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リューベック
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七月 一部不快な表現が出てきます
ーーーーーー
リューベックはホットスパーから北におよそ7マイル。オレルアンとタラゴアを結ぶ宿場町として、かなりの賑わいをみせている。街の中心にある広場から、四方に伸びる路地には多くの店が立ち並び、雑多な人達が行き交っていた。
酒場から肉や魚の焼ける香ばしい香りが漂い、赤やピンクの華やかなゼラニウムを飾った2階の出窓からは、派手なドレスの女達が道行く男達を誘っている。
夕闇が辺りを染める頃、ヘンリーは走り去る馬車を避けながら、一軒の酒場に入っていった。
「去年の12月か今年の1月? 覚えてねぇなあ。この辺りはどんどん人が入れ替わるんだ、特に下働きなんてあっという間にいなくなるからよ。下手したら3日もせずに、店の酒をくすねていなくなっちまう。よっぽどなんかやらかしたとかなけりゃ覚えてないね」
バイオレットが勤めていた踊る黒馬亭の主人は、面倒臭そうに答えた。
「バイオレット? あのアバズレなら覚えてるぜ。しょっちゅう客と揉めて店で暴れやがって、その度にこっちは大損だよ。どっかのマヌケと結婚するって聞いたときゃ、踊り出しそうになったぜ。あれが確か2月の末頃か?」
「バイオレットと仲の良かった奴? んなのいねぇよ。女は敵で、男は下僕か金蔓とでも思ってたんじゃねぇか? いつでも自分が一番ってね」
「あの頃ねぇ・・、おいロブ指無しがいたのっていつ頃だったか覚えてるか?」
カウンターの中から怒鳴った。
「指無し? ありゃ冬のうちにいなくなったんじゃなかったっけ?」
「本当に指がないわけじゃねえんだけどよ、左手の薬指だけ曲げてて、んで指無しって呼んでた。あいつら名前覚えても、どうせ直ぐいなくなるからな」
ヘンリーがリューベックから帰ってきた。
「バイオレットを唆したのは、その男で間違いないのか?」
ウィルソンがヘンリーに確認した。
「間違いありません。次の日ホットスパーに戻ってバイオレットに確認したら、何かっこつけてるんだ? って思ってたって笑ってました」
「そいつの人相は?」
「濃い茶色の髪で目の色は薄いグレー。エラが少し張っていて、下から睨めつけるように見上げてくるのが気持ち悪かった。後、少し猫背気味の男だそうです」
「バイオレットはよくそんな奴と話をする気になったよな」
ギータが疑問を口にする。
「バイオレットの言葉で言うと、こっちを気持ちよくさせる言葉を知ってる男だそうです」
ウィルソンは両手を組み、眉間に皺を寄せ何かを考えている。その様子を横目で見たギータは、
「ありがとうヘンリー。ウィルソンは・・この状態だから俺から礼を言う。疲れただろう、2、3日しっかり休んでくれ」
「何かあればいつでも声をかけてください。失礼します」
ヘンリーは部屋を出ていった。
「ウィルソン、どう思う?」
「早すぎる」
「何がだ?」
「1月に奴はホットスパーにいた。1月の終わり頃リューベックでバイオレットを唆してる。そして2月4日大旦那様の事故。あまりにも早すぎないか? まるで全て準備してあったみたいだ」
「秋の終わり頃だったと思う。まだそれほど寒くない頃だったから多分去年の10月頃、あの時のデイビッドは余裕綽々だった。帰ってきた時は借金取りの話で激怒していたが、次の日にはご機嫌で、アイラ様にお父上に話をするよう言ってたんだ。それからほんの3ヶ月足らずで、指無しはホットスパーにいた。それからたったの1ヶ月で、大旦那様達は殺された。早すぎると思わないか?」
「他にも誰かいるってことか?」
「いや、目撃証言のどれもが共通してる。1人の男だとしか」
「だとしたら確かに早すぎるな。大旦那様の事故を画策して、証拠隠滅用のウォルターを見つけて実行。その短期間じゃ無理があるな」
「恐らく奴は前々から準備をしていたんだ。大旦那様達を殺して、証拠を隠滅する方法を。ホットスパーの自警団を探ってウォルターに狙いをつけた。ウォルターはしょっちゅうリューベックの酒場に行って、バイオレットに入れ上げてるが、相手にされていない。だから上手くやれば金で釣れる。大旦那様の別宅や厩の状況も確認して、それからデイビッドが落ちてくるのを待つ。デイビッドがいなければ、大旦那様を呼び出せないからな。そう言えば、デイビッドは10月末頃、カジノで負けて借金が膨れ上がったんだ」
「奴の狙いはなんだ?」
「分からない、少なくとも爵位ではないな」
「ウィルソン、アイラ様にこの話は?」
「いや、怪我が治ったばかりだし、今はやめておこう。バイオレットをどこか安全な所に移しておきたい。ギータ、頼めるか?」
「あの女に関わるとか、嫌な役目だな」
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リューベックはホットスパーから北におよそ7マイル。オレルアンとタラゴアを結ぶ宿場町として、かなりの賑わいをみせている。街の中心にある広場から、四方に伸びる路地には多くの店が立ち並び、雑多な人達が行き交っていた。
酒場から肉や魚の焼ける香ばしい香りが漂い、赤やピンクの華やかなゼラニウムを飾った2階の出窓からは、派手なドレスの女達が道行く男達を誘っている。
夕闇が辺りを染める頃、ヘンリーは走り去る馬車を避けながら、一軒の酒場に入っていった。
「去年の12月か今年の1月? 覚えてねぇなあ。この辺りはどんどん人が入れ替わるんだ、特に下働きなんてあっという間にいなくなるからよ。下手したら3日もせずに、店の酒をくすねていなくなっちまう。よっぽどなんかやらかしたとかなけりゃ覚えてないね」
バイオレットが勤めていた踊る黒馬亭の主人は、面倒臭そうに答えた。
「バイオレット? あのアバズレなら覚えてるぜ。しょっちゅう客と揉めて店で暴れやがって、その度にこっちは大損だよ。どっかのマヌケと結婚するって聞いたときゃ、踊り出しそうになったぜ。あれが確か2月の末頃か?」
「バイオレットと仲の良かった奴? んなのいねぇよ。女は敵で、男は下僕か金蔓とでも思ってたんじゃねぇか? いつでも自分が一番ってね」
「あの頃ねぇ・・、おいロブ指無しがいたのっていつ頃だったか覚えてるか?」
カウンターの中から怒鳴った。
「指無し? ありゃ冬のうちにいなくなったんじゃなかったっけ?」
「本当に指がないわけじゃねえんだけどよ、左手の薬指だけ曲げてて、んで指無しって呼んでた。あいつら名前覚えても、どうせ直ぐいなくなるからな」
ヘンリーがリューベックから帰ってきた。
「バイオレットを唆したのは、その男で間違いないのか?」
ウィルソンがヘンリーに確認した。
「間違いありません。次の日ホットスパーに戻ってバイオレットに確認したら、何かっこつけてるんだ? って思ってたって笑ってました」
「そいつの人相は?」
「濃い茶色の髪で目の色は薄いグレー。エラが少し張っていて、下から睨めつけるように見上げてくるのが気持ち悪かった。後、少し猫背気味の男だそうです」
「バイオレットはよくそんな奴と話をする気になったよな」
ギータが疑問を口にする。
「バイオレットの言葉で言うと、こっちを気持ちよくさせる言葉を知ってる男だそうです」
ウィルソンは両手を組み、眉間に皺を寄せ何かを考えている。その様子を横目で見たギータは、
「ありがとうヘンリー。ウィルソンは・・この状態だから俺から礼を言う。疲れただろう、2、3日しっかり休んでくれ」
「何かあればいつでも声をかけてください。失礼します」
ヘンリーは部屋を出ていった。
「ウィルソン、どう思う?」
「早すぎる」
「何がだ?」
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「他にも誰かいるってことか?」
「いや、目撃証言のどれもが共通してる。1人の男だとしか」
「だとしたら確かに早すぎるな。大旦那様の事故を画策して、証拠隠滅用のウォルターを見つけて実行。その短期間じゃ無理があるな」
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