上 下
126 / 135
第五章

39.弄ばれる男は蹴り上げられそうな不安がいっぱい

しおりを挟む
「堪忍してくれよ~、男には秘密にしたい事がいっぱいあるんだからな~」

「おお、そこは心配ない。流石に自家発電中には部「わぁぁ! やめろぉぉ! なに、本当なんなの? 俺が何かした? 今日は色々と忙しいんだから~」」



「そうだねえ、途中までは上手くいっていたのに⋯⋯後半はガタガタ。セディが言ってたようにヘタレの恋愛初心者にありがちの失敗だね。褒めるとしたら、最後の辺り⋯⋯ちょっぴり頑張ってたじゃないか。
でも、先ずは雰囲気作りの練習からはじめた方が良さそうだねえ。なんと言っても『白の魔女』は難攻不落だからさ」

「前も聞いたんだけどさ、なんでエレーナの事を『白の魂』とか『白の魔女』って言うんだ? んで、いつの間にレイちゃんとセディセドリックって呼び合うほど、仲良くなったんだ?」

 レイちゃん&セディは横に置いといて⋯⋯セルビアスで『黎明の魔女』と会った時から気になっていた。呼び方そのものも気になるし、『黎明の魔女』が妙にエレーナを気にかけている事も気になる。

(魔女に気に入られるなんて、ロクなもんじゃねえからな。危険は排除するに限る⋯⋯なのに、なんも教えず纏わりついてるだけなんだよな~⋯⋯俺に)



「そうさねえ⋯⋯どうしようかねえ⋯⋯人間が認識できる色は赤色・緑色・青色の3つ。で、白色を作るためには3色全部が必要なのさ」

「ああ、俺達が光の3原色って言ってるやつだな。それは知ってる」

 赤・緑・青の3色を様々な割合で混ぜれば、いろんな色をつくることができると、学園の授業で習ったが、それがエレーナの呼び名とどう関係するのか。

「そうそう、間抜けな坊やのくせにお利口さんだねえ。後は自分で考えな、もう少しお利口になるかもだよ?」

「ああ、そういう事かぁ⋯⋯」

「おや、セディは正解に近づいたみたいだね。でも、ジェリージェラルド坊やに教えちゃダメだよ。自分で気付かなきゃ意味がないからさ」

 セディに次いでジェラルドにも『ジェリー』と言う愛称が付いていたと発覚。しかも何故かジェラルドだけ『坊や』のおまけ付き。

「もちろん。その方が面白そうだしね~」

「くそ! 意地悪ババアと腹黒が手を組みやがった⋯⋯」

(完全に舐められてる⋯⋯魔女ババアにもセドリックにも。言い返せるネタが見当たらね~⋯⋯)



 すべての色を反射し、反射された光が目の中に入った時に人は『白』と認識している。

 全ての光を反射すると物体は『白』に見えるが、光を百%反射する物体はない⋯⋯つまり、自然界には『完全なる白』は存在しない。

 因みに、全ての色を吸収し、反射される光がほとんどない時は『黒』と認識する。





 その日の夕食の席⋯⋯準国葬に参列したがとっとと帰っできたエリオットは、いつもと変わらない表情で席についていた。

「セドリックとジェラルド、お前らはいつまで居座るつもりだ? ここは簡易宿泊所でも、寮でもないんだからな。そろそろ家に帰れ。これは決定事項だ、国王として申しつけたからな」

 クラリス騒動から湧き上がった4カ国徹底撲滅計画が終わり、セドリックやジェラルドが王宮に住む理由はなくなったが、その後も素知らぬ顔で居座り続けていた双子は、慌てて目を逸らした。

「アイザック達は身辺警護の観点から、このまま王宮に留まることが決まったが、お前らは邪魔。さっさと帰れ⋯⋯特にジェラルドは危険だからな~。危なくていかん」

 ジェラルドがエレーナのそばにいたがっているのは知っているが、同じ王宮に住み着く理由にはならない。

 もちろん、ジェラルドの部屋に魔女が出入りしていることなどお見通し。なにが目的か⋯⋯監視していたエリオットは、痺れを切らした。

(魔女に気に入られてるのはジェラルドで、セドリックは興味津々ってとこだろう。狙いが分からんままなのは気に食わんが、何か起きる前に放り出してやる)

 ジェラルドの部屋に居座っている『黎明の魔女』を直接追い出しにかかるのは危険だが、ジェラルドを放り出せば⋯⋯双子ごと纏めて追い出す事に決めた。

(ジェラルドがいなくなっても『黎明の魔女』が出入りするなら、目的はエレーナって事になる。その時は魔女と全面対決だな)



 国王として⋯⋯と言われては文句は言えないし、おねだりも以ての外。

「今日中に荷物をまとめます」

「は~い(くそぉ、最強のカードを切りやがった!)」

「ジェラルド~、文句があれば聞くぞ~? 王宮の主で~、国王としてならな~」

「いえいえ、陛下に文句など、とんでもないです」

 翌日、実家に転移した双子と一緒に魔女もいなくなっていた。



 
 アレックスが卒業してから、エレーナはローラと2人で登校しているが、広々とした馬車の中は少し寒々しく感じる。

「なんか、アレックスがいないのに慣れないんだよね~。王宮に帰ってもいないしさ~」

 ローラはアレックスが領地に行ってから、少し元気がない。

「愚痴を聞いてくれる人がいないって、結構辛いもんだね。そうだ! 領地に呪いの手紙を送りつけてやろうかな~。そしたら、たまには顔を見せに来るかも」

 ローラが拗ねているのは、アレックスは婚約したアリサには手紙を送っているのに、ローラにはカード一枚届かないから。

(セドリックが言っていたアレね⋯⋯)

 本人は気付いていないが、ローラはかなりのブラコン。卒業パーティーでアレックスがカミングアウトしてから、大事なお兄様を取られて拗ねてるのが丸わかりの様子に、周りみんなが笑いを堪えている。

(それでもアリサ様に意地悪を言ったりしないのが、ローラの良いところだわ。それに⋯⋯)

 アレックスの代わりを、担任のケビン・トールスが務めはじめている気配がするらしい⋯⋯セドリックとジェラルド情報。

 薬学の教師で担任のトールスはルーナに片想い中だと思われていたが、ただ単に最新の医学情報や、開発中の薬について聞きたいだけだと判明した。

 なぜかと言うと、新薬の開発で長い間国を出ていたルーナが戻ってきた時、トールスには⋯⋯エリオットやラルフローラの父が妻を見た時のような⋯⋯砂糖を吐きたくなるような気配が感じられなかったから。そして、単なる『モテない君』認定された。

『先生ってルーナの事が好きなんじゃないの? 長~い片想い中だって有名だよ?』

『はあ? 俺がぁ!? ルーナに片想いしてるなら、俺はBとLの世界に行ってる事になるぞ?』

 ルーナはトールスにとって片想いの相手どころか、女性枠ですらないらしい。



 そのトールスはここ最近、ローラのゴリ押しか鼻薬を効かされ過ぎたのか⋯⋯休憩時間や放課後の大半で家庭教師状態にされている。

 ルーナの帰国予定や滞在中のスケジュールをリークするのと引き換えに、勉強を教えてもらうと言うかなりセコいやり方だが⋯⋯。

「だってだって、本職に聞くのが一番じゃん」

「そのついでに愚痴も聞かせてるだろ?」

「だってだって、担任だもん。生徒のメンタルケアってやつだよ~」

 トールスに『勉強を教えてくれてるついでに結婚しよっか』とローラから逆プロポーズするのは数年後。

 誤解されかねない破天荒なローラの台詞に、ラルフローラの父が泣き崩れた姿は、しっかりと記念に記録されている。

『ま、まさか勉強以外にも教えてたんじゃないだろうな?⋯⋯ううっ、トールスの野郎、こ、殺してやるぅぅぅ!』




 アメリアの死去から半年⋯⋯5年生になってからはずっと、昼食はエレーナ・ローラ・アリサの3人か、ジェラルドやアイザック達と合流するかのどちらか。

 セドリックは生徒会室で食事をしながら仕事を終わらせる。

『放課後は俺の時間だからな。用事があればそれまでに言ってくれ』

 今までは放課後に行っていた会議さえ、お昼休憩の間に済ませる徹底ぶりで、他の役員を振り回している。



「ねえねえ、そこまでして放課後の時間をキープしたがるのってなんで?」

「いや~、男には色々あるんだよな~」

 ローラの質問に答えたような答えてないような⋯⋯怪しい返答をしたジェラルドは、完全に目を泳がせている。

「⋯⋯んー、なになに、すっごーく怪しい」

(マズいな~、ローラは一度食いつくと別の餌を見せるまで離れねえんだよな~)

 セドリックは魔女の本を読み耽り、放課後と休日の全てを使って、特訓しているなど誰にも言えない。

 その殆どが知られていない魔法だったり、使えるものがいなくなった幻の魔法だったりするのだから。

(しかも、魔女に弟子入りするとか言い出しやがったし⋯⋯父上にバレたら、俺のケツがマジでヤバそう)

 元々はジェラルドにくっついて来たように思えていた『黎明の魔女』なだけに、家族からお前のせいだと責められそうな気がしてならない。

(今でも俺の部屋に入り浸っているし⋯⋯でも、王宮にいた頃から仲が良いのはセドリックだったぞ? あれ、おっかしいなあ~、俺の部屋にいる意味あるか? セドリックまで俺の部屋に入り浸って、2人で俺をディスって楽しんでるし)

 ローラのジト目を放置して、首を捻るジェラルドの百面相がかなり面白い。

「じゃあじやあ、帰る直前のセドリックに突撃しよう!」

 面倒事が起きる予感、百パーセント。





「で、馬車の前で待ってたわけだ。ふーん、兄として寂しいなあ、弟に捨てられた気分だよ。兄ちゃん、泣いていい?」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

話が違います! 女性慣れしていないと聞いていたのですが

四季
恋愛
領地持ちの家に長女として生まれた私。 幼い頃から趣味や好みが周囲の女性たちと違っていて、女性らしくないからか父親にもあまり大事にしてもらえなかった。 そんな私は、十八の誕生日、父親の知り合いの息子と婚約することになったのだが……。

【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜

七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。 ある日突然、兄がそう言った。 魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。 しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。 そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。 ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。 前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。 これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。 ※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です

幼馴染みに婚約者を奪われ、妹や両親は私の財産を奪うつもりのようです。皆さん、報いを受ける覚悟をしておいてくださいね?

水上
恋愛
「僕は幼馴染みのベラと結婚して、幸せになるつもりだ」 結婚して幸せになる……、結構なことである。 祝福の言葉をかける場面なのだろうけれど、そんなことは不可能だった。 なぜなら、彼は幼馴染み以外の人物と婚約していて、その婚約者というのが、この私だからである。 伯爵令嬢である私、キャサリン・クローフォドは、婚約者であるジャック・ブリガムの言葉を、受け入れられなかった。 しかし、彼は勝手に話を進め、私は婚約破棄を言い渡された。 幼馴染みに婚約者を奪われ、私はショックを受けた。 そして、私の悲劇はそれだけではなかった。 なんと、私の妹であるジーナと両親が、私の財産を奪おうと動き始めたのである。 私の周りには、身勝手な人物が多すぎる。 しかし、私にも一人だけ味方がいた。 彼は、不適な笑みを浮かべる。 私から何もかも奪うなんて、あなたたちは少々やり過ぎました。 私は、やられたままで終わるつもりはないので、皆さん、報いを受ける覚悟をしておいてくださいね?

運命の歯車が壊れるとき

和泉鷹央
恋愛
 戦争に行くから、君とは結婚できない。  恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。    他の投稿サイトでも掲載しております。

【完結】断罪されなかった悪役令嬢ですが、その後が大変です

紅月
恋愛
お祖母様が最強だったから我が家の感覚、ちょっとおかしいですが、私はごく普通の悪役令嬢です。 でも、婚約破棄を叫ぼうとしている元婚約者や攻略対象者がおかしい?と思っていたら……。 一体どうしたんでしょう? 18禁乙女ゲームのモブに転生したらの世界観で始めてみます。

無理やり『陰険侯爵』に嫁がされた私は、侯爵家で幸せな日々を送っています

朝露ココア
恋愛
「私は妹の幸福を願っているの。あなたには侯爵夫人になって幸せに生きてほしい。侯爵様の婚姻相手には、すごくお似合いだと思うわ」 わがままな姉のドリカに命じられ、侯爵家に嫁がされることになったディアナ。 派手で綺麗な姉とは異なり、ディアナは園芸と読書が趣味の陰気な子爵令嬢。 そんな彼女は傲慢な母と姉に逆らえず言いなりになっていた。 縁談の相手は『陰険侯爵』とも言われる悪評高い侯爵。 ディアナの意思はまったく尊重されずに嫁がされた侯爵家。 最初は挙動不審で自信のない『陰険侯爵』も、ディアナと接するうちに変化が現れて……次第に成長していく。 「ディアナ。君は俺が守る」 内気な夫婦が支え合い、そして心を育む物語。

傷物令嬢シャルロットは辺境伯様の人質となってスローライフ

悠木真帆
恋愛
侯爵令嬢シャルロット・ラドフォルンは幼いとき王子を庇って右上半身に大やけどを負う。 残ったやけどの痕はシャルロットに暗い影を落とす。 そんなシャルロットにも他国の貴族との婚約が決まり幸せとなるはずだった。 だがーー 月あかりに照らされた婚約者との初めての夜。 やけどの痕を目にした婚約者は顔色を変えて、そのままベッドの上でシャルロットに婚約破棄を申し渡した。 それ以来、屋敷に閉じこもる生活を送っていたシャルロットに父から敵国の人質となることを命じられる。

公爵令嬢 メアリの逆襲 ~魔の森に作った湯船が 王子 で溢れて困ってます~

薄味メロン
恋愛
 HOTランキング 1位 (2019.9.18)  お気に入り4000人突破しました。  次世代の王妃と言われていたメアリは、その日、すべての地位を奪われた。  だが、誰も知らなかった。 「荷物よし。魔力よし。決意、よし!」 「出発するわ! 目指すは源泉掛け流し!」  メアリが、追放の準備を整えていたことに。

処理中です...