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20.環境に馴染めない

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 泣き喚くステラと青褪め憔悴しきったメリッサが出て行った後、屋敷の使用人が全て集められた。

 メリッサとステラ専属の執事・侍女・メイドは全員紹介状なしで解雇され、その他の者も今後の調査次第で解雇される事になった。

 報告義務を怠ったチャールズ専属の執事達も解雇され、2階の客間の一つが大急ぎでロクサーナ用に準備された。


 広い部屋の豪華なソファにポツンと座ったロクサーナは溜息をついていた。
 目の前には山のように積まれた王妃からの贈り物。


(今更、いい迷惑なんだけど。待遇改善より婚約破棄にして欲しいわ)


 試験休み明けに学園に行けばステラに会う可能性がある。
 学園に入学してからリチャードとステラが親しげに腕を組んで歩いているのは何度も見かけていたので必ず難癖をつけてくるだろう。


 前回のように何かしらの事件を画策してくるのではないかと不安ばかりが募っていった。



 学園の行き帰りが馬車に変更になった為、ロクサーナの土日はますます多忙を極めた。

 1階の元の部屋は思い出の部屋だからとゴリ押ししてそのまま鍵をかけて使っている。違いと言えば鍵がウォード錠に変わったことくらい。

 今のところ学園内で不穏な動きはなく、相変わらずリチャードとステラは仲良く闊歩している。

 放課後は昔の部屋でチクチクとキルト作りに励み、2階の部屋に戻るのは着替えと寝る時くらい。
 一番変わったのは食事を食堂で取るようになったことで、初めてチャールズと食事をとった時は居心地が悪すぎて料理の味がわからなかった。

「あまり食欲がないようだが?」

「量が多すぎて」

 新旧どちらのロクサーナも食べたことがない料理がいくつも運ばれてくるので、毎回その殆どが手付かずで終わってしまう。

「明日から王宮で王子妃教育がはじまるのは覚えているか?」

「残念ながら覚えています」

(侯爵ってこんなに毎晩家で食事してたんだ・・夕食が辛い)


「王子妃教育はそんなに嫌か?」

「教育ではなく婚約が嫌です」

「リチャード殿下はいずれ立太子される事も決まっているし、人格も問題ないと思うが?」

(大ありよ、今でもステラとラブラブで何をされるか不安で一杯なんだから)


「リチャード殿下には他に好きな方がおられると言う噂ですし」

「学園で少し羽目を外されているのか。そのくらいはまあ大目に見ても良いのではないか?」

 旧ロクサーナの時は王子妃教育にステラが参加していた。

(今回は状況が変わっているからどうなるのか)



 翌日、暗い気分で目覚めたロクサーナはメイドの手によってテキパキと準備が進められ馬車に乗り込んだ。

 馬車が王都の大通りを進み手持ち無沙汰なロクサーナは窓から見るともなく外の景色を眺めていた。

(ドナドナドーナ、ドーナ)



 王宮に着き王家の私室エリアにほど近い部屋に案内された。

 部屋にはソファにゆったりと腰掛けた王妃と家庭教師らしき女性が5人。それ以外にメイドが数人壁際に並んでいた。

「今日は顔合わせの為皆さんに来て頂いたの。簡単にスケジュールだけ確認したら皆さんと一緒にお茶とお菓子でお喋りを楽しんで、お勉強は明日以降にしてはどうかと思っているの」

 前回と変わらず優しい笑顔の王妃がメイドに合図してお茶の準備が整えられた。


 自己紹介が終わり一人の家庭教師が話しはじめた。

「まず勉強内容ですが語学・文学・数学・哲学・地理・歴史は最低ライン。
その他には絵画・音楽・刺繍・ダンス・乗馬と宮中儀礼。

舞踏会の前までには毎回舞踏会に参加する貴族の家柄、家格の他特産品などの勉強を。
大規模な舞踏会の場合は参加する国や参加される方の諸々の情報と歴史、政治情勢などに併せ近隣諸国の主な家系も必要でございます。
旅行前には、訪問先のあらゆる情報と歴史、政治情勢なども追加で必要になります」


 一気に話したのはサルゼリス伯爵夫人。鉄芯の入った扇子でスナップを効かせてくる技が強烈なダンスと宮中儀礼の教師。

「実は皆様にお願いがございまして」

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