40 / 48
40.前哨戦 お馬鹿夫婦
しおりを挟む
アリシアの戦闘開始宣言を受けてエリーはマイケルに子爵家との婚約が成立したと認めた手紙を出した。
それから5ヶ月後、無事進級できたエリーはアリシアとマイラに連れられてリズバード公爵と対面するためにクラティア王国を訪れた。公爵と公爵夫人は予想以上にエリーの事を気に入りあっという間に養子縁組の手続きが完了した。
「次に来た時には盛大なパーティーを開いてお披露目しましょうね」
「こんな可愛い娘ができたんだ。あっという間に奪われないようにちょっと根回しするかな」
帰り際には満面の笑みの公爵夫人にハグされ、お土産に大量の絹織物を貰った。
「素敵なドレスをたくさん作るのよ。足りなかったり欲しいものがあったらいつでも連絡してね」
クラティア王国からの帰りの馬車の中でエリー達3人は次の予定を話し合っていた。
「次にクラティアに来る時は少しのんびりしたいわね。ここにはとても有名な湯治場と綺麗な景色の湖があるの」
「聞いたことがあるわ。ユニコーンの森でしょう?」
「さてこれで一通りの準備は終わったけれど、リューゼルの屋敷に帰ったらサイラスが待ってると思うと気が重いわね」
「エリーがあんな作戦を立てるとは思わなかったからちょっと楽しみなの」
「上手くいくと良いんですけど」
エリーは内心ドキドキでハンカチを握りしめていた。
「お帰りなさいませ、サイラス様とエドナ様がお越しになられております」
アリシアとマイラは普段の落ち着いた表情のままだがエリーは緊張して少し顔がこわばってしまった。
アリシアを先頭にエリー達が応接室に入ると以前より少しふくよかになったサイラスと着飾ったエドナがソファに並んで座っていた。
「漸くお帰りですか。随分のんびりご旅行に行かれていたようですね」
ソファに座ったままサイラスが声をかけてきた横でエドナはエリーを上から下まで舐めるように見ていた。
「座ったままで挨拶もしないとは2人とも貴族の嗜みを忘れてしまったようね」
「家族じゃないですか。そんな堅苦しい」
アリシアがお気に入りの1人掛けの椅子に座り、マイラとエリーが並んで腰掛けるとメイドがお茶を運んできた。
「で、今日はどちらへ?」
「知人のところを訪ねた帰りなの。疲れているので早々にお部屋で休みたいと思っているわ」
さっさと帰れというアリシアのサインを無視してサイラスが話しはじめた。
「エリーの婚約について早急に話し合わなくてはならないのに母上が捕まらなくて困っていたんです」
「その件なら何ヶ月も前に手紙で知らせたはずですよ。あなた達にはエリーの婚約者を決める権利はありません。用事がそれだけならわたくしは部屋に下がります」
アリシアが腰を浮かせるとサイラスが慌てて立ち上がった。
「今更やめるとなると慰謝料を払わなくてはなりませんし、婚約破棄なんてしたらエリーは傷物になってしまう。エリーが可哀想じゃありませんか」
「わたくしには慰謝料を払わなければいけない理由はありません。勝手に違法な契約を結んだのはサイラスでしょう? 大人なら自分のしでかした事は自分で責任を取りなさい」
「エリーはわたくしの子供ですわ。お義母様が口を挟むこと自体が間違ってます」
「その子供がいなくなったにもかかわらず旅行を楽しんだ挙句帰ってしまったのはあなた達でしたよね」
(臭いって大騒ぎして街のあちこちで迷惑かけて帰ったんだった。なんだか懐かしい)
「騎士団に捜索の指示を出しましたし、結局母上の所に。いや、私は大人ですから昔のことをあれこれ言うのはやめましょう。兎に角エリーは無事だったし学校に通っているのかも怪しい」
「あら、わたくしが嘘をついていると?」
「残念ですが多分間違いないでしょう。どこかの学校に通っているのならこの間の私の手紙に返事が書けたはずですからね」
「今日はそれを聞きに来たのかしら?」
「いや、今日はエリーを連れて帰ります」
「そうよ、随分素敵なドレスを仕立てて貰ってるのね。絹のドレスなんてわたくしだって持っていないのに・・。荷物を纏めていらっしゃい。早く婚約者の方と顔合わせして日取りを決めなくてはね」
「婚約者の方ってどんな方なんですか?」
初めてエリーが口を開いた。
「それはもう素敵な方なのよ。身分は子爵だけどとても裕福で子息のオーエンは綺麗なお顔立ちでとても優しい方。あなたのことをとても気に入ってるの」
「ああ、こんな綺麗なお嬢さんと結婚できるなんてと大喜びしておる」
「綺麗? 私その方とお会いしたことありませんが気に入ってると言うのは?」
「オーエンはフレディやミリーの友達なんだ。双子なら同じだろうというわけだ」
「ミリーの友人ならミリーが結婚すれば良いと思います。顔は似ていても性格は全然違いますから。何故ミリーと婚約させないんですか?」
「それは無理だ、ミリーはさる国の王太子様と婚約した」
それから5ヶ月後、無事進級できたエリーはアリシアとマイラに連れられてリズバード公爵と対面するためにクラティア王国を訪れた。公爵と公爵夫人は予想以上にエリーの事を気に入りあっという間に養子縁組の手続きが完了した。
「次に来た時には盛大なパーティーを開いてお披露目しましょうね」
「こんな可愛い娘ができたんだ。あっという間に奪われないようにちょっと根回しするかな」
帰り際には満面の笑みの公爵夫人にハグされ、お土産に大量の絹織物を貰った。
「素敵なドレスをたくさん作るのよ。足りなかったり欲しいものがあったらいつでも連絡してね」
クラティア王国からの帰りの馬車の中でエリー達3人は次の予定を話し合っていた。
「次にクラティアに来る時は少しのんびりしたいわね。ここにはとても有名な湯治場と綺麗な景色の湖があるの」
「聞いたことがあるわ。ユニコーンの森でしょう?」
「さてこれで一通りの準備は終わったけれど、リューゼルの屋敷に帰ったらサイラスが待ってると思うと気が重いわね」
「エリーがあんな作戦を立てるとは思わなかったからちょっと楽しみなの」
「上手くいくと良いんですけど」
エリーは内心ドキドキでハンカチを握りしめていた。
「お帰りなさいませ、サイラス様とエドナ様がお越しになられております」
アリシアとマイラは普段の落ち着いた表情のままだがエリーは緊張して少し顔がこわばってしまった。
アリシアを先頭にエリー達が応接室に入ると以前より少しふくよかになったサイラスと着飾ったエドナがソファに並んで座っていた。
「漸くお帰りですか。随分のんびりご旅行に行かれていたようですね」
ソファに座ったままサイラスが声をかけてきた横でエドナはエリーを上から下まで舐めるように見ていた。
「座ったままで挨拶もしないとは2人とも貴族の嗜みを忘れてしまったようね」
「家族じゃないですか。そんな堅苦しい」
アリシアがお気に入りの1人掛けの椅子に座り、マイラとエリーが並んで腰掛けるとメイドがお茶を運んできた。
「で、今日はどちらへ?」
「知人のところを訪ねた帰りなの。疲れているので早々にお部屋で休みたいと思っているわ」
さっさと帰れというアリシアのサインを無視してサイラスが話しはじめた。
「エリーの婚約について早急に話し合わなくてはならないのに母上が捕まらなくて困っていたんです」
「その件なら何ヶ月も前に手紙で知らせたはずですよ。あなた達にはエリーの婚約者を決める権利はありません。用事がそれだけならわたくしは部屋に下がります」
アリシアが腰を浮かせるとサイラスが慌てて立ち上がった。
「今更やめるとなると慰謝料を払わなくてはなりませんし、婚約破棄なんてしたらエリーは傷物になってしまう。エリーが可哀想じゃありませんか」
「わたくしには慰謝料を払わなければいけない理由はありません。勝手に違法な契約を結んだのはサイラスでしょう? 大人なら自分のしでかした事は自分で責任を取りなさい」
「エリーはわたくしの子供ですわ。お義母様が口を挟むこと自体が間違ってます」
「その子供がいなくなったにもかかわらず旅行を楽しんだ挙句帰ってしまったのはあなた達でしたよね」
(臭いって大騒ぎして街のあちこちで迷惑かけて帰ったんだった。なんだか懐かしい)
「騎士団に捜索の指示を出しましたし、結局母上の所に。いや、私は大人ですから昔のことをあれこれ言うのはやめましょう。兎に角エリーは無事だったし学校に通っているのかも怪しい」
「あら、わたくしが嘘をついていると?」
「残念ですが多分間違いないでしょう。どこかの学校に通っているのならこの間の私の手紙に返事が書けたはずですからね」
「今日はそれを聞きに来たのかしら?」
「いや、今日はエリーを連れて帰ります」
「そうよ、随分素敵なドレスを仕立てて貰ってるのね。絹のドレスなんてわたくしだって持っていないのに・・。荷物を纏めていらっしゃい。早く婚約者の方と顔合わせして日取りを決めなくてはね」
「婚約者の方ってどんな方なんですか?」
初めてエリーが口を開いた。
「それはもう素敵な方なのよ。身分は子爵だけどとても裕福で子息のオーエンは綺麗なお顔立ちでとても優しい方。あなたのことをとても気に入ってるの」
「ああ、こんな綺麗なお嬢さんと結婚できるなんてと大喜びしておる」
「綺麗? 私その方とお会いしたことありませんが気に入ってると言うのは?」
「オーエンはフレディやミリーの友達なんだ。双子なら同じだろうというわけだ」
「ミリーの友人ならミリーが結婚すれば良いと思います。顔は似ていても性格は全然違いますから。何故ミリーと婚約させないんですか?」
「それは無理だ、ミリーはさる国の王太子様と婚約した」
28
お気に入りに追加
2,512
あなたにおすすめの小説
泣き虫令嬢は自称商人(本当は公爵)に愛される
琴葉悠
恋愛
エステル・アッシュベリーは泣き虫令嬢と一部から呼ばれていた。
そんな彼女に婚約者がいた。
彼女は婚約者が熱を出して寝込んでいると聞き、彼の屋敷に見舞いにいった時、彼と幼なじみの令嬢との不貞行為を目撃してしまう。
エステルは見舞い品を投げつけて、馬車にも乗らずに泣きながら夜道を走った。
冷静になった途端、ごろつきに囲まれるが謎の商人に助けられ──
【完結】伯爵令嬢の格差婚約のお相手は、王太子殿下でした ~王太子と伯爵令嬢の、とある格差婚約の裏事情~
瀬里
恋愛
【HOTランキング7位ありがとうございます!】
ここ最近、ティント王国では「婚約破棄」前提の「格差婚約」が流行っている。
爵位に差がある家同士で結ばれ、正式な婚約者が決まるまでの期間、仮の婚約者を立てるという格差婚約は、破棄された令嬢には明るくない未来をもたらしていた。
伯爵令嬢であるサリアは、高すぎず低すぎない爵位と、背後で睨みをきかせる公爵家の伯父や優しい父に守られそんな風潮と自分とは縁がないものだと思っていた。
まさか、我が家に格差婚約を申し渡せるたった一つの家門――「王家」が婚約を申し込んでくるなど、思いもしなかったのだ。
婚約破棄された令嬢の未来は明るくはないが、この格差婚約で、サリアは、絶望よりもむしろ期待に胸を膨らませることとなる。なぜなら婚約破棄後であれば、許されるかもしれないのだ。
――「結婚をしない」という選択肢が。
格差婚約において一番大切なことは、周りには格差婚約だと悟らせない事。
努力家で優しい王太子殿下のために、二年後の婚約破棄を見据えて「お互いを想い合う婚約者」のお役目をはたすべく努力をするサリアだが、現実はそう甘くなくて――。
他のサイトでも公開してます。全12話です。
本日は、絶好の婚約破棄日和です。
秋津冴
恋愛
聖女として二年間、王国に奉仕してきたマルゴット。
彼女には同じく、二年前から婚約している王太子がいた。
日頃から、怒るか、罵るか、たまに褒めるか。
そんな両極端な性格の殿下との付き合いに、未来を見れなくなってきた、今日この頃。
自分には幸せな結婚はないのかしら、とぼやくマルゴットに王太子ラスティンの婚約破棄宣が叩きつけられる。
その理由は「聖女が他の男と不貞を働いたから」
しかし、マルゴットにはそんな覚えはまったくない。
むしろこの不合理な婚約破棄を逆手にとって、こちらから婚約破棄してやろう。
自分の希望に満ちた未来を掴み取るため、これまで虐げられてきた聖女が、理不尽な婚約者に牙をむく。
2022.10.18 設定を追記しました。
愛するひとの幸せのためなら、涙を隠して身を引いてみせる。それが女というものでございます。殿下、後生ですから私のことを忘れないでくださいませ。
石河 翠
恋愛
プリムローズは、卒業を控えた第二王子ジョシュアに学園の七不思議について尋ねられた。
七不思議には恋愛成就のお呪い的なものも含まれている。きっと好きなひとに告白するつもりなのだ。そう推測したプリムローズは、涙を隠し調査への協力を申し出た。
しかし彼が本当に調べたかったのは、卒業パーティーで王族が婚約を破棄する理由だった。断罪劇はやり返され必ず元サヤにおさまるのに、繰り返される茶番。
実は恒例の断罪劇には、とある真実が隠されていて……。
愛するひとの幸せを望み生贄になることを笑って受け入れたヒロインと、ヒロインのために途絶えた魔術を復活させた一途なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25663244)をお借りしております。
婚約者と妹が運命的な恋をしたそうなので、お望み通り2人で過ごせるように別れることにしました
柚木ゆず
恋愛
※4月3日、本編完結いたしました。4月5日(恐らく夕方ごろ)より、番外編の投稿を始めさせていただきます。
「ヴィクトリア。君との婚約を白紙にしたい」
「おねぇちゃん。実はオスカーさんの運命の人だった、妹のメリッサです……っ」
私の婚約者オスカーは真に愛すべき人を見つけたそうなので、妹のメリッサと結婚できるように婚約を解消してあげることにしました。
そうして2人は呆れる私の前でイチャイチャしたあと、同棲を宣言。幸せな毎日になると喜びながら、仲良く去っていきました。
でも――。そんな毎日になるとは、思わない。
2人はとある理由で、いずれ婚約を解消することになる。
私は破局を確信しながら、元婚約者と妹が乗る馬車を眺めたのでした。
【完結】私に冷淡な態度を取る婚約者が隠れて必死に「魅了魔法」をかけようとしていたらしいので、かかったフリをしてみました
冬月光輝
恋愛
キャメルン侯爵家の長女シャルロットは政治的な戦略としてラースアクト王国の第二王子ウォルフと婚約したが、ウォルフ王子は政略結婚を嫌ってか婚約者である彼女に冷淡な態度で接し続けた。
家のためにも婚約破棄されるわけにはいかないので、何とか耐えるシャルロット。
しかし、あまりにも冷たく扱われるので婚約者と会うことに半ばうんざりしていた。
ある日のことウォルフが隠れて必死に呪術の類のようなものを使おうとしている姿を偶然見てしまう。
調べてみるとそれは「魅了魔法」というもので、かけられた者が術者に惚れてしまうという効果があるとのことだった。
日頃からの鬱憤が溜まっていたシャルロットはちょっとした復讐も兼ねて面白半分で魔法にかかったフリをする。
すると普段は冷淡だった王子がびっくりするほど優しくなって――。
「君はどうしてこんなに可憐で美しいのかい?」
『いやいや、どうしていきなりそうなるのですか? 正直に言って気味が悪いです(心の声)』
そのあまりの豹変に気持ちが追いつかないシャルロットは取り敢えずちょっとした仕返しをすることにした。
これは、素直になれない王子と令嬢のちょっと面倒なラブコメディ。
どうして別れるのかと聞かれても。お気の毒な旦那さま、まさかとは思いますが、あなたのようなクズが女性に愛されると信じていらっしゃるのですか?
石河 翠
恋愛
主人公のモニカは、既婚者にばかり声をかけるはしたない女性として有名だ。愛人稼業をしているだとか、天然の毒婦だとか、聞こえてくるのは下品な噂ばかり。社交界での評判も地に落ちている。
ある日モニカは、溺愛のあまり茶会や夜会に妻を一切参加させないことで有名な愛妻家の男性に声をかける。おしどり夫婦の愛の巣に押しかけたモニカは、そこで虐げられている女性を発見する。
彼女が愛妻家として評判の男性の奥方だと気がついたモニカは、彼女を毎日お茶に誘うようになり……。
八方塞がりな状況で抵抗する力を失っていた孤独なヒロインと、彼女に手を差し伸べ広い世界に連れ出したしたたかな年下ヒーローのお話。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID24694748)をお借りしています。
釣り合わないと言われても、婚約者と別れる予定はありません
しろねこ。
恋愛
幼馴染と婚約を結んでいるラズリーは、学園に入学してから他の令嬢達によく絡まれていた。
曰く、婚約者と釣り合っていない、身分不相応だと。
ラズリーの婚約者であるファルク=トワレ伯爵令息は、第二王子の側近で、将来護衛騎士予定の有望株だ。背も高く、見目も良いと言う事で注目を浴びている。
対してラズリー=コランダム子爵令嬢は薬草学を専攻していて、外に出る事も少なく地味な見た目で華々しさもない。
そんな二人を周囲は好奇の目で見ており、時にはラズリーから婚約者を奪おうとするものも出てくる。
おっとり令嬢ラズリーはそんな周囲の圧力に屈することはない。
「釣り合わない? そうですか。でも彼は私が良いって言ってますし」
時に優しく、時に豪胆なラズリー、平穏な日々はいつ来るやら。
ハッピーエンド、両思い、ご都合主義なストーリーです。
ゆっくり更新予定です(*´ω`*)
小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる