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1.すっかり忘れていました

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 目が覚めたとき、私はとても大切な事を忘れていた。
 私の人生を・・私の一生を左右する程大切な事を。



「覚えているだろうがリチャード王子との顔合わせは明日だ。準備はメリッサ義母が手伝ってくれるが、それまで大人しくしていなさい」


 チャールズ・モートン侯爵ロクサーナの父は手元の書類を見ながら宣言した。


(げっ、忘れてた。それ絶対ダメなやつじゃん。何でもっと早くに思い出さなかったかな。どうしよう、不味い不味い不味い)


 チャールズは、真っ青な顔でスカートを握りしめたロクサーナの様子に気付く事なく、

「お前が起き上がれる様になって助かった。意識が戻らない時はどうなることかと思ったが」


「お父さま、あの・・どうしても行かなくちゃいけませんの?」

 チャールズはロクサーナの言葉に漸く顔を上げた。

「どうした? 以前話した時は王宮に行けると喜んでいたではないか?」

「えーっと、それはー。・・わっわかげのいたり若気の至り?」


 チャールズは持っていた書類を机に置き、ロクサーナの顔をしげしげと見つめた。

「「・・・・」」

 部屋の中に微妙な空気が流れた。

 チャールズが眉間に皺を寄せてロクサーナを睨みつけると、居心地の悪くなったロクサーナは冷や汗をかきながら目を泳がせた。


「ロクサーナ、お前は何歳だ?」

「・・たぶん7さいです」

 チャールズは椅子の背にもたれかかりながら、
「ふむ、確かに若いな」


「まっまだ王きゅうにさんだいするのは早すぎると思うのです。きっととりかえしのつかないそそう粗相をしてしまうと」

「粗相?」

「はっはい、王ぞくのかたがたにしつれいなたいどをとってしまってふけいざい不敬罪とかいろいろ。その」

「不敬罪?」

「はい、もう少しさほうとかべんきょうしてからの方がこうしゃくけのためにもよいと思うのです」

「7歳でそれだけ弁が立つのだから問題はあるまい。不安ならその無駄によく回る口を閉じておけば良いだけだな。
メリッサのところに行ってやるべきことを教えてもらいなさい」

「でっでも、お父「話は終わりだ」」


 ロクサーナはガックリと肩を落とし、父の執務室を出て義母の私室に向かった。


 ロクサーナが部屋を出た後、チャールズはドアを見つめていた。


(ロクサーナはまるで別人の様だな。いや、元々あんな子だったのか? あんな言葉、一体どこで習ったんだ? 頭を打った後遺症・・は違うか)



 ロクサーナは父に不審がられてるとも知らず、これから起こる事態に思いを巡らせていた。

 そして、今までロクサーナにほとんど関心を寄せていなかったチャールズがはじめてロクサーナに興味を覚えた瞬間だった。



 メリッサ義母の私室に着くと義母と一緒に義姉のステラがいた。

「ロクサーナ、今日の午後仕立て屋が出来上がったドレスを持って来るのでそれまで部屋から出ないでいなさい。
この間の様に庭に出て怪我でもしたら困りますからね」

「はい、おかあさま」


「お母様が私にも新しいドレス作ってくださったの。ロクサーナと違っていつもお利口にしているご褒美ですって」

 ステラが勝ち誇った顔で言ったがロクサーナはそれどころではなく、返事もせずに考え込んでいた。


(明日の謁見はどうにもならなそう。だったら私のやるべき事は・・)

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