71 / 135
第四章
33.またもやルーナに助けられた。神降臨!?
しおりを挟む
(その時にはわたくしの存在が問題になるわ。あちこちの国にいる王子や令息が、ビルワーツの資産狙いで婚約を押し付けてくるはずだから、誰かが手を上げる前に急いで離籍しなくては。
何一つ権利を持っていないと公になれば、他国の目はわたくしから離れるはずだし、元々親子の情などないのだから人質には使えない。離籍だけでは弱いかもしれないけれど、一歩ずつ進めていかなくてはね)
「メイベルン王国とはビルワーツ領でもかなりの取引があるから、小麦が取引停止になったらかなりヤバいっす」
本気で頭を抱えたジェイクをルーナが心配そうに見ている。
(ルーナ様がジェイクと話す時楽しそうに見えるのが、多分好きだって事なのよね。で、好きな人が悩んでるとこんな辛そうな顔になる。うーん、それって楽しいのかしら? 嫌いは分かるけど好きは分からない。確か好きは嫌いの反対⋯⋯反対は無関心だったかしら)
「エレーナ様、これは連合王国の侵略戦争と、どう関係してくると思われますか?」
ループ前の記憶ではアメリアの準国葬の後もそれ以降も、公国と連合王国の条約は結ばれていなかったはず。それどころかアルムヘイルを含む6カ国が条約を結んだと聞いた覚えもない。
(いつ歴史が変わったのか分からないのは不安だわ。一体何が原因なのかしら)
「私の知る情報の中だけで言えば⋯⋯公国はどの国とも条約は結んでいないの。それが本当になるかと言われれば分からないとしか言えないわ。
でも、6カ国が既に条約を結んでいるのなら、すぐにでも対策を考えなくては大変なことになるのだけは間違いないわ」
「えーっと、連合王国は公国と友好的な関係を作りたいんだぞ~って言う、アピールしてるって聞いてたんす。んでも、腹の底じゃ戦争とか条約で縛りつけようとしてた⋯⋯うわぁ、アイツらマジでうぜえ」
関税の引き下げを狙って通商条約を結びたいと言ってきた国が、侵略戦争を仕掛けようとしているとは考えない⋯⋯そう思わせる為の策。
それとは別に、公国の鼻っ柱をへし折って奴隷のような扱いをしようとしているのなら、国を囲い込んで産業を停滞させるのはかなり有効な手段ではある。
下手に出る連合王国に対し優位に立っていると安心し切っていたら、突然手のひらを返されて窮地に陥っていたと知る⋯⋯今までの恨みを晴らすための方法としては、戦争を仕掛けるよりもっと効果があるだろう。
(モラルとか国としての信用とかを考えたら、こんな手は考えないはずだけど、アルムヘイルやクレベルンにそんな道徳は通用しない。もしかして⋯⋯うん、間違いないわ。この2つは目的も首謀者も違うんじゃないかしら)
戦争を仕掛けても勝てると連合王国は思っているのかもしれないが、ループ前にオーレリアが参戦を表明した時でさえ、クレベルン達は一切手を貸さなかった。しかも連合王国はあっさりと戦争を終結させた事を考えると⋯⋯元々、連合王国の独断で計画・実行され、セルビアスの呪術の有用性をアピールするのが目的だったとも考えられる。
6カ国での囲い込みは明らかに公国を追い詰めるための作戦で、魔法大国オーレリアの力を持ってしても助けられない。
「最初から計画していた可能性もあるし、話し合いの途中で予定や方針が変わった可能性もあるからなんとも言えないわ」
「あれこれと予想ばかりしても仕方がないじゃん。ジェイクはセルビアスの兵が潜入してるかどうかを調べるし、うちの父ちゃんや母ちゃんも情報を調べてる。それが調べ終われば予想もつくんでしょ?」
仕事以外は何かにつけて大雑把なルーナが痺れを切らしたらしい。
「その通りです。情報が少ない中であれこれと気を揉むよりも、宰相や担当大臣に任せるべきだとわたくしも思います」
(ルーナ様、ありがとうございます! 今回もルーナ様の一言で危機から逃げられそうですわ)
ミセス・メイベルは張り切って宮殿に向かい、ジェイクは恋愛成就のアクセサリーをプレゼントしたと言う女性を探しに出掛けて行った。
「ふう! なんかとんでもない事になってたね~。通信機の向こうで父ちゃんが絶句してた」
「あの⋯⋯ルーナ様。いくつかお聞きしたい事があるのですが⋯⋯」
「ん? なになに? ルーナお姉ちゃんになんでも聞いてごらん。分かる事なら即答だし、分かんなかったら父ちゃんか母ちゃんを引き摺り出すからさ」
ニパッと笑ったルーナがエレーナの肩をガッチリと捕まえた。身体を触られた瞬間ビクッと飛び上がったが、ここ数日見慣れたルーナの優しい目に見つめられていると、緊張が解れていく。
「あの、今でもその、オーレリアに引っ越しても良いと仰って下さいますか?」
「へ? エレーナちゃんの部屋はとっくに準備がはじまってるよ? アタシの部屋の向かいにしたって母ちゃんが言ってた。内装とかは母ちゃんが超張り切ってるんだけど、父ちゃんがせっせといらん家具とかを運んでくるって怒ってた」
5歳の女の子らしい部屋を楽しんで作っているルーナの母と、頓珍漢な家具や備品を運んでくるルーナの父。
『昔のルーナは壊しまくってたよな? だから国で一番丈夫なやつにした』
『年齢の割に小柄だって言ったから、玩具屋でこんなのを見つけてきたんだ』
『剣を入れるのにちょうどいいサイズの⋯⋯』
『迷子になった時用の魔導具を⋯⋯』
「昔は騎士になりたいって言ってたから、部屋で木剣を振り回して家具を粉々にしてたんだよね~。んで、エレーナちゃんは部屋に監禁されてたって知ったら、王宮内で迷子になったら可哀想だとか。嬉しすぎて迷走中って感じだね。で、母ちゃんはコテコテのお姫様の部屋にするって張り切ってるし。
漸く娘ができるって騒いでるのは謎だったけど⋯⋯。
なんかすっごい楽しそうだったから、とんでもない部屋ができてるかも。まあ、あれだよ。好みがあると思うけど、内装なんて魔法でパパッと変更できるから、心配しなくても大丈夫だからね」
情報過多で何を言って良いのか分からないが、取り敢えずオーレリアに引っ越せるようでひと安心。
「あと、できる限り早く離籍したいと思っていますの。その手続きを今日にでもはじめたいのですが⋯⋯」
「書類の準備はできてて弁護士は送り込んだって言ってた! アメリアは寝てるし、ニールはアレだからジョーンズに送りつけたって。
でね、父ちゃん達はうちの子⋯⋯養子になって欲しいって言ってるんだけどどうかな? ビルワーツなんかとは縁を切って、うちの子になって欲しいって。
それが不安なら後見人になるって言ってる。もちろんその時も離籍はセットだって」
ルーナの両親が言っているのは、特別養子縁組の事だろう。これは実親との法的な親子関係を解消させて、養子と養親が実親子と同様の関係を成立させる制度の事。
未成年の後見人には、親権を行う者と同一の権利義務を有する者と、財産に関する権限のみを有する者の2種類があるが、離籍をセットにするなら後見人でも良いのかもしれない。
(ルーナ様のご両親にはお会いした事がないし、オーレリア国王ご夫妻の養子となると、色々ご迷惑をおかけするかも。書類を出してからどのくらい時間がかかるのか分からないから、考えている時間はないわ。身の安全が第一だけど⋯⋯)
「で、では後見「妹になるよね~」」
「いえ、あの⋯⋯まだオーレリア国王ご夫妻に謁見も致しておりませんし、わたくしなどのような者が養子というのは些か問題があるかと」
「⋯⋯やっぱり不安だよね。んじゃ、ちょっと待ってて」
パパッと取り出した通信機を耳に当てながら、部屋の隅に向かうルーナの鼻歌が聞こえてくる。
(養子縁組はハードルが高い気がするわ。お優しい方達のようだから口には出されないかもだけど、後悔されるのが目に見える気がする)
「⋯⋯そうそ⋯⋯な⋯⋯ん、わ⋯⋯」
悶々と悩んでいるエレーナの耳に、ルーナの小さな声が途切れ途切れに聞こえてくる、
(お会いしてご挨拶させていただいて⋯⋯お部屋をお貸しいただくお願いを⋯⋯お家賃と言うかお部屋代を決めていただいて⋯⋯王宮のお食事は高そうだから、外出できるようにお願い⋯⋯あ、お仕事探しにも出かけるし、やっぱり王宮にお部屋をお借りするのはご迷惑に⋯⋯)
ジェイク達に引き継ぎできるように帳簿やノートを整理しつつ、引っ越し後の問題を羅列していた。
「よっし! これでオッケー」
ルーナの満足そうな声がしたと同時にふわっと部屋に風が起こり、実務机に齧り付いていたエレーナの背後から、大きな手が両脇に差し込まれ⋯⋯。
「きゃあぁぁ!」
「うわぁ! 何やってんのよ、このエロ親父ぃぃ!」
勢いよく持ち上げられたエレーナは失神寸前で、プラプラと手足が揺れている。
「うおぉぉ、エレーナちゃん⋯⋯ゲシゲシ⋯⋯マジちっこ~い! しかもガッリ⋯⋯ゲシゲシ⋯⋯ガリじゃねえか。うん、こりゃあうちの子に決定、⋯⋯ゲシゲシ⋯⋯もう決まり!」
「父ちゃん、良い加減に離せぇぇ! くっそぉ、蹴っても⋯⋯ゲシゲシ⋯⋯ぜんっぜん効果が。このクマ親父ぃぃ」
興奮気味のおじさんの野太い声の合間に聞こえる怪しげな音は、ルーナが蹴りを入れている音のよう。
「お嫁にもいかんで良いぞ、大きくなったら婿をとって⋯⋯ゲシゲシ⋯⋯ずーっと一緒に暮らそうな」
耳慣れない低い声の主はルーナの父エリオット・オルシーニ。彼が興奮気味に話すたびに、エレーナの小さな身体がグラングランと揺れてかなり気持ち悪い。
(ふ、船酔いというのがこんな感じなのかしら⋯⋯上下に揺れ⋯⋯うっぷ)
「お、下ろして下さいませ。あ、あの⋯⋯一体どこからおいでになら⋯⋯」
「エレーナちゃんから離れなさいませ! ペドフィリアとして処刑しますわよ!」
何一つ権利を持っていないと公になれば、他国の目はわたくしから離れるはずだし、元々親子の情などないのだから人質には使えない。離籍だけでは弱いかもしれないけれど、一歩ずつ進めていかなくてはね)
「メイベルン王国とはビルワーツ領でもかなりの取引があるから、小麦が取引停止になったらかなりヤバいっす」
本気で頭を抱えたジェイクをルーナが心配そうに見ている。
(ルーナ様がジェイクと話す時楽しそうに見えるのが、多分好きだって事なのよね。で、好きな人が悩んでるとこんな辛そうな顔になる。うーん、それって楽しいのかしら? 嫌いは分かるけど好きは分からない。確か好きは嫌いの反対⋯⋯反対は無関心だったかしら)
「エレーナ様、これは連合王国の侵略戦争と、どう関係してくると思われますか?」
ループ前の記憶ではアメリアの準国葬の後もそれ以降も、公国と連合王国の条約は結ばれていなかったはず。それどころかアルムヘイルを含む6カ国が条約を結んだと聞いた覚えもない。
(いつ歴史が変わったのか分からないのは不安だわ。一体何が原因なのかしら)
「私の知る情報の中だけで言えば⋯⋯公国はどの国とも条約は結んでいないの。それが本当になるかと言われれば分からないとしか言えないわ。
でも、6カ国が既に条約を結んでいるのなら、すぐにでも対策を考えなくては大変なことになるのだけは間違いないわ」
「えーっと、連合王国は公国と友好的な関係を作りたいんだぞ~って言う、アピールしてるって聞いてたんす。んでも、腹の底じゃ戦争とか条約で縛りつけようとしてた⋯⋯うわぁ、アイツらマジでうぜえ」
関税の引き下げを狙って通商条約を結びたいと言ってきた国が、侵略戦争を仕掛けようとしているとは考えない⋯⋯そう思わせる為の策。
それとは別に、公国の鼻っ柱をへし折って奴隷のような扱いをしようとしているのなら、国を囲い込んで産業を停滞させるのはかなり有効な手段ではある。
下手に出る連合王国に対し優位に立っていると安心し切っていたら、突然手のひらを返されて窮地に陥っていたと知る⋯⋯今までの恨みを晴らすための方法としては、戦争を仕掛けるよりもっと効果があるだろう。
(モラルとか国としての信用とかを考えたら、こんな手は考えないはずだけど、アルムヘイルやクレベルンにそんな道徳は通用しない。もしかして⋯⋯うん、間違いないわ。この2つは目的も首謀者も違うんじゃないかしら)
戦争を仕掛けても勝てると連合王国は思っているのかもしれないが、ループ前にオーレリアが参戦を表明した時でさえ、クレベルン達は一切手を貸さなかった。しかも連合王国はあっさりと戦争を終結させた事を考えると⋯⋯元々、連合王国の独断で計画・実行され、セルビアスの呪術の有用性をアピールするのが目的だったとも考えられる。
6カ国での囲い込みは明らかに公国を追い詰めるための作戦で、魔法大国オーレリアの力を持ってしても助けられない。
「最初から計画していた可能性もあるし、話し合いの途中で予定や方針が変わった可能性もあるからなんとも言えないわ」
「あれこれと予想ばかりしても仕方がないじゃん。ジェイクはセルビアスの兵が潜入してるかどうかを調べるし、うちの父ちゃんや母ちゃんも情報を調べてる。それが調べ終われば予想もつくんでしょ?」
仕事以外は何かにつけて大雑把なルーナが痺れを切らしたらしい。
「その通りです。情報が少ない中であれこれと気を揉むよりも、宰相や担当大臣に任せるべきだとわたくしも思います」
(ルーナ様、ありがとうございます! 今回もルーナ様の一言で危機から逃げられそうですわ)
ミセス・メイベルは張り切って宮殿に向かい、ジェイクは恋愛成就のアクセサリーをプレゼントしたと言う女性を探しに出掛けて行った。
「ふう! なんかとんでもない事になってたね~。通信機の向こうで父ちゃんが絶句してた」
「あの⋯⋯ルーナ様。いくつかお聞きしたい事があるのですが⋯⋯」
「ん? なになに? ルーナお姉ちゃんになんでも聞いてごらん。分かる事なら即答だし、分かんなかったら父ちゃんか母ちゃんを引き摺り出すからさ」
ニパッと笑ったルーナがエレーナの肩をガッチリと捕まえた。身体を触られた瞬間ビクッと飛び上がったが、ここ数日見慣れたルーナの優しい目に見つめられていると、緊張が解れていく。
「あの、今でもその、オーレリアに引っ越しても良いと仰って下さいますか?」
「へ? エレーナちゃんの部屋はとっくに準備がはじまってるよ? アタシの部屋の向かいにしたって母ちゃんが言ってた。内装とかは母ちゃんが超張り切ってるんだけど、父ちゃんがせっせといらん家具とかを運んでくるって怒ってた」
5歳の女の子らしい部屋を楽しんで作っているルーナの母と、頓珍漢な家具や備品を運んでくるルーナの父。
『昔のルーナは壊しまくってたよな? だから国で一番丈夫なやつにした』
『年齢の割に小柄だって言ったから、玩具屋でこんなのを見つけてきたんだ』
『剣を入れるのにちょうどいいサイズの⋯⋯』
『迷子になった時用の魔導具を⋯⋯』
「昔は騎士になりたいって言ってたから、部屋で木剣を振り回して家具を粉々にしてたんだよね~。んで、エレーナちゃんは部屋に監禁されてたって知ったら、王宮内で迷子になったら可哀想だとか。嬉しすぎて迷走中って感じだね。で、母ちゃんはコテコテのお姫様の部屋にするって張り切ってるし。
漸く娘ができるって騒いでるのは謎だったけど⋯⋯。
なんかすっごい楽しそうだったから、とんでもない部屋ができてるかも。まあ、あれだよ。好みがあると思うけど、内装なんて魔法でパパッと変更できるから、心配しなくても大丈夫だからね」
情報過多で何を言って良いのか分からないが、取り敢えずオーレリアに引っ越せるようでひと安心。
「あと、できる限り早く離籍したいと思っていますの。その手続きを今日にでもはじめたいのですが⋯⋯」
「書類の準備はできてて弁護士は送り込んだって言ってた! アメリアは寝てるし、ニールはアレだからジョーンズに送りつけたって。
でね、父ちゃん達はうちの子⋯⋯養子になって欲しいって言ってるんだけどどうかな? ビルワーツなんかとは縁を切って、うちの子になって欲しいって。
それが不安なら後見人になるって言ってる。もちろんその時も離籍はセットだって」
ルーナの両親が言っているのは、特別養子縁組の事だろう。これは実親との法的な親子関係を解消させて、養子と養親が実親子と同様の関係を成立させる制度の事。
未成年の後見人には、親権を行う者と同一の権利義務を有する者と、財産に関する権限のみを有する者の2種類があるが、離籍をセットにするなら後見人でも良いのかもしれない。
(ルーナ様のご両親にはお会いした事がないし、オーレリア国王ご夫妻の養子となると、色々ご迷惑をおかけするかも。書類を出してからどのくらい時間がかかるのか分からないから、考えている時間はないわ。身の安全が第一だけど⋯⋯)
「で、では後見「妹になるよね~」」
「いえ、あの⋯⋯まだオーレリア国王ご夫妻に謁見も致しておりませんし、わたくしなどのような者が養子というのは些か問題があるかと」
「⋯⋯やっぱり不安だよね。んじゃ、ちょっと待ってて」
パパッと取り出した通信機を耳に当てながら、部屋の隅に向かうルーナの鼻歌が聞こえてくる。
(養子縁組はハードルが高い気がするわ。お優しい方達のようだから口には出されないかもだけど、後悔されるのが目に見える気がする)
「⋯⋯そうそ⋯⋯な⋯⋯ん、わ⋯⋯」
悶々と悩んでいるエレーナの耳に、ルーナの小さな声が途切れ途切れに聞こえてくる、
(お会いしてご挨拶させていただいて⋯⋯お部屋をお貸しいただくお願いを⋯⋯お家賃と言うかお部屋代を決めていただいて⋯⋯王宮のお食事は高そうだから、外出できるようにお願い⋯⋯あ、お仕事探しにも出かけるし、やっぱり王宮にお部屋をお借りするのはご迷惑に⋯⋯)
ジェイク達に引き継ぎできるように帳簿やノートを整理しつつ、引っ越し後の問題を羅列していた。
「よっし! これでオッケー」
ルーナの満足そうな声がしたと同時にふわっと部屋に風が起こり、実務机に齧り付いていたエレーナの背後から、大きな手が両脇に差し込まれ⋯⋯。
「きゃあぁぁ!」
「うわぁ! 何やってんのよ、このエロ親父ぃぃ!」
勢いよく持ち上げられたエレーナは失神寸前で、プラプラと手足が揺れている。
「うおぉぉ、エレーナちゃん⋯⋯ゲシゲシ⋯⋯マジちっこ~い! しかもガッリ⋯⋯ゲシゲシ⋯⋯ガリじゃねえか。うん、こりゃあうちの子に決定、⋯⋯ゲシゲシ⋯⋯もう決まり!」
「父ちゃん、良い加減に離せぇぇ! くっそぉ、蹴っても⋯⋯ゲシゲシ⋯⋯ぜんっぜん効果が。このクマ親父ぃぃ」
興奮気味のおじさんの野太い声の合間に聞こえる怪しげな音は、ルーナが蹴りを入れている音のよう。
「お嫁にもいかんで良いぞ、大きくなったら婿をとって⋯⋯ゲシゲシ⋯⋯ずーっと一緒に暮らそうな」
耳慣れない低い声の主はルーナの父エリオット・オルシーニ。彼が興奮気味に話すたびに、エレーナの小さな身体がグラングランと揺れてかなり気持ち悪い。
(ふ、船酔いというのがこんな感じなのかしら⋯⋯上下に揺れ⋯⋯うっぷ)
「お、下ろして下さいませ。あ、あの⋯⋯一体どこからおいでになら⋯⋯」
「エレーナちゃんから離れなさいませ! ペドフィリアとして処刑しますわよ!」
9
お気に入りに追加
1,078
あなたにおすすめの小説
話が違います! 女性慣れしていないと聞いていたのですが
四季
恋愛
領地持ちの家に長女として生まれた私。
幼い頃から趣味や好みが周囲の女性たちと違っていて、女性らしくないからか父親にもあまり大事にしてもらえなかった。
そんな私は、十八の誕生日、父親の知り合いの息子と婚約することになったのだが……。
【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜
七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。
ある日突然、兄がそう言った。
魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。
しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。
そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。
ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。
前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。
これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。
※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です
幼馴染みに婚約者を奪われ、妹や両親は私の財産を奪うつもりのようです。皆さん、報いを受ける覚悟をしておいてくださいね?
水上
恋愛
「僕は幼馴染みのベラと結婚して、幸せになるつもりだ」
結婚して幸せになる……、結構なことである。
祝福の言葉をかける場面なのだろうけれど、そんなことは不可能だった。
なぜなら、彼は幼馴染み以外の人物と婚約していて、その婚約者というのが、この私だからである。
伯爵令嬢である私、キャサリン・クローフォドは、婚約者であるジャック・ブリガムの言葉を、受け入れられなかった。
しかし、彼は勝手に話を進め、私は婚約破棄を言い渡された。
幼馴染みに婚約者を奪われ、私はショックを受けた。
そして、私の悲劇はそれだけではなかった。
なんと、私の妹であるジーナと両親が、私の財産を奪おうと動き始めたのである。
私の周りには、身勝手な人物が多すぎる。
しかし、私にも一人だけ味方がいた。
彼は、不適な笑みを浮かべる。
私から何もかも奪うなんて、あなたたちは少々やり過ぎました。
私は、やられたままで終わるつもりはないので、皆さん、報いを受ける覚悟をしておいてくださいね?
天才と呼ばれた彼女は無理矢理入れられた後宮で、怠惰な生活を極めようとする
カエデネコ
恋愛
※カクヨムの方にも載せてあります。サブストーリーなども書いていますので、よかったら、お越しくださいm(_ _)m
リアンは有名私塾に通い、天才と名高い少女であった。しかしある日突然、陛下の花嫁探しに白羽の矢が立ち、有無を言わさず後宮へ入れられてしまう。
王妃候補なんてなりたくない。やる気ゼロの彼女は後宮の部屋へ引きこもり、怠惰に暮らすためにその能力を使うことにした。
【完結】悪女のなみだ
じじ
恋愛
「カリーナがまたカレンを泣かせてる」
双子の姉妹にも関わらず、私はいつも嫌われる側だった。
カレン、私の妹。
私とよく似た顔立ちなのに、彼女の目尻は優しげに下がり、微笑み一つで天使のようだともてはやされ、涙をこぼせば聖女のようだ崇められた。
一方の私は、切れ長の目でどう見ても性格がきつく見える。にこやかに笑ったつもりでも悪巧みをしていると謗られ、泣くと男を篭絡するつもりか、と非難された。
「ふふ。姉様って本当にかわいそう。気が弱いくせに、顔のせいで悪者になるんだもの。」
私が言い返せないのを知って、馬鹿にしてくる妹をどうすれば良かったのか。
「お前みたいな女が姉だなんてカレンがかわいそうだ」
罵ってくる男達にどう言えば真実が伝わったのか。
本当の自分を誰かに知ってもらおうなんて望みを捨てて、日々淡々と過ごしていた私を救ってくれたのは、あなただった。
運命の歯車が壊れるとき
和泉鷹央
恋愛
戦争に行くから、君とは結婚できない。
恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。
他の投稿サイトでも掲載しております。
[完結]私を巻き込まないで下さい
シマ
恋愛
私、イリーナ15歳。賊に襲われているのを助けられた8歳の時から、師匠と一緒に暮らしている。
魔力持ちと分かって魔法を教えて貰ったけど、何故か全然発動しなかった。
でも、魔物を倒した時に採れる魔石。石の魔力が無くなると使えなくなるけど、その魔石に魔力を注いで甦らせる事が出来た。
その力を生かして、師匠と装具や魔道具の修理の仕事をしながら、のんびり暮らしていた。
ある日、師匠を訪ねて来た、お客さんから生活が変わっていく。
え?今、話題の勇者様が兄弟子?師匠が王族?ナニそれ私、知らないよ。
平凡で普通の生活がしたいの。
私を巻き込まないで下さい!
恋愛要素は、中盤以降から出てきます
9月28日 本編完結
10月4日 番外編完結
長い間、お付き合い頂きありがとうございました。
無理やり『陰険侯爵』に嫁がされた私は、侯爵家で幸せな日々を送っています
朝露ココア
恋愛
「私は妹の幸福を願っているの。あなたには侯爵夫人になって幸せに生きてほしい。侯爵様の婚姻相手には、すごくお似合いだと思うわ」
わがままな姉のドリカに命じられ、侯爵家に嫁がされることになったディアナ。
派手で綺麗な姉とは異なり、ディアナは園芸と読書が趣味の陰気な子爵令嬢。
そんな彼女は傲慢な母と姉に逆らえず言いなりになっていた。
縁談の相手は『陰険侯爵』とも言われる悪評高い侯爵。
ディアナの意思はまったく尊重されずに嫁がされた侯爵家。
最初は挙動不審で自信のない『陰険侯爵』も、ディアナと接するうちに変化が現れて……次第に成長していく。
「ディアナ。君は俺が守る」
内気な夫婦が支え合い、そして心を育む物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる