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35.エリーの覚悟
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「ええ、立太子された後も不審な事故があるから終日警護をつけてるようね」
モブレー公爵は既に帰国しているがシリルやケビンと傭兵達はそのまま残った。皇帝と親交のあったシリルとケビンはミゲルの警護以外にも駆り出され忙しくしている。
「不審者は捕まらないし、王妃の生家は相変わらず議会や有力貴族に働きかけてるから立場も身辺も不安定のようですよ」
立太子したばかりのミゲルの為にも早急に有力な婚約者を選出しようという意見が多く、国内外の王侯貴族から釣書が集まっている。
「通常であればその中から3から4人の候補者が選ばれて皇太子教育を行い一定の期間を経て1人が選ばれます」
アリシアは一旦話を区切ってエリーの様子を伺った。
「・・つまりミゲル様は立太子されたものの身辺はシリルさん達が守らなければいけないほど未だに危険がおありで、皇太子としてのお立場を守る為には強力な後ろ盾になってくださるような婚約者が必要って事ですか?」
エリーの理解力に満足したアリシアが頷いた。
「ミゲル様の後ろ盾にオーモンド公爵様がついただけでは足りないのでしょうか?」
「オーモンド公爵様は長く領地に篭られていましたからあの方だけではベルトラム侯爵家とその派閥を完全に黙らせるのは厳しいでしょうね。特に弟のベルナール第二皇子様が有力な貴族と婚約したら議会は以前のように紛糾する事でしょう」
「もし仮にミゲル様が迎えに来てくださったとしても私ではお役に立てないどころか足を引っ張ってしまうだけですね」
エリーの身分はロンダール王国の一貴族でしかない上に、コーンウォリス伯爵領には特筆出来るような特産品もなく領地経営も上手くいっているとは言えない。
家令に領地経営の全てを任せているサイラスは昔からアリシアの援助金で辛うじて貴族としての体面を取り繕っている有様。
「それが分かっていながら皇太子様が何故エリーに連絡をしてこないのか考えてみる必要があると思いますよ」
エリーは部屋に戻り窓から外を眺めたが景色は目に映らず考えも纏まらないままだった。常に身につけていた指輪が途轍もなく重く感じられた。
(皇太子・・後ろ盾・・勢力・・皇太子妃)
エリーはその日食事が喉を通らず部屋の中をソワソワと歩き回っていた。夜の帳が下りしんと静まり返った部屋は蝋燭の影が揺らぎ衣擦れの音とエリーの溜息だけが聞こえる。
何度か蝋燭を新しくして手紙と指輪を見つめては部屋を歩き回っているうちに薄らと部屋が明るくなりはじめた。窓を開けると黎明の空の青紫色と朝焼けのオレンジ色が美しいコントラストをなし、目を覚ましたばかりの鳥が囀り清々しい空気が肺を満たした。
(あの時の・・ビーナスベルトって言うんだって教えてくれた)
2人で夜明け前に起き出して灯台を見に行った時、水平線にややグレーがかったようなアッシュピンク色のグラデーションを初めて見て感動しているエリーにマイケルが教えてくれた。
テーブルセットの仕方を習い一緒に皿を洗いトランプを覚えて・・。アリシア達と連絡が取れるまで一度も不安にならずいられたのは彼がいたから。彼自身も大変な時だったのに悪戯して2人してシリルに大目玉を喰らったりどちらが眠りにつくまで話し込んだり、アリシア達が迎えが来た時には離れ難くて手を繋いだまま逃げ出した。
朝の準備のためにメイドのハナが来た時にはエリーは着替えを済ませ髪を結び終えていた。朝食の席についたエリーの顔を見たアリシアがメイド達を下がらせた。
「色々考えたんですが彼から直接聞くまで私はミゲル皇太子ではなくマイケルと呼ぶことに決めました。それで、マイケルから連絡が来るまで待ってみようと思います」
エリーはアリシアの目を真っ直ぐ見つめて言い切った。
「どんな内容になるか分からないけどマイケルは今頑張っていて、その中で一生懸命考えてちゃんと答えを出してくれる人だと信じてるのでそれまでは自分にできる事を頑張って待ちたいと思います。と言うより待たせてください」
「エリーが黙って待っている間に婚約者が決まるかもしれなくてよ」
「はい」
「全く連絡が来ない可能性もあるわ」
「はい」
「彼が迎えに来たら皇太子妃にと望まれるかもしれなくてよ」
「はい、力不足なのは理解してます。でももしマイケルが望んでくれるなら少しでも役に立てるよう精一杯頑張ります」
「ではエリーには学園の勉強以外に皇太子妃としての勉強を追加しなくてはなりませんね。これから先もっと大変になる学園の勉強に追加して無駄になる可能性の高い妃教育の勉強も並行して出来ますか?」
「はい。覚悟はできています」
モブレー公爵は既に帰国しているがシリルやケビンと傭兵達はそのまま残った。皇帝と親交のあったシリルとケビンはミゲルの警護以外にも駆り出され忙しくしている。
「不審者は捕まらないし、王妃の生家は相変わらず議会や有力貴族に働きかけてるから立場も身辺も不安定のようですよ」
立太子したばかりのミゲルの為にも早急に有力な婚約者を選出しようという意見が多く、国内外の王侯貴族から釣書が集まっている。
「通常であればその中から3から4人の候補者が選ばれて皇太子教育を行い一定の期間を経て1人が選ばれます」
アリシアは一旦話を区切ってエリーの様子を伺った。
「・・つまりミゲル様は立太子されたものの身辺はシリルさん達が守らなければいけないほど未だに危険がおありで、皇太子としてのお立場を守る為には強力な後ろ盾になってくださるような婚約者が必要って事ですか?」
エリーの理解力に満足したアリシアが頷いた。
「ミゲル様の後ろ盾にオーモンド公爵様がついただけでは足りないのでしょうか?」
「オーモンド公爵様は長く領地に篭られていましたからあの方だけではベルトラム侯爵家とその派閥を完全に黙らせるのは厳しいでしょうね。特に弟のベルナール第二皇子様が有力な貴族と婚約したら議会は以前のように紛糾する事でしょう」
「もし仮にミゲル様が迎えに来てくださったとしても私ではお役に立てないどころか足を引っ張ってしまうだけですね」
エリーの身分はロンダール王国の一貴族でしかない上に、コーンウォリス伯爵領には特筆出来るような特産品もなく領地経営も上手くいっているとは言えない。
家令に領地経営の全てを任せているサイラスは昔からアリシアの援助金で辛うじて貴族としての体面を取り繕っている有様。
「それが分かっていながら皇太子様が何故エリーに連絡をしてこないのか考えてみる必要があると思いますよ」
エリーは部屋に戻り窓から外を眺めたが景色は目に映らず考えも纏まらないままだった。常に身につけていた指輪が途轍もなく重く感じられた。
(皇太子・・後ろ盾・・勢力・・皇太子妃)
エリーはその日食事が喉を通らず部屋の中をソワソワと歩き回っていた。夜の帳が下りしんと静まり返った部屋は蝋燭の影が揺らぎ衣擦れの音とエリーの溜息だけが聞こえる。
何度か蝋燭を新しくして手紙と指輪を見つめては部屋を歩き回っているうちに薄らと部屋が明るくなりはじめた。窓を開けると黎明の空の青紫色と朝焼けのオレンジ色が美しいコントラストをなし、目を覚ましたばかりの鳥が囀り清々しい空気が肺を満たした。
(あの時の・・ビーナスベルトって言うんだって教えてくれた)
2人で夜明け前に起き出して灯台を見に行った時、水平線にややグレーがかったようなアッシュピンク色のグラデーションを初めて見て感動しているエリーにマイケルが教えてくれた。
テーブルセットの仕方を習い一緒に皿を洗いトランプを覚えて・・。アリシア達と連絡が取れるまで一度も不安にならずいられたのは彼がいたから。彼自身も大変な時だったのに悪戯して2人してシリルに大目玉を喰らったりどちらが眠りにつくまで話し込んだり、アリシア達が迎えが来た時には離れ難くて手を繋いだまま逃げ出した。
朝の準備のためにメイドのハナが来た時にはエリーは着替えを済ませ髪を結び終えていた。朝食の席についたエリーの顔を見たアリシアがメイド達を下がらせた。
「色々考えたんですが彼から直接聞くまで私はミゲル皇太子ではなくマイケルと呼ぶことに決めました。それで、マイケルから連絡が来るまで待ってみようと思います」
エリーはアリシアの目を真っ直ぐ見つめて言い切った。
「どんな内容になるか分からないけどマイケルは今頑張っていて、その中で一生懸命考えてちゃんと答えを出してくれる人だと信じてるのでそれまでは自分にできる事を頑張って待ちたいと思います。と言うより待たせてください」
「エリーが黙って待っている間に婚約者が決まるかもしれなくてよ」
「はい」
「全く連絡が来ない可能性もあるわ」
「はい」
「彼が迎えに来たら皇太子妃にと望まれるかもしれなくてよ」
「はい、力不足なのは理解してます。でももしマイケルが望んでくれるなら少しでも役に立てるよう精一杯頑張ります」
「ではエリーには学園の勉強以外に皇太子妃としての勉強を追加しなくてはなりませんね。これから先もっと大変になる学園の勉強に追加して無駄になる可能性の高い妃教育の勉強も並行して出来ますか?」
「はい。覚悟はできています」
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