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リリアーナ
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一月
ーーーーーー
1月5日に、クリスマスシーズンが終わった。年末の断罪劇から、未だ興味本位で騒ぎ立てる者達が多く、アイラは屋敷に閉じこもっている。
以前より益々増えた招待状や、訪問客に辟易しながらも、屋敷の中は少しずつ落ち着きを取り戻つつある。
(早く領地に戻らなきゃいけないんだけど)
陛下にお礼状を届けた翌日。王妃からの招待状が届いた。正確に言えば、リリアーナ王女からの招待だ。10日の午後に王宮へと書かれていた。
一月末に行われる建国記念祝賀会の事を考えると、領地に帰っても直ぐに王都へ蜻蛉返りすることになる。
(せめてもう少し早い日の招待なら、一度領地に帰るんだけど)
ウィルソンがやって来て、来客の先触れがあったと告げた。
「今日はどなた?」
アイラがうんざりしながら聞いた。
「トマス様です」
「先日もいらっしゃったのに?」
「山の様に届く釣書に、対抗する為ではありませんか?」
「ウィルソン、揶揄わないで。この間トマス様は、陛下や王妃様に当面再婚する気はないって仰ってたわ」
「それが本心かどうか、お聞きになられたのですか?」
「聞かないわ。私には関係ないもの」
「では、釣書の中に気になる方が?」
「いないし、再婚の予定もありません。ウィルソン、いい加減にしてちょうだい」
「アイラ様、またウィルソンと喧嘩ですか?」
ソフィアがやって来たが、2人を見て笑っている。
「ウィルソンがしつこいのよ。トマス様がいらっしゃるから準備しなくちゃ。ウィルソンは出て行ってちょうだい」
「畏まりました」
慇懃無礼な態度で出て行くウィルソン。
「ウィルソンはどうしてあんなに機嫌が悪いのかしら。ソフィア、何か聞いてる?」
「いいえ、放っておきましょう。これに懲りて、少しは正直になれば良いんですから」
「?」
トマスは、ポーレット公爵夫妻と一緒に訪ねて来た。
「アイラに会いに行くと言ったら、ジョージ達が是非一緒にと言うのでお連れしたんだ。
隣国から新しいタペストリーが届いたので、誘いに来たんだ。それ程大きな物ではないんだが、今度見に来たらどうかと思って」
「ありがとうございます。是非」
ポーレット公爵達は、事件に気付かなかった事を詫び、アイラを労ってくれた。月末の祝賀会前に、是非お茶会をと誘ってトマスと共に帰って行った。
「はぁ」
アイラは馬車の中で、大きな溜息をついた。
「アイラ様?」
「リリアーナ様や王妃様にお会いするのは楽しみなのよ。とっても素敵な方だし。ただ、王宮って緊張するの。とんでもないヘマをしてしまいそう」
「大丈夫ですよ。アイラ様はマナーもしっかりしておられますから、肩の力を抜いて」
「そうね、大丈夫。次の祝賀会で最後だもの。それが終わったら領地に帰って二度と王都には出てこないわ」
「それではリリアが、がっかりしますね」
ソフィアが笑っている。
今日は冬晴れで暖かく、案内されたガーデンルームは四面の作りでゆったりとした空間が広がっている。片側に収納棚があり、王女のお気に入りの人形が飾られている。
「お久しぶりです。アイラ様」
「お招きいただき、ありがとうございます」
今日の王女は、レースの襟とウエストに白いリボンがついた淡いピンクのドレス姿。とても良く似合っており、ゆっくりとしたカーテシーで微笑んでいる。
「今日はリリアーナのお作法のお勉強も兼ねているの。おかしな事をしたら、どんどん指摘してね」
「お母様、酷い。内緒のお約束ですわ」
「貴女が授業をさぼったのがいけないのでしょう?」
「だって、お庭に猫が入り込んでいましたの。こんなに寒いのだから、助けてあげなくては」
「やあ、リリアーナは今日も母上と戦っているのかい?」
「お兄様、お仕事は終わられたのですか?」
「少し休憩かな」
王子が2人揃って、ガーデンルームに入って来た。
簡単な挨拶を交わした後、先日の国王裁判の話になった。第一王子は陛下の側に控えていたそうで、とても良い勉強になったと仰られた。
「アイラ様は、領地経営といい今回の事といい、他の貴族の方とは随分違っておられるのですね。あっ、勿論良い意味でです」
「私も、アイラ様は格好良くて素晴らしいと思います」
「ありがとうございます。でも、執事や侍女にはしょっちゅうお小言を言われています」
「良かった、アイラ様もですのね」
「リリアーナ」
王妃と2人の王子が、揃って溜息をついた。
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1月5日に、クリスマスシーズンが終わった。年末の断罪劇から、未だ興味本位で騒ぎ立てる者達が多く、アイラは屋敷に閉じこもっている。
以前より益々増えた招待状や、訪問客に辟易しながらも、屋敷の中は少しずつ落ち着きを取り戻つつある。
(早く領地に戻らなきゃいけないんだけど)
陛下にお礼状を届けた翌日。王妃からの招待状が届いた。正確に言えば、リリアーナ王女からの招待だ。10日の午後に王宮へと書かれていた。
一月末に行われる建国記念祝賀会の事を考えると、領地に帰っても直ぐに王都へ蜻蛉返りすることになる。
(せめてもう少し早い日の招待なら、一度領地に帰るんだけど)
ウィルソンがやって来て、来客の先触れがあったと告げた。
「今日はどなた?」
アイラがうんざりしながら聞いた。
「トマス様です」
「先日もいらっしゃったのに?」
「山の様に届く釣書に、対抗する為ではありませんか?」
「ウィルソン、揶揄わないで。この間トマス様は、陛下や王妃様に当面再婚する気はないって仰ってたわ」
「それが本心かどうか、お聞きになられたのですか?」
「聞かないわ。私には関係ないもの」
「では、釣書の中に気になる方が?」
「いないし、再婚の予定もありません。ウィルソン、いい加減にしてちょうだい」
「アイラ様、またウィルソンと喧嘩ですか?」
ソフィアがやって来たが、2人を見て笑っている。
「ウィルソンがしつこいのよ。トマス様がいらっしゃるから準備しなくちゃ。ウィルソンは出て行ってちょうだい」
「畏まりました」
慇懃無礼な態度で出て行くウィルソン。
「ウィルソンはどうしてあんなに機嫌が悪いのかしら。ソフィア、何か聞いてる?」
「いいえ、放っておきましょう。これに懲りて、少しは正直になれば良いんですから」
「?」
トマスは、ポーレット公爵夫妻と一緒に訪ねて来た。
「アイラに会いに行くと言ったら、ジョージ達が是非一緒にと言うのでお連れしたんだ。
隣国から新しいタペストリーが届いたので、誘いに来たんだ。それ程大きな物ではないんだが、今度見に来たらどうかと思って」
「ありがとうございます。是非」
ポーレット公爵達は、事件に気付かなかった事を詫び、アイラを労ってくれた。月末の祝賀会前に、是非お茶会をと誘ってトマスと共に帰って行った。
「はぁ」
アイラは馬車の中で、大きな溜息をついた。
「アイラ様?」
「リリアーナ様や王妃様にお会いするのは楽しみなのよ。とっても素敵な方だし。ただ、王宮って緊張するの。とんでもないヘマをしてしまいそう」
「大丈夫ですよ。アイラ様はマナーもしっかりしておられますから、肩の力を抜いて」
「そうね、大丈夫。次の祝賀会で最後だもの。それが終わったら領地に帰って二度と王都には出てこないわ」
「それではリリアが、がっかりしますね」
ソフィアが笑っている。
今日は冬晴れで暖かく、案内されたガーデンルームは四面の作りでゆったりとした空間が広がっている。片側に収納棚があり、王女のお気に入りの人形が飾られている。
「お久しぶりです。アイラ様」
「お招きいただき、ありがとうございます」
今日の王女は、レースの襟とウエストに白いリボンがついた淡いピンクのドレス姿。とても良く似合っており、ゆっくりとしたカーテシーで微笑んでいる。
「今日はリリアーナのお作法のお勉強も兼ねているの。おかしな事をしたら、どんどん指摘してね」
「お母様、酷い。内緒のお約束ですわ」
「貴女が授業をさぼったのがいけないのでしょう?」
「だって、お庭に猫が入り込んでいましたの。こんなに寒いのだから、助けてあげなくては」
「やあ、リリアーナは今日も母上と戦っているのかい?」
「お兄様、お仕事は終わられたのですか?」
「少し休憩かな」
王子が2人揃って、ガーデンルームに入って来た。
簡単な挨拶を交わした後、先日の国王裁判の話になった。第一王子は陛下の側に控えていたそうで、とても良い勉強になったと仰られた。
「アイラ様は、領地経営といい今回の事といい、他の貴族の方とは随分違っておられるのですね。あっ、勿論良い意味でです」
「私も、アイラ様は格好良くて素晴らしいと思います」
「ありがとうございます。でも、執事や侍女にはしょっちゅうお小言を言われています」
「良かった、アイラ様もですのね」
「リリアーナ」
王妃と2人の王子が、揃って溜息をついた。
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