽しんでるみたいで超ムカついたもん。
詳しくセティに話したらなんて言うんだろ?)

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