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7.上がっていくハードル

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「じゃあさ、シリルお姉ちゃんお願いって言って」

「シリルお姉ちゃんお願い?」

「うーん、なんか違うのよ・・そうだわ、お姉ちゃまでやってみて。上目遣いも追加して・・首をちょっと傾げて」

 エリーの羞恥プレイのハードルがどんどん上がっていく。

「シリルお姉ちゃま、お願い」

「きゃー、いいわー。何でも言うこと聞いちゃう~。マイケル、アリシアにおやつ持ってきて!」

 真っ赤になった顔を両手で覆い悶絶しているエリーを餌付けする気満々のシリルを横目に、笑いを我慢しすぎたマイケルはお腹を押さえて一階に駆け上がった。


「さて、馬鹿はいなくなったからこれで落ち着いて話せるわ。
洋服代って持ってるの?」

「はっはい。あります」

 慌てて鞄を開けて一番下に隠していた巾着から硬貨を取り出しシリルに差し出した。

「ぎゃぁ、アンタ何やってんのよ! このおばかー」

「ひっ!」

 ガラガラガッシャーン。シリルの大声に驚いたマイケルが一階で皿かカップを割ったらしい。


「どっどうした?」

 マイケルがそっと階下を覗き込むと鞄の前でしゃがみ込み涙目で震えるエリーと腰に手を当てて仁王立ちしたシリルが目に入った。

(怖え、でも可愛い・・敵に見つかった・・栗鼠? 棘を出し損ねたハリネズミだ!)


「平民服買うのに白金貨っておバカなの? おバカなのね。うん、まごうかたなきおバカだわ。
それから、そこでこっそり覗いてる出歯亀は明日から開店前の床掃除確定」

「でっでもシリルが大きな声「問答無用! 気に入らないんならケツ蹴っ飛ばしてガレオン船の船倉に叩き込むわよ」」

「はい、ごめんなさい」


「さて、アリシアはそこにお座り! いやん可愛い~、じゃなくってアンタの金銭感覚はどうなってるのよ」

 床に正座して涙目で見上げたシリルは天を衝く巨大な魔王の様に見えた。

「あの、金貨のつもりで出したんですけどちょっと慌ててしまってて」

「はあ~、金貨でも大概だけどそこはしょうがないわね。銀貨とか持ってないの?」

「あります! 銀貨が2枚、さっき助祭さんからお釣りで貰いました」

 魔王様シリルから強烈な冷気が飛んできて、エリーは真っ青になってガタガタと震えはじめた。

「詳しく説明してちょうだい。アンタ助祭に金貨を見せたの?」

「お祖母様に手紙を書いてそれを早馬で送ってもらうのに金貨を渡してお釣りをもらいました」

「あんのクソ助祭! 早馬に銀貨2枚も要求したのね。手紙の一つなら銀貨一枚でお釣りが来るっての!」

 魔王様シリルから熱波が飛んできてエリーは手汗をドレスに擦り付けた。

(はっハンカチ出さなくちゃ)


「今後一切助祭にお金を見せちゃ駄目。白金貨なんて見せてないでしょうね」

 コクコクと頷くエリーを見て漸く魔王様の怒りが収まってきた。

「司祭様は真面だけど助祭は金と貴族が大好きなクソ野郎だから、アリシアなんて三段重ねのケーキに蜂蜜かけてチョコレートを乗せたくらい魅力的なの」

 魔王様の味覚はどうやら人外らしい。

((それ、絶対美味しくないと思う))

 エリーとマイケルの心の声が一致した。


「助祭は銭ゲバで貴族の腰巾着でやりたい放題なんだけど、司祭様は人がいいって言うか抜けてるって言うか人を疑うことを知らないのよ。で、それを良いことに助祭は好き放題やってるの。
アリシアみたいな子供が大金持ってたら根こそぎ騙し取ってから、どこかの変態貴族にアンタを売り渡すくらい平気でやるわよ。
近々助祭は処罰されるはずだけどアイツの最後の仕事になりたくないならもう少し頭を使いなさい」

「はい」


「さて、店が忙しくなる前にアリシアの着替えを買ってこなくちゃ。
マイケル後は頼んだわ、アリシアよりはマシだと期待してるからちゃんとお世話係さんしといてね」

「はーい」


 魔王様が変身を解きドスドスと一階に上がっていった。


「あっ、シリルさんに金貨渡してない・・どうしよう」

「後払いでも大丈夫だよ。それより足痛くない?」

「うっ、立てない」

 エリーは生まれて初めての正座に、立ちあがろうとしてドシャっと頭から突っ込んだ。



 マイケルが入れてくれた紅茶とおやつで心を癒しているとシリルが帰ってきた豪快な音が聞こえてきた。

「お帰りなさい、シリルさん。お姉ちゃま」

 片眉を上げたシリルを見て咄嗟に言い直したエリーに、グッジョブとばかりにマイケルがサムズアップした。

「外、結構大変な事になってるわ」

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