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中弛み
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七月
ーーーーーー
7月に入り陽射しも強くなってきた。テラスから見える庭には、今日も色鮮やかな薔薇が咲き乱れており、庭の奥ではムクゲの木が、毎日新しい花を咲かせている。
庭に出られないアイラの為にと、3日に一度庭師が花を摘んできてくれる為、アイラの部屋も執務室も薔薇の香りで満たされている。
ホットスパーでの一件以来、アイラは領主館から出ることを禁止されている。領地の見回りは勿論禁止、代官や銀行家との話し合いは領主館の中、庭に出る事さえ出来ない。
アイラに出来るのは、ほんの短い時間テラスから庭を眺める事だけ。
「アイラ様、そろそろお部屋にお戻りください」
案の定ソフィアが声をかけてきた。素直に部屋に戻るがつい愚痴が出てしまった。
「一体いつまでこうしていなければならないのかしら。遠乗りに行きたいとは言わないけど、お庭を散歩するくらい」
「ウィルソンに聞いてみましょう。もう1か月近く経ちますし、屋敷の中ばかりでは息が詰まってしまいますね」
「みんなに心配をかけたのだから、我慢しなくちゃとは思うんだけど。報告は相変わらずで何も出てこないし」
「随分と狡猾な奴ですね。これだけ調べて何も出てこないなんて」
「リリアもごめんなさいね。長い間ご両親に会えてないでしょう?」
「全然問題ないです。それよりも、トスティさんにずっと護衛してもらってるのが申し訳なくて。うちに護衛って本当に必要なのかなって」
「刈り入れは終わったし、ご両親にこちらにきて貰っても良いのだけど、畑を放り出して来てくださいとは言えないし。リリアは気にしなくて大丈夫、トスティはご両親と楽しくやってるみたいだしね。さぁ、真面目にお仕事してきましょう。執務室で帳簿が待ってるわ。ずっと執務室にいるから、あなた達は自分の仕事をしてからで良いわよ」
アイラはにっこりと笑って部屋を出ていった。
帳簿の記帳をしていると、ペン先が折れてしまった。引き出しを開け、新しいペン先を探したが見つからない。ソフィアとリリアはまだ来ていなかったので、自分で備品室へ取りに行く事にした。
(備品室なら屋敷内だから良いわよね。すぐに戻るし)
廊下を抜け裏の階段を降りていく。
そう言えばこの階段は地下牢に続いているんだわ、ちょっと覗いてみようかしら。ウォルターは移送されてもういないのだしと、こっそりと階段を降りていく。
ひっそりと静まりかえった地下は、薄暗く不気味な雰囲気で、淀んだかび臭い匂いがした。
こんなところに閉じ込められたら怖そうだと思った時、後ろから頭に強い衝撃を受け、アイラは床に倒れ込んだ。薄らと男の靴が見えた直後に気を失った。
ウィルソンはアイラの自室にやってきて部屋を見回したが、ソフィアとリリアしかいない。
「アイラ様は?」
「執務室にいかれました」
「いや、執務室にはおられなかったのでこっちに来たんだが」
「アイラ様は30分くらい前に、ずっと執務室にいるからねっておっしゃってましたけど」
「屋敷内を探してくれ、俺は一度執務室に戻る」
ウィルソンは飛び出していった。
「ウィルソン、アイラ様がいない」
「俺は備品室を見てくる。机の上にあったペン先が折れてた。もしかしたらペン先の予備を、自分で取りにいかれたのかも」
そう言って走り出したウィルソンの後ろ姿を見ながら、
「私達ももう一度アイラ様を探しましょう。リリア、ギータに声を掛けて誰かに庭を探させて」
ソフィアが指示を出し一階へ降りていった。
「いない」
ウィルソンが真っ青な顔をしている。隣にいたギータが、
「ソフィア、リリア思い出してくれ。アイラ様は部屋を出る前に、何かおっしゃっていなかったか?」
「テラスから外を眺められて、その後遠乗りは無理だけど、たまには庭に出てみたいと」
「庭にはおられなかった」
ギータが首を振る。
「テラスにいる時、何処かから見られていたとしたら?」
「いや、テラスは庭に面していて、その向こうは高い壁だ。外から覗く事は出来ない。それにもし見張っていたとしても、アイラ様がいなくなった事とは関係ないと思う。アイラ様が屋敷の外に出たとは考えられない」
「だが屋敷の中にはおられないんだ」
ウィルソンは頭を掻きむしって部屋を彷徨いている。
「もう一度一から探し直してみよう。見落としがあるかも知れん。ソフィアは屋根裏から3階を頼む。リリアは2階を、ウィルソンお前は1階だ。俺は外を見てくる、そこら辺にいる奴全員に声をかけて、隅から隅まで調べるんだ」
全員が駆け出した。
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7月に入り陽射しも強くなってきた。テラスから見える庭には、今日も色鮮やかな薔薇が咲き乱れており、庭の奥ではムクゲの木が、毎日新しい花を咲かせている。
庭に出られないアイラの為にと、3日に一度庭師が花を摘んできてくれる為、アイラの部屋も執務室も薔薇の香りで満たされている。
ホットスパーでの一件以来、アイラは領主館から出ることを禁止されている。領地の見回りは勿論禁止、代官や銀行家との話し合いは領主館の中、庭に出る事さえ出来ない。
アイラに出来るのは、ほんの短い時間テラスから庭を眺める事だけ。
「アイラ様、そろそろお部屋にお戻りください」
案の定ソフィアが声をかけてきた。素直に部屋に戻るがつい愚痴が出てしまった。
「一体いつまでこうしていなければならないのかしら。遠乗りに行きたいとは言わないけど、お庭を散歩するくらい」
「ウィルソンに聞いてみましょう。もう1か月近く経ちますし、屋敷の中ばかりでは息が詰まってしまいますね」
「みんなに心配をかけたのだから、我慢しなくちゃとは思うんだけど。報告は相変わらずで何も出てこないし」
「随分と狡猾な奴ですね。これだけ調べて何も出てこないなんて」
「リリアもごめんなさいね。長い間ご両親に会えてないでしょう?」
「全然問題ないです。それよりも、トスティさんにずっと護衛してもらってるのが申し訳なくて。うちに護衛って本当に必要なのかなって」
「刈り入れは終わったし、ご両親にこちらにきて貰っても良いのだけど、畑を放り出して来てくださいとは言えないし。リリアは気にしなくて大丈夫、トスティはご両親と楽しくやってるみたいだしね。さぁ、真面目にお仕事してきましょう。執務室で帳簿が待ってるわ。ずっと執務室にいるから、あなた達は自分の仕事をしてからで良いわよ」
アイラはにっこりと笑って部屋を出ていった。
帳簿の記帳をしていると、ペン先が折れてしまった。引き出しを開け、新しいペン先を探したが見つからない。ソフィアとリリアはまだ来ていなかったので、自分で備品室へ取りに行く事にした。
(備品室なら屋敷内だから良いわよね。すぐに戻るし)
廊下を抜け裏の階段を降りていく。
そう言えばこの階段は地下牢に続いているんだわ、ちょっと覗いてみようかしら。ウォルターは移送されてもういないのだしと、こっそりと階段を降りていく。
ひっそりと静まりかえった地下は、薄暗く不気味な雰囲気で、淀んだかび臭い匂いがした。
こんなところに閉じ込められたら怖そうだと思った時、後ろから頭に強い衝撃を受け、アイラは床に倒れ込んだ。薄らと男の靴が見えた直後に気を失った。
ウィルソンはアイラの自室にやってきて部屋を見回したが、ソフィアとリリアしかいない。
「アイラ様は?」
「執務室にいかれました」
「いや、執務室にはおられなかったのでこっちに来たんだが」
「アイラ様は30分くらい前に、ずっと執務室にいるからねっておっしゃってましたけど」
「屋敷内を探してくれ、俺は一度執務室に戻る」
ウィルソンは飛び出していった。
「ウィルソン、アイラ様がいない」
「俺は備品室を見てくる。机の上にあったペン先が折れてた。もしかしたらペン先の予備を、自分で取りにいかれたのかも」
そう言って走り出したウィルソンの後ろ姿を見ながら、
「私達ももう一度アイラ様を探しましょう。リリア、ギータに声を掛けて誰かに庭を探させて」
ソフィアが指示を出し一階へ降りていった。
「いない」
ウィルソンが真っ青な顔をしている。隣にいたギータが、
「ソフィア、リリア思い出してくれ。アイラ様は部屋を出る前に、何かおっしゃっていなかったか?」
「テラスから外を眺められて、その後遠乗りは無理だけど、たまには庭に出てみたいと」
「庭にはおられなかった」
ギータが首を振る。
「テラスにいる時、何処かから見られていたとしたら?」
「いや、テラスは庭に面していて、その向こうは高い壁だ。外から覗く事は出来ない。それにもし見張っていたとしても、アイラ様がいなくなった事とは関係ないと思う。アイラ様が屋敷の外に出たとは考えられない」
「だが屋敷の中にはおられないんだ」
ウィルソンは頭を掻きむしって部屋を彷徨いている。
「もう一度一から探し直してみよう。見落としがあるかも知れん。ソフィアは屋根裏から3階を頼む。リリアは2階を、ウィルソンお前は1階だ。俺は外を見てくる、そこら辺にいる奴全員に声をかけて、隅から隅まで調べるんだ」
全員が駆け出した。
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