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第五章
05.秘密厳守はプリンからはじまる
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ちゃっかりとエレーナにアピールしたアレックスが教室に足を踏み入れた。
「アリサ嬢、おはよう。そして、お疲れ様だったね」
「アレックス様、おはようございます。朝からお騒がせして申し訳ありません」
アレックスに向かって綺麗な礼をした後、チラッとローラ達の方を見たアリサは小さく笑みを浮かべた。
「少し話が聞こえてきたんだけど、アリサ嬢の言ってる事は正しかった。ヘスター、抱きしめている令嬢が編入生なら学園の規則を正しく教えるべきだと思うが?」
「アレックス⋯⋯でも、可哀「おはようございます。私、クラリス・ベラムです。お会いできて光栄ですわ」」
「ヘスター、他のクラスに入ってはいけない理由は?」
「⋯⋯授業の準備の妨げになるからです」
「分かっているなら、そのようにしないとね。規則違反は内申に響く。ヘスターがBクラスに変わりたくてやっているのなら、わざわざ規則違反をして内申を下げる努力をしなくても、私から学園に進言してあげよう」
「あの、あの! アレックス様、ヘスターは私の事を思って親切にしてくれたんです。だから、あまり叱らないであげて」
「ヘスター、この状況は理解できてるか? 父上からグレンヴィル侯爵家に連絡を入れてあるが、聞いてないと言うつもりじゃないだろうな?」
「いえ、聞いてます。ただ、誤解があるだけなので、後でちゃんと話す予「アレックス様ってローラのお兄様のアレックス様ですよね。生徒会長で公爵家のアレックス様! 私、お話しするのを楽しみにしてたんです! 学園がはじまるのが待ち遠しくて⋯⋯。
それにそれに、アレックス様だってこのクラスに入ってきてるし、私がこのクラスに来ても良いですよね」
「ヘスター、グレンヴィル侯爵家には再度、父上から正式に抗議させてもらう。それと、私はヘスターにしがみついている女子生徒に名前を呼ぶ権利を与えた覚えはないし、妹を呼び捨てにしたのは実に不愉快だと感じている。
ヘスターは教える気がないようだから言っておくが、生徒会役員は非常時には他のクラスに入ることを許されている。
さっさと自分のクラスに戻りたまえ。学園の規則を守るつもりがないなら、退学することをお勧めする」
「⋯⋯ごめんなさい。他の教室に入っちゃいけないなんて、誰も教えてくれなかったんです。私、まだ友達がいなくて⋯⋯グループとかがとっくにできてて、編入生だからって仲間外れにされてるし。それに、人とお話しするのって緊張するから。
これからはアレックス様に色々教えもらえば、こんな失敗しなくても済むようになりますね。よろしくお願いします」
散々お世話になっていたヘスターを、クラリスはいとも簡単に捨てようとしているが、何故かヘスターはにこにこと笑顔を浮かべたまま。
(間違いないわ、クラリスさんは既に『ヒロイン』になってるし、ヘスター様も『お花畑さん』だわ。今のところ攻略できているのはヘスター様のみだけど、このままでは被害が広がってしまう。それに、確かめてみなくちゃ、クラリスさんが誰なのか⋯⋯声をかけたら分かるかしら)
「大丈夫ですわ。ご本人が思っておられるほど、人と話すのに緊張しておられないようにお見受けいたしますから。初めて会ったアレックスにあれだけ積極的にアピールできるのなら、どなたに対してでも気軽に声をかけられるはず。
それに、誰も教えてくれなかったなんて⋯⋯アリサ嬢ははっきりと説明しておられましたのに、その言葉はお耳には入りませんでしたの?」
ローラを背に庇い、一歩前に出たエレーナが追い打ちをかけると、クラリスがうつむき加減でヘスターの後ろに隠れた。
「ヘスター、あの人誰? アレックス様を呼び捨てにするなんてダメだよね⋯⋯それに、なんで知らない人に叱られなくちゃいけないの?」
「アレはエレーナ。アレック「エレーナ! ヘスターが言ってた捨て子のエレーナね! 運良くオルシーニに拾われた子で、性格に問題があるんだよね?」」
「クラリス、余計なことを言っちゃダメだ!」
「え~、性格が悪いって言ってたの覚えてるもん。ほんと、ヘスターの言ってた通り、怖~い」
「エレーナ様って捨て子だったの!?」
「初めて聞いた」
「グレンヴィル侯爵家だから教えてもらってたんじゃないか?」
クラリスの台詞で教室内が騒めきはじめた。エレーナがオルシーニ家の養子だと言うのは誰もが知っているが、養子になった経緯は秘匿されている。
興味津々の目がエレーナに集まり、クラリスの愚かな言動への関心が薄くなった。
(わざとかしら⋯⋯瞬時に状況判断して対応したのなら、とても頭のいい方だわ)
「ヘスター様はわたくしの過去をご存じありませんわ」
捨て子ではないと言えば、だったらなんだと問い詰められる。そんなバカバカしい口論をはじめるつもりはない。
「ヘスターはエレーナの事を捨て子だって言ってたの? しかも性格が悪いって? そんな嘘を広めるなら、オルシーニ公爵家として名誉毀損で訴えるわよ!
今日家に帰った時には全ての準備が整ってるかもね。首を洗って待ってなさいよ!」
「俺はそんなこと言ってないから! クラリスがちょっと勘違いしただけなんだ、ローラなら分かってくれるよね」
「さあ、ヘスターの事知ってるつもりだったけど、全然知らなかったって思ってる。あ、そうそう。ポイント追加だからね」
「へ? ポイントって何」
どうやらグレンヴィル卿はヘスターに伝えていないらしい、
「帰って聞いてみれば? あ、先生がいらっしゃったわ。エレーナ、準備しなくちゃ宿題出されちゃう。お兄様達ありがとう、後お父様への連絡お願いね」
攻撃魔法特化型のローラは生活魔法が苦手なので、ヘスターの言動はアレックスに伝えてもらうつもりでいる。
「珍しくローラ・オルシーニが真面な事を言ってるな。Cクラスの編入生はさっさと自分の教室に帰れ。他の教室に入るのは禁止だから覚えとけよ。会長達の事は連絡が来てるが、なるべく早く教室に行くようにな」
ローラに手を引かれて席に向かいかけたエレーナは、教室を出ていくクラリスの後ろ姿を目で追いかけた。
(わたくしの顔を見ても何も反応しなかった。勘違い⋯⋯それとも他人の空似?)
『相変わらずブサイクねえ。貧相で骸骨みたいだし、スラムの子でももっと身綺麗にしてるんじゃないの?』
『このピンクダイヤモンド、大きいでしょ~。ビルワーツの鉱山から出たやつ。アタシに超似合ってる~。アンタにはクズタイヤでももったいないけど~、きゃはは』
『アンタみたいなのが婚約者だなんて笑っちゃうわ。エドワード様、可哀想⋯⋯アタシが慰めてあげなきゃね~』
『見てみて、ほらほら⋯⋯最新作、エドワード様のプレゼントなの~』
『仕事ができて良かったじゃん。でなきゃ、アンタなんて生きてる意味ないもんね』
「⋯⋯てるの⋯⋯い⋯⋯手って言うか面倒って言うか⋯⋯エレーナ、どうしたの!? 顔が真っ青だよ?」
1時間目の授業が終わり、教科書を片付けながら文句を言っていたローラが、エレーナの異変に気がついた。
いつもと変わらず真面目に授業を受けているように見えたエレーナだったが、教師が退出し教室内が騒がしくなっても、ボーッと教科書を見つめている。
「あ! ご、ごめんなさい、ちょっと考え事をしてたの。なんの話だったかしら?」
「すごく体調が悪そうじゃん、保健室に行こうな」
「大丈夫、昨夜本を読み過ぎたからかな? で、ジェラルドはどうしてここにいるの? 授業は?」
同じ棟だと言っても4年生と5年生の教室は右と左に分かれている。廊下の幅は小型の馬車が通れそうなくらいあり、園舎はとにかく広い。
授業が終わって駆けつけても、休憩時間には間に合わない事があるほど距離がある。
「ビビってセンサーが鳴ったから転移してきたんだ。エレーナが危険だぞって」
「センサーって⋯⋯授業中だったんだもの、危険なんてなかったわ。ちょっとボーッとしてただけ」
「いーや! エレーナの心が泣いてるとわかるんだよな~、俺の尻尾がビンビンに反応するもんね」
ローラの番犬だからつけたはずの尻尾は、垂直に近い状態に立ち小刻みに揺れている。
「それに、センサーって⋯⋯勝手に魔導具を持たせるのは犯罪じゃなかった?」
「魔導具なんてつけてないし、そんなもん使わなくっても分かるんだからいらないもんね」
ジェラルド達は教室を出ていくクラリスを見ているエレーナの目で気が付いた。
(あれはオーレリアに来たばっかりの頃と同じ目だった。不安と恐怖⋯⋯無表情なんだけど、目が怯えてた。アレックスやセドリックも気付いていたのが腹立たしいけどな)
「単なる気のせいだと思うわ。授業中、特に変わった事はなかったもの。ローラだって隣にいるし」
エレーナの頭の半分はついさっき思い出した記憶で埋まっているが、人に話すようなことではない。人違いだとは思えないが、相手は何も知らないように見えた。
(未来が変わったせいで出会っただけかもしれないし。それなら知らないフリをしておけば大丈夫かも)
「心配させてしまったみたいだけど、全然問題ないから授業に戻って。お昼休みに会いましょう。一緒に食堂に行くんでしょ?」
「本当に大丈夫かなあ。エレーナの大丈夫は全然信用できないんだよね。ほら、手が震えてる」
机の上に置いていた手を慌てて隠して、笑顔を浮かべた。
「次の授業がはじまっちゃうわ。2回続けて遅れたら流石に叱られちゃうから」
「平気平気、俺がいない時は研究室にいることになってるんだ。俺がいない方が静かだって言う教師もいるし」
「流石、この学園で最も自由人だと言われている男の台詞だね~。叔母様にリークしちゃおうかな~」
「⋯⋯プリン」
「オッケー! 秘密厳守は友達の印だね」
(ローラは当てにならなそうだわ)
「相変わらずエレーナらぶだねえ。気持ちが届いてないのはウケるけど」
「アリサ嬢、おはよう。そして、お疲れ様だったね」
「アレックス様、おはようございます。朝からお騒がせして申し訳ありません」
アレックスに向かって綺麗な礼をした後、チラッとローラ達の方を見たアリサは小さく笑みを浮かべた。
「少し話が聞こえてきたんだけど、アリサ嬢の言ってる事は正しかった。ヘスター、抱きしめている令嬢が編入生なら学園の規則を正しく教えるべきだと思うが?」
「アレックス⋯⋯でも、可哀「おはようございます。私、クラリス・ベラムです。お会いできて光栄ですわ」」
「ヘスター、他のクラスに入ってはいけない理由は?」
「⋯⋯授業の準備の妨げになるからです」
「分かっているなら、そのようにしないとね。規則違反は内申に響く。ヘスターがBクラスに変わりたくてやっているのなら、わざわざ規則違反をして内申を下げる努力をしなくても、私から学園に進言してあげよう」
「あの、あの! アレックス様、ヘスターは私の事を思って親切にしてくれたんです。だから、あまり叱らないであげて」
「ヘスター、この状況は理解できてるか? 父上からグレンヴィル侯爵家に連絡を入れてあるが、聞いてないと言うつもりじゃないだろうな?」
「いえ、聞いてます。ただ、誤解があるだけなので、後でちゃんと話す予「アレックス様ってローラのお兄様のアレックス様ですよね。生徒会長で公爵家のアレックス様! 私、お話しするのを楽しみにしてたんです! 学園がはじまるのが待ち遠しくて⋯⋯。
それにそれに、アレックス様だってこのクラスに入ってきてるし、私がこのクラスに来ても良いですよね」
「ヘスター、グレンヴィル侯爵家には再度、父上から正式に抗議させてもらう。それと、私はヘスターにしがみついている女子生徒に名前を呼ぶ権利を与えた覚えはないし、妹を呼び捨てにしたのは実に不愉快だと感じている。
ヘスターは教える気がないようだから言っておくが、生徒会役員は非常時には他のクラスに入ることを許されている。
さっさと自分のクラスに戻りたまえ。学園の規則を守るつもりがないなら、退学することをお勧めする」
「⋯⋯ごめんなさい。他の教室に入っちゃいけないなんて、誰も教えてくれなかったんです。私、まだ友達がいなくて⋯⋯グループとかがとっくにできてて、編入生だからって仲間外れにされてるし。それに、人とお話しするのって緊張するから。
これからはアレックス様に色々教えもらえば、こんな失敗しなくても済むようになりますね。よろしくお願いします」
散々お世話になっていたヘスターを、クラリスはいとも簡単に捨てようとしているが、何故かヘスターはにこにこと笑顔を浮かべたまま。
(間違いないわ、クラリスさんは既に『ヒロイン』になってるし、ヘスター様も『お花畑さん』だわ。今のところ攻略できているのはヘスター様のみだけど、このままでは被害が広がってしまう。それに、確かめてみなくちゃ、クラリスさんが誰なのか⋯⋯声をかけたら分かるかしら)
「大丈夫ですわ。ご本人が思っておられるほど、人と話すのに緊張しておられないようにお見受けいたしますから。初めて会ったアレックスにあれだけ積極的にアピールできるのなら、どなたに対してでも気軽に声をかけられるはず。
それに、誰も教えてくれなかったなんて⋯⋯アリサ嬢ははっきりと説明しておられましたのに、その言葉はお耳には入りませんでしたの?」
ローラを背に庇い、一歩前に出たエレーナが追い打ちをかけると、クラリスがうつむき加減でヘスターの後ろに隠れた。
「ヘスター、あの人誰? アレックス様を呼び捨てにするなんてダメだよね⋯⋯それに、なんで知らない人に叱られなくちゃいけないの?」
「アレはエレーナ。アレック「エレーナ! ヘスターが言ってた捨て子のエレーナね! 運良くオルシーニに拾われた子で、性格に問題があるんだよね?」」
「クラリス、余計なことを言っちゃダメだ!」
「え~、性格が悪いって言ってたの覚えてるもん。ほんと、ヘスターの言ってた通り、怖~い」
「エレーナ様って捨て子だったの!?」
「初めて聞いた」
「グレンヴィル侯爵家だから教えてもらってたんじゃないか?」
クラリスの台詞で教室内が騒めきはじめた。エレーナがオルシーニ家の養子だと言うのは誰もが知っているが、養子になった経緯は秘匿されている。
興味津々の目がエレーナに集まり、クラリスの愚かな言動への関心が薄くなった。
(わざとかしら⋯⋯瞬時に状況判断して対応したのなら、とても頭のいい方だわ)
「ヘスター様はわたくしの過去をご存じありませんわ」
捨て子ではないと言えば、だったらなんだと問い詰められる。そんなバカバカしい口論をはじめるつもりはない。
「ヘスターはエレーナの事を捨て子だって言ってたの? しかも性格が悪いって? そんな嘘を広めるなら、オルシーニ公爵家として名誉毀損で訴えるわよ!
今日家に帰った時には全ての準備が整ってるかもね。首を洗って待ってなさいよ!」
「俺はそんなこと言ってないから! クラリスがちょっと勘違いしただけなんだ、ローラなら分かってくれるよね」
「さあ、ヘスターの事知ってるつもりだったけど、全然知らなかったって思ってる。あ、そうそう。ポイント追加だからね」
「へ? ポイントって何」
どうやらグレンヴィル卿はヘスターに伝えていないらしい、
「帰って聞いてみれば? あ、先生がいらっしゃったわ。エレーナ、準備しなくちゃ宿題出されちゃう。お兄様達ありがとう、後お父様への連絡お願いね」
攻撃魔法特化型のローラは生活魔法が苦手なので、ヘスターの言動はアレックスに伝えてもらうつもりでいる。
「珍しくローラ・オルシーニが真面な事を言ってるな。Cクラスの編入生はさっさと自分の教室に帰れ。他の教室に入るのは禁止だから覚えとけよ。会長達の事は連絡が来てるが、なるべく早く教室に行くようにな」
ローラに手を引かれて席に向かいかけたエレーナは、教室を出ていくクラリスの後ろ姿を目で追いかけた。
(わたくしの顔を見ても何も反応しなかった。勘違い⋯⋯それとも他人の空似?)
『相変わらずブサイクねえ。貧相で骸骨みたいだし、スラムの子でももっと身綺麗にしてるんじゃないの?』
『このピンクダイヤモンド、大きいでしょ~。ビルワーツの鉱山から出たやつ。アタシに超似合ってる~。アンタにはクズタイヤでももったいないけど~、きゃはは』
『アンタみたいなのが婚約者だなんて笑っちゃうわ。エドワード様、可哀想⋯⋯アタシが慰めてあげなきゃね~』
『見てみて、ほらほら⋯⋯最新作、エドワード様のプレゼントなの~』
『仕事ができて良かったじゃん。でなきゃ、アンタなんて生きてる意味ないもんね』
「⋯⋯てるの⋯⋯い⋯⋯手って言うか面倒って言うか⋯⋯エレーナ、どうしたの!? 顔が真っ青だよ?」
1時間目の授業が終わり、教科書を片付けながら文句を言っていたローラが、エレーナの異変に気がついた。
いつもと変わらず真面目に授業を受けているように見えたエレーナだったが、教師が退出し教室内が騒がしくなっても、ボーッと教科書を見つめている。
「あ! ご、ごめんなさい、ちょっと考え事をしてたの。なんの話だったかしら?」
「すごく体調が悪そうじゃん、保健室に行こうな」
「大丈夫、昨夜本を読み過ぎたからかな? で、ジェラルドはどうしてここにいるの? 授業は?」
同じ棟だと言っても4年生と5年生の教室は右と左に分かれている。廊下の幅は小型の馬車が通れそうなくらいあり、園舎はとにかく広い。
授業が終わって駆けつけても、休憩時間には間に合わない事があるほど距離がある。
「ビビってセンサーが鳴ったから転移してきたんだ。エレーナが危険だぞって」
「センサーって⋯⋯授業中だったんだもの、危険なんてなかったわ。ちょっとボーッとしてただけ」
「いーや! エレーナの心が泣いてるとわかるんだよな~、俺の尻尾がビンビンに反応するもんね」
ローラの番犬だからつけたはずの尻尾は、垂直に近い状態に立ち小刻みに揺れている。
「それに、センサーって⋯⋯勝手に魔導具を持たせるのは犯罪じゃなかった?」
「魔導具なんてつけてないし、そんなもん使わなくっても分かるんだからいらないもんね」
ジェラルド達は教室を出ていくクラリスを見ているエレーナの目で気が付いた。
(あれはオーレリアに来たばっかりの頃と同じ目だった。不安と恐怖⋯⋯無表情なんだけど、目が怯えてた。アレックスやセドリックも気付いていたのが腹立たしいけどな)
「単なる気のせいだと思うわ。授業中、特に変わった事はなかったもの。ローラだって隣にいるし」
エレーナの頭の半分はついさっき思い出した記憶で埋まっているが、人に話すようなことではない。人違いだとは思えないが、相手は何も知らないように見えた。
(未来が変わったせいで出会っただけかもしれないし。それなら知らないフリをしておけば大丈夫かも)
「心配させてしまったみたいだけど、全然問題ないから授業に戻って。お昼休みに会いましょう。一緒に食堂に行くんでしょ?」
「本当に大丈夫かなあ。エレーナの大丈夫は全然信用できないんだよね。ほら、手が震えてる」
机の上に置いていた手を慌てて隠して、笑顔を浮かべた。
「次の授業がはじまっちゃうわ。2回続けて遅れたら流石に叱られちゃうから」
「平気平気、俺がいない時は研究室にいることになってるんだ。俺がいない方が静かだって言う教師もいるし」
「流石、この学園で最も自由人だと言われている男の台詞だね~。叔母様にリークしちゃおうかな~」
「⋯⋯プリン」
「オッケー! 秘密厳守は友達の印だね」
(ローラは当てにならなそうだわ)
「相変わらずエレーナらぶだねえ。気持ちが届いてないのはウケるけど」
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