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30.パドラス附属学園
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エリーはパドラス附属学園の入学と同時に寮に入った。貴族用の1人部屋には居間と勉強部屋、寝室の他に専用のメイドの部屋とミニキッチンが併設されていた。
朝夕の食事は寮の食堂でとり昼食は学園内のカフェか売店が一般的で希望者には部屋での食事や外部からの持ち込みも許されている。
(今までで一番贅沢してるかも)
アリシアが雇ってくれたメイドのハナはエリーより6歳年上でサロニカ王国の子爵令嬢。少し癖のある赤毛をいつも後ろで一つに纏め支給されたメイド服を着込んでいる。少し垂れた蒼眼と鼻の辺りに散らばるそばかすが優しい印象で少しそそっかしいところがある。
「エリー様、どうしましょう。すっかり忘れておりました」
「ごめんなさい、つい手が滑って・・」
お陰でエリーは毎日気負う事なく寮生活を過ごしていた。
授業の内容はかなりハードで課題も沢山あるが昼食や休憩時間を一緒に過ごせる友達もできた。
時間に余裕のある週末にはアリシア達の住むタウンハウスに戻り学園での勉強や友人の事を話すと2人はとても喜んでくれた。
「良い学友は一生の宝物ですからね。一緒に切磋琢磨した時間は深い絆を作ってくれます」
「しっかり遊ぶのよ。エリーなら少しくらい手を抜いても大丈夫だもの」
アリシアとマイラから言われた微妙に温度差のある言葉をエリーはマイケルへの手紙に書いたがマイケルからの返信は来ていない。
(最後に届いた手紙に、暫く手紙が書けなくなるって書いてあったもの。頑張れマイケル、私も頑張るね)
サイラスへの援助金の減額はかなりダメージが大きかったらしく何度も謝罪の手紙が届いたりリューゼルの屋敷に使いの者が来たりしていた。エリーが学園に入学して8カ月過ぎた頃サイラスからアリシアに届いた手紙には『学園へ入学させる為エリーを送り返して欲しい』と書いてあった。
「既に別の学校に入学手続きが終わっているのでロンダール王立学園には入学しないと返信しておきました。これでまた暫く大人しくなると思いますよ」
「大体【送り返す】って言葉自体がおかしいのよね。物じゃあるまいしサイラスは年々酷くなってくわ」
アリシアが手紙の返事を送った頃『フレディとミリーは単位不足で進級不可』と言う連絡が学園から領地に届きサイラスは頭を抱えていた。
「2人とも落第だなんて一体全体どう言う事だ! 進級させるのにいくらかかると思ってるんだ、そんな金がどこにある」
「でも、進級させなくては恥ずかしくてわたくし達パーティーに行けなくなってしまいますわ」
「学園からの手紙によると授業をサボっては遊び歩いて課題を提出せずテスト結果も赤点だらけ。しかも、王都から届く請求書がどんどん増えていると家令が言っておる」
「王都は何かと物入りだって話ですから仕方ありませんでしょう?」
「エリーを取り返したら母上からの援助金が元通りになると思ったのに、別の学校に入学させると言うし」
「エリーは別に構わないでしょう? 援助金だけ元に戻して頂くか増額して頂ければ問題解決ですわ」
「うむ、家令にそのように言いつけて母上と交渉させるとしよう」
リューゼルの屋敷に来た家令は当主不在で門前払いとなり援助金増額のお願いが認められた手紙だけがアリシアに届けられた。
「援助金だけは元に戻しましょう。窮鼠猫を噛むと言いますものね」
「2人揃って落第だなんて少しはエリーを見習わせたいわ」
アリシアはエリーの将来には口を出さずアリシアに一任すると言う念書をサイラスが書くのであればと言う条件付きで援助金の額を元に戻すことにした。
エリーが3年生になる少し前にバルサザール帝国で第一皇子が立太子したと発表があった。
「さて、事態が動きはじめたわね」
「エリーに話したらショックを受けるんじゃないかしら」
「次のお休みに・・いえ、進級前のお休みの時にしましょう。エリーには考える時間が必要かもしれませんからね」
エリーは無事進級が決まり2週間の休みの初日にタウンハウスへ戻ってきた。
「お帰りなさい。そして進級おめでとう、1年間よく頑張りましたね。学園から成績表と評価が届いているわ」
「昼食の準備ができてるから着替えてくる? お祝いにお部屋に新しいドレスを準備してあるのよ」
アリシア達が準備してくれたのは襟元と袖口にレースをあしらった薄紫のデイドレスで今までよりウエストを絞ったシルエットがエリーを大人っぽく見せてくれた。
ドレスと揃いの靴を履き随分長くなった髪をハーフアップに整え食堂に行った。
「お祖母様と叔母様、とても素敵なドレスと靴をありがとうございます」
学園での話や進級後の予定などを話し和やかに過ごした翌日、エリーがアリシアからの呼び出しで居間に行くと心なしか緊張した顔のマイラと毅然とした表情を浮かべたアリシアがソファに座っていた。
朝夕の食事は寮の食堂でとり昼食は学園内のカフェか売店が一般的で希望者には部屋での食事や外部からの持ち込みも許されている。
(今までで一番贅沢してるかも)
アリシアが雇ってくれたメイドのハナはエリーより6歳年上でサロニカ王国の子爵令嬢。少し癖のある赤毛をいつも後ろで一つに纏め支給されたメイド服を着込んでいる。少し垂れた蒼眼と鼻の辺りに散らばるそばかすが優しい印象で少しそそっかしいところがある。
「エリー様、どうしましょう。すっかり忘れておりました」
「ごめんなさい、つい手が滑って・・」
お陰でエリーは毎日気負う事なく寮生活を過ごしていた。
授業の内容はかなりハードで課題も沢山あるが昼食や休憩時間を一緒に過ごせる友達もできた。
時間に余裕のある週末にはアリシア達の住むタウンハウスに戻り学園での勉強や友人の事を話すと2人はとても喜んでくれた。
「良い学友は一生の宝物ですからね。一緒に切磋琢磨した時間は深い絆を作ってくれます」
「しっかり遊ぶのよ。エリーなら少しくらい手を抜いても大丈夫だもの」
アリシアとマイラから言われた微妙に温度差のある言葉をエリーはマイケルへの手紙に書いたがマイケルからの返信は来ていない。
(最後に届いた手紙に、暫く手紙が書けなくなるって書いてあったもの。頑張れマイケル、私も頑張るね)
サイラスへの援助金の減額はかなりダメージが大きかったらしく何度も謝罪の手紙が届いたりリューゼルの屋敷に使いの者が来たりしていた。エリーが学園に入学して8カ月過ぎた頃サイラスからアリシアに届いた手紙には『学園へ入学させる為エリーを送り返して欲しい』と書いてあった。
「既に別の学校に入学手続きが終わっているのでロンダール王立学園には入学しないと返信しておきました。これでまた暫く大人しくなると思いますよ」
「大体【送り返す】って言葉自体がおかしいのよね。物じゃあるまいしサイラスは年々酷くなってくわ」
アリシアが手紙の返事を送った頃『フレディとミリーは単位不足で進級不可』と言う連絡が学園から領地に届きサイラスは頭を抱えていた。
「2人とも落第だなんて一体全体どう言う事だ! 進級させるのにいくらかかると思ってるんだ、そんな金がどこにある」
「でも、進級させなくては恥ずかしくてわたくし達パーティーに行けなくなってしまいますわ」
「学園からの手紙によると授業をサボっては遊び歩いて課題を提出せずテスト結果も赤点だらけ。しかも、王都から届く請求書がどんどん増えていると家令が言っておる」
「王都は何かと物入りだって話ですから仕方ありませんでしょう?」
「エリーを取り返したら母上からの援助金が元通りになると思ったのに、別の学校に入学させると言うし」
「エリーは別に構わないでしょう? 援助金だけ元に戻して頂くか増額して頂ければ問題解決ですわ」
「うむ、家令にそのように言いつけて母上と交渉させるとしよう」
リューゼルの屋敷に来た家令は当主不在で門前払いとなり援助金増額のお願いが認められた手紙だけがアリシアに届けられた。
「援助金だけは元に戻しましょう。窮鼠猫を噛むと言いますものね」
「2人揃って落第だなんて少しはエリーを見習わせたいわ」
アリシアはエリーの将来には口を出さずアリシアに一任すると言う念書をサイラスが書くのであればと言う条件付きで援助金の額を元に戻すことにした。
エリーが3年生になる少し前にバルサザール帝国で第一皇子が立太子したと発表があった。
「さて、事態が動きはじめたわね」
「エリーに話したらショックを受けるんじゃないかしら」
「次のお休みに・・いえ、進級前のお休みの時にしましょう。エリーには考える時間が必要かもしれませんからね」
エリーは無事進級が決まり2週間の休みの初日にタウンハウスへ戻ってきた。
「お帰りなさい。そして進級おめでとう、1年間よく頑張りましたね。学園から成績表と評価が届いているわ」
「昼食の準備ができてるから着替えてくる? お祝いにお部屋に新しいドレスを準備してあるのよ」
アリシア達が準備してくれたのは襟元と袖口にレースをあしらった薄紫のデイドレスで今までよりウエストを絞ったシルエットがエリーを大人っぽく見せてくれた。
ドレスと揃いの靴を履き随分長くなった髪をハーフアップに整え食堂に行った。
「お祖母様と叔母様、とても素敵なドレスと靴をありがとうございます」
学園での話や進級後の予定などを話し和やかに過ごした翌日、エリーがアリシアからの呼び出しで居間に行くと心なしか緊張した顔のマイラと毅然とした表情を浮かべたアリシアがソファに座っていた。
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