上 下
15 / 41

15.手紙を読んだら益々大忙し

しおりを挟む
 コナーが渡してくれた手紙はクラリア商会からだった。

 服飾ギルドからアップリケキルトについての問い合わせが入っていると言う。
 以前販売したアップリケと刺繍を使ったクッションカバーを見て問い合わせしてきたらしい。

 明日学園帰りに話を聞く為に商会から馬車を寄越してもらう事にした。


 「刺繍はとても繊細だから痛みが激しいし、地の生地が傷んだらそれで終わりだろ。
だから例えば聖人や聖母子像を単独で刺繍しといて、それをアップリケにして使えば再利用できるって」

「スリーブバッジやワッペンね」

「何だそりゃ」

「紋章とかを刺繍した物をアップリケにして袖や胸とかにつけるやり方の事。
そうすればつけはずしができるから洗濯の時に刺繍を痛める心配がなくなるの」

「おーそれそれ、試しにやってみたけどアップリケが上手く行かねえし調べたら商標登録されてるってんでうちに連絡が来た」


 ネイサンクラリア商会長は新しい事業の予感に目を輝かせている。


「作り方を教えるのは構わないけど問題は時間を作れるかどうかだわ」


 学園がはじまり以前より出かけやすくなった代わりに製作の時間が限られてくる。

 人を使って製作してもらう事は前々から考えていたが、どうやって人を集めるのか悩んでいた。

(服飾ギルドなら・・)



 こうしてロクサーナはそれまでひとりでコツコツと作っていたリュックサックについても服飾ギルドと提携して事業を拡大・本稼働させることができるようになった。


 急ぎの打ち合わせが必要な時は各ギルドから馬車を寄越してもらい、学園の行き帰りの馬車の中で行う。
 学園が休みの土日は自身の製作時間と各ギルドとの打ち合わせ。


 聖人や聖母子像のワッペンは瞬く間に教会に広がり、教会内で司祭達が使用する以外に礼拝者達が購入していくようになった。
 紋章を刺繍したワッペンはそれ以上に各地の領主からの問い合わせが引きも切らず、服飾ギルドは規模を拡大し対応している。


(もう、侯爵家出て平民で生きてくで良くない?)


 カラビナの絵と説明書を作成しコナー経由でバックルを作っている金属加工職人に製造を打診。
 カラビナ製造を独占契約をした職人はそれ以降寝る間も惜しんで制作に奔走する事になった。


 カラビナ完成後は服飾ギルドにウエストポーチの製造を依頼したが、販売直後から爆発的な人気を博し服飾ギルドはワッペンとウエストポーチの両方の製作に悲鳴を上げている。



 学園では相変わらず一人ぼっちだった。

 ステラがリチャードと親しげに腕を組み歩いている姿は学園内では頻繁に見かけられた。
 リチャードの側近候補達と5人で食事をしている風景を見かけることもあったが、休憩時間も事業の雑務に追われそんな周りの様子を気にする暇もなかった。


 そしてロクサーナは溜め込んでいた資金を注ぎ込み所有者のいなかった山を買った。





 入学して3ヶ月。

 初めての試験が行われたが、入学試験同様ロクサーナがトップで次席はリアムだった。

 試験結果の張り出された掲示板の前には人集りができ、ロクサーナがその場所から抜け出せないでいるとリアムに声をかけられた。

「流石だね、モートン嬢」

「ありがとうございます。リアム殿下も」

 リアムの方に振り返ったロクサーナがお礼を言うと、リアムは苦笑いを浮かべながら人集りから連れ出してくれた。


「ここだけの話だけど勉強は苦手なんだ。でも頑張らないとメルバーグ王国からお叱りの手紙が届きそうだから」


 周りに人が少なくなった時を狙いロクサーナはリアムに、

「入学式当日のお礼を申し上げておりませんでした。遅くなりましたが、あの時はありがとうございました」


 一瞬キョトンとした顔をしたリアムは「ああ、あれね」と言ってニッコリ笑った。

「あれは酷かったからつい我慢できなくて。あれからは大丈夫だったのかな?」

「はい、特に何も」

 周りがチラチラとロクサーナ達を見ているのに気づき早々にこの場を辞す事にした。



「少しお喋りしたかったんだけどな、もしかして今日もお迎えが来てるの?」

「えっ?」

「ほら、学校の外れにこっそり停まってる馬車。それとも婚約者に遠慮してるとか」


 ロクサーナをじっと見つめるリアムを無表情で見つめ返した。

しおりを挟む
感想 136

あなたにおすすめの小説

全てを義妹に奪われた令嬢は、精霊王の力を借りて復讐する

花宵
恋愛
大切なお母様にお兄様。 地位に名誉に婚約者。 私から全てを奪って処刑台へと追いやった憎き義妹リリアナに、精霊王の力を借りて復讐しようと思います。 辛い時に、私を信じてくれなかったバカな婚約者も要りません。 愛人に溺れ、家族を蔑ろにするグズな父親も要りません。 みんな揃って地獄に落ちるといいわ。 ※小説家になろうでも投稿中です

泣き虫令嬢は自称商人(本当は公爵)に愛される

琴葉悠
恋愛
 エステル・アッシュベリーは泣き虫令嬢と一部から呼ばれていた。  そんな彼女に婚約者がいた。  彼女は婚約者が熱を出して寝込んでいると聞き、彼の屋敷に見舞いにいった時、彼と幼なじみの令嬢との不貞行為を目撃してしまう。  エステルは見舞い品を投げつけて、馬車にも乗らずに泣きながら夜道を走った。  冷静になった途端、ごろつきに囲まれるが謎の商人に助けられ──

婚約破棄は計画的に。

秋月一花
恋愛
「アイリーン、貴様との婚約を――」 「破棄するのですね、かしこまりました。喜んで同意致します」  私、アイリーンは転生者だ。愛読していた恋愛小説の悪役令嬢として転生した。とはいえ、悪役令嬢らしい活躍はしていない。していないけど、原作の強制力か、パーティー会場で婚約破棄を宣言されそうになった。  ……正直こっちから願い下げだから、婚約破棄、喜んで同意致します!

婚約破棄をしてくれた王太子殿下、ありがとうございました

hikari
恋愛
オイフィア王国の王太子グラニオン4世に婚約破棄された公爵令嬢アーデルヘイトは王国の聖女の任務も解かれる。 家に戻るも、父であり、オルウェン公爵家当主のカリオンに勘当され家から追い出される。行き場の無い中、豪商に助けられ、聖女として平民の生活を送る。 ざまぁ要素あり。

私、今から婚約破棄されるらしいですよ!卒業式で噂の的です

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私、アンジュ・シャーロック伯爵令嬢には婚約者がいます。女好きでだらしがない男です。婚約破棄したいと父に言っても許してもらえません。そんなある日の卒業式、学園に向かうとヒソヒソと人の顔を見て笑う人が大勢います。えっ、私婚約破棄されるのっ!?やったぁ!!待ってました!! 婚約破棄から幸せになる物語です。

【完結】私に冷淡な態度を取る婚約者が隠れて必死に「魅了魔法」をかけようとしていたらしいので、かかったフリをしてみました

冬月光輝
恋愛
キャメルン侯爵家の長女シャルロットは政治的な戦略としてラースアクト王国の第二王子ウォルフと婚約したが、ウォルフ王子は政略結婚を嫌ってか婚約者である彼女に冷淡な態度で接し続けた。 家のためにも婚約破棄されるわけにはいかないので、何とか耐えるシャルロット。 しかし、あまりにも冷たく扱われるので婚約者と会うことに半ばうんざりしていた。 ある日のことウォルフが隠れて必死に呪術の類のようなものを使おうとしている姿を偶然見てしまう。 調べてみるとそれは「魅了魔法」というもので、かけられた者が術者に惚れてしまうという効果があるとのことだった。 日頃からの鬱憤が溜まっていたシャルロットはちょっとした復讐も兼ねて面白半分で魔法にかかったフリをする。 すると普段は冷淡だった王子がびっくりするほど優しくなって――。 「君はどうしてこんなに可憐で美しいのかい?」 『いやいや、どうしていきなりそうなるのですか? 正直に言って気味が悪いです(心の声)』  そのあまりの豹変に気持ちが追いつかないシャルロットは取り敢えずちょっとした仕返しをすることにした。 これは、素直になれない王子と令嬢のちょっと面倒なラブコメディ。

婚約破棄宣言は別の場所で改めてお願いします

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【どうやら私は婚約者に相当嫌われているらしい】 「おい!もうお前のような女はうんざりだ!今日こそ婚約破棄させて貰うぞ!」 私は今日も婚約者の王子様から婚約破棄宣言をされる。受け入れてもいいですが…どうせなら、然るべき場所で宣言して頂けますか? ※ 他サイトでも掲載しています

エメラインの結婚紋

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢エメラインと侯爵ブッチャーの婚儀にて結婚紋が光った。この国では結婚をすると重婚などを防ぐために結婚紋が刻まれるのだ。それが婚儀で光るということは重婚の証だと人々は騒ぐ。ブッチャーに夫は誰だと問われたエメラインは「夫は三十分後に来る」と言う。さら問い詰められて結婚の経緯を語るエメラインだったが、手を上げられそうになる。その時、駆けつけたのは一団を率いたこの国の第一王子ライオネスだった――

処理中です...