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第五章
34.ローラ最強説に変更かも
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5年生になったエレーナは、留学から帰って来たローラと同じクラスで、見慣れた顔ぶれに囲まれていた。
平穏な毎日が戻ってきたと感じるエレーナと、前日のジェラルドとの話で、鼻息の荒いローラの温度差は天と地ほど違っているが、ローラの謎の気合いは、久しぶりの学園で張り切っているせいだとエレーナは思っている。
エレーナが唯一違うと感じているのは⋯⋯ヘスターがいない事。魅了魔法の治療が捗々しくないヘスターは、魔導塔が管理する病院に入院している。
ポツンと残った空席を見つめていたエレーナの腕を、席を立ったローラが引っ張った。
問答無用とばかりにエレーナの腕を掴んだまま教室を出たローラが、今年も担任になったトールスとぶつかりかけた。
「おわっ! どうした? 朝礼をはじめるから席につけよ~」
「ちょっとお花摘みに行ってきます! 午前中⋯⋯少なくとも1時間目は欠席するんで伝えといて下さい」
「お、おはな⋯⋯2人揃ってか?」
「先生! 乙女の下の事情を詮索してると、お嫁さんが益々遠のきますよ。妖精歴、更新になるし」
「お、お前! それこそ先生の下の事情だろうが!」
「やだあ、生徒にセクハラだあ。教師失格ぅぅ⋯⋯って事で、お花摘み、午前中欠席で!」
「お前、無茶言うなよ。留学から帰ってきたら、無茶振りがバージョンアップしてんじゃん」
「ルーナが近々一時帰国しそうなんだよな~。いつなのか知りたければ⋯⋯」
「分かった! 乙女の下の事情は大切だからな」
トールス、ルーナへの愛と妖精疑惑⋯⋯確定?
ローラに連れられてエレーナがやって来たのは、アイザック専用の特別室。勝手に使うのはマズいと言う前に、ローラが部屋に入って行った。
「さてと、よーく聞いてね! ヘスターの事はエレーナのせいじゃないからね! エレーナの事だから、もっと早くに行動してればとか、自分がここにいなければとか思ってるんでしょ? それ、絶対違うからね!」
クラリスがこの学園に送り込まれたのは自分がいたから。自分がここにいなければ、ヘスターがクラリスに魅了魔法をかけられることはなかった。
(わたくしが歴史を変えた。ヘスター様はその被害者のひとり)
「私はヘスターと婚約破棄できて良かったと思ってる。『ヒロイン&お花畑』劇場はキッカケにはなったけど、そのお陰で『うじうじ君』と縁が切れたんだもん」
物心ついた頃からの幼馴染のひとりで、話しやすくて一緒にいると落ち着く⋯⋯この気持ちが『恋』なんだと思い、望まれるままに婚約を決めた。
安心できていた関係が崩れはじめたのは、学園に入学してから⋯⋯婚約してからそれほど経っていない頃。
気にする必要はないが気になる程度の上から目線の態度や、聞き流すのはモヤモヤすると思うくらいの嫌味が、少しずつ心の奥に溜まっていく。
(今だけだと思うし。ヘスターの事はよく知ってるから、すぐに元通りになるもん。これが大人に近づくってことかもね)
特にこれと言えるような大きな問題はないまま、月日が流れていく。
(細かい事は気にしないで、私もズバズバ言っちゃえば良いんだよね。今の言い方は感じ悪いとか、無神経すぎだとか)
喧嘩は増えたが仲直りも早い⋯⋯誰が見ても仲の良いカップルで、自分でもそう思っていた。クラリスを腕にぶら下げたヘスターを見るまでは。
「見ないふりしてたとこが、全面にどひゃあって出てきただけ。そうじゃなければ、ヘスターが『蕾くん』の間に助けてたと思うんだ。もし、エレーナがヘスターに責任を感じてるなら私も同じだよ」
婚約者として、助けられないわけではないのに見捨てた。オルシーニ公爵家の名前を使えば、強制的にヘスターをクラリスから隔離できたはず、オーレリア国王の祖父に願えばできたかも。
「ああ、やっぱり⋯⋯って、なんとなくだけど思ったの。『ヒロイン』が登場しなくても、いつか同じことが起きてたと思う」
「⋯⋯ごめんね。ありがとう」
「ジェラルドから頼まれたってのもあるんだけど、私の本心だからね」
「ジェラルドが?」
「そう、ジェラルドがさあ、昨日乙女の部屋に突然転移してきたの! まあ、正直言うと、ジェラルドに教えてもらってなかったら、エレーナが気にしてるかも⋯⋯とか、ぜんっぜん気が付いてなかったと思う。だから、ジェラルドもたまには役に立つ、たまにだけど、うん。
でねでね、人生が変わった人もいるけど、良くなるのも悪くなるのも自分で選んだんだからね。エレーナが言ってた『自分の道は自分で選ぶ』ってやつだから」
(後悔も反省も含めて自分で道を選ぶ⋯⋯確かにそう思ってた)
「クソデス⋯⋯クロデス⋯⋯ターニャが『ヒロイン』実行計画に乗ったのは本人の選んだ事だからね。その途中で『ヤバい』とかってなったかもだけど、それも自分のせいだもん。
無駄に行動力はあるくせにヘタレなジェラルドは、ベラム男爵夫妻に会って話をしてきたんだって。
でね、良い人だったって言ってた。裕福じゃないけど穏やかで仲が良さそうなご夫婦だったって。
評判も良いし、クラリスの事も可愛がって誕生日のお祝いとかもしてたらしいよ。そこで幸せになる道もあったけど、違う道を選んだのはクソデスだからね」
ジェラルドはわざわざ公国に行き、ニールが捕縛された後のイライザとターニャの暮らしを調べた。その後、ベラム男爵家を調べに行ったジェラルドは、ターニャの不幸はターニャが選んだ道だとローラに断言した。
『イライザはターニャの、血の繋がった母親だけどロクな奴じゃなかった。文句ばかり垂れてて『ビルワーツのせいで不幸になった』って触れ回って、近所と揉めまくってた。ターニャの世話なんてしてなかったらしいし。
ベラム男爵家は躾は厳しいけど、やる事をやったらちゃんと褒めるような人だって。ターニャの誕生日とかに、プレゼントが買えるようにって、コツコツとお金を貯めたりとかな⋯⋯。
どっちが幸せかはすぐにわかるだろ? でも、ターニャは王子様とギラギラの宝石を選んだんだから。
俺が説明してもエレーナには伝わらない気がするから、ローラから話してくれないか?』
ジェラルドは今回の件で完全な部外者。ビルワーツやアルムヘイルに関わった事もなければ、『ヒロイン』問題でもニアピン程度の関わりしかない。
ターゲットだった4人の中で、セドリックと共に最も低ランクの3位⋯⋯かなり安全な立ち位置だった。
『ふむ、そう言う事なら当事者の私が最適ね! まっかせなさーい、プリンは2個⋯⋯3個で生クリームとさくらんぼ付きね』
ちゃっかりさんなローラ。
「ベラム男爵家⋯⋯そうか、良い方だったんだ」
男爵家でのターニャの暮らしがどんなだったのか、あまり深く考えたことがなかった。何も言わずに飛び出したのなら、上手くいってなかったのかも、と漠然と思っていた程度。
「そうだよ、殺されたイライザは可哀想っちゃ可哀想だけど、そこはスルーして良いと思うし、引き取られた先で男爵令嬢として生きる道もあった。アイザック殿下と結婚した場合と比べたら地味だけど、国がどうだの政務がどうだのって言われずに済むし、幸せになれないわけじゃないから」
選ぶのは自分⋯⋯幸せの形は人それぞれで、何もかもが思い通りになるわけではない。
煌びやかな世界に毒が蔓延しているのは、嫌というほど知っている。
(財があれば欲が集まるもの)
「そうね、言われてみれば⋯⋯わたくしの視野が狭かったわ。歴史を変えたことばかりに囚われて、それ以外の事を考えられなくなってた。ローラ、ありがとう。ジェラルドにもお礼を言わなくちゃね」
そのまま午前の授業をサボって、ローラの留学中の話題に花を咲かせた。
セレナの恋愛が進行していくのを、ミリアと楽しんだり揶揄ったり⋯⋯。
アイザック王子を取り込みたい貴族達がミリアに媚びてくるのは、まるで喜劇のようだった。
「マジで凄いの。『ミリア嬢の魔法は⋯⋯』って言うのが第一王子派で、『アイザック殿下とは、ご連絡をお取りですか』って言うのは第二王子派」
魔法を国に取り込みたい第一王子派と、アイザックを担ぎ上げたい第二王子派の思惑が見えすぎて、笑いを堪えるのが大変だったが、少し精神的に成長できた気がすると言う。
「オーレリアにいるとなんの心配もいらないじゃん。危険から守ってもらえるとかもあるけど、貴族からアレコレ言われた事ないの。あれって成人前だからだと思ってたけど、シェイラードでは違ってた」
買い物や食事に出かけると、誰かしらに声をかけられる。学園では、縁を繋ぎたいと狙っている家の子供が、あの手この手で誘いをかけてくる。
驚いて慌てているローラの代わりに、ミリアやセレナが貴族との話を終わらせてくれた。
『ああ、びっくりした~。突然声をかけてくるんだもん』
『あのくらい普通にあるわよ~』
『因みに、シェイラード以外の国でもね』
家から一歩でも外へ出ればいつでも『声をかけられる』心の準備をしておく、学園の生徒は親の為と自分の将来の為の縁作りに来ていると心得ながら話をする。
「性別が違う時は、そこに婚姻とかを狙ってる危険もあるって⋯⋯今まで考えた事もなかったから、初めて貴族社会って怖いって思ったの」
まっすぐな性格のローラは貴族特有の婉曲な言い回しや、言葉の裏を読むのが苦手。
「貴族って建前だけで生きてるところがあるものね。本当は何を言ってるのかを見極めるのは、慣れが必要な気がするわ」
「でしょでしょ! いろんな国に行って訓練するか、貴族の裏を見ないですむ世界で生きるか⋯⋯どっちかだと思うの」
ローラの考えは間違ってはいない。回りくどい言い方で相手に意思を伝えられなければ、オーレリア以外では暮らしにくいだろう。
「オーレリアは変わってるって分かったの! で、考えたんだけど⋯⋯」
平穏な毎日が戻ってきたと感じるエレーナと、前日のジェラルドとの話で、鼻息の荒いローラの温度差は天と地ほど違っているが、ローラの謎の気合いは、久しぶりの学園で張り切っているせいだとエレーナは思っている。
エレーナが唯一違うと感じているのは⋯⋯ヘスターがいない事。魅了魔法の治療が捗々しくないヘスターは、魔導塔が管理する病院に入院している。
ポツンと残った空席を見つめていたエレーナの腕を、席を立ったローラが引っ張った。
問答無用とばかりにエレーナの腕を掴んだまま教室を出たローラが、今年も担任になったトールスとぶつかりかけた。
「おわっ! どうした? 朝礼をはじめるから席につけよ~」
「ちょっとお花摘みに行ってきます! 午前中⋯⋯少なくとも1時間目は欠席するんで伝えといて下さい」
「お、おはな⋯⋯2人揃ってか?」
「先生! 乙女の下の事情を詮索してると、お嫁さんが益々遠のきますよ。妖精歴、更新になるし」
「お、お前! それこそ先生の下の事情だろうが!」
「やだあ、生徒にセクハラだあ。教師失格ぅぅ⋯⋯って事で、お花摘み、午前中欠席で!」
「お前、無茶言うなよ。留学から帰ってきたら、無茶振りがバージョンアップしてんじゃん」
「ルーナが近々一時帰国しそうなんだよな~。いつなのか知りたければ⋯⋯」
「分かった! 乙女の下の事情は大切だからな」
トールス、ルーナへの愛と妖精疑惑⋯⋯確定?
ローラに連れられてエレーナがやって来たのは、アイザック専用の特別室。勝手に使うのはマズいと言う前に、ローラが部屋に入って行った。
「さてと、よーく聞いてね! ヘスターの事はエレーナのせいじゃないからね! エレーナの事だから、もっと早くに行動してればとか、自分がここにいなければとか思ってるんでしょ? それ、絶対違うからね!」
クラリスがこの学園に送り込まれたのは自分がいたから。自分がここにいなければ、ヘスターがクラリスに魅了魔法をかけられることはなかった。
(わたくしが歴史を変えた。ヘスター様はその被害者のひとり)
「私はヘスターと婚約破棄できて良かったと思ってる。『ヒロイン&お花畑』劇場はキッカケにはなったけど、そのお陰で『うじうじ君』と縁が切れたんだもん」
物心ついた頃からの幼馴染のひとりで、話しやすくて一緒にいると落ち着く⋯⋯この気持ちが『恋』なんだと思い、望まれるままに婚約を決めた。
安心できていた関係が崩れはじめたのは、学園に入学してから⋯⋯婚約してからそれほど経っていない頃。
気にする必要はないが気になる程度の上から目線の態度や、聞き流すのはモヤモヤすると思うくらいの嫌味が、少しずつ心の奥に溜まっていく。
(今だけだと思うし。ヘスターの事はよく知ってるから、すぐに元通りになるもん。これが大人に近づくってことかもね)
特にこれと言えるような大きな問題はないまま、月日が流れていく。
(細かい事は気にしないで、私もズバズバ言っちゃえば良いんだよね。今の言い方は感じ悪いとか、無神経すぎだとか)
喧嘩は増えたが仲直りも早い⋯⋯誰が見ても仲の良いカップルで、自分でもそう思っていた。クラリスを腕にぶら下げたヘスターを見るまでは。
「見ないふりしてたとこが、全面にどひゃあって出てきただけ。そうじゃなければ、ヘスターが『蕾くん』の間に助けてたと思うんだ。もし、エレーナがヘスターに責任を感じてるなら私も同じだよ」
婚約者として、助けられないわけではないのに見捨てた。オルシーニ公爵家の名前を使えば、強制的にヘスターをクラリスから隔離できたはず、オーレリア国王の祖父に願えばできたかも。
「ああ、やっぱり⋯⋯って、なんとなくだけど思ったの。『ヒロイン』が登場しなくても、いつか同じことが起きてたと思う」
「⋯⋯ごめんね。ありがとう」
「ジェラルドから頼まれたってのもあるんだけど、私の本心だからね」
「ジェラルドが?」
「そう、ジェラルドがさあ、昨日乙女の部屋に突然転移してきたの! まあ、正直言うと、ジェラルドに教えてもらってなかったら、エレーナが気にしてるかも⋯⋯とか、ぜんっぜん気が付いてなかったと思う。だから、ジェラルドもたまには役に立つ、たまにだけど、うん。
でねでね、人生が変わった人もいるけど、良くなるのも悪くなるのも自分で選んだんだからね。エレーナが言ってた『自分の道は自分で選ぶ』ってやつだから」
(後悔も反省も含めて自分で道を選ぶ⋯⋯確かにそう思ってた)
「クソデス⋯⋯クロデス⋯⋯ターニャが『ヒロイン』実行計画に乗ったのは本人の選んだ事だからね。その途中で『ヤバい』とかってなったかもだけど、それも自分のせいだもん。
無駄に行動力はあるくせにヘタレなジェラルドは、ベラム男爵夫妻に会って話をしてきたんだって。
でね、良い人だったって言ってた。裕福じゃないけど穏やかで仲が良さそうなご夫婦だったって。
評判も良いし、クラリスの事も可愛がって誕生日のお祝いとかもしてたらしいよ。そこで幸せになる道もあったけど、違う道を選んだのはクソデスだからね」
ジェラルドはわざわざ公国に行き、ニールが捕縛された後のイライザとターニャの暮らしを調べた。その後、ベラム男爵家を調べに行ったジェラルドは、ターニャの不幸はターニャが選んだ道だとローラに断言した。
『イライザはターニャの、血の繋がった母親だけどロクな奴じゃなかった。文句ばかり垂れてて『ビルワーツのせいで不幸になった』って触れ回って、近所と揉めまくってた。ターニャの世話なんてしてなかったらしいし。
ベラム男爵家は躾は厳しいけど、やる事をやったらちゃんと褒めるような人だって。ターニャの誕生日とかに、プレゼントが買えるようにって、コツコツとお金を貯めたりとかな⋯⋯。
どっちが幸せかはすぐにわかるだろ? でも、ターニャは王子様とギラギラの宝石を選んだんだから。
俺が説明してもエレーナには伝わらない気がするから、ローラから話してくれないか?』
ジェラルドは今回の件で完全な部外者。ビルワーツやアルムヘイルに関わった事もなければ、『ヒロイン』問題でもニアピン程度の関わりしかない。
ターゲットだった4人の中で、セドリックと共に最も低ランクの3位⋯⋯かなり安全な立ち位置だった。
『ふむ、そう言う事なら当事者の私が最適ね! まっかせなさーい、プリンは2個⋯⋯3個で生クリームとさくらんぼ付きね』
ちゃっかりさんなローラ。
「ベラム男爵家⋯⋯そうか、良い方だったんだ」
男爵家でのターニャの暮らしがどんなだったのか、あまり深く考えたことがなかった。何も言わずに飛び出したのなら、上手くいってなかったのかも、と漠然と思っていた程度。
「そうだよ、殺されたイライザは可哀想っちゃ可哀想だけど、そこはスルーして良いと思うし、引き取られた先で男爵令嬢として生きる道もあった。アイザック殿下と結婚した場合と比べたら地味だけど、国がどうだの政務がどうだのって言われずに済むし、幸せになれないわけじゃないから」
選ぶのは自分⋯⋯幸せの形は人それぞれで、何もかもが思い通りになるわけではない。
煌びやかな世界に毒が蔓延しているのは、嫌というほど知っている。
(財があれば欲が集まるもの)
「そうね、言われてみれば⋯⋯わたくしの視野が狭かったわ。歴史を変えたことばかりに囚われて、それ以外の事を考えられなくなってた。ローラ、ありがとう。ジェラルドにもお礼を言わなくちゃね」
そのまま午前の授業をサボって、ローラの留学中の話題に花を咲かせた。
セレナの恋愛が進行していくのを、ミリアと楽しんだり揶揄ったり⋯⋯。
アイザック王子を取り込みたい貴族達がミリアに媚びてくるのは、まるで喜劇のようだった。
「マジで凄いの。『ミリア嬢の魔法は⋯⋯』って言うのが第一王子派で、『アイザック殿下とは、ご連絡をお取りですか』って言うのは第二王子派」
魔法を国に取り込みたい第一王子派と、アイザックを担ぎ上げたい第二王子派の思惑が見えすぎて、笑いを堪えるのが大変だったが、少し精神的に成長できた気がすると言う。
「オーレリアにいるとなんの心配もいらないじゃん。危険から守ってもらえるとかもあるけど、貴族からアレコレ言われた事ないの。あれって成人前だからだと思ってたけど、シェイラードでは違ってた」
買い物や食事に出かけると、誰かしらに声をかけられる。学園では、縁を繋ぎたいと狙っている家の子供が、あの手この手で誘いをかけてくる。
驚いて慌てているローラの代わりに、ミリアやセレナが貴族との話を終わらせてくれた。
『ああ、びっくりした~。突然声をかけてくるんだもん』
『あのくらい普通にあるわよ~』
『因みに、シェイラード以外の国でもね』
家から一歩でも外へ出ればいつでも『声をかけられる』心の準備をしておく、学園の生徒は親の為と自分の将来の為の縁作りに来ていると心得ながら話をする。
「性別が違う時は、そこに婚姻とかを狙ってる危険もあるって⋯⋯今まで考えた事もなかったから、初めて貴族社会って怖いって思ったの」
まっすぐな性格のローラは貴族特有の婉曲な言い回しや、言葉の裏を読むのが苦手。
「貴族って建前だけで生きてるところがあるものね。本当は何を言ってるのかを見極めるのは、慣れが必要な気がするわ」
「でしょでしょ! いろんな国に行って訓練するか、貴族の裏を見ないですむ世界で生きるか⋯⋯どっちかだと思うの」
ローラの考えは間違ってはいない。回りくどい言い方で相手に意思を伝えられなければ、オーレリア以外では暮らしにくいだろう。
「オーレリアは変わってるって分かったの! で、考えたんだけど⋯⋯」
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