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97.愛が深過ぎる

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 すかさず運ばれてきたハーブティーを飲みながらシャーロットとジェロームが様子を伺っているとマリアンヌがガバッと立ち上がった。

「あの、あの。本当はアンドリューに先に言いたかった気もするんですが⋯⋯あか、赤ちゃんができまして、その!」

「「ええっ!!」」

 シャーロットとジェロームの声がシンクロした。

「まあ、おめでとう! 帰国してから体調が悪かったのはそのせいだったのかしら? 長旅なんてさせて可哀想なことをしたわ」

 気付かないふりをしていたエカテリーナはアンドリューが帰ってくるまでは黙っていようと思っていた。

「大丈夫です。お医者様が順調だって仰ってくださいましたから」

「まさか先に教えてもらえるなんて思ってもいなかったわ。アンドリューに泣かれるかしら」

「何年も子供ができなくて。でも、何も言わずにいて下さったお義母様には感謝の気持ちしかなくて、一日も早くお伝えたかったんです。
あの時シャーロットが助けてくれたのも凄くうれ、嬉しくて』

 石女だと蔑まれていた時のことを思い出したのか、話しの最後に感極まって泣き出したマリアンヌがエカテリーナに抱きついて鼻をすすった。

「ずびっ、ぼんどにありがとうごじゃにまじだ」

「辛かったわね。これからが大変なんだから無理をせずのんびりいきましょう」

「はい!」



「あの、実は俺も⋯⋯その」

「まあ大変! が妊娠だなんて世界初だわ」

「いや! シャーロットがですね。えっと、その」

 揶揄われて慌てふためくジェロームを女性陣の笑い声が包み込んだ。



「シャーロットを馬車に乗せたくないと言ってきた時から気付いてましたよ。マリアンヌだって本当は連れてきたくなかったの。それなのに無理やりついてくるから心配で心臓が破裂しそうでした」

 嬉しそうにマリアンヌの頭を撫でるエカテリーナは『妊娠すると甘えん坊になる人もいるのよね』と言いながら、マリアンヌの顔を拭いた。

「ほらほら、泣き虫さんのお顔が台無しだわ」


「シャーロットも甘えん坊にならないかな?」

 ジェロームの呟きにエカテリーナが吹き出した。

「ジェロームがもっと大人になれば甘えてもらえるようになりますよ。ソックスと喧嘩しているようではシャーロットが甘えたくても甘えられないわねえ」

 そういうものかなぁと首を傾げシャーロットの顔を覗き込んだジェロームは現在、絶賛お世話したい年頃邁進中。


「実は少し不安だったの。でも、シャーロットと一緒なら相談もできて安心だわ。
同い年なら一緒に遊ばせられるしね!」

「ええ、私も凄く嬉しいです。色々相談させて下さいね」

 母親になるのが不安なシャーロットだったが、側にはジェロームとエカテリーナがいるだけでなく妊婦仲間のマリアンヌまでいるなら怖いものなし。

(医師の診断を聞いてから不安で眠れなかった分、今夜はぐっすり眠れそうだわ)



 それから暫くして大量の赤ちゃんグッズを抱え滂沱の涙を流しながら帰国したアンドリューは⋯⋯。

「マリアンヌ! 一人にしてすまん。これからはずっと一緒にいるからな!!」

「え? ずっとは(暑苦しいから)遠慮かなぁ」

「ええーーー、そんな!」



 シャーロットの代わりに悪阻で苦しむジェロームがラバトリー 洗面所やトイレに駆け込んだり⋯⋯。

「うっ、も、もう無理!」

「何もつけていないトーストやビスケットは?」

「凄く眠いんだ。一緒に寝ようよ」


 大騒ぎする男達を横目に女性三人が呑気にハーブティーを楽しんだのは言うまでもない。

「全く、情けない奴らだな」

「あら、アーサーだってあのと⋯⋯」

「いや、言うな! も、もう昔のことだからな。過去を振り返るのは良くないぞ」

((やっぱりお義父様も⋯⋯遺伝って怖い))

 シャーロットとマリアンヌが揃って遠い目をしていた。

 毎晩のように『マリアンヌに似てくれ』とお腹に向けて呟くアンドリューの姿が『まるで呪っているみたい』だと言われながら、秋の日差しの中マリアンヌが産気付き可愛い男の子を出産した。

 名前はマシュー・モルガリウス。アンドリューに似たハニーブロンドと翠眼はモルガリウスの色。

 アンドリューは思わず『マリアンヌのルビーの瞳が良かった』と呟いて一週間の出入り禁止を言い渡された。



 シャーロットは雪がちらつく頃に男の子と女の子の双子を出産したが、ジェロームは予想通りシャーロットと同時に陣痛がはじまり痛みに耐えかねて気絶した。

「男はこの痛みに耐えられないって本当なのね」

「愛情が深過ぎて感覚まで同調・共感するとはのう」

 アーサーに張り飛ばされて意識を取り戻したジェロームは、アーサーの肩を借りながら蒼白な顔で双子とシャーロットに会いにきた。

「シャーロット、ありがとう。金と銀が並んでて凄くかわいいよ。俺たち二人の色だ。産声もちゃんと聞こえた」

 薄れかけた意識の中に可愛らしい泣き声が二人分聞こえたのは、神の優しさなのか本人の根性なのか判断が分かれるところ。

「パパもお疲れ様」

「子供は最高に可愛いけど、あれはもう二度と経験したくないかもな」

 冷や汗でヨレヨレになったシャツで、面窶れした顔に苦笑いを浮かべたジェロームがシャーロットの頬にキスをした。

「愛してる」

「私も⋯⋯愛してるわ」

(シャーロットが初めて口にしてくれた! あの痛みに耐えたのも満更でもないな)

 名前はジェイミー・アルフォンスとソフィア・アルフォンスに決まった。



 マシューがハイハイを覚えジェイミー&ソフィアがお座りが出来るようになった頃、三人の赤ん坊がモルガリウス侯爵家に集まった。

「早いものね、もうこんなに上手に遊べるようになるなんて」

 緊張して足を振るわせる乳母に抱かれた赤ん坊達はそれぞれのお気に入りのおもちゃを振り回しているが、父親達はそのおもちゃがソファに座る王妃の方へ飛んで行かないか不安でしょうがない。

「王妃殿下にお会いできるなど、この子達にとってこの上ない喜びでございますわ」

 平然としてるのは女達ばかりで、その中でもエカテリーナは普段と全く変わらない。

「一度に三人もなんて⋯⋯羨ましすぎるわ。どこかに腹黒王子に意見してくれる勇気ある人はいないのかしら? いつまで経っても婚約者の一人も決められないんだから、情けないったらないと思わない?」

 大きな溜息を吐く王妃だが、ここで『そうですね』と言える豪胆な人はいないと誰もが思ったが⋯⋯。

「お尻を叩いてみては如何ですか? それとも他国へ勉強に行かせるとか」

「エカテリーナの言う通りだわ。この国にはもう王子と年の合う令嬢は残っていないもの。
それよりも今日は、例のチョーカーのお礼に来たのよ」

 フィシューの次にシャーロットが手がけたチョーカーは社交界で大人気となっていた。主なベースとなっているのは宝石・皮・布・レース・リボン・革紐など多岐に渡り、ビーズ・造花・金属なども使っている。

 関わる業者も様々で各ギルドや商会がしのぎを削り新しいデザインを追い求めている。

「特に気になっているのは地位が低く差別されていた皮革ギルドが、良い意味で注目されていることね」

 皮なめしなどは最底辺の仕事に分類され、賃金や単価もありえないほど低く生活困難者が多かった。

「今はどれくらい艶のある皮をなめすことができるか、どれくらいデザインに沿った素材を準備できるかで取引価格が大幅に変わってきてるの」

「皮革ギルドも国にとって必要不可欠なギルドですから、そこに所属している職人が正当に評価されはじめているのであれば喜ばしいことですわ」

「ええ、きちんと加工された皮を必要としている人は貴族にも平民にも大勢いるのに、偏見の目で見ている方がおかしかったのよ」

「職業に貴賎はありませんもの。どのような職であっても必要だからこそ生まれるのですから」

「そう、犯罪に関わる職以外はね」



「で、シャーロットにお願いがあるの」

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