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46.無責任だった者達の後悔

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「見送りに参加しても参加しなくてもアーサー達は気にしないわ」

 見送りでシャーロットが顔を出せば不快な態度をとる者がいるはずだからとエカテリーナから言われたがシャーロットは笑顔で『参加する』と答えた。

「意地の張りどころですから」


 多くの貴族を敵に回しながらもシャーロットの発言の正当性と正義を貫こうとしてくれているモルガリウス侯爵家に対してできるのはコレくらいしかない。

(堂々と胸を張って前を向いて、誰に対しても顔を俯けたりしないでいるわ)


 シャーロットの件に関わりがあった者達は特に祈るような気持ちでいた。裁判の判決を出した裁判官や調査員達と法務大臣。自分達の出した報告書や判決が冤罪を引き起こし、最終的にこのような事態になったと自覚した。

『最初に私が嘘を見抜けていればシャーロット様は辛い思いをせず、テレーザは次の犯罪を起こせなかったと思うと』

『この状況になって考え直してみたらおかしな点がいくつもあったんです。あの時それに気付いていれば』

『本人の自供頼りで判決を出した⋯⋯ワシは裁判官をやる資格などない』

『よくある不倫騒ぎだと気にも留めておらんかった。大臣失格じゃよ』
 

 少し離れた場所には女子収容所の女領主がひっそりと立っていた。

『冤罪だって最初っから知ってたんだ。不倫騒動を起こした奴らを長年見てきてたから一目見てすぐに分かった。この娘は違う、そんな事をする娘じゃないって⋯⋯なのに⋯⋯責任者失格どころかアタシはシャーロットの親や妹と同罪だよ』

 言い訳と八つ当たりばかりの囚人にうんざりし、いつしか矯正し教育するより暴力で統率するようになっていた。新人への通過儀礼、先輩からの研修と称した虐め、僅かな物を奪い口実を作っては足を引っ張るストレス発散⋯⋯。それを修正する気力を無くし自らも鞭を手にする前に女領主を引退するべきだった。

 心の歪んだ者達は綺麗なものほど汚したくなる。汚れて二度と立ち上がれないほどズタボロにしなければいけないと思い込み、姑息な言い訳を隠れ蓑にしてでも相手を傷つけずにはいられない。


『あの娘は最後まで、何があっても背を伸ばしてて本当にいい娘だった。だからこそ虐めも苛烈になっていったんだから切なかっただろうね』

 今は沢山の人に囲まれて凛として立ち、その外側に弾き出された汚れた者達から守られている。

『あの娘が自力で掴んだ立場だからね。今度はきっと幸せになれる』

 女領主はアーサー達が帰国したのち職を辞し、冤罪に目を瞑った事や収容所の管理に問題があったとして自ら鉱山送りを志願するつもりでいる。


「アーサーの事だから心配はしておらぬが、あの軍勢を見ただけでソルダート王国は怯えるであろうな。それと、法律の見直しを考えねばなるまい」

 ソルダート王国はこの国の西に位置する大国。国で騒ぎを引き起こしてばかりのチャールズ王子に手を焼いていた国王は、不義不貞を厳重に取り締まるエルバルド王国へ王子を送り込めば無茶は出来まいと考えた。

「どこの国にも法律を破る事に喜びを感じる者はおると言うに無責任なことよ」

 問題児だと事前に分かっていたが大国からのゴリ押しに負けてしまった。関税の引き下げに目が眩んだ外務大臣が安請け合いしてきたのだ。



 チャールズ王子の接待役にエドワードを入れたのは国王があの裁判の判決を信じていたからだった。

 不貞行為でシャーロットが女子収容所に送られ婚約破棄になったエドワードは不義不貞を誰よりも嫌悪していると公言していた。シャーロットの妹も不快な噂に悩まされ社交界で苦労しているらしいと報告が上がっていた。
 そのような二人がいればチャールズ王子が無茶をしそうになれば諌めるだろうし、愚かな行為に嵌る前に方向転換させてくれるだろうと思っていた。

 フォルスト侯爵とエドワードの野心には誰もが気付いていたが、それもチャールズ王子の押さえとしては有効に働くはずだと考えていたのだが⋯⋯。

(まさか、あの2人こそが法を破った張本人であったとは)


「不義不貞を罰するにしても今ある法は過剰反応なのかもしれない。罰を緩く長くしてはどうだろう。それから収容所の内部調査を早急に行わねばならんな」

 シャーロットの襟足にあった火傷の跡を見た者は皆絶句した。あのパーティーの後から、年若い令嬢の中には温かい湯にさえ怯える者もでたと言う。

 髪の生え際ギリギリからはじまる傷が衣装では完全に隠しきれない位置にある事に悪意を感じる。収容所の中でそのような事が平然と行われているとは思ってもいなかった。

「報告書など綺麗に整えられた物でしかないと分かっておったのに⋯⋯」

「エカテリーナはあの時まで傷のことなど気づいてもいなかったそうですし、シャーロットは当時の事については何も口にしないそうですわ」

 女領主が専制君主として君臨している収容所は女領主の祖母の時代から問題行動を起こす女達の矯正の場と言われていた。
 甘やかされた我儘娘やチヤホヤされ贅沢を覚えすぎた妻を鍛え直すと言う名の邪魔になった女の捨て場所だった。


 修道院に入れるには寄付金が必要になり、寄付した額によって待遇が大きく変化する。中での生活も持参した金銭や宝石などによって扱いが大きく変わるのが実情。

 他国や問題のある家へ嫁に出せればいいが見つからない時には売り飛ばされることも少なくなかった。


 そんな時⋯⋯。

 邪魔にはなったが売り飛ばしたと世間に知られては外聞が悪い⋯⋯。寄付金を払えない家や払いたくないけれど外面は気になると言う家から娘や妻を引き取るようになった。無償の下働きからはじめてメイドや侍女の仕事を覚えていくのだ。
 遊び呆けていた者でなくても過酷なほど厳しく躾けられる上に女領主に仕事を認められるまでは無償の期間が続くので彼女達は自然と真面目に働くようになっていった。


 厳しい上役からきつい労働を与えられ仕事を覚えていく。ようやく給金をもらえるようになっても雀の涙ほどにしかならないが、年季が明けて家に帰る頃には仕事を覚え性格も大人しくなっていることが多かった。


 それに目をつけ女子収容所を設立した。高い塀で囲み有罪判決を受けた女性たちが送り込まれる。最大の失敗は指導・監督するのが同じ囚人だった事だろう。
 罪を犯したとはいえ女性ばかりの生活だからとたかを括った官僚が、収容所に先に入った囚人が新人に仕事を教えれば費用も安くつくと管理・運営する人物を年々減らしていった。
 収容所なんかで働くのは嫌だと言われ人が集まらなかったからだと当時の担当官は言っていたが、全ての管理・運営が女領主一人にのしかかることになった。


「まずは人の手配だな」

「ええ、交代制にしては如何でしょうか? 寡婦や未亡人、ある程度の年齢の人で仕事の経験のある人を募集してみましょう。希望により数ヶ月から年単位での交代制であれば応募者がいるかもしれませんし」

 宰相がこの方法を女領主に提案しようと言いはじめたが、現状を放置したままでいた女領主を信じて良いものかどうか⋯⋯。国王は肘をついてため息をこぼした。


「収容所の現状をシャーロットの口から聞き出す事はできぬか?」

「それはおやめになられた方がよろしいかと。出所記録から探すよう手配しております」

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