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第三章
07.建国、ビルワーツ公国
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アメリア・ビルワーツ25歳。
両親を亡くした後ビルワーツ女侯爵となったアメリアは、アルムヘイル王国からの独立を宣言、政治体制を選挙君主制国家とするビルワーツ公国を建国した。
『絶対王政なんて無用の長物! 王の子が必ず国の為になる聡い子だとは限らないもの。どこかの国がそれを証明してるでしょう?』
アメリアが建国すると同時に、他国とは一線を引いているオーレリアが、軍事同盟の締結を公表した。
『ビルワーツ公国に手を出せば、オーレリアの魔導士軍団が動く』
各国が長年狙っていたオーレリアの後ろ盾を得たことで、ビルワーツ公国は小国ながら他国から一目置かれる存在となった。
因みに、オーレリアもビルワーツ公国と同様の選挙制君主国家だが、10年ごとに行われる選挙で最も強い魔導士が国王となる特殊な国。現国王はアメリアの遠縁エリオット・オルシーニ。
アメリアはまず初めに、新しく開発された転移の魔導具をビルワーツ公国とオーレリアに常設し、自国民であれば少額で使用可能とした。
この魔導具は空気中の魔素を変換し、宝石に溜めた込んだ魔力を使って転移を行う。
10数年をかけて開発されたこの魔導具は、多くの魔導具師が知恵を結集した特注品で、莫大な開発費用は全てビルワーツの資産から支払われている。
この魔導具のお陰でビルワーツ公国は以前より活気にあふれ、服装や料理などに変化が現れた。
ビルワーツ公国の中には魔導具が溢れ、オーレリアの魔導ランプと魔導コンロは生産が追いついていない。オーレリアでは当たり前に走っている魔導汽車も導入予定で、専用の線路が引かれる計画が進んでいる。
オーレリアは魔法の媒体に使うために小粒の宝石を大量に輸入、空気中の魔素を使う魔導具の研究に拍車がかかった。
アメリアの予想通り、シリンダーオルゴールが使われた時計台は観光名所になり、各国から集まっていたオルゴール職人と時計職人の技術を習うために、魔導具師が長期滞在するようになり、街は益々活気づいていく。
ビルワーツ公国は隣接する連合王国へ関税引き上げを通達し、入出国を制限するとオーレリアがこれに同調した。ビルワーツの独立に関わったハザラスを含む4部族が、経済が停滞しはじめた連合王国の中で立場を失っていくのはすぐ先の話。
アルムヘイル王国とクレベルン王国と帝国の3国とは国交を断絶。商人や一般人の入国さえ拒否する徹底ぶりは、アメリア達の怒りを感じさせた。
アメリアはビルワーツ公国建国と同時に、アルムヘイル王国に対し貸付金の全額返済を求める正式文書を送りつけた。支払い期限は1年。
『キャロライン妃が亡くなられ、支払いを10年据え置きすると言う契約は無効となりましたし⋯⋯王家と契約を交わした侯爵家が独立した事で、納税と相殺の文言は意味をなさなくなりましたもの』
1年以内に全額返済がなされなかった場合、月10%の利息。2年以内に完済しない場合、国際裁判所への提訴又は武力行使も辞さないと宣言した。
アルムヘイル王国は払えるわけがないと騒ぎ立て、何度も使者を送って来たが、公国は情状酌量の余地もなく、完全拒否の姿勢を貫いた。
ビルワーツの鉱山を手に入れて、贅沢三昧する野望はランドルフの妄想で終わり、クレベルン王国からは支援なしで、監視が送り込まれるのみ。『王位簒奪した托卵王』と蔑まれつつも、本人は最愛のジュリエッタと共にこの世の春を満喫している。
帝国からの支援頼りに逆戻りしたアルムヘイル王国の国庫は崩壊寸前で、ビルワーツの慈悲に縋るしかない状況に追いやられていた。
1回目の使者、財務大臣には⋯⋯。
『帝国へのご配慮の賜物でしょうか、元王妃様もご存命で、帝国からの支援は継続のまま。クレベルン王国と連合王国と共闘して王位簒奪し、即位された国王陛下がおられるのですから、将来を見越した計画くらい立てておいででしょう?
良い後ろ盾がおられるようで、安心して支払っていただけますわ』
2回目の使者、デクスターには⋯⋯。
『国王陛下が皇帝の血を受け継いでおられるのだけは、間違いありませんもの。さぞ良い後ろ盾になってくださっているのでは?
国王ご夫妻は、北の塔の元王妃殿下と日々楽しく交流しておられますし、良いお知恵をお貸しくださっているかもしれませんわね』
3回目の使者、ハミルトン大将には⋯⋯。
『我が両親を含めマクベス元国王・キャロライン妃・宰相閣下・内務大臣の御命を奪った輩は、恩赦で無罪放免になったと聞き及んでおります。
それほどまでに広い御心をお持ちの国王陛下の治められる国ですもの、建国したばかりの小国への支払いを拒否されるはずがございません。
国内で暴動を起こした民には恩赦がなく、厳しい処分をなされたそうですから、国王陛下なりの正義がおありなのでしょう。
借りた物は返す⋯⋯3歳児でも知っているルールが、国王陛下なりの正義の中に入っているか、確認されては如何かしら』
4回目の使者、侍従長には⋯⋯。
『我が国の法では、自国の民と国土を守る事を第一義としておりますが、アルムヘイル王国では、いかなる理由があろうと国法が最優先。
確かアルムヘイル王国の国法では借金を返済できない事は罪にはならず、借金を返済しない事は詐欺罪となる⋯⋯豪華な御衣装や高価な貴金属などを買い漁る方は『返済できない』には含まれないはずですわ。
王位継承に王の血は不要だと、秘密裏に国法を捻じ曲げられたようですが、国法が最優先の国らしく払っていただきませんとね』
国王夫妻は優雅にお茶を飲み遊興三昧で、毎日仕立て屋と宝飾店を呼びつける⋯⋯頭を抱えていた官僚達は、次第にやる気を失っていった。
『昔に戻りましたな』
『侍従長達に責任をとっていたいだくしか道はありますまい』
帝国に追加支援を依頼し、クレベルン王国とディクセン・トリアリア連合王国へも支援を要請したが、いずれも婉曲な断りを入れてきた。
頼る術のないアルムヘイル王国は、給与の引き下げと税の引き上げに踏み切り、国民や商会は王国に見切りをつけた。
「国王夫妻と王女は贅沢三昧だってよ」
「昔に逆戻りだね」
「国がビルワーツ侯爵夫妻が殺された責任をとってればなあ」
マクベス国王の元、職務に励んでいた官僚はやる気をなくし退職するものが増え、王宮は一時期のような人手不足に陥りはじめた。
閑散とした商店街には空き店舗が増えはじめ、荒れはじめた平民街には破落戸が闊歩している。
門を固く閉めた貴族街は騎士団の警備が厳しくなったが、警備中に空き巣や窃盗を行うせいで治安は悪くなるばかり。
「俺達はどこに逃げればいいんだ?」
「俺はビルワーツ公国へ行く。移民の審査は厳しいが、許可が出たらあそこが一番だからな」
「俺は一か八か帝国に行ってみる。皇帝はアレだが皇太子は真面らしいしな」
「クレベルン王国とディクセン・トリアリア連合王国だけはやめとこうぜ」
夫ニール・ビルワーツ27歳。
ビルワーツ侯爵領が連合王国の武闘派部族から侵略を受けると知った時、恐怖心から実家に逃げ帰ったかなり残念な男。
戦い慣れしていないニールが、ビルワーツ領から逃げ出した時は『仕方ない』と諦めたアメリアだったが、その後両親の葬儀にも帰って来ず、愛人と遊び呆け子供まで作っていたと知りニールを見限った。
「子供を作るしか能がないなら、それ以外は不要! 養子縁組は取り消し、全ての権利は剥奪⋯⋯離婚したくないならそれが最低条件!
離婚を望むならすぐに出て行って、愛人と一緒に平民になれば宜しくてよ!」
離婚届と、侯爵家に対する一切の権利を放棄する書類が、ニールの前に並べられた。
「どちらか好きな方を選べばいいわ。代わりはいくらでも見つかりますもの」
国の為に奔走している間に両親を無惨に殺され、アメリアの心に寄り添うことさえしなかったニールへ向けて、最後通牒が突きつけられた。
ニールはビルワーツに残ることを選びアメリアは妊娠。ニールは僅かな予算から愛人の生活費と養育費をまかない、離れで一人暮らすことになった。
アルムヘイル王国に公文書を送ってから、1年の間に貸付金はある程度は返済された。
「これ以上は無理で、期日の変更をお願いしに参りました。ほんの少し前まではアルムヘイルの貴族だったわけですし。そのあたりはほれ、なんと言いましたかな⋯⋯ああ、そうそう。持ちつ持たれつと言うやつです」
新しく財務大臣に就任した元クレベルン王国の貴族は、上から目線で『期日を変更して当然』と言い切った。
「では、来月より10%の利息がつきますので、毎月の返済額と一緒にお支払いください」
大臣の言葉を完全に無視したアメリアが杓子定規な返答をすると、公国の財務大臣が支払い計画書をテーブルの上に置いた。
「利息はそれだけでもかなりの金額になりますので、お早めの返済をされた方が宜しいかと」
テーブルにのしかかるようにして金額を確認した財務大臣が、目を吊り上げて怒鳴りはじめた。
「な! こ! こんな! 詐欺だ! ええ、ええ。これは間違いなく詐欺事件ですぞ」
「では、国際裁判所へ提訴いたしましょう。アルムヘイル王国からは詐欺罪、公国からは名誉毀損ですわ。
それから、持ちつ持たれつと仰られましたけれど、ビルワーツでは何一つ王国に『持って』いただいたことなどございませんの。歴史のおさらいをなさった方が宜しいようですわね」
2ヶ月後、アルムヘイル王国は支払いができないと国際裁判所へ申し立てたが、国王夫妻と王女の予算額や追加予算として計上された金額が公になり、全額支払い可能と判決がおりた。
エロイーズやランドルフ達が隠し持っていた⋯⋯美術品・国宝・別荘・船・貴金属などが接収され、不足分として国土が分割譲渡されたが、その大半はクレベルン王国へ売りつけた。
『クレベルン王国の手垢のついた領主や領民など危険すぎですもの。その他の方々も、審査してからでなければ受け入れ不可ですわ。お嫌ならお引っ越しなさいませ』
「羽ペン屋敷を丸ごと転移できる魔法ってないのかしら」
両親を亡くした後ビルワーツ女侯爵となったアメリアは、アルムヘイル王国からの独立を宣言、政治体制を選挙君主制国家とするビルワーツ公国を建国した。
『絶対王政なんて無用の長物! 王の子が必ず国の為になる聡い子だとは限らないもの。どこかの国がそれを証明してるでしょう?』
アメリアが建国すると同時に、他国とは一線を引いているオーレリアが、軍事同盟の締結を公表した。
『ビルワーツ公国に手を出せば、オーレリアの魔導士軍団が動く』
各国が長年狙っていたオーレリアの後ろ盾を得たことで、ビルワーツ公国は小国ながら他国から一目置かれる存在となった。
因みに、オーレリアもビルワーツ公国と同様の選挙制君主国家だが、10年ごとに行われる選挙で最も強い魔導士が国王となる特殊な国。現国王はアメリアの遠縁エリオット・オルシーニ。
アメリアはまず初めに、新しく開発された転移の魔導具をビルワーツ公国とオーレリアに常設し、自国民であれば少額で使用可能とした。
この魔導具は空気中の魔素を変換し、宝石に溜めた込んだ魔力を使って転移を行う。
10数年をかけて開発されたこの魔導具は、多くの魔導具師が知恵を結集した特注品で、莫大な開発費用は全てビルワーツの資産から支払われている。
この魔導具のお陰でビルワーツ公国は以前より活気にあふれ、服装や料理などに変化が現れた。
ビルワーツ公国の中には魔導具が溢れ、オーレリアの魔導ランプと魔導コンロは生産が追いついていない。オーレリアでは当たり前に走っている魔導汽車も導入予定で、専用の線路が引かれる計画が進んでいる。
オーレリアは魔法の媒体に使うために小粒の宝石を大量に輸入、空気中の魔素を使う魔導具の研究に拍車がかかった。
アメリアの予想通り、シリンダーオルゴールが使われた時計台は観光名所になり、各国から集まっていたオルゴール職人と時計職人の技術を習うために、魔導具師が長期滞在するようになり、街は益々活気づいていく。
ビルワーツ公国は隣接する連合王国へ関税引き上げを通達し、入出国を制限するとオーレリアがこれに同調した。ビルワーツの独立に関わったハザラスを含む4部族が、経済が停滞しはじめた連合王国の中で立場を失っていくのはすぐ先の話。
アルムヘイル王国とクレベルン王国と帝国の3国とは国交を断絶。商人や一般人の入国さえ拒否する徹底ぶりは、アメリア達の怒りを感じさせた。
アメリアはビルワーツ公国建国と同時に、アルムヘイル王国に対し貸付金の全額返済を求める正式文書を送りつけた。支払い期限は1年。
『キャロライン妃が亡くなられ、支払いを10年据え置きすると言う契約は無効となりましたし⋯⋯王家と契約を交わした侯爵家が独立した事で、納税と相殺の文言は意味をなさなくなりましたもの』
1年以内に全額返済がなされなかった場合、月10%の利息。2年以内に完済しない場合、国際裁判所への提訴又は武力行使も辞さないと宣言した。
アルムヘイル王国は払えるわけがないと騒ぎ立て、何度も使者を送って来たが、公国は情状酌量の余地もなく、完全拒否の姿勢を貫いた。
ビルワーツの鉱山を手に入れて、贅沢三昧する野望はランドルフの妄想で終わり、クレベルン王国からは支援なしで、監視が送り込まれるのみ。『王位簒奪した托卵王』と蔑まれつつも、本人は最愛のジュリエッタと共にこの世の春を満喫している。
帝国からの支援頼りに逆戻りしたアルムヘイル王国の国庫は崩壊寸前で、ビルワーツの慈悲に縋るしかない状況に追いやられていた。
1回目の使者、財務大臣には⋯⋯。
『帝国へのご配慮の賜物でしょうか、元王妃様もご存命で、帝国からの支援は継続のまま。クレベルン王国と連合王国と共闘して王位簒奪し、即位された国王陛下がおられるのですから、将来を見越した計画くらい立てておいででしょう?
良い後ろ盾がおられるようで、安心して支払っていただけますわ』
2回目の使者、デクスターには⋯⋯。
『国王陛下が皇帝の血を受け継いでおられるのだけは、間違いありませんもの。さぞ良い後ろ盾になってくださっているのでは?
国王ご夫妻は、北の塔の元王妃殿下と日々楽しく交流しておられますし、良いお知恵をお貸しくださっているかもしれませんわね』
3回目の使者、ハミルトン大将には⋯⋯。
『我が両親を含めマクベス元国王・キャロライン妃・宰相閣下・内務大臣の御命を奪った輩は、恩赦で無罪放免になったと聞き及んでおります。
それほどまでに広い御心をお持ちの国王陛下の治められる国ですもの、建国したばかりの小国への支払いを拒否されるはずがございません。
国内で暴動を起こした民には恩赦がなく、厳しい処分をなされたそうですから、国王陛下なりの正義がおありなのでしょう。
借りた物は返す⋯⋯3歳児でも知っているルールが、国王陛下なりの正義の中に入っているか、確認されては如何かしら』
4回目の使者、侍従長には⋯⋯。
『我が国の法では、自国の民と国土を守る事を第一義としておりますが、アルムヘイル王国では、いかなる理由があろうと国法が最優先。
確かアルムヘイル王国の国法では借金を返済できない事は罪にはならず、借金を返済しない事は詐欺罪となる⋯⋯豪華な御衣装や高価な貴金属などを買い漁る方は『返済できない』には含まれないはずですわ。
王位継承に王の血は不要だと、秘密裏に国法を捻じ曲げられたようですが、国法が最優先の国らしく払っていただきませんとね』
国王夫妻は優雅にお茶を飲み遊興三昧で、毎日仕立て屋と宝飾店を呼びつける⋯⋯頭を抱えていた官僚達は、次第にやる気を失っていった。
『昔に戻りましたな』
『侍従長達に責任をとっていたいだくしか道はありますまい』
帝国に追加支援を依頼し、クレベルン王国とディクセン・トリアリア連合王国へも支援を要請したが、いずれも婉曲な断りを入れてきた。
頼る術のないアルムヘイル王国は、給与の引き下げと税の引き上げに踏み切り、国民や商会は王国に見切りをつけた。
「国王夫妻と王女は贅沢三昧だってよ」
「昔に逆戻りだね」
「国がビルワーツ侯爵夫妻が殺された責任をとってればなあ」
マクベス国王の元、職務に励んでいた官僚はやる気をなくし退職するものが増え、王宮は一時期のような人手不足に陥りはじめた。
閑散とした商店街には空き店舗が増えはじめ、荒れはじめた平民街には破落戸が闊歩している。
門を固く閉めた貴族街は騎士団の警備が厳しくなったが、警備中に空き巣や窃盗を行うせいで治安は悪くなるばかり。
「俺達はどこに逃げればいいんだ?」
「俺はビルワーツ公国へ行く。移民の審査は厳しいが、許可が出たらあそこが一番だからな」
「俺は一か八か帝国に行ってみる。皇帝はアレだが皇太子は真面らしいしな」
「クレベルン王国とディクセン・トリアリア連合王国だけはやめとこうぜ」
夫ニール・ビルワーツ27歳。
ビルワーツ侯爵領が連合王国の武闘派部族から侵略を受けると知った時、恐怖心から実家に逃げ帰ったかなり残念な男。
戦い慣れしていないニールが、ビルワーツ領から逃げ出した時は『仕方ない』と諦めたアメリアだったが、その後両親の葬儀にも帰って来ず、愛人と遊び呆け子供まで作っていたと知りニールを見限った。
「子供を作るしか能がないなら、それ以外は不要! 養子縁組は取り消し、全ての権利は剥奪⋯⋯離婚したくないならそれが最低条件!
離婚を望むならすぐに出て行って、愛人と一緒に平民になれば宜しくてよ!」
離婚届と、侯爵家に対する一切の権利を放棄する書類が、ニールの前に並べられた。
「どちらか好きな方を選べばいいわ。代わりはいくらでも見つかりますもの」
国の為に奔走している間に両親を無惨に殺され、アメリアの心に寄り添うことさえしなかったニールへ向けて、最後通牒が突きつけられた。
ニールはビルワーツに残ることを選びアメリアは妊娠。ニールは僅かな予算から愛人の生活費と養育費をまかない、離れで一人暮らすことになった。
アルムヘイル王国に公文書を送ってから、1年の間に貸付金はある程度は返済された。
「これ以上は無理で、期日の変更をお願いしに参りました。ほんの少し前まではアルムヘイルの貴族だったわけですし。そのあたりはほれ、なんと言いましたかな⋯⋯ああ、そうそう。持ちつ持たれつと言うやつです」
新しく財務大臣に就任した元クレベルン王国の貴族は、上から目線で『期日を変更して当然』と言い切った。
「では、来月より10%の利息がつきますので、毎月の返済額と一緒にお支払いください」
大臣の言葉を完全に無視したアメリアが杓子定規な返答をすると、公国の財務大臣が支払い計画書をテーブルの上に置いた。
「利息はそれだけでもかなりの金額になりますので、お早めの返済をされた方が宜しいかと」
テーブルにのしかかるようにして金額を確認した財務大臣が、目を吊り上げて怒鳴りはじめた。
「な! こ! こんな! 詐欺だ! ええ、ええ。これは間違いなく詐欺事件ですぞ」
「では、国際裁判所へ提訴いたしましょう。アルムヘイル王国からは詐欺罪、公国からは名誉毀損ですわ。
それから、持ちつ持たれつと仰られましたけれど、ビルワーツでは何一つ王国に『持って』いただいたことなどございませんの。歴史のおさらいをなさった方が宜しいようですわね」
2ヶ月後、アルムヘイル王国は支払いができないと国際裁判所へ申し立てたが、国王夫妻と王女の予算額や追加予算として計上された金額が公になり、全額支払い可能と判決がおりた。
エロイーズやランドルフ達が隠し持っていた⋯⋯美術品・国宝・別荘・船・貴金属などが接収され、不足分として国土が分割譲渡されたが、その大半はクレベルン王国へ売りつけた。
『クレベルン王国の手垢のついた領主や領民など危険すぎですもの。その他の方々も、審査してからでなければ受け入れ不可ですわ。お嫌ならお引っ越しなさいませ』
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