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40.前哨戦 お馬鹿夫婦

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 アリシアの戦闘開始宣言を受けてエリーはマイケルに子爵家との婚約が成立したと認めた手紙を出した。

 それから5ヶ月後、無事進級できたエリーはアリシアとマイラに連れられてリズバード公爵と対面するためにクラティア王国を訪れた。公爵と公爵夫人は予想以上にエリーの事を気に入りあっという間に養子縁組の手続きが完了した。

「次に来た時には盛大なパーティーを開いてお披露目しましょうね」
「こんな可愛い娘ができたんだ。あっという間に奪われないようにちょっと根回しするかな」

 帰り際には満面の笑みの公爵夫人にハグされ、お土産に大量の絹織物を貰った。

「素敵なドレスをたくさん作るのよ。足りなかったり欲しいものがあったらいつでも連絡してね」



 クラティア王国からの帰りの馬車の中でエリー達3人は次の予定を話し合っていた。

「次にクラティアに来る時は少しのんびりしたいわね。ここにはとても有名な湯治場と綺麗な景色の湖があるの」
「聞いたことがあるわ。ユニコーンの森でしょう?」


「さてこれで一通りの準備は終わったけれど、リューゼルの屋敷に帰ったらサイラスが待ってると思うと気が重いわね」
「エリーがあんな作戦を立てるとは思わなかったからちょっと楽しみなの」

「上手くいくと良いんですけど」

 エリーは内心ドキドキでハンカチを握りしめていた。





「お帰りなさいませ、サイラス様とエドナ様がお越しになられております」

 アリシアとマイラは普段の落ち着いた表情のままだがエリーは緊張して少し顔がこわばってしまった。

 アリシアを先頭にエリー達が応接室に入ると以前より少しふくよかになったサイラスと着飾ったエドナがソファに並んで座っていた。

「漸くお帰りですか。随分のんびりご旅行に行かれていたようですね」

 ソファに座ったままサイラスが声をかけてきた横でエドナはエリーを上から下まで舐めるように見ていた。

「座ったままで挨拶もしないとは2人とも貴族の嗜みを忘れてしまったようね」

「家族じゃないですか。そんな堅苦しい」

 アリシアがお気に入りの1人掛けの椅子に座り、マイラとエリーが並んで腰掛けるとメイドがお茶を運んできた。

「で、今日はどちらへ?」

「知人のところを訪ねた帰りなの。疲れているので早々にお部屋で休みたいと思っているわ」

 さっさと帰れというアリシアのサインを無視してサイラスが話しはじめた。

「エリーの婚約について早急に話し合わなくてはならないのに母上が捕まらなくて困っていたんです」

「その件なら何ヶ月も前に手紙で知らせたはずですよ。あなた達にはエリーの婚約者を決める権利はありません。用事がそれだけならわたくしは部屋に下がります」

 アリシアが腰を浮かせるとサイラスが慌てて立ち上がった。

「今更やめるとなると慰謝料を払わなくてはなりませんし、婚約破棄なんてしたらエリーは傷物になってしまう。エリーが可哀想じゃありませんか」

「わたくしには慰謝料を払わなければいけない理由はありません。勝手に違法な契約を結んだのはサイラスでしょう? 大人なら自分のしでかした事は自分で責任を取りなさい」

「エリーはわたくしの子供ですわ。お義母様が口を挟むこと自体が間違ってます」

「その子供がいなくなったにもかかわらず旅行を楽しんだ挙句帰ってしまったのはあなた達でしたよね」

(臭いって大騒ぎして街のあちこちで迷惑かけて帰ったんだった。なんだか懐かしい)

「騎士団に捜索の指示を出しましたし、結局母上の所に。いや、私は大人ですから昔のことをあれこれ言うのはやめましょう。兎に角エリーは無事だったし学校に通っているのかも怪しい」

「あら、わたくしが嘘をついていると?」

「残念ですが多分間違いないでしょう。どこかの学校に通っているのならこの間の私の手紙に返事が書けたはずですからね」

「今日はそれを聞きに来たのかしら?」

「いや、今日はエリーを連れて帰ります」

「そうよ、随分素敵なドレスを仕立てて貰ってるのね。絹のドレスなんてわたくしだって持っていないのに・・。荷物を纏めていらっしゃい。早く婚約者の方と顔合わせして日取りを決めなくてはね」


「婚約者の方ってどんな方なんですか?」

 初めてエリーが口を開いた。

「それはもう素敵な方なのよ。身分は子爵だけどとても裕福で子息のオーエンは綺麗なお顔立ちでとても優しい方。あなたのことをとても気に入ってるの」

「ああ、こんな綺麗なお嬢さんと結婚できるなんてと大喜びしておる」

「綺麗? 私その方とお会いしたことありませんが気に入ってると言うのは?」

「オーエンはフレディやミリーの友達なんだ。双子なら同じだろうというわけだ」

「ミリーの友人ならミリーが結婚すれば良いと思います。顔は似ていても性格は全然違いますから。何故ミリーと婚約させないんですか?」
 
「それは無理だ、ミリーはさる国の王太子様と婚約した」

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