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12.ガレオン船は想像以上に大きかった

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 綺麗に整備された大通りを歩き人並みを避けながら港に向けて緩やかな坂を降っていると、直ぐ横を荷馬車が勢いよく走り抜けた。
 何人もの商人らしき人が手振りを交えながら話していたり、荷積み人らしき人が首にかけた布で汗を拭きながら休憩していたりするのが見えてきた。


「定期市が近付いたから特に今は人が多いんだ。市が終わった後はぐんと人が減るけど、それでも毎日船が入るから朝夕は立ち寄らない方が無難だと思う」

 ずらりと並んだ倉庫はドアが開け放たれて人が出入りしており、波止場に停泊した船から木箱が運び出され荷馬車に積み込まれて行く。


 仲良く手を繋いだ2人は右端に停泊している船の前にやって来た。

「ガレオン船って想像以上に大きいのね」

 既に荷物を降ろした後なのか船の周りには人がいないので遠慮なく近付いたが、あまりの大きさに見上げると首が痛くなりそうなほどだった。


「ガレオン船は少し小さめの船首楼と大きな船尾楼で3から5本のマストが特徴なんだ。以前より荷物が多く積めるようになったし速度も早いんだけどその分安定性に欠けるのが問題だって言われてる」

「こんなに大きいと人手もたくさん必要そうね」

「こいつは排水量船の重さ305トンで3本マスト、乗組員は最大85名」

「詳しいのね、レバントに住んでる人はみんなそんなに詳しいの?」

「いや、偶々知ってる船がいただけで」

 褒められたマイケルは少し照れくさそうな顔をして別の船を指さした。

「あっちの船は同じ3本マストでも乗組員が140人なんだ。これからもっともっと大きな船が造られていくと思う」



「船って綺麗ね」

 潮風が吹き土埃が舞い上がった。エリーが帽子を押さえると風はスカートの裾を揺らしていった。

「帆を広げるともっとかっこいいから、いつか見せてあげるね」

「約束?」

「うん、約束する。
だけど女の人は船に乗れないから凄く可哀想だと思う。帆を一杯に張った船が疾走する時、波をかき分けて水飛沫が上がって迫力満点なんだ」

「どうして男の人しか船に乗れないのかしら」

「海の神様は女性だからヤキモチをやかれて不幸が起きるんだって」

「そうなの? じゃあ港から見る景色をしっかり楽しむしかないのかしら。残念だけどバルサザール帝国には行けないのね」

「えっ? あっいや・・えっと、帝国に行ってみたいの?」

 船の方を見ながら話していたマイケルが赤い顔をしてエリーを凝視した。


「マイケルが教えてくれた灯台の話を聞いて興味を持ったの。
あんな素敵なお話を聞いたら近くで見てみたいなって」

 マイケルが嬉しそうにエリーの両手を握りしめた。

「そうだよね、僕調べてみるよ。女性を乗せてる船だってあるかもしれないし、特別に乗せてくれる船長がいるかも」

「じゃあ私はそれまでに海や船の事もっと勉強しておくわ。でも、無理はなしでね。海の神様を怒らせたら大変だもの」


「うん、楽しみにしてて。必ず船に乗せてあげる」


 その後2人は屋台で買い食いをしたり店を冷やかしたりして夕方まで遊び地下室に帰った。

「大丈夫だったね」

「お館様が仰ってた通りただの脅しだったんだ。これなら明日も出かけられそうだね。
明日の朝は灯台を見に行こう」

「うん、見えるといいなあ」

「さっき夕焼けが出てたから多分晴れると思うけど、僕もまだ見れた事がないんだ。一回で見れたらすごい事だよ」

「そっか、明日の朝起きられるように今晩は早めに寝なくちゃね」


 食事をもらいに調理場に行くとケビンが頭に布を巻いて料理を作っていた。

「飯か? 今日は早えな」

「明日の朝灯台を見に行こうと思って」

「そうか、そりゃ楽しみだな。もし見えたらどんなだったか教えてくれよな」

「ケビン見た事ないの?」

「おう、俺も兄貴も宵っ張りだからなぁ早起きなんかぜってえ無理」


 話をしながらどんどん料理ができていくのをエリーがキラキラ目を輝かせて見ていた。

「マイケルがいつか船に乗せてくれるって約束してくれたの」

「へー、そいつは楽しみだな。ほらこれを持ってきな、今日は魚だぜ」

「船ねえ」

 真っ赤な顔でデレているマイケルをカウンターから覗いているシリルがニヤニヤと覗いていた。

「うーん、想像以上の展開の速さね。若いって素敵! うふっ」

「揶揄ってねえでお前はさっさと料理を運べ。冷めちまうだろうが」

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