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32.やっと気付いた

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(待って! マイケルは迎えに行くからずっと一緒にいようねって・・そしたら、こっ皇太子妃? 無理無理無理、私なんかじゃ絶対無理)

 エリーは部屋を飛び出し2階の居間に駆け込んだ。

「おっお祖母様、あの!」

 真っ青な顔で言葉を詰まらせたエリーを見たアリシアがにっこりと微笑んだ。

「あら、思ったより早かったわ。マイラ、新しいお茶を入れてくれるかしら。エリーは座って少し落ち着きましょうね」

 ソファにちょこんと腰掛けたエリーは冷や汗をかきながらアリシアを凝視した。

「で?」

「あの、迎えに行くからずっと一緒にいようねって言われて」

「まあ、なんて素敵なんでしょう。となるとやっぱり指輪は婚約指輪のつもりだったのかしら?」

「いえ、あの。まだ子供だったしそう言うわけではないと。でももし・・もし仮にその」

「そうねえ、もし彼が本当に迎えにきたらそう言う意味かもしれなくてよ」

 茶目っ気たっぷりのアリシアは余裕の表情でエリーを見つめ、入れ直したお茶をテーブルに置いたマイラもくすくすと笑っていた。

「おっ叔母様? 笑うようなおかしなとこはなかったです」

「だって私の予想では彼はかなり本気だったような気がするの。お母様もそうお思いでしょう?」

「ええ、だからわたくしはあの時しっかりと念を押しておきましたの」

『エリーはわたくしの大切な孫ですから幸せになって欲しいと心から思っておりますの。マイケルさんのご事情は存じませんがもしこの先も親しくして下さるならどうか頑張ってくださいね』

「そしたらね、エリーに相応しいと思って頂けるようになってから迎えに行きますってそれはもうキッパリ。だから、楽しみにしてお待ちしておりますってお答えしておいたわ」

「うっ」

 予想の上を行くアリシアの言動にさっきまで青褪めていたエリーの顔が真っ赤に染まった。

「それはつまり・・でももしかしたら」

「まずは印章を調べに行く?」

 マイラの声かけに勢いよく振り向いたエリーは機械仕掛けのようにカクカクと頷いた。

「そこをはっきりさせなくては話が進まないですからね。続きを考えるのはそれからでも遅くはないと思いますよ」

 アリシアの言葉にエリーは一旦問題の先送りをすることに決めた。マイケルと自分の気持ち、マイケルが迎えにきた時と迎えに来なかった時・・。

「いっぺんに考えたら頭がパンクしそうなので取り敢えず紋章を調べ終わるまでは考えない事にします」

 マイラの入れてくれたお茶を一気飲みしたエリーは『お行儀が悪いわよ』と言いながらニコニコしているアリシアとくすくす笑うマイラにお礼を言って立ち上がった。

「もし叔母様のご迷惑じゃなかったら準備が出来次第図書館へ行きたいです」

「印章を押した紙は絶対に無くさないようになさい。一枚でも人の手に渡ったら大変な事になりますからね」

「はい、全部必ず持って帰ります」

 持って帰った紙は全て燃やし尽くし灰の中にも残りがないか確認しなくちゃと思いながら部屋に戻ったエリーはマイケルから届いた貴重な手紙を読み直した。

 1通目はエリーが出発して数日のうちに書かれたもののようで、地下室の中から荷物がなくなって寂しくなった事や定期市の様子などが書かれていた。

『一緒に行ける時を楽しみにしてる』

 定期市で買ったと言って手紙と共に送られてきたハンカチは引き出しの一番奥にしまっているエリーの大切な宝物。


 2通目の手紙には地下室を卒業してモブレー公爵邸に住んでいると書かれていた。

『エリーに負けないように頑張る。暫く手紙を送れないけど、必ず迎えに行くね』


(紋章を調べた後はバルサザール帝国について調べる事になるかな?)



 お天気が良いからとエリー達は図書館まで歩いた。大通りには学生が溢れかえり満席のカフェからは元気に議論する声が聞こえてくる。道端にしゃがみ込んで鞄の中を漁っているのは学園に忘れ物をした人だろうか?

 普段は大勢の学生が利用している図書館の中はいつもより年嵩の人が多いような気がした。

「お休みに入ったばかりだからいつもより大学生や研究者が多いみたいね」

 大学に入学する人の年齢は様々で附属学校を卒業してすぐに入学した人や裕福な貴族の子息は割と若いが平民やあまり裕福ではない貴族の子息だと二十代後半の人もいる。

 受付にいた司書に聞くと貴族年鑑などは2階の突き当たりだと教えてくれたので階段を上がり本棚の間を抜けてバルサザール帝国の資料を探した。

 いくつかピックアップした資料を抱えて隅のテーブルに移動した。椅子に浅く腰掛け背筋を伸ばし両手を膝に置いたまま・・閉じたままの本を睨んで固まってしまった。

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