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34.国を破綻させた者達

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 陛下の言葉に壁際に整列していた衛兵達が動きはじめたが、大広間にいた貴族達がチャールズやコナー・ネイサン達と共にロクサーナの前に立ち塞がった。

「メルバーグ王国との同盟を破った者達を守るならば同罪として処罰されると心得なさい!」


 ネイサン達だけでなく国の重鎮全員がロクサーナと王妃の支持を表明した事で衛兵達は身動きできなくなった。

 国王達は居並ぶ領主達の権限により牢に収監され審議の上処刑される事が決まった。




 処刑前日、ロクサーナはメリッサ達が収監されている牢を訪れた。
 王宮の北塔の地下牢は明かり取りの窓もなく食べ物や体臭などの饐えた臭いが充満していた。

 ランプを手に持ちジメジメと苔生した階段を降りて行くと、手前の牢に粗末なベッドに座りぼーっと宙を見つめているメリッサがいた。
 皺だらけになりあちこちにシミが出来た派手なドレスは、大広間から連れ出された日から着の身着のままなのだろう。


「・・」

 ロクサーナの気配に気付きゆっくりと顔を向けたメリッサは乱れた髪とはげた化粧だったが以前と同じ人を見下したような目で睨んできた。

「来ると思ってたよ。勝ったと思ってるんだろ」

「お父様は貴方の事を信頼し切ってたから、ただの婚約破棄なら簡単だったでしょうに」



 一頻りロクサーナの事を睨みつけた後メリッサは口元を歪めて話し出した。

「あんたの事が邪魔だったのよ。アナベルロクサーナの母にそっくりのあんたが大っ嫌いだった。
あの女は公爵家の令嬢でチャールズと結婚して王妃と友達で・・」


 メリッサとアナベルは同級生だった。

 広大な領地を持つ裕福な高位貴族令嬢のアナベルは、優秀な成績で友達も多く既にチャールズと婚約していた。
 二人は相思相愛・美男美女のカップルで学園でも有名だったという。

 それに比べてそれ程裕福とは言えない下級貴族のメリッサは成績は中の下、地味で目立たない生徒だった。

「学園でお茶会の話が出たらアナベルは必ず呼ばれてたけど、あたしは一度も誰からも呼ばれたことなんてなかった」


 アナベルはSクラスでメリッサはBクラスだったので関わった事はなかったが、どこにいてもアナベルとチャールズの噂は聞こえてきていた。

「すっごくムカついた。アナベルを見るたびにイライラして顔に大怪我するとか大怪我でもすりゃ良いのにって」

 3人が学園の3年生になった時ミリアーナ当時は王子の婚約者が編入してきた。


「卒業と同時にご成婚だから貴族との繋がりを作る為だろうとかって言われててさ、アナベルとチャールズと3人いつも一緒に行動するようになって。
にこにこヘラヘラ・・。
何でも持ってる人が今度は将来の王妃様ともお友達になったって。

それなのにあたしはちょっと小金を持ってるだけの平民と婚約させられて、みんなに馬鹿にされて。

アナベルが生まれたばかりの子供を残して死んだって聞いた時はざまぁって思ったわ。
だからあたしが代わりに全部もらうって決めたの」


 葬儀の後アナベルの友人を装ってチャールズに近づいた。メリッサは幼児を抱え最愛の妻を亡くした悲しみで呆然としているチャールズの元へ日参しあれこれと世話を焼いた。

「3年かけて漸く結婚したのにあんたはどんどんアナベルに似てくるし王妃はにしか興味がないし。
だからあんたもいなくなればいいって思って当然でしょう? そうすれば全部あたしの物になったんだもの」


 ステラとリチャードはちょっと入れ知恵をするだけで簡単に操れたが、チャールズと王妃はメリッサにほんの少しも関心を寄せなかった。

「アンタは知らないだろうけど、チャールズは仕事ばかりしてるからこの国一番の資産家なのさ。だからさ国王や宰相にはその資産からたんまり寄付してやるって言ったら簡単に言う事を聞いてくれた。
でも離婚されたから侯爵家がどうなろうと関係なくなったからさあ、アンタを犯罪者にしてしまえば侯爵家を潰せるって言ったらすんなり。欲の皮の突っ張った奴なんて簡単なもんよ」

 口元を歪めて嘲笑うメリッサ。


「やり直せるなら今度は絶対上手くやってやるのにねえ」

「あなた達には負けないから」




 国王と宰相の他奴隷売買の密約に関わった者達とロクサーナを冤罪で処刑しようとした者達は、全員牢から刑場まで歩かされたのち絞首刑となった。
 沿道に集まった者達から罵声を浴びせられ石を投げつけられた。


 ロクサーナの冤罪捏造に手を貸した学園長・シュルツ教諭・シエラは鞭打ちの上娼館行きとなり、チャールズは爵位を返上し自らの意思で鉱夫として働きはじめた。

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