上 下
14 / 248
第一章

13.真面な人や尊敬できそうな神に会いたい今日この頃

しおりを挟む
 パラパラと本を捲りながら暗い顔でため息をついたグロリアの背中をジェニが叩いた。

「そんな暗い顔すんなって。ルーン魔術のマニアもこっちに転生して来ててな、ソイツが記憶を取り戻せばグロリアと同じ古フサルクが理解できるようになる。
どうにもならなきゃ奴に声をかけてくるし。
あ、それと護符を試す時ルーン杖ってのがいるんだけどよ。とりあえずこれを使っとけ」

(奴に会うまでは平和だったとかなるかもだから、出来れば奴には関わらねえ方がいいっちゃ良いんだけど⋯⋯)

 ジェニがグロリアに押しつけたのはダガーを倍くらいの長さにしたような不思議な剣。装飾は少なく青い色をした全体と柄に埋め込まれた金とエメラルドが鈍く光っている。

「⋯⋯光る剣ってヤバそう。これってジェニの大切な物でしょ?」

「あー、いやあ。そいつの持ち主が忘れてったのを拾ったんだよな~。んで、取りに来るまで預かってる感じ? 自分で作れるようになるまで使っときゃいいよ。剣の名前はホヴズな」

「ええ! も、持ち主いるなら勝手に使っちゃダメじゃん」

「いいって、そいつはこの剣のこと忘れてやんの。だから、今持ってってやっても分かんねえもん」

「⋯⋯今度は忘れん坊の神様かぁ。名前までついてる剣なんてかなり特別な物だよね。それを忘れちゃうとか」

 パサリとテーブルに本を置いたグロリアは『はぁ』と溜息をついて空を見上げた。

「真面な人とか『素晴らしい!』って言って尊敬できる神様に会いたいなあ」



 大きな鹿肉を食べ終えたイオルはドリアンを取り出しかけてヴァンとマーナからダメ出しを喰らっていた。

【(イジワル~! 鼻をつまんで食べたら美味しいのにぃ)⋯⋯ヘイムダルはね、すっご~く無愛想なんだけどぉ、ルーンの事になるとお喋りが止まんないから面倒なんだよね~。超しつこいの】

「⋯⋯⋯⋯もしかしてそのヘイムダルって人か神様がジェニの言ってたルーン魔術マニア?」

【そだよー、ホヴズの持ち主だしねー。俺っちさぁ、アイツ超苦手ぇ。近くで内緒話もできないし、特技が見張りなんだもん!】

 甘党のマーナは口の周りをクリームだらけにしたまま不穏な言葉を口にした。

(ヘイムダルって無口で無愛想なルーンオタクで、耳聡い警備員か諜報専門のスパイ⋯⋯ぜーったい会いたくない人のトップ3くらいに入るかも)

【ジェニの宿敵の一柱じゃのぉ】

「えーっ、別に敵じゃねえし? めんどくさい奴だとは思ってるけどよお、話しかけてこなきゃいい奴だと思ってるぜ」

(それ、ウザいって思ってると言うか、嫌ってるって事だよね!)

 聞けば聞くほど独学が魅力的に思えてきたグロリアは両手の中にあるホヴズをそっとテーブルの端に置いた。

(ヘイムダル関連の物とは関わらない方が良さそう)



 ジェニと3匹が話すヘイムダルの逸話を聞きながらふとテーブルの上の本を見たグロリアは勢いよく立ち上がった。

(な、なに、なに、なに! 厚さが変わってる?⋯⋯ええっ? な、なんで!?
いやいやいやいや、私は何も見てない、ほ、本は膨れたりしないもん⋯⋯これ以上の新情報は無理!!)

 青褪めて後退りしたグロリアはしゃがみ込んで頭を抱えた。

(大丈夫、大丈夫。幻覚か勘違いで、元々このサイズだった⋯⋯⋯⋯サイズ⋯⋯あーもー無理だよお)

 抱え込んだ頭をふり一人でアワアワとするグロリアを見ても、何が起きたのか分からないジェニと3匹はキョトンとした顔で首を傾げた。

 ガバッと立ち上がったグロリアはジェニの後ろに回り込み指をガシッと掴んで、元の3倍くらいまで膨らんだ本をツンツンと突かせた。

「ひえっ! ち、縮んだぁ!!」

「関心を向けろってか? 自己顕示欲の塊のクソ野郎らしい魔術だな」

「大きくなったり縮んだりしたのにジェニ達は驚かないの?
こ、この本ってあとどのくらい⋯⋯今みたいな⋯⋯ヘン、ヘンテコなことが起きるか知ってる?」

「いや、知らねえな。今まではただの古い本にしか見えんかったし、俺が開いてもバラバラの文字があるだけで文章として読めるとこは殆どなかったんだ。
多分、本がグロリアを認めたって事じゃね?」

【古フルサクと呼ばれる失われしルーン文字を使って書かれておる。それを読み解く資質のある者にしか、本当の姿は見せんと言う事であろうな】

「そ、そうなんですね。いやぁ、ドキドキです。いつ何が起きるかわからないって事なら、素人が管理するのは遠慮させていただいた方が良さそうですねぇ。
い、今まで通りジェニに預けておこうかな~。んで勉強しにここに来れば⋯⋯おお、名案じゃないですか!!」

「こーとーわーるー! グロリアがルーン魔術の勉強してる間に俺もやることがある」

【お昼寝!】

【お夕寝!】

【朝寝じゃな】

 悲壮な顔のグロリアがジェニの両肩をガシッと掴んだ。

「ジェニ~、もしも、もしも部屋で突然ピカってなったら本の存在が家族とか使用人にバレちゃうかもよ! ドカーンとかパリーンとか凄いのがくるかも!
それにフノーラが見つけたら『欲しい』って持ってっちゃうかも! ねっ、それはすっごく問題でしょ?」

 顔を引き攣らせたグロリアはグラグラとジェニを揺すりながら涙目で懇願した。

「お、お願い! こういう不可思議なのって苦手で、昔から幽霊とかラップ現象とかそう言うのってホント弱いの。突然膨らむとか空に浮かぶ? ほ、本が踊り出したら失神しちゃうよぉ」

 揺さぶられすぎて頭がクラクラしはじめたジェニは手を掴んでグロリアの動きを止めた。

「フノーラ以外は皆モブだから本は目の前にあっても見えんはず。フノーラはなぁ、うーん、どうすっかなぁ?」

 慌てふためくグロリアの横で呑気に背伸びをするジェニ。

「フ、フノーラって関係者なの? はっ、あの美少女っぷりは⋯⋯まさか、フレイヤがこんな身近にいた!?」

「ぶぶー、ハズレだが惜しい!! フノーラはフレイヤの娘。だから気をつけた方がいいのは確かなんだよな⋯⋯キラキラが見張ってたんだが奴は結構ボケてっからなぁ。
既にフノスフノーラを見逃してるし~、もうこれはお仕置き確定案件だよな~」

「だ、ダメダメじゃん。ボケてる神様が監視役とか」

「ヘズに⋯⋯いや、待てよ。フォルセティがいたな」

【キラキラの息子か、彼奴なら良いやもしれんな】

【クソ真面目だしねっ!】

【あの子、イオルより父ちゃんラブ凄いもん。ヘマした父ちゃんの尻拭いだって言えば、馬車馬のように働くよ】

「後で行ってくる、奴はえーっと⋯⋯⋯⋯おお、母ちゃんナンナのとこか。なら、ついでにヘラに土産でも買ってくか」

 空を見上げたジェニがニヤッと笑った。

(ヘラがいるのって空の上なの? うーん、よく分かんない)

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

「やり直しなんていらねえ!」と追放されたけど、セーブ&ロードなしで大丈夫?~崩壊してももう遅い。俺を拾ってくれた美少女パーティと宿屋にいく~

風白春音
ファンタジー
セーブ&ロードという唯一無二な魔法が使える冒険者の少年ラーク。 そんなラークは【デビルメイデン】というパーティーに所属していた。 ラークのお陰で【デビルメイデン】は僅か1年でSランクまで上り詰める。 パーティーメンバーの為日夜セーブ&ロードという唯一無二の魔法でサポートしていた。 だがある日パーティーリーダーのバレッドから追放宣言を受ける。 「いくらやり直しても無駄なんだよ。お前よりもっと戦力になる魔導士見つけたから」 「え!? いやでも俺がいないと一回しか挑戦できないよ」 「同じ結果になるなら変わらねえんだよ。出ていけ無能が」  他のパーティーメンバーも全員納得してラークを追放する。 「俺のスキルなしでSランクは難しかったはずなのに」  そう呟きながらラークはパーティーから追放される。  そしてラークは同時に個性豊かな美少女達に勧誘を受け【ホワイトアリス】というパーティーに所属する。  そのパーティーは美少女しかいなく毎日冒険者としても男としても充実した生活だった。  一方バレッド率いる【デビルメイデン】はラークを失ったことで徐々に窮地に追い込まれていく。  そしてやがて最低Cランクへと落ちぶれていく。  慌てたバレッド達はラークに泣きながら土下座をして戻ってくるように嘆願するがもう時すでに遅し。  「いや俺今更戻る気ないから。知らん。頑張ってくれ」  ラークは【デビルメイデン】の懇願を無視して美少女達と楽しく冒険者ライフを送る。  これはラークが追放され【デビルメイデン】が落ちぶれていくのと同時にラークが無双し成り上がる冒険譚である。

出来損ない王女(5歳)が、問題児部隊の隊長に就任しました

瑠美るみ子
ファンタジー
魔法至上主義のグラスター王国にて。 レクティタは王族にも関わらず魔力が無かったため、実の父である国王から虐げられていた。 そんな中、彼女は国境の王国魔法軍第七特殊部隊の隊長に任命される。 そこは、実力はあるものの、異教徒や平民の魔法使いばかり集まった部隊で、最近巷で有名になっている集団であった。 王国魔法のみが正当な魔法と信じる国王は、国民から英雄視される第七部隊が目障りだった。そのため、褒美としてレクティタを隊長に就任させ、彼女を生贄に部隊を潰そうとした……のだが。 「隊長~勉強頑張っているか~?」 「ひひひ……差し入れのお菓子です」 「あ、クッキー!!」 「この時間にお菓子をあげると夕飯が入らなくなるからやめなさいといつも言っているでしょう! 隊長もこっそり食べない! せめて一枚だけにしないさい!」 第七部隊の面々は、国王の思惑とは反対に、レクティタと交流していきどんどん仲良くなっていく。 そして、レクティタ自身もまた、変人だが魔法使いのエリートである彼らに囲まれて、英才教育を受けていくうちに己の才能を開花していく。 ほのぼのとコメディ七割、戦闘とシリアス三割ぐらいの、第七部隊の日常物語。 *小説家になろう・カクヨム様にても掲載しています。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

下げ渡された婚約者

相生紗季
ファンタジー
マグナリード王家第三王子のアルフレッドは、優秀な兄と姉のおかげで、政務に干渉することなく気ままに過ごしていた。 しかしある日、第一王子である兄が言った。 「ルイーザとの婚約を破棄する」 愛する人を見つけた兄は、政治のために決められた許嫁との婚約を破棄したいらしい。 「あのルイーザが受け入れたのか?」 「代わりの婿を用意するならという条件付きで」 「代わり?」 「お前だ、アルフレッド!」 おさがりの婚約者なんて聞いてない! しかもルイーザは誰もが畏れる冷酷な侯爵令嬢。 アルフレッドが怯えながらもルイーザのもとへと訪ねると、彼女は氷のような瞳から――涙をこぼした。 「あいつは、僕たちのことなんかどうでもいいんだ」 「ふたりで見返そう――あいつから王位を奪うんだ」

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...