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第五章
43.思った事をそのまま口にするのは効果絶大
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村でかがり火の準備が始まった。村人等は笑い声を上げたり、準備したお菓子の話で盛り上がったりしながら、手慣れた様子で薪を積み上げていく。
その様子は、厳粛な行事ではなく楽しいイベントといった雰囲気。
それもそのはずで、広場の端では祭りを題材にしたケーキやお菓子を売る屋台が出て、子供達が奮闘しているゲームを観光客達が応援する声も聞こえてくる。
「あれは『アップル・ボビング』って言って、水を入れたたらいにリンゴを浮かべて、手を使わずに口で咥えて取るんだ。
その隣でやってるのは、小麦粉の山から銀貨を落とさないよう小麦粉を順番に削り取る『小麦粉切り』
その向こうは大人だけが参加できる『スナップ・ドラゴン』で、皿に盛った干し葡萄にブランデーをかけて火をつけて、そこから干し葡萄をつまみ取る」
ローラは『小麦粉切り』に参加したいと、アレックスの手を引っ張って行き、セドリックとジェラルドはもちろん『スナップ・ドラゴン』に興味津々。
晴れやかな祭りの雰囲気に少し怖気付いていたエレーナに、アリサが声をかけてきた。
「エレーナ様、最近なにかありましたの? 時々、物思いに耽っておられるようにお見受けしますの」
「いえ、特には⋯⋯その⋯⋯来年になるとみんなバラバラになるのだなぁと」
「んー、遠くへ行ってしまうのはミリア様とセレナ様だけ⋯⋯お二方はもうシェイラードに行っておられますから、別の方のお話ですわね。
ジェラルド様との事かしら?」
誰もが口にできない事でも口にしてしまう⋯⋯流石アリサ嬢。
「えっと、あの⋯⋯」
「寂しく感じておられるのなら、それは特別な思いがあると言う事ですわ」
「あ、別にジェラルドとは言ってな「では、アレックス様にそばにいていただいたらいかがでしょう。アレックス様はとてもお喜びだと思いますの。少し考えてごらんなさいませ。アレックス様はお優しい方ですし、とても心の広い方ですわ」」
「えっと、それは⋯⋯そうですけど」
「アレックス様が領地へ行かれた後、エレーナ様が落ち込んでおられるようには見えませんでしたわ。アレックス様の方が元気がなくなられていたように思うくらいに」
「それはきっとローラと離れたからだと思います。とても仲のいいご兄妹ですから」
「では、セドリック様に致しましょう。エレーナ様が寂しがっておられるから、頭を撫でてくださいと、わたくしが頼んでまいりますわ」
「ええ! それは結構ですわ、そのようなことは望んではおりませんもの。アレックスもセドリックも、親切な親戚とし「では、ジェラルド様は?」」
「え?」
「ジェラルド様には、しょっちゅう頭を撫でられていたように思いますけど? エリオット陛下もですけれど」
公の立場としてはエレーナはエリオットの養女になるが、孫のローラと同い年だからか、エリオットはエレーナの頭を撫でたり、おやつを食べさせようとしたり⋯⋯完全に孫を構う祖父のような言動をする。
(エリオット様が頭を撫でて下さる⋯⋯ジェラルドが頭を撫でくれる⋯⋯何か⋯⋯なんだろう⋯⋯少し違うような⋯⋯何が違うのかしら)
大きくて暖かいエリオットの手は、エレーナに安心と照れ臭さを感じさせてくれる。守られている安心感、近づいた距離への照れ臭さ。
そのままで良いんだと教えてくれているような⋯⋯包み込む優しさがある。
(ジェラルドの手は⋯⋯ドキドキも⋯⋯なんでか⋯⋯)
「エレーナ様、お顔が真っ赤ですわ。それが答えなんじゃないかと思いますけど?」
「あか、赤い顔がですか?」
「恋とか⋯⋯愛ですわ。誰かを思い浮かべて、頬を赤らめるのはそれしかありませんもの」
「⋯⋯こっ⋯⋯あっ、あっ!」
「ジェラルド様の事がお好きだと言う事ですわ。会えないかもと思うだけで寂しい、離れるかもと思うだけで切ない。触れられると思うだけで頬が赤くなりドキドキする⋯⋯そう言う感情を『特別な好き』と言いますの」
(特別な好き⋯⋯これが?)
エレーナの知っている『好き』は、チーズケーキと杏の花や鈴蘭。本を読むのは好きだと思うし、カーテンを揺らす風も好き。
(オルシーニ家とキャンベル家の人達や学園の友達も好きだと思うけど、ドキドキはしたことがないわ⋯⋯ジェ、ジェラルド以外は。わたくしにとって、ジェラルドは別って事?)
領地に行ったアレックスと会えなくなったのは、寂しいより仕方ない事だと思う気持ちの方が強い。セドリックと会う機会が減ったのも同じで、それぞれの道を進んでいる2人に賞賛の気持ちさえある。
来年からエリオットと離れて暮らすと決めているが、きっといつでも会えるはず⋯⋯今までと変わらない笑顔で迎えて下さるはずだと思っている。レイチェル・ラルフ・ライラ・ローラ⋯⋯全員に同じ気持ちを持っている。
(それはキャンベル家の人達に対しても同じで⋯⋯同じ⋯⋯じゃないかも。これが『特別な好き』と言う事?)
ループ前の感情を引きずっているつもりはないのに、エレーナはいまだに人に対して一歩引いてしまう。
一人になるとふと不安に駆られたり、意味の分からない焦燥感に駆られる事がある。ベッドに入ると目が冴え、夜の闇に何かいるような気がして飛び起きる。
そんな時には何故か必ず、ジェラルドから花とカードが転送されてくる。
『センサー発動(笑)』
届くのは、ミムラスの『笑顔を見せて』や、ヒペリカムの『悲しみは続かない』で、スノードロップやポピーが届く時もある。
送り返すのはポーチュラカの『いつも元気』かメランポジウムの『元気』
「おーい、セドリックの順番が来るから観に来いよ~」
遠くからジェラルドが声を張り上げて叫んだ。『小麦粉切り』にチャレンジしていたはずのローラや、連れて行かれたアレックスも一緒に手を振っている。
セドリックは村人からもらったブランデーを口にして、ゲホゲホと咳き込んで観光客達に笑われていた。
その横で村人がジェラルドにもカップを差し出したが、首を横に振っているのが見えた。
(そう言えば、ジェラルドはわたくしの前ではお酒を飲まないわ⋯⋯匂いをさせていたこともないし。わたくしがその臭いを怖がるから?)
オルシーニもキャンベルもかなりの酒豪揃いなので、ジェラルドだけが下戸と言う可能性は低いのに⋯⋯。
「わたくしはジェラルドに甘えてばかりだわ」
「甘えられるのが嬉しいと思う方なら、甘えて差し上げるのが親切というものですわ。
ジェラルド様は間違いなく『構いたい君』ですもの。センサーを常備するほどですから、異常⋯⋯ストーカー並み⋯⋯えーっと、しつこすぎるほどだと思いますけど」
婉曲な言い方を諦めたアリサ。
エレーナとアリサが『スナップ・ドラゴン』をやっているコーナーに近付くと、すでに酒で顔を赤くした大人達が集まっていた。
燃えたブランデーの匂いや、そこかしこにこぼれ落ちた生のままのブランデーの匂いは、酒好きには堪らないらしく、ゲームに使った干し葡萄を口に放り込むものもいるほど。
「おいで、こっちの方が見やすいから」
ジェラルドに手を引かれたエレーナは風上に連れていかれたが、ブランデーの匂いはあまり変わらない。ゲームが終わるまでの辛抱だと思い笑顔を浮かべていると、ジェラルドがニパッと笑って『ごめん』と呟いた。
「きゃあ!」
ジェラルドがエレーナを姫抱っこして、人の背丈ほど空に飛び上がった。
「兄ちゃんのへっぽこ振りが見えにくいからさぁ、ちょっとズルさせてもらうな~」
驚いて目を丸くしていた酔っぱらい達が指笛を吹いて揶揄いはじめた。
「うひょお~、兄ちゃんをだしにして、見せつけるね~」
「ラッブラブ~!」
(心臓が止まりそう⋯⋯魔法なら重くは⋯⋯ア、アリサ様のお話を聞く前なら、ありがとうが言えたのに⋯⋯恥ずかしすぎ⋯⋯)
無意識に大きく息を吸ったエレーナが、パッとジェラルドの顔を見た。
(ここ、臭いが届いてないわ⋯⋯もしかして、その為?)
「ジェラルド、貸し一だからな!」
にやけるジェラルドに向けて中指を立てたセドリックが、腕まくりしてゆらゆらと燃える火に狙いをつけた。何度も指を近付けるたびに、歓声やヤジが飛ぶ。
「くそっ! 干し葡萄のやろう⋯⋯」
家の明かりは全て消え、満天の星が輝いている。メラメラと燃える『かがり火』の灯りが届く範囲には籠を抱えた大人達が立ち、マントや手作りの仮面で怖さを演出した子供達が、精一杯低い声を出していた。
「た、たまちいお、たまちいお⋯⋯えーっと、ねえちゃん、ちゅぎな~に?」
「霊魂のケーキを。どうぞやさしい奥様方、霊魂のケーキを1つ下さいな」
「うん! へーちー、くだた~い!」
あちこちで同じような可愛いやり取りが聞こえてくる。
「てーきおり、にんごがちゅきでち!」
「かあちゃん、おしっこ~」
「おなかすいた~、ぱんぱんぱーん!」
深夜近くになると酒と料理を口にする者以外に、ギターが掻き鳴らされ楽しい歌声が響いてきた。別の世界との境界線からやって来た悪霊を退け、亡くなった友に捧げるのは、聞いたことのない言葉で綴られる歌ばかり。
笑い声や明るい歌の合間に、今はほとんど見かけなくなったリュートの、柔らかく繊細な響きも聞こえてくる。
エレーナ達は村で借りた椅子とテーブルに料理や飲み物を並べ、祭りを楽しむ人達を眺めながら、気楽にお喋りを楽しんでいた。
「みんな朝まで騒ぐのかな?」
「疲れれば寝ると思うけど、基本は夜明けまでだって聞いてる」
「ねえねえ、ジェラルドはこのお祭りの事、誰に聞いたの?」
その様子は、厳粛な行事ではなく楽しいイベントといった雰囲気。
それもそのはずで、広場の端では祭りを題材にしたケーキやお菓子を売る屋台が出て、子供達が奮闘しているゲームを観光客達が応援する声も聞こえてくる。
「あれは『アップル・ボビング』って言って、水を入れたたらいにリンゴを浮かべて、手を使わずに口で咥えて取るんだ。
その隣でやってるのは、小麦粉の山から銀貨を落とさないよう小麦粉を順番に削り取る『小麦粉切り』
その向こうは大人だけが参加できる『スナップ・ドラゴン』で、皿に盛った干し葡萄にブランデーをかけて火をつけて、そこから干し葡萄をつまみ取る」
ローラは『小麦粉切り』に参加したいと、アレックスの手を引っ張って行き、セドリックとジェラルドはもちろん『スナップ・ドラゴン』に興味津々。
晴れやかな祭りの雰囲気に少し怖気付いていたエレーナに、アリサが声をかけてきた。
「エレーナ様、最近なにかありましたの? 時々、物思いに耽っておられるようにお見受けしますの」
「いえ、特には⋯⋯その⋯⋯来年になるとみんなバラバラになるのだなぁと」
「んー、遠くへ行ってしまうのはミリア様とセレナ様だけ⋯⋯お二方はもうシェイラードに行っておられますから、別の方のお話ですわね。
ジェラルド様との事かしら?」
誰もが口にできない事でも口にしてしまう⋯⋯流石アリサ嬢。
「えっと、あの⋯⋯」
「寂しく感じておられるのなら、それは特別な思いがあると言う事ですわ」
「あ、別にジェラルドとは言ってな「では、アレックス様にそばにいていただいたらいかがでしょう。アレックス様はとてもお喜びだと思いますの。少し考えてごらんなさいませ。アレックス様はお優しい方ですし、とても心の広い方ですわ」」
「えっと、それは⋯⋯そうですけど」
「アレックス様が領地へ行かれた後、エレーナ様が落ち込んでおられるようには見えませんでしたわ。アレックス様の方が元気がなくなられていたように思うくらいに」
「それはきっとローラと離れたからだと思います。とても仲のいいご兄妹ですから」
「では、セドリック様に致しましょう。エレーナ様が寂しがっておられるから、頭を撫でてくださいと、わたくしが頼んでまいりますわ」
「ええ! それは結構ですわ、そのようなことは望んではおりませんもの。アレックスもセドリックも、親切な親戚とし「では、ジェラルド様は?」」
「え?」
「ジェラルド様には、しょっちゅう頭を撫でられていたように思いますけど? エリオット陛下もですけれど」
公の立場としてはエレーナはエリオットの養女になるが、孫のローラと同い年だからか、エリオットはエレーナの頭を撫でたり、おやつを食べさせようとしたり⋯⋯完全に孫を構う祖父のような言動をする。
(エリオット様が頭を撫でて下さる⋯⋯ジェラルドが頭を撫でくれる⋯⋯何か⋯⋯なんだろう⋯⋯少し違うような⋯⋯何が違うのかしら)
大きくて暖かいエリオットの手は、エレーナに安心と照れ臭さを感じさせてくれる。守られている安心感、近づいた距離への照れ臭さ。
そのままで良いんだと教えてくれているような⋯⋯包み込む優しさがある。
(ジェラルドの手は⋯⋯ドキドキも⋯⋯なんでか⋯⋯)
「エレーナ様、お顔が真っ赤ですわ。それが答えなんじゃないかと思いますけど?」
「あか、赤い顔がですか?」
「恋とか⋯⋯愛ですわ。誰かを思い浮かべて、頬を赤らめるのはそれしかありませんもの」
「⋯⋯こっ⋯⋯あっ、あっ!」
「ジェラルド様の事がお好きだと言う事ですわ。会えないかもと思うだけで寂しい、離れるかもと思うだけで切ない。触れられると思うだけで頬が赤くなりドキドキする⋯⋯そう言う感情を『特別な好き』と言いますの」
(特別な好き⋯⋯これが?)
エレーナの知っている『好き』は、チーズケーキと杏の花や鈴蘭。本を読むのは好きだと思うし、カーテンを揺らす風も好き。
(オルシーニ家とキャンベル家の人達や学園の友達も好きだと思うけど、ドキドキはしたことがないわ⋯⋯ジェ、ジェラルド以外は。わたくしにとって、ジェラルドは別って事?)
領地に行ったアレックスと会えなくなったのは、寂しいより仕方ない事だと思う気持ちの方が強い。セドリックと会う機会が減ったのも同じで、それぞれの道を進んでいる2人に賞賛の気持ちさえある。
来年からエリオットと離れて暮らすと決めているが、きっといつでも会えるはず⋯⋯今までと変わらない笑顔で迎えて下さるはずだと思っている。レイチェル・ラルフ・ライラ・ローラ⋯⋯全員に同じ気持ちを持っている。
(それはキャンベル家の人達に対しても同じで⋯⋯同じ⋯⋯じゃないかも。これが『特別な好き』と言う事?)
ループ前の感情を引きずっているつもりはないのに、エレーナはいまだに人に対して一歩引いてしまう。
一人になるとふと不安に駆られたり、意味の分からない焦燥感に駆られる事がある。ベッドに入ると目が冴え、夜の闇に何かいるような気がして飛び起きる。
そんな時には何故か必ず、ジェラルドから花とカードが転送されてくる。
『センサー発動(笑)』
届くのは、ミムラスの『笑顔を見せて』や、ヒペリカムの『悲しみは続かない』で、スノードロップやポピーが届く時もある。
送り返すのはポーチュラカの『いつも元気』かメランポジウムの『元気』
「おーい、セドリックの順番が来るから観に来いよ~」
遠くからジェラルドが声を張り上げて叫んだ。『小麦粉切り』にチャレンジしていたはずのローラや、連れて行かれたアレックスも一緒に手を振っている。
セドリックは村人からもらったブランデーを口にして、ゲホゲホと咳き込んで観光客達に笑われていた。
その横で村人がジェラルドにもカップを差し出したが、首を横に振っているのが見えた。
(そう言えば、ジェラルドはわたくしの前ではお酒を飲まないわ⋯⋯匂いをさせていたこともないし。わたくしがその臭いを怖がるから?)
オルシーニもキャンベルもかなりの酒豪揃いなので、ジェラルドだけが下戸と言う可能性は低いのに⋯⋯。
「わたくしはジェラルドに甘えてばかりだわ」
「甘えられるのが嬉しいと思う方なら、甘えて差し上げるのが親切というものですわ。
ジェラルド様は間違いなく『構いたい君』ですもの。センサーを常備するほどですから、異常⋯⋯ストーカー並み⋯⋯えーっと、しつこすぎるほどだと思いますけど」
婉曲な言い方を諦めたアリサ。
エレーナとアリサが『スナップ・ドラゴン』をやっているコーナーに近付くと、すでに酒で顔を赤くした大人達が集まっていた。
燃えたブランデーの匂いや、そこかしこにこぼれ落ちた生のままのブランデーの匂いは、酒好きには堪らないらしく、ゲームに使った干し葡萄を口に放り込むものもいるほど。
「おいで、こっちの方が見やすいから」
ジェラルドに手を引かれたエレーナは風上に連れていかれたが、ブランデーの匂いはあまり変わらない。ゲームが終わるまでの辛抱だと思い笑顔を浮かべていると、ジェラルドがニパッと笑って『ごめん』と呟いた。
「きゃあ!」
ジェラルドがエレーナを姫抱っこして、人の背丈ほど空に飛び上がった。
「兄ちゃんのへっぽこ振りが見えにくいからさぁ、ちょっとズルさせてもらうな~」
驚いて目を丸くしていた酔っぱらい達が指笛を吹いて揶揄いはじめた。
「うひょお~、兄ちゃんをだしにして、見せつけるね~」
「ラッブラブ~!」
(心臓が止まりそう⋯⋯魔法なら重くは⋯⋯ア、アリサ様のお話を聞く前なら、ありがとうが言えたのに⋯⋯恥ずかしすぎ⋯⋯)
無意識に大きく息を吸ったエレーナが、パッとジェラルドの顔を見た。
(ここ、臭いが届いてないわ⋯⋯もしかして、その為?)
「ジェラルド、貸し一だからな!」
にやけるジェラルドに向けて中指を立てたセドリックが、腕まくりしてゆらゆらと燃える火に狙いをつけた。何度も指を近付けるたびに、歓声やヤジが飛ぶ。
「くそっ! 干し葡萄のやろう⋯⋯」
家の明かりは全て消え、満天の星が輝いている。メラメラと燃える『かがり火』の灯りが届く範囲には籠を抱えた大人達が立ち、マントや手作りの仮面で怖さを演出した子供達が、精一杯低い声を出していた。
「た、たまちいお、たまちいお⋯⋯えーっと、ねえちゃん、ちゅぎな~に?」
「霊魂のケーキを。どうぞやさしい奥様方、霊魂のケーキを1つ下さいな」
「うん! へーちー、くだた~い!」
あちこちで同じような可愛いやり取りが聞こえてくる。
「てーきおり、にんごがちゅきでち!」
「かあちゃん、おしっこ~」
「おなかすいた~、ぱんぱんぱーん!」
深夜近くになると酒と料理を口にする者以外に、ギターが掻き鳴らされ楽しい歌声が響いてきた。別の世界との境界線からやって来た悪霊を退け、亡くなった友に捧げるのは、聞いたことのない言葉で綴られる歌ばかり。
笑い声や明るい歌の合間に、今はほとんど見かけなくなったリュートの、柔らかく繊細な響きも聞こえてくる。
エレーナ達は村で借りた椅子とテーブルに料理や飲み物を並べ、祭りを楽しむ人達を眺めながら、気楽にお喋りを楽しんでいた。
「みんな朝まで騒ぐのかな?」
「疲れれば寝ると思うけど、基本は夜明けまでだって聞いてる」
「ねえねえ、ジェラルドはこのお祭りの事、誰に聞いたの?」
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