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第五章
06.芽が出て膨らんで、花が咲いたら⋯⋯
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「相変わらずエレーナらぶだねえ。気持ちが届いてないのはウケるけど」
「うるせえ、まだまだ努力中。俺は頑張る、やればできる子。継続は力なりってね」
初めてエレーナに会った時からジェラルドは散々アピールしているが、エレーナに全く届いていないのは誰もが知っている。
セドリックは少し前から諦めたようで、ジェラルドを応援している気配がある。アレックスが婚約者を決めないのは多分まだ諦めていないからかも。
(アレックスはもう18なんだから、エレーナの事は諦めてくれないかなあ)
同じ王宮に暮らしているのはアレックスにとって有利に働いているが、戸籍上は叔母と甥になるのは不利のはず。
オルシーニ公爵家の嫡男との婚約はエレーナが『荷が重い』と言って断るだろうと言う希望的観測もある。
(そうじゃなくても、エレーナが結婚するまでは諦めない。俺はセドリックがいるから、無理に結婚する必要はないし。いくらでも待てる⋯⋯じいちゃんとばあちゃんになるまででも待てるもんな!)
気の短いジェラルドは気の長い計画を立てていた。
ヘスターの浮気(か心変わり)でやさぐれているローラにとって、ジェラルドの熱愛はちょっと羨ましい。
(ヘスターは全然ジェラルドみたいじゃなかったもんなあ。もしかして単なる幼馴染の延長だったのかも)
なんとかジェラルドを自分のクラスに帰らせて午前の授業を終わらせたが、授業の終わりと共にジェラルドが現れた。
「もうきたの? 早くない?」
「プリン奢るのやめようかなあ」
「あ、ずるいぞ! それは別の話じゃん」
ローラとジェラルドがプリンバトルをしている所にヘスターがやって来た。
「ローラ、ちょっといいかな?」
「よくないぞ~、俺はローラの護衛No.3で、エレーナの護衛No.1だからな。ヘスターとエレーナ達の接近禁止を指示されてるんだ」
「なんだよそれ! エレーナは関係ないし、ローラとは婚約してるんだぞ、接近禁止とかありえ「る! ほらほら、あそこを見ろよ『クソデス』が待ってるぞ。『ヘボター、早く来て~』ってな」
ジェラルドが指差した教室の後方の出入り口から、クラリスが顔を覗かせて小さく手を振っていた。
『よし! 勇気を出さなきゃ』
そんな声が聞こえた気がするクラリスの嘘臭い仕草に、ポーッとなっているのはヘスターのみ。男子生徒は危険回避だとばかりに教室の隅に逃げ、女子生徒も固まってクラリスの様子を伺っていた。
呆れ返っている生徒達の冷笑を応援する笑顔だと勘違いしたのか『ありがとう』と言いながら、少し顔を赤らめて教室に入ってきたクラリスが、ヘスターの腕にしがみついた。
「ヘスター、待ってたんだよ? あの、ジェラルド・キャンベル先輩ですよね。私、クラリ「ローラ、エレーナ行こうぜ。席取りを頼んどいたから食堂でセドリックが待ってる」」
どさくさに紛れてエレーナの手を掴んだジェラルドが、ローラの背を押しながら歩きはじめた。
「ローラ、話があるってば!」
「じゃあ、私達も一緒に行こう。ヘスターがローラと話してる間、私はジェラルド様と一緒にお喋りしてるから」
「ヘスターと話すことなんて何もない。婚約破棄するってお父様からグレンヴィル家に申し入れしてるから、さっさとサインしてよね。
そこの編入生さん、私はとっくにヘスターとは縁を切ったから。勘違いしておかしな噂を流したら訴えるからね」
ローラはクラス中に聞こえるように大きな声で『婚約破棄』を突きつけた。
「そんな大声で⋯⋯ヘスターが可哀想だわ。ジェラルド様もそう思いますよね。そういう話は別室とかでするものだわ」
「こういう事は早めに広めとかないと勘違いする奴が出てくるからな。ヘスターなら意味がわかるよな。『蕾くん』には分かんねえかな? 『お花畑』ならもう、脳みそスッカスカだし。さて、無駄な時間は終了! 飯だ飯だ!」
ジェラルドがローラやエレーナを連れて教室を出ると、関わりになりたくない生徒達が慌てて逃げ出し、教室に残ったのはヘスターとクラリスだけ。
「Aクラスも感じ悪~い。Cクラスのみんなもなんだか感じ悪くて馴染めないの。でもでも、上級生には優しそうな人がいるもんね。ジェラルド様はこの教室にいたから生徒会役員って事でしょ? アレックス様は生徒会長だし、ヘスターって生徒会に入ってないの?」
「⋯⋯生徒会は成績優秀者ばかりだから、俺なんて成績が悪すぎて入れないよ」
ヘスターはAクラスの中でも底辺をさすらっている。何度かBクラス落ちしかけたが、補習を受けたり再テストを受けてAクラスにしがみついているのが現状。
(それでもAクラスには変わりない。ローラだってAクラスの中では底辺だし)
「そっか、でもAクラスでグレンヴィル侯爵家の後継者なんだから、生徒会に入ってくださいって言ったら、入れてくれるんじゃないかなあ。私のいた学校では生徒会なんてなかったから興味があるの。あとで行ってみようね」
(生徒会に興味? 嘘つけ! アレックスやジェラルドに興味だろ? 俺は『蕾』でも『お花畑』でもない。学園に慣れるまで手伝ってあげてるだけだから⋯⋯困ってる人を助けてるだけなのに、ローラが大袈裟す⋯⋯)
「ねえ、お願い⋯⋯いいでしょ?」
「う⋯⋯うん、お嬢様のお⋯⋯お願いだも⋯⋯んな」
クラリスに下からじっと見つめられると、願いを叶えるのが正しいと思え、心が温かくなっていった。
「クラリスって可愛いと思う? あ、今日のシチュー美味しい」
「うーん、人によるんじゃないかな。ムニエルはイマイチかな。チキンにしておけば良かった」
「クラリスは間違いなく『ヒロイン』だろ? 近くにいて分かんなかった? あ、チキン取るなよ、あーもー」
「鑑定したけど⋯⋯魅了はなかった。ヘスターは弱い魅了状態になってたけどな。うん、やっぱこの食堂のチキンは最高だよな~。ハーブの配合に秘密があるって言ってた」
「弱い魅了であそこまでなるの? うわぁ、魅了って怖いねえ。はう! プリン様最強」
「この後、学園長に報告しておく。ヘスターは取り敢えず休学で、魔導塔の研究室送りだね。キャロットケーキの生クリーム添えもいける。エレーナも食べてごらんよ」
「で、エレーナは吐く気になった? クラリスが昔の知り合いだったり?」
「⋯⋯ 他人の空似や思い違いだとは思えないくらい似てるから、多分知ってる人だと思う。でも、学園で会ったのがたまたまなのか、目的があって来たのか分からないから、ちょっと悩んでる」
ループ前に何度も会ったあの顔は忘れられない。
(魔法が使えるようになったのよね⋯⋯アルムヘイルには魔法が使える人なんていなかったはずだし)
「あの女は魔導塔で魔法を調べ直しされるはずだな」
ヘスターが魅了にかかってるなら相手はクラリスしかいないはずだが、クラリスが魅了を使えなかった場合は、グレンヴィル侯爵家や関係者も調査される。
「げ! もしかしたら私とかも調べられるって事? 魔導塔なんて怖すぎだよ~」
魔導塔は変わり者⋯⋯研究者の集まりと言われている。強力な魔法や上位魔法が使えるよりも、新たな魔法を考案したい魔導士や、失われた魔法を復活させたい魔導士が集まり、寝食を忘れて怪しい研究に没頭している。
魔法学園時代に研究室を貰い、なんらかの成果を上げた者が学園の推薦を受けて入塔する。
現在、学園内で最も魔導塔に近いのは、セドリックとジェラルドだと言われているが、本人達は『好き勝手できなくなるから、絶対に嫌だ』と拒否している。
「婚約者だから可能性はあるけど、3ヶ月も会ってなかったんだから、聞き取り調査で終わるんじゃないか?」
「それなら⋯⋯魔導塔の奴に目をつけられたら研究材料にされちゃうもん。夜な夜な叫び声が聞こえるとか、身体の一部だけが捨てられてるとか⋯⋯むりむり。私は5体満足で新しい恋を探すんだからね!」
女は切り替えが早い⋯⋯レイチェルやライラの言葉を思い出したアレックスが苦笑いを浮かべた。
「クラリスは結果次第では退学だけど⋯⋯あの女の背後関係はどこが調べるんだ? ベラム男爵なんて聞いたこともないよな。辺境の男爵家なんて情報がなさすぎるだろ?」
「今のままなら学園が調査するんじゃないかな。グレンヴィル卿が申し立てすれば、国が調査に乗り出すことになると思う」
ラルフから少し話を聞かされているアレックスが答えた。
『クラリスが編入試験に合格したという事は、魅了が使えたとしても簡単には証明できない方法があるのかもしれん。そうなればグレンヴィル侯爵家は被疑者不明として、被害届を司法省に提出するはずだ。
学園内で絶対にローラを守れ。そばにいるエレーナも流れ弾に当たるかも⋯⋯クラリスがお前やジェラルドを狙いはじめたら、エレーナは確実に被弾する。十分に気をつけろ』
「グレンヴィル卿が学生時代の友人とどこの夜会で会ったのかも知りたい。グレンヴィル侯爵家を狙ったのか偶然なのか。司法省なら調べるはずだから、エレーナはそれを待つのが一番安全だと思う」
一番の策略家、セドリックの提案にエレーナは小さく頷いた。
(目立つのは得策じゃないもの。クラリスは『ヒロイン』確定みたいだし、アレックス達を狙っていた。わたくしが動き回れば、つけこむ隙にされてしまう)
「あ、きたきた。一丁前にエスコートしてる。似合わね~」
食堂の入り口に背を向けて座っているローラが、ジェラルドの言葉で振り返りかけて、アレックスに止められた。
「反応したら『ヒロイン』を喜ばせるだけだから。わざわざ舞台を作ってやる事はないよ」
定番の『睨まれた、怖~い』を封じておくと、ヒロインは次のステップの『陰に連れてかれて叩かれたの~』を発生させにくくなる。
歴代の『タイプ・ヒロイン』のやらかしは毎回同じような流れを進んでいく為、このような抵抗策が上級生から伝えられる。
「お、絡みにきたぞ。ローラ、笑顔!」
「うるせえ、まだまだ努力中。俺は頑張る、やればできる子。継続は力なりってね」
初めてエレーナに会った時からジェラルドは散々アピールしているが、エレーナに全く届いていないのは誰もが知っている。
セドリックは少し前から諦めたようで、ジェラルドを応援している気配がある。アレックスが婚約者を決めないのは多分まだ諦めていないからかも。
(アレックスはもう18なんだから、エレーナの事は諦めてくれないかなあ)
同じ王宮に暮らしているのはアレックスにとって有利に働いているが、戸籍上は叔母と甥になるのは不利のはず。
オルシーニ公爵家の嫡男との婚約はエレーナが『荷が重い』と言って断るだろうと言う希望的観測もある。
(そうじゃなくても、エレーナが結婚するまでは諦めない。俺はセドリックがいるから、無理に結婚する必要はないし。いくらでも待てる⋯⋯じいちゃんとばあちゃんになるまででも待てるもんな!)
気の短いジェラルドは気の長い計画を立てていた。
ヘスターの浮気(か心変わり)でやさぐれているローラにとって、ジェラルドの熱愛はちょっと羨ましい。
(ヘスターは全然ジェラルドみたいじゃなかったもんなあ。もしかして単なる幼馴染の延長だったのかも)
なんとかジェラルドを自分のクラスに帰らせて午前の授業を終わらせたが、授業の終わりと共にジェラルドが現れた。
「もうきたの? 早くない?」
「プリン奢るのやめようかなあ」
「あ、ずるいぞ! それは別の話じゃん」
ローラとジェラルドがプリンバトルをしている所にヘスターがやって来た。
「ローラ、ちょっといいかな?」
「よくないぞ~、俺はローラの護衛No.3で、エレーナの護衛No.1だからな。ヘスターとエレーナ達の接近禁止を指示されてるんだ」
「なんだよそれ! エレーナは関係ないし、ローラとは婚約してるんだぞ、接近禁止とかありえ「る! ほらほら、あそこを見ろよ『クソデス』が待ってるぞ。『ヘボター、早く来て~』ってな」
ジェラルドが指差した教室の後方の出入り口から、クラリスが顔を覗かせて小さく手を振っていた。
『よし! 勇気を出さなきゃ』
そんな声が聞こえた気がするクラリスの嘘臭い仕草に、ポーッとなっているのはヘスターのみ。男子生徒は危険回避だとばかりに教室の隅に逃げ、女子生徒も固まってクラリスの様子を伺っていた。
呆れ返っている生徒達の冷笑を応援する笑顔だと勘違いしたのか『ありがとう』と言いながら、少し顔を赤らめて教室に入ってきたクラリスが、ヘスターの腕にしがみついた。
「ヘスター、待ってたんだよ? あの、ジェラルド・キャンベル先輩ですよね。私、クラリ「ローラ、エレーナ行こうぜ。席取りを頼んどいたから食堂でセドリックが待ってる」」
どさくさに紛れてエレーナの手を掴んだジェラルドが、ローラの背を押しながら歩きはじめた。
「ローラ、話があるってば!」
「じゃあ、私達も一緒に行こう。ヘスターがローラと話してる間、私はジェラルド様と一緒にお喋りしてるから」
「ヘスターと話すことなんて何もない。婚約破棄するってお父様からグレンヴィル家に申し入れしてるから、さっさとサインしてよね。
そこの編入生さん、私はとっくにヘスターとは縁を切ったから。勘違いしておかしな噂を流したら訴えるからね」
ローラはクラス中に聞こえるように大きな声で『婚約破棄』を突きつけた。
「そんな大声で⋯⋯ヘスターが可哀想だわ。ジェラルド様もそう思いますよね。そういう話は別室とかでするものだわ」
「こういう事は早めに広めとかないと勘違いする奴が出てくるからな。ヘスターなら意味がわかるよな。『蕾くん』には分かんねえかな? 『お花畑』ならもう、脳みそスッカスカだし。さて、無駄な時間は終了! 飯だ飯だ!」
ジェラルドがローラやエレーナを連れて教室を出ると、関わりになりたくない生徒達が慌てて逃げ出し、教室に残ったのはヘスターとクラリスだけ。
「Aクラスも感じ悪~い。Cクラスのみんなもなんだか感じ悪くて馴染めないの。でもでも、上級生には優しそうな人がいるもんね。ジェラルド様はこの教室にいたから生徒会役員って事でしょ? アレックス様は生徒会長だし、ヘスターって生徒会に入ってないの?」
「⋯⋯生徒会は成績優秀者ばかりだから、俺なんて成績が悪すぎて入れないよ」
ヘスターはAクラスの中でも底辺をさすらっている。何度かBクラス落ちしかけたが、補習を受けたり再テストを受けてAクラスにしがみついているのが現状。
(それでもAクラスには変わりない。ローラだってAクラスの中では底辺だし)
「そっか、でもAクラスでグレンヴィル侯爵家の後継者なんだから、生徒会に入ってくださいって言ったら、入れてくれるんじゃないかなあ。私のいた学校では生徒会なんてなかったから興味があるの。あとで行ってみようね」
(生徒会に興味? 嘘つけ! アレックスやジェラルドに興味だろ? 俺は『蕾』でも『お花畑』でもない。学園に慣れるまで手伝ってあげてるだけだから⋯⋯困ってる人を助けてるだけなのに、ローラが大袈裟す⋯⋯)
「ねえ、お願い⋯⋯いいでしょ?」
「う⋯⋯うん、お嬢様のお⋯⋯お願いだも⋯⋯んな」
クラリスに下からじっと見つめられると、願いを叶えるのが正しいと思え、心が温かくなっていった。
「クラリスって可愛いと思う? あ、今日のシチュー美味しい」
「うーん、人によるんじゃないかな。ムニエルはイマイチかな。チキンにしておけば良かった」
「クラリスは間違いなく『ヒロイン』だろ? 近くにいて分かんなかった? あ、チキン取るなよ、あーもー」
「鑑定したけど⋯⋯魅了はなかった。ヘスターは弱い魅了状態になってたけどな。うん、やっぱこの食堂のチキンは最高だよな~。ハーブの配合に秘密があるって言ってた」
「弱い魅了であそこまでなるの? うわぁ、魅了って怖いねえ。はう! プリン様最強」
「この後、学園長に報告しておく。ヘスターは取り敢えず休学で、魔導塔の研究室送りだね。キャロットケーキの生クリーム添えもいける。エレーナも食べてごらんよ」
「で、エレーナは吐く気になった? クラリスが昔の知り合いだったり?」
「⋯⋯ 他人の空似や思い違いだとは思えないくらい似てるから、多分知ってる人だと思う。でも、学園で会ったのがたまたまなのか、目的があって来たのか分からないから、ちょっと悩んでる」
ループ前に何度も会ったあの顔は忘れられない。
(魔法が使えるようになったのよね⋯⋯アルムヘイルには魔法が使える人なんていなかったはずだし)
「あの女は魔導塔で魔法を調べ直しされるはずだな」
ヘスターが魅了にかかってるなら相手はクラリスしかいないはずだが、クラリスが魅了を使えなかった場合は、グレンヴィル侯爵家や関係者も調査される。
「げ! もしかしたら私とかも調べられるって事? 魔導塔なんて怖すぎだよ~」
魔導塔は変わり者⋯⋯研究者の集まりと言われている。強力な魔法や上位魔法が使えるよりも、新たな魔法を考案したい魔導士や、失われた魔法を復活させたい魔導士が集まり、寝食を忘れて怪しい研究に没頭している。
魔法学園時代に研究室を貰い、なんらかの成果を上げた者が学園の推薦を受けて入塔する。
現在、学園内で最も魔導塔に近いのは、セドリックとジェラルドだと言われているが、本人達は『好き勝手できなくなるから、絶対に嫌だ』と拒否している。
「婚約者だから可能性はあるけど、3ヶ月も会ってなかったんだから、聞き取り調査で終わるんじゃないか?」
「それなら⋯⋯魔導塔の奴に目をつけられたら研究材料にされちゃうもん。夜な夜な叫び声が聞こえるとか、身体の一部だけが捨てられてるとか⋯⋯むりむり。私は5体満足で新しい恋を探すんだからね!」
女は切り替えが早い⋯⋯レイチェルやライラの言葉を思い出したアレックスが苦笑いを浮かべた。
「クラリスは結果次第では退学だけど⋯⋯あの女の背後関係はどこが調べるんだ? ベラム男爵なんて聞いたこともないよな。辺境の男爵家なんて情報がなさすぎるだろ?」
「今のままなら学園が調査するんじゃないかな。グレンヴィル卿が申し立てすれば、国が調査に乗り出すことになると思う」
ラルフから少し話を聞かされているアレックスが答えた。
『クラリスが編入試験に合格したという事は、魅了が使えたとしても簡単には証明できない方法があるのかもしれん。そうなればグレンヴィル侯爵家は被疑者不明として、被害届を司法省に提出するはずだ。
学園内で絶対にローラを守れ。そばにいるエレーナも流れ弾に当たるかも⋯⋯クラリスがお前やジェラルドを狙いはじめたら、エレーナは確実に被弾する。十分に気をつけろ』
「グレンヴィル卿が学生時代の友人とどこの夜会で会ったのかも知りたい。グレンヴィル侯爵家を狙ったのか偶然なのか。司法省なら調べるはずだから、エレーナはそれを待つのが一番安全だと思う」
一番の策略家、セドリックの提案にエレーナは小さく頷いた。
(目立つのは得策じゃないもの。クラリスは『ヒロイン』確定みたいだし、アレックス達を狙っていた。わたくしが動き回れば、つけこむ隙にされてしまう)
「あ、きたきた。一丁前にエスコートしてる。似合わね~」
食堂の入り口に背を向けて座っているローラが、ジェラルドの言葉で振り返りかけて、アレックスに止められた。
「反応したら『ヒロイン』を喜ばせるだけだから。わざわざ舞台を作ってやる事はないよ」
定番の『睨まれた、怖~い』を封じておくと、ヒロインは次のステップの『陰に連れてかれて叩かれたの~』を発生させにくくなる。
歴代の『タイプ・ヒロイン』のやらかしは毎回同じような流れを進んでいく為、このような抵抗策が上級生から伝えられる。
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