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第三章
04.国法なんてクソ喰らえ!走り回るアメリア
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夜の闇に紛れ塀の外にある森に転移したアメリアは、戦闘服に着替え爆薬を抱えたハザラス兵の前に飛び出した。
【ねえ、大量の武器弾薬を抱えてどこに行くつもり?】
【なんだ、こいつは! おい、どこから来た!? 見張は何やってんだよ!】
【女だ! こんなとこに女がいるぜ!】
【もしかしてそこの塀の向こうに行くつもり? あの広場って国境線だよね?】
【姉ちゃん、どこから来た?】
【誰かこいつを捕まえとけ、後で楽しもうぜ!】
戦いの前でテンションが上がっているのか⋯⋯唾を撒き散らしながら大声で奇声を上げる男達は、濃茶や黒い髪の両横に三つ編みを作り、額にバンダナを巻いていた。
(間違いない、ハザラスだわ)
【マジで答えてくれないかな? ど・こ・に・行くつもりなのか。教えてくれたら遊んであげるけど?】
【へっへえ! いいねえ、俺たちゃな、今からビルワーツの姉ちゃんを殺りに行くんだぜ? んで、大金持ちになるんだ】
【ギャハハ! なんでもやりたい放題ってなー】
【ハザラスからここまでって結構遠いのに、やっぱりビルワーツの鉱山狙い?】
【ありゃ、元々俺たちのモンだからな~。取り返しに行くんだよ、な~】
【じゃあ、ここより先には行かせられないから、わたくしが相手になるわ】
【へっ?⋯⋯あんた、もしかして】
【アメリア・ビルワーツ。ハザラスの敵? ハザラスからの侵略行為をビルワーツ当主代理が確認した為、自衛の為の殲滅行動に移行します】
ビルワーツの戦闘行為は他国への侵略行為ではなく、あくまでも自衛であると宣言した後、身を翻して広場の中央に向けて走り出したアメリアを、ハザラス兵が追いかけてきた。
ハザラス兵に飛びかかられたアメリアが兵の腹に短剣を突き刺し、魔導具を力任せに放り投げると、敵兵の真ん中で大きな爆発音がいくつも鳴り響いた。
その音を合図に、塀からビルワーツ兵が騎馬で飛び出して来た。
「アメリア様!」
先頭を切ったのはルイで、アメリアの馬を連れている。
「お見事でした! さあ、今度は俺たちの番だ!! 行っくぜぇぇぇ」
「「おぉぉぉ!」」
奇襲を狙っていたハザラス兵は、魔導具とルイ達の攻撃で壊滅状態に陥り、まだ準備のできていなかった後方部隊は大騒ぎをはじめた。
防具を抱えたまま走り回る後方部隊に、魔導具を使った強力な攻撃をぶつけ、敵が隊列を整える暇もないうちにアメリアとビルワーツ兵が斬り込んでいく。
アメリア達の攻撃をすり抜け国境線を超えたハザラス兵には、オリバーの部隊が待ち受けている。
戦いは明け方近くまで続いたが、死者はなく怪我人のみというビルワーツ側の完全勝利に終わった。
「怪我をした人はこちらへ! すぐに手当を!」
「馬は俺達が預かります」
「水のいる人はいますか? ええっ、お酒はダメだよ」
兵士たちの世話をしているのは、非戦闘員や領民達。非常時になると自主的に手伝いに来てくれる領民達に、いつも頭が下がる思いがする。
(この領地はみんなで守ってる。領主・兵士そしてこの人達も全員で)
疲れて座り込む者や肩を叩き合う者⋯⋯見慣れた戦いの後の喧騒を横目に見ながら、屋敷に戻ろうとしたアメリアにルイが声をかけた。
「あっ! レイモンド様から『後でお仕置き』だそうですよ」
何故かサムズアップしたルイに向かって手を振って、玄関先で待っていたジョーンズに声をかけた。
「ただいま。作戦の一つ目終了、何か連絡は来てる?」
アメリアが聞いたのはマーカスからの知らせ。セレナの容態に変化があれば、真夜中でも知らせてくるはずだから。
「いえ、今のところはまだ」
「そっか、着替えを済ませたら王宮に転移するわ」
少し休めと言う言葉を飲み込んだジョーンズが小さく頭を下げた。
「軽食を準備しておりますので、召し上がってからにしてください」
結局、アメリアが王都に転移したのはお昼をかなりまわった頃だった。
慌てて逃げ出した後方部隊の荷物の中から出て来た書類で、クレベルン王国との繋がりが見つかり、ハザラスの残党狩りで捕縛した兵の取り調べに立ち会う必要がでてきたのだ。
「へえぇぇ、鉱山を3人で分けっこねえ。ほんっと巫山戯てる」
「しっかし、クレベルン王国のハントリー侯爵が、ハザラスの部族長に出した手紙を置いてくなんて、ただの馬鹿ですかね」
「おまけに関わってる部族の名前も分かったしな」
二人とも戦いが終わって緊張がほぐれたのか、敬語が取れて話しやすくなっている。
クレベルン王国の首謀者は別のようだが、実際に動いていたのはハントリー侯爵で、ディクセン・トリアリア連合王国サイドはハザラスを含む4つの部族が参加していた⋯⋯そして勿論ランドルフも。
「ジョーンズ、王宮の奴に叩きつけて来るから、大至急この手紙の写しを作ってくれる? 原本は金庫に入れといてね。
ルイ、お父様に直筆の手紙を見つけたって、魔法郵便で知らせてくれるかしら。
オリバー、王宮に行ってくるから他にも何かわかったらすぐに知らせて」
この世界では攻撃系の魔導具の転売・譲渡は許されていない。魔導具ギルドで購入する際、本人確認と一緒に使用目的等を申告し、違反すれば二度と購入できない仕組みになっている。
「ビルワーツ侯爵家の名前で買って、自国及び自領の防衛に使用するって言ってあるから、お父様なら魔導具を使っても問題ないはず。国法には違反するけどね」
(漸くお母様に会える⋯⋯お母様、頑張って)
転移した王宮内を駆け抜けて、セレナが運び込まれている部屋に飛び込んだアメリアの目に映ったのは、真っ赤な顔で僅かに息をしている母。
「お母様⋯⋯」
「セレナ様は不整脈と稀に呼吸が止まり⋯⋯」
「クラブスアイは⋯⋯ クラブスアイの毒は最後に呼吸不全になりますの⋯⋯ほ、他の方は?」
医師が小さく横に首を振った。母のそばについていたいが、マクベスが亡くなったのであれば時間がない。
(侍従長にすぐに動いてもらわなくては、このままではランドルフが即位してしまう!)
「すぐに侍従長に会わなくてはなりませんから、後のことは任せます。不足する薬があればすぐにビルワーツへ連絡を。不明な点や疑問があれば、薬師ギルドのエバンス様に直接連絡してください。彼がクラブスアイに一番詳しいの」
部屋を飛び出したアメリアは、不安そうな使用人を気にする余裕もなく、国王の執務室に向かって走り出した。
ノックもせずドアを開け部屋に飛び込んだアメリアは、目を丸くした侍従長に向かって突き進んだ。
「侍従長! クレベルン王国のハントリー侯爵が主導で、ディクセン・トリアリア連合王国サイドはハザラスを含む4つの部族が参加。勿論ランドルフも。
証拠の手紙を見つけました。ハザラスからクレベルンに連絡が行く前に、ランドルフを捕まえねば手遅れになります!」
バンっと机の上に証拠の手紙の写しを置き、ビルワーツ領で起きたハザラス達の侵略を説明した。
「陛下は何か残しておられないのですか? 例えばタイラー殿下の王太子任命書とか、ランドルフを廃太子する指示書とか」
返事をするべきか悩んだ侍従長がアメリアの顔を見つめ、口を一文字に結んだ。
「機密だのなんだの言ってる場合ではありません! あの事が公になればランドルフが王になる。この国を潰したいのですか!?」
「⋯⋯正式文書ではございませんが、準備中の物でしたらございます」
「国璽は今も王璽尚書が?」
「勿論でございます」
王璽尚書は国王の御璽の管理、およびそれに関連する行政事務を司っている。
「すぐに正式文書にしなければなりません。非常事態ですから、議会への報告はその後でもゴリ押しできるはずです」
それなりに体裁が整ってさえいれば、議会は見て見ぬ振りをするはず。ランドルフの悪評は有名で、殆どの議員がタイラー王太子を望んでいるのだから。
「しかし⋯⋯それは文書を偽造する事になってしまいます」
「犯罪者になるのが怖くて国を潰したいのであれば、好きになさいませ。それともランドルフを王にするのが侍従長の望みだと言われますか!?
父を呼び戻し、わたくしが国境のビルワーツ兵を纏めます。魔導具を使いクレベルン王国を追い払いますわ」
「なりません! 我が国の法では軍事に魔導具を使用する事は認められておりません!」
ほんの1日程度で真っ白な髪になってしまった侍従長は、心労で口元に皺がより一気に老け込んでいた。
「法を遵守した上でタイラー殿下を立太子する方法を探しております! 今しばらくのお時間をいただきたい」
「国法を守る為に国を潰すおつもりですか! わたくしはお父様をお母様の元へ、王宮へお連れする為に魔導具を使い、クレベルン王国を追い払います!
椅子を温めながら、ランドルフの勝鬨をお聞きになりたいのであればお好きにどうぞ。失礼致します」
侍従長が引き止める声を無視してその場から再び走り出したアメリアは、魔導具の設置されている部屋に飛び込み、侯爵領で魔導具をかき集めて国境に転移した。
(流石に魔力が不足してきたわ。今日はもう転移は無理そう)
「お父様、わたくしがビルワーツ兵を率います。お父様はすぐに王宮へ!」
「セレナか!?」
「はい、今はもう⋯⋯でもギリギリで頑張っておられます。きっとお父様を待っておられるのです! クラブスアイの毒は呼吸不全になると最後なのです。解毒薬はなく、対処療法でさえ確立されていない⋯⋯わたくしが延命の可能性を探るよりも、お母様はお父様にそばに来て欲しいはず。
ここはわたくしが守ってみせますから、どうかお母様のお側に⋯⋯。
わたくしからの愛も全部持っていってくださいませ」
「アメリア⋯⋯すまん! 許せ」
【ねえ、大量の武器弾薬を抱えてどこに行くつもり?】
【なんだ、こいつは! おい、どこから来た!? 見張は何やってんだよ!】
【女だ! こんなとこに女がいるぜ!】
【もしかしてそこの塀の向こうに行くつもり? あの広場って国境線だよね?】
【姉ちゃん、どこから来た?】
【誰かこいつを捕まえとけ、後で楽しもうぜ!】
戦いの前でテンションが上がっているのか⋯⋯唾を撒き散らしながら大声で奇声を上げる男達は、濃茶や黒い髪の両横に三つ編みを作り、額にバンダナを巻いていた。
(間違いない、ハザラスだわ)
【マジで答えてくれないかな? ど・こ・に・行くつもりなのか。教えてくれたら遊んであげるけど?】
【へっへえ! いいねえ、俺たちゃな、今からビルワーツの姉ちゃんを殺りに行くんだぜ? んで、大金持ちになるんだ】
【ギャハハ! なんでもやりたい放題ってなー】
【ハザラスからここまでって結構遠いのに、やっぱりビルワーツの鉱山狙い?】
【ありゃ、元々俺たちのモンだからな~。取り返しに行くんだよ、な~】
【じゃあ、ここより先には行かせられないから、わたくしが相手になるわ】
【へっ?⋯⋯あんた、もしかして】
【アメリア・ビルワーツ。ハザラスの敵? ハザラスからの侵略行為をビルワーツ当主代理が確認した為、自衛の為の殲滅行動に移行します】
ビルワーツの戦闘行為は他国への侵略行為ではなく、あくまでも自衛であると宣言した後、身を翻して広場の中央に向けて走り出したアメリアを、ハザラス兵が追いかけてきた。
ハザラス兵に飛びかかられたアメリアが兵の腹に短剣を突き刺し、魔導具を力任せに放り投げると、敵兵の真ん中で大きな爆発音がいくつも鳴り響いた。
その音を合図に、塀からビルワーツ兵が騎馬で飛び出して来た。
「アメリア様!」
先頭を切ったのはルイで、アメリアの馬を連れている。
「お見事でした! さあ、今度は俺たちの番だ!! 行っくぜぇぇぇ」
「「おぉぉぉ!」」
奇襲を狙っていたハザラス兵は、魔導具とルイ達の攻撃で壊滅状態に陥り、まだ準備のできていなかった後方部隊は大騒ぎをはじめた。
防具を抱えたまま走り回る後方部隊に、魔導具を使った強力な攻撃をぶつけ、敵が隊列を整える暇もないうちにアメリアとビルワーツ兵が斬り込んでいく。
アメリア達の攻撃をすり抜け国境線を超えたハザラス兵には、オリバーの部隊が待ち受けている。
戦いは明け方近くまで続いたが、死者はなく怪我人のみというビルワーツ側の完全勝利に終わった。
「怪我をした人はこちらへ! すぐに手当を!」
「馬は俺達が預かります」
「水のいる人はいますか? ええっ、お酒はダメだよ」
兵士たちの世話をしているのは、非戦闘員や領民達。非常時になると自主的に手伝いに来てくれる領民達に、いつも頭が下がる思いがする。
(この領地はみんなで守ってる。領主・兵士そしてこの人達も全員で)
疲れて座り込む者や肩を叩き合う者⋯⋯見慣れた戦いの後の喧騒を横目に見ながら、屋敷に戻ろうとしたアメリアにルイが声をかけた。
「あっ! レイモンド様から『後でお仕置き』だそうですよ」
何故かサムズアップしたルイに向かって手を振って、玄関先で待っていたジョーンズに声をかけた。
「ただいま。作戦の一つ目終了、何か連絡は来てる?」
アメリアが聞いたのはマーカスからの知らせ。セレナの容態に変化があれば、真夜中でも知らせてくるはずだから。
「いえ、今のところはまだ」
「そっか、着替えを済ませたら王宮に転移するわ」
少し休めと言う言葉を飲み込んだジョーンズが小さく頭を下げた。
「軽食を準備しておりますので、召し上がってからにしてください」
結局、アメリアが王都に転移したのはお昼をかなりまわった頃だった。
慌てて逃げ出した後方部隊の荷物の中から出て来た書類で、クレベルン王国との繋がりが見つかり、ハザラスの残党狩りで捕縛した兵の取り調べに立ち会う必要がでてきたのだ。
「へえぇぇ、鉱山を3人で分けっこねえ。ほんっと巫山戯てる」
「しっかし、クレベルン王国のハントリー侯爵が、ハザラスの部族長に出した手紙を置いてくなんて、ただの馬鹿ですかね」
「おまけに関わってる部族の名前も分かったしな」
二人とも戦いが終わって緊張がほぐれたのか、敬語が取れて話しやすくなっている。
クレベルン王国の首謀者は別のようだが、実際に動いていたのはハントリー侯爵で、ディクセン・トリアリア連合王国サイドはハザラスを含む4つの部族が参加していた⋯⋯そして勿論ランドルフも。
「ジョーンズ、王宮の奴に叩きつけて来るから、大至急この手紙の写しを作ってくれる? 原本は金庫に入れといてね。
ルイ、お父様に直筆の手紙を見つけたって、魔法郵便で知らせてくれるかしら。
オリバー、王宮に行ってくるから他にも何かわかったらすぐに知らせて」
この世界では攻撃系の魔導具の転売・譲渡は許されていない。魔導具ギルドで購入する際、本人確認と一緒に使用目的等を申告し、違反すれば二度と購入できない仕組みになっている。
「ビルワーツ侯爵家の名前で買って、自国及び自領の防衛に使用するって言ってあるから、お父様なら魔導具を使っても問題ないはず。国法には違反するけどね」
(漸くお母様に会える⋯⋯お母様、頑張って)
転移した王宮内を駆け抜けて、セレナが運び込まれている部屋に飛び込んだアメリアの目に映ったのは、真っ赤な顔で僅かに息をしている母。
「お母様⋯⋯」
「セレナ様は不整脈と稀に呼吸が止まり⋯⋯」
「クラブスアイは⋯⋯ クラブスアイの毒は最後に呼吸不全になりますの⋯⋯ほ、他の方は?」
医師が小さく横に首を振った。母のそばについていたいが、マクベスが亡くなったのであれば時間がない。
(侍従長にすぐに動いてもらわなくては、このままではランドルフが即位してしまう!)
「すぐに侍従長に会わなくてはなりませんから、後のことは任せます。不足する薬があればすぐにビルワーツへ連絡を。不明な点や疑問があれば、薬師ギルドのエバンス様に直接連絡してください。彼がクラブスアイに一番詳しいの」
部屋を飛び出したアメリアは、不安そうな使用人を気にする余裕もなく、国王の執務室に向かって走り出した。
ノックもせずドアを開け部屋に飛び込んだアメリアは、目を丸くした侍従長に向かって突き進んだ。
「侍従長! クレベルン王国のハントリー侯爵が主導で、ディクセン・トリアリア連合王国サイドはハザラスを含む4つの部族が参加。勿論ランドルフも。
証拠の手紙を見つけました。ハザラスからクレベルンに連絡が行く前に、ランドルフを捕まえねば手遅れになります!」
バンっと机の上に証拠の手紙の写しを置き、ビルワーツ領で起きたハザラス達の侵略を説明した。
「陛下は何か残しておられないのですか? 例えばタイラー殿下の王太子任命書とか、ランドルフを廃太子する指示書とか」
返事をするべきか悩んだ侍従長がアメリアの顔を見つめ、口を一文字に結んだ。
「機密だのなんだの言ってる場合ではありません! あの事が公になればランドルフが王になる。この国を潰したいのですか!?」
「⋯⋯正式文書ではございませんが、準備中の物でしたらございます」
「国璽は今も王璽尚書が?」
「勿論でございます」
王璽尚書は国王の御璽の管理、およびそれに関連する行政事務を司っている。
「すぐに正式文書にしなければなりません。非常事態ですから、議会への報告はその後でもゴリ押しできるはずです」
それなりに体裁が整ってさえいれば、議会は見て見ぬ振りをするはず。ランドルフの悪評は有名で、殆どの議員がタイラー王太子を望んでいるのだから。
「しかし⋯⋯それは文書を偽造する事になってしまいます」
「犯罪者になるのが怖くて国を潰したいのであれば、好きになさいませ。それともランドルフを王にするのが侍従長の望みだと言われますか!?
父を呼び戻し、わたくしが国境のビルワーツ兵を纏めます。魔導具を使いクレベルン王国を追い払いますわ」
「なりません! 我が国の法では軍事に魔導具を使用する事は認められておりません!」
ほんの1日程度で真っ白な髪になってしまった侍従長は、心労で口元に皺がより一気に老け込んでいた。
「法を遵守した上でタイラー殿下を立太子する方法を探しております! 今しばらくのお時間をいただきたい」
「国法を守る為に国を潰すおつもりですか! わたくしはお父様をお母様の元へ、王宮へお連れする為に魔導具を使い、クレベルン王国を追い払います!
椅子を温めながら、ランドルフの勝鬨をお聞きになりたいのであればお好きにどうぞ。失礼致します」
侍従長が引き止める声を無視してその場から再び走り出したアメリアは、魔導具の設置されている部屋に飛び込み、侯爵領で魔導具をかき集めて国境に転移した。
(流石に魔力が不足してきたわ。今日はもう転移は無理そう)
「お父様、わたくしがビルワーツ兵を率います。お父様はすぐに王宮へ!」
「セレナか!?」
「はい、今はもう⋯⋯でもギリギリで頑張っておられます。きっとお父様を待っておられるのです! クラブスアイの毒は呼吸不全になると最後なのです。解毒薬はなく、対処療法でさえ確立されていない⋯⋯わたくしが延命の可能性を探るよりも、お母様はお父様にそばに来て欲しいはず。
ここはわたくしが守ってみせますから、どうかお母様のお側に⋯⋯。
わたくしからの愛も全部持っていってくださいませ」
「アメリア⋯⋯すまん! 許せ」
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