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101.大団円

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「ありがとう、シャーロットのお陰だわ!」

 六カ国会議から帰ってきた王妃に呼び出され、王妃の私室にやって来たアルフォンス公爵夫妻とモルガリウス侯爵夫妻。

 シャーロットがデザインしたドレスは案の定パーティーで注目を浴びた。

「バッスル・スタイルのドレスを着ている人はまだ少なかったの。最新流行のスタイルに興味津々で女性陣が集まったものだから、唐変木も『文化の遅れた国』だなんて言えなくなるだろうって張り切ってたの。ところが当日になって欠席だって連絡が来たんですって」

「ソルダート国内でクーデターが起きたと聞きました」

 会議の初日にクーデターが起こり急遽帰国した唐変木国王は、国に足を踏み入れた途端反乱軍によって拘束された。

「そうなの、悔しそうな顔を見たら『ざまぁ』って言ってやるつもりだったんだけど、それ以上のざまぁになったわね。
最後の夜はクリノリン・スタイルのドレスにして、これ見よがしにソルダート王国⋯⋯共和国内のダイヤモンド鉱山から出た大粒のダイヤをつけて、皇帝に挨拶してやったわ」

 スッキリしたと言わんばかりの王妃はよほど鬱憤がたまっていたのだろう。

「滞在中はケチをつけるソルダート国王もいなくて苦虫を噛み潰した顔の皇帝も何も言わなかったのよ」

 会議中はソルダート王国のクーデターの話ばかりに終始したと言う。他国の代表達との交流ではかなり好印象を感じたと言う王妃は、外貨獲得に向けて色々と根回しをしてきたらしく外務大臣が夜を徹して走り回っている。


「それに、メイラード王国からオブザーバーとして参加していた大臣とも交流できたのは大収穫」

 王太子は調整が出来次第メイラード王国に一年間留学に行くことになったという。

「メイラード王国に王女がいれば最高だったんだけど、そこまで欲張ったらバチが当たるわね。多分だけど、モルガリウス侯爵家が話を通しておいてくれたのでしょう?」

「さあ、それはどうでしょうか? なんにしろ、終わりよければ全て良しです」

 アーサーが右手を胸に当てて小さく頭を下げた。


「また、モルガリウスに貸しが増えてしまったわね。シャーロットにも無理をさせてしまったし、ジェロームに嫌われていない事を祈るわ」

「妻が健やかに暮らすことができてさえいれば、何の憂いもございません」

「⋯⋯勿論よ。時々手助けを依頼することはあっても、それ以外は望まないわ」

であれば)





「最後に残っていたテレーザだけど、薬物中毒の治療が終わって、終身刑で女子収容所に送られたよ」

 ジェロームは多くを語らなかったが、テレーザがどんな風に護送されて行ったのかシャーロットには簡単に想像できた。

(凄く暴れたんじゃないかしら。昔から、機嫌が悪くなると大変だったもの。それに反省とかできない子だし)

 シャーロットがいた頃より収容所の状況が改善されたと聞いたシャーロットは心から安堵の溜息を漏らした。

(苦しんで欲しいと思ってたわけじゃない。
ただ、二度と会いたくないだけ。公爵夫妻とテレーザは、私の中では『いない人』と同じだから)


『収容所内で問題行動があったと報告が来た場合は、調査の上でそれに応じた体罰が与えられることに変わったの。彼女に関してだけは、その程度の罰で終わるのが残念でならないって思うわ』

 パーティーで顰蹙を買うだけの過去を暴露した三馬鹿は、あれから直ぐに婚約破棄され家を追い出された。それぞれの家から謝罪と慰謝料が届けられているがまだシャーロットには言っていない。

(いつか本当にシャーロットの心の傷が癒えたら、大勢の人が心から謝っていたことを伝えるよ)

 16歳の時にはじまった婚約破棄と冤罪。

「漸く全てが終わったのね」





 今夜、王宮で今季最後の盛大なパーティーが開かれる。シャーロット達は朝から準備にかかりっきりになり、徹底的に磨き上げられた。

 肩から胸元が大きく開いた白いシルクシフォンに翠のリボンでアクセントをつけたクリノリン・スタイルのドレス姿をしたマリアンヌはいつもに増して妖精の国の姫君のよう。
 緩く結い上げ後ろに髷を作りリボンと花を飾っている。
 真珠とダイヤモンドのチョーカーの正面には大粒のエメラルド。


 身体のラインに沿った総レースのバッスル・スタイルのドレスを着ているエカテリーナは胸元となだらかなカーブを描く肩を大胆に見せ、ひどくセクシーで目が離せない。長く引いているトレーンはアンダードレスの金糸の模様が透けている。
 少し高めの位置に結い上げた髪に刺したエメラルドと真珠で作られた髪飾りが光に煌めいている。
 ドレスと共布のチョーカーには小粒のエメラルドと真珠が縫い込まれドロップ型のチャームが揺れていた。


 艶やかな濃い翠のドレスに重ねたオーバースカートはドレスと同色に染め上げたリバーレースをエプロン状に仕立てたドレス姿のシャーロットは、後ろに大きなリボンを結びトレーンを引いた優雅なバッスル・スタイル。
 ハーフアップにした銀色の長い髪の先は緩やかにうねり、途中から徐々に薄紫に染まっている。背に流れるリバーレースとサテンのリボンでできた長いベールは華やかな羽根や花で作られたファシネーターで留められていた。
 ピーコックグリーンの黒蝶真珠が二連になったチョーカーの正面には金の台座に埋め込まれたブルーイッシュグリーンのエメラルド。

 エカテリーナとシャーロットはロンググローブをつけ、三人は膝のあたりまで包み込む大きなストールを肩にかけた。

「戦闘準備は良いかしら?」

 ちゃめっ気たっぷりに笑ったエカテリーナと悪戯っ子のような満面の笑みを浮かべたマリアンヌが後ろを振り返った。

「シャーロット、行きますよ」

「はい」

 肩と胸元を大胆に晒したシャーロットはやや緊張気味に背を逸らした。


「アーサーはオロオロしはじめるわ」

「すごく楽しみです! 先ずはアンドリューを攻略しなくちゃいけませんね」

「私は⋯⋯少しも勝てる気がしません。部屋に逆戻りさせられそう」

 三者三様の予想をしながら階段を降りて行った。



「ストール?」

 嫌な予感にジェロームが眉間に皺を寄せた。

「せっかくのドレス姿を見せてくれないのかい?」

 いつも通り甘々のアンドリューがいそいそと近づいてきた。

「そうとも、シャーロットの新作のクリリンとバスなんとかだろ?」

 アーサーは相変わらずファッション用語は苦手らしい。



 エカテリーナがストールを外すと同時にマリアンヌとシャーロットもストールをとってドレス姿になった。

「「「な! 何だそれは!!」」」

「リーナ、それはダメだ。頼む、その姿を他の奴になんて⋯⋯」

「ストール、いや、俺のコートで包むぞ。誘拐されてしまうから」

「帰る!」



「新しい時代の幕開けに相応しいと言ってくださらないの?」

「「「無理! 絶対に無理!!」」」


「⋯⋯親子ですね」

「遺伝って怖い」

「あら、あなた達の息子にもその遺伝子が受け継がれてるのよ?」

「うっ!」

「ああ、そうでした⋯⋯」




「さあ、戦闘準備完了ね。みんなの度肝を抜いてやりましょう!!」

「「はい!」」

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