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45.愚か者達の末路

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《 side テレーザ 》

 華やかなパーティー会場から連れ出されドレスやアクセサリーを全て奪われた。無言で投げつけられたホリゾンタルストライプボーダーの囚人服にテレーザは眉を顰めた。
 
「縞模様って悪魔の紋様じゃない⋯⋯こんなの着れるわけないわ、もっと真面な物を持ってきなさいよ。あたしは侯爵夫人で親は公爵なのよ、こんな扱いしてタダで済むと思ってるんじゃないでしょうね!!」


「ちょっと、触んないで! それがいくらしたと思ってんのよ、アンタじゃ一生かかっても買えないくらい高いんだからね!!」

 髪飾りをむしり取られたテレーザが女看守を睨みつけた。


「縞模様は囚人・死刑執行人・売春婦・道化師の制服さ。アンタみたいな奴にピッタリだろ? 脱走なんて考えないほうがいいよ。めちゃくちゃ目立つからすぐに見つかるからね」


 その後地下牢へ放り込まれたテレーザは鉄格子を握りしめて怒鳴った。

「あたしが入るなら最低でも貴族牢でしょうが! さっさと出しなさいよ!!」


 手枷と足枷をつけて取調室に行く以外は薄暗い地下牢の中に放置された。汚れてざらつく石の床はテレーザの裸足に傷を作り、色が変わって臭い毛布が乗ったベッドが唯一の家具。

(イライラして眠れやしない! 薬もないし男もいなくて退屈すぎるのよ)


 夜になるとどこからともなくカサカサと音が聞こえ、数日経つとチュウチュウと鳴く声も聞こえてきた。

(冗談じゃないわ、こんなとこにいたら死んじゃう)

 日に2回の食事は硬いパンに薄いスープとチーズだけ。木の板に乗せられた木皿は使い込まれて変色しているし、スプーンもフォークもない。


 イライラを押し殺し取調官の前で涙を浮かべても胸をひけらかしても全く動じない。

「ほんの少し待遇を改善していただけるだけでも良いんです。一人では夜も不安で眠れなくて」

(アンタなら看守よりマシだから相手したげてもいいんだけど?)

「新しい毛布を一枚だけ貸してもらえたら助かりますわ。夜寒くて眠れませんの」

(その次にはほんのちょっぴりだけ薬を持って来させようかしら)

「ランプを灯してくださらない? あのように暗い中では落ち着かなくて」

(あたしの身体を見たらじっとなんてしてられなくなるんだから)



 取調官や看守の返事は全て無視と無言。本人は気付いていないが山の中の老婆の如くボサボサに縺れた髪と、化粧が取れかけた顔には嘘泣きの跡とそれを擦った跡がくっきりと残っている。
 生まれた時から全て使用人任せだったテレーザはそんな事には気付きもせず荒れはじめた手や割れた爪ばかりを気にしていた。

(お父様達もエドワード達も役に立たないのかも⋯⋯なら、チャールズは? あの様子なら、チャールズは大丈夫だったはずよね。あんなにあたしの事気に入ってたんだもの。ああ、早く迎えにきてくれないかしら?
チャールズが迎えに来たらあたしをこんな目に合わせた奴等を牢に叩き込んで⋯⋯ジェロームだけはお持ち帰りしなくちゃね。最初はシャーロットの目の前でやるのが効果的かも!)

 ふんふんと鼻歌を歌いはじめたと思えば髪を振り乱して癇癪を起こすテレーザ。


「漸くはじまりましたか。薬が抜けるまで細心の注意を払って下さい。状況によっては身体の拘束も視野に入れていますし、スープに入れている緩和剤と安定剤の量も今日から増やします」

 王宮医師団は全力でテレーザの健康を取り戻す計画を立てていた。

「裁判までに薬を抜いて女子収容所に行かせろと王妃様からのご指示が下っている。ほんの少し油断しましたでは済まされんからな。その時は全員クビだけじゃ終わらないと覚悟しておけ」

「「「はい!!」」」




《 side アルフォンス公爵&夫人 》

 テレーザと同じく地下牢に収監された公爵夫妻は隣り合った牢に入れられた。

 囚人服が気に入らないからはじまり定番の文句が続々と出てくる上に、隣同士での罵り合いも予想通り。

(地下牢に入れられた貴族の見本みてえだなぁ。たまには目新しいネタでもやってくんねえかな)

 取調べする必要もないと判断された公爵夫妻はベッド二つ分程度しかない広さの中でただ無為に過ごしていた。誰も来ないから言い訳もできないし、苦情も伝わらない。

 公爵夫妻はもう直ぐ爵位剥奪・領地没収の上に鉱山行きが決定している。

(暫くここに入れておけって王妃様が仰ったそうだが、意味あんのかねえ?)



「なあ、シャーロットはいつになったら釈放の手続きに来るんだ?」

「さあ、そろそろじゃないかしら?」


 ぷっと吹き出した看守が慌てて耳栓を差し直した。

(そういうことか⋯⋯諦めさせてから鉱山行かさないとあっちの人に迷惑かけちまうよな)




《 side フォルスト侯爵&エドワード 》

「よくもわしの顔に泥を塗りおったな!」

「僕はテレーザに騙されたんだ」


 一つの牢に入れられたフォルスト親子は毎日睨み合いと殴り合いを繰り返していた。今朝も、エドワードの囚人服の襟を掴み上げた侯爵が息子の顔を殴りつけた。

「ぶへえ!」

 エドワードが吹っ飛んで壁に激突した音がした。

(おっ、今日は朝からか⋯⋯頑張るねえ)


「貴様の為にどれだけ無駄金を使ってきたと思ってるんだ! 学園長や教師を買収して成績を底上げして」

(メモメモ⋯⋯)

「貴族達に賄賂をばら撒いて仕事を斡旋させ」

(書き書き⋯⋯)


「不倫と不義は最低だと言いながら手を出した女達に口止め料を払って」

(メモメ⋯⋯あ、やべえ。笑いすぎてペン先が折れちった)

「違法カジノに違法薬物で、借金まみれになりおって!」

「ぜ、全部パパとおんなじじゃんか!!」

(おー、親子二代でやってますっと)

「あと少しでモルガリウスを失脚させられるところまできてたんだぞ!?」

(へ? マジで? 新情報ですっと)

「モルガリウスの馬を病気にさせるとか武器を壊すとかしみったれすぎだよ!」

「だからお前は馬鹿なんだ! その上で隣国から侵略させるよう向こうの大使を丸め込んであったんだ! 敗戦の責任をとってモルガリウスは失脚、お前を宰相補佐から宰相にして我が家が返り咲くはずが!!」

(やりましたー! 王妃様ぁ! こいつらの狙い、でかいのが出てきましたー!!)

「僕知ってるもん。ママがいない時、テレーザとやってたじゃん」

(追加の、侯爵の不倫⋯⋯書き書き)

「それを見ながら一人で楽しんでたお前に言われる筋はない!」

(⋯⋯これは⋯⋯報告やめとこうかなぁ。王妃様に『実録!変態がいた』を聞かせるのはやだなぁ。えーっと、エドちゃんは変態でしたと)

「だって⋯⋯凄かったんだもん」

「そう言えばテレーザは複数が好きだと言っておったな。お前も混ぜてやれば良かったか」

「複数のプレイかぁ⋯⋯ここを出たらテレーザに頼んでみようかなあ」

(⋯⋯さて、今日のお仕事は完了でっす! うん、変態親子の変態トークは王妃様への報告書にはいらないからね)


「はあ、ママ怒ってるかな」

「元はと言えばパパが悪いんだよ。ママが頑張って領地経営してるのに遊んでばかりだからさ」

「お前が言うな! 俺は少なくともママと結婚して左団扇だからな。お前はここを出たら勝手にしろ。二度とうちには帰ってくるなよ」

「え? 生活費はくれるよね? じゃないと僕生きてけないもん」

「いい歳して何が『もん』だ! 赤ちゃんプレイに付き合う女は手切金が高くつくんだぞ!!」

「パパはママに払ってないじゃんか! そう言う奥さんをみつけてよー!!」


(侯爵、とっくに離縁されてるし。二人とも平民として有罪になるのも確定だよって誰か教えてあげた方がいいと思うなあ。これ以上の暴露はなんか可哀想になってきたっす)

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