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38.悩める卒業パーティー

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 ロクサーナは卒業パーティーの前日、自室のベッドの上で胡座をかき悩んでいた。

 目の前には卒業パーティー用に準備したドレスとリアムから贈られたドレスが並んでいる。

「無理はしなくていいんだ。でも・・これを着てファーストダンスを踊ってもらえたら嬉しい」

 先週ドレスを手ずから運んできたリアムはロクサーナと目線を合わせず少し上擦った声で言い切り、いつものおしゃべりを楽しむ事もなくあっという間に帰って行った。



 ほんのりとした青い色味を持つアッシュブロンドと翠眼のリアムから贈られたのは、シンプルな袖と背中のラインをピタリと体に沿わせガウンの裾を長く引いている最近流行しはじめたローブ・ア・ラングレーズ。

 生成色のペティコートとストマッカーに重ねたレースにはダイヤが縫い込まれ金色に光って見える。
 ガウンは濃い緑の生地に金糸や銀糸で繊細な刺繍が施され縫い込まれたエメラルドがキラキラと輝いている。
 ドレスと一緒に贈られてきたのは小花をアレンジした髪飾りとドロップ型のイヤリング。

(まんま、リアムの色なのよね。しかもイヤリングだけって言うのも意味深な・・)


 ロクサーナが準備したドレスはローブ・ア・ラ・フランセーズ。
 少し青みがかったペティコートには小花模様の刺繍を施し、明るい色味のホリゾンブルーの絹のガウンとセルリアンブルーのロビングスガウン正面の縁飾り
 ヴィラーゴ・スリーブにはあまり派手ではないレース。ストマッカーには小ぶりなリボンが散りばめられている。
 大きなアメジストの髪飾りと揃いのネックレスを準備した。


 リアムから贈られたドレスを着ていけば今まで先延ばしにしていた返事の代わりになってしまう。
 サイドテーブルに置かれたラペルピンの入った箱を見つめ溜息をついた。

(一応準備はしたけど・・リアムはこの国の第二王子殿下で、今の私は平民だし)


 一晩中一人で悶々と悩んでいると私室のドアにノックの音がした途端バーンと大きな音を立ててドアが開いた。

「ロクサーナ、さっさと寝なさい! 目の下にクマを作って卒業パーティーに行くつもりなの?!」

「メイリーン・・どうしよう。私どうすればいいかわかんない」


 めそめそと泣きはじめたロクサーナをメイリーンが抱きしめた。

「もし選択を失敗したら? 次に何が起こるのか知らないの」

「知らない方が普通なの。何があっても私達がついてるから大丈夫」

「それにね、平民のままでいたい。貴族なんて大嫌い・・」

「馬鹿ねぇそんなこと考えてたの? 貴族の時だって平民になってからだって私達は何も変わんなかったでしょう? 肩書きなんて気にしなきゃいいのよ」


 メイリーンは無理矢理寝かしつけたロクサーナの手を一晩中握りしめていた。




 午前中の卒業式が無事に終わり卒業生達は夕方からはじまる卒業パーティーの準備の為大急ぎで帰宅した。

 今年の卒業パーティーには国王と王妃が招かれている為パーティーの出席者はいつもよりかなり気合が入っている。
 しかも、リアムがロクサーナに夢中なのは有名だが未だ婚約していない上にロクサーナの身分は平民なので可能性を捨てきれない令嬢や親達も多くいる。

 普段は禁止令のせいで接触出来ないがパーティー会場でロクサーナに声をかける分には問題ないだろうと狙う輩もいる。


 パーティー会場として飾り立てられた学園の講堂には制服姿の在校生があちこちに集まり、卒業生達が現れるのを今か今かと待ち望んでいる。

「今年は例年より凄そうだね。宝石店が店じまいするかもって噂がでたもんな」

「仕立て屋が悲鳴をあげたって」

「夜会用の仕立てを請け負ってくれないってお母様が騒いでらしたわ」


 在校生達が噂話に花を咲かせているうちに少しずつ卒業生と親族が会場入りしはじめた。
 夜会とは違い序列に関係なく到着順に会場入りして来る卒業生にとってはこのパーティーが社交界のはじまりになる。
 婚約者や親族と腕を組み少し緊張気味に会釈をしている彼等は今までで一番高価で煌びやかな衣装を着たのだろう、自然に着こなしている者や肩に力が入りすぎている者がいる。


 リアムは豪奢な刺繍のコート・ウエストコート・ブリーチズのアビ・ア・ラ・フランセーズ男性用スーツにクラヴァットと白い絹の靴下で、入り口から少し離れた場所に隠れるように立っていた。

「リアム様、入り口近くにいらっしゃるらしいわよ」

「お迎えに行かれないってことはやっぱり?」

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