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6.勿論偽名です
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「彼女は暫くここに住むことになった、名前は・・えーっと」
司祭がどうしようか? と言うようにエリーの顔を覗き込んだ。
「名前はアリシアです。勿論偽名ですけど」
司祭が目を丸くしケビンと少年が吹き出した。
「僕はマイケル、勿論こっちも偽名だよ。ここに泊まるなら僕と友達になってもらわないとね」
仁王立ちから一転して笑顔になった自称マイケルが手を差し出してきたが、胡散臭い少年と同室になるのは勘弁して欲しい。
「友達にはなれますけど相部屋はちょっとご遠慮します」
「大丈夫、コイツはしょっちゅうここへやって来るが、夜はちゃんと自分の巣穴に戻るからな」
(日中だけなら仕方ないか、私の方が後から来たんだし)
「宜しくお願いします。マイケル」
エリーはマイケルと握手したが彼の手には剣だこがあり、綺麗に整えられた爪と手入れされたサラサラの髪は高位貴族の証。
「んじゃここの説明はマイケルに頼んで俺は店に戻るとすっか。
そろそろシリルが帰って来てツノ生やしてる頃だぜ」
ドスドスと階段を上がるケビンの影から小さく手を振ってくれた司祭にペコリと頭を下げたエリーは、足元に置いていた鞄を持ち上げ取り敢えず部屋の隅に移動した。
「喉乾いてない?」
エリーが首を振るとマイケルは音もさせずに椅子を引きエリーに着席を勧めた。一つ一つの動作が洗練されていて洗い晒しの平民服を着ていても誰もマイケルの事を平民だとは思わないだろう。
「喉が渇いたりお腹が空いたら一階のキッチンを漁ると良いよ。ちゃんと片付けをしてあればシリルは怒らないし、厨房を覗いてご飯を強請っても大丈夫。
トイレとお風呂は一階にあるから自由に使ってOK。平民の家なのにお風呂があるのって凄いだろ? この街でも珍しいんだけどシリルが大の風呂好きなんだ。
ただ、貴族の子だと薪でお湯を沸かす方法がわからないよね~。そこはシリルに相談してもらうしかないかな。
他に聞きたい事は?」
「平民の服を買うのはどこに行けば良いですか?」
「そうか、そのままだと目立つよね。それかなり上質の絹だもん。
外に出るのがヤバければ僕が買ってきても良いけど・・もうちょっとしたらシリルが飛び込んでくると思うから頼めば良いよ」
立板に水を流す様に話していたマイケルは悪戯を思いついた様な顔で笑った。
「アリシアはシリルの好みにドンピシャだから」
エリーの頭にクエスチョンマークがいくつも並んだ頃ドカドカと大きな足音が聞こえてきた。
階段を凝視していたエリーの目に飛び込んできたのはふわふわのピンクブロンドに緑のスカーフ、スカートの裾に刺繍を入れた若草色のコール・ド・コットを着て白いエプロンをつけた大男。
まんまるに目を見開いて呆然としている間にエリーは抱き上げられていた。
「きゃー、ケビンったらちゃんと説明しないんだから。なんて可愛いのかしら、まるでお人形みたい・・ううん、お人形でもここまで可愛いのはないわ~」
(初めて見た・・おネエ様)
「シリル、アリシアが吃驚してるよ」
漸く(シリルの膝の上に)下ろしてもらったエリーは、笑いを堪えて顔を赤くしてプルプル震えているマイケルを睨んだ。
エリーを膝に乗せたシリルの座っている椅子がギシギシと不気味な音を立てている。
「しっ紹介するね。か・・彼女は、けっケビンの兄・・姉のシリル。
駄目だ、ぶはっ」
我慢出来なくなったマイケルが吹き出して笑い転げた。
「マイケル、アンタ失礼すぎ! 出入り禁止にするわよ~」
どすの利いた声で話す女言葉には妙な迫力があった。
「だって、僕の予想以上にアリシアを見たシリルが興奮してるから。シリルの好みだとは思ったけどまさか膝抱っこ迄するとは。ブハッ」
「可愛いは正義なの! アンタみたいな唐変木だって人の美醜位はわかるでしょ」
「うん、アリシアからシリルが喜びそうなお願いがあるみたいだよ」
マイケルは上手く話を切り替えてきた。
「えっ? 何々? 何でも言って良いわよー。お姉ちゃんに任せなさい」
「あの・・平民の服が欲しいかなって。でもあちこち歩き回れないので困ってて」
「そうね~、確かにその格好は不味いわね。一人じゃ着替えもできないでしょう?」
コクリと頷いたエリーにシリルが爆弾を落とした。
司祭がどうしようか? と言うようにエリーの顔を覗き込んだ。
「名前はアリシアです。勿論偽名ですけど」
司祭が目を丸くしケビンと少年が吹き出した。
「僕はマイケル、勿論こっちも偽名だよ。ここに泊まるなら僕と友達になってもらわないとね」
仁王立ちから一転して笑顔になった自称マイケルが手を差し出してきたが、胡散臭い少年と同室になるのは勘弁して欲しい。
「友達にはなれますけど相部屋はちょっとご遠慮します」
「大丈夫、コイツはしょっちゅうここへやって来るが、夜はちゃんと自分の巣穴に戻るからな」
(日中だけなら仕方ないか、私の方が後から来たんだし)
「宜しくお願いします。マイケル」
エリーはマイケルと握手したが彼の手には剣だこがあり、綺麗に整えられた爪と手入れされたサラサラの髪は高位貴族の証。
「んじゃここの説明はマイケルに頼んで俺は店に戻るとすっか。
そろそろシリルが帰って来てツノ生やしてる頃だぜ」
ドスドスと階段を上がるケビンの影から小さく手を振ってくれた司祭にペコリと頭を下げたエリーは、足元に置いていた鞄を持ち上げ取り敢えず部屋の隅に移動した。
「喉乾いてない?」
エリーが首を振るとマイケルは音もさせずに椅子を引きエリーに着席を勧めた。一つ一つの動作が洗練されていて洗い晒しの平民服を着ていても誰もマイケルの事を平民だとは思わないだろう。
「喉が渇いたりお腹が空いたら一階のキッチンを漁ると良いよ。ちゃんと片付けをしてあればシリルは怒らないし、厨房を覗いてご飯を強請っても大丈夫。
トイレとお風呂は一階にあるから自由に使ってOK。平民の家なのにお風呂があるのって凄いだろ? この街でも珍しいんだけどシリルが大の風呂好きなんだ。
ただ、貴族の子だと薪でお湯を沸かす方法がわからないよね~。そこはシリルに相談してもらうしかないかな。
他に聞きたい事は?」
「平民の服を買うのはどこに行けば良いですか?」
「そうか、そのままだと目立つよね。それかなり上質の絹だもん。
外に出るのがヤバければ僕が買ってきても良いけど・・もうちょっとしたらシリルが飛び込んでくると思うから頼めば良いよ」
立板に水を流す様に話していたマイケルは悪戯を思いついた様な顔で笑った。
「アリシアはシリルの好みにドンピシャだから」
エリーの頭にクエスチョンマークがいくつも並んだ頃ドカドカと大きな足音が聞こえてきた。
階段を凝視していたエリーの目に飛び込んできたのはふわふわのピンクブロンドに緑のスカーフ、スカートの裾に刺繍を入れた若草色のコール・ド・コットを着て白いエプロンをつけた大男。
まんまるに目を見開いて呆然としている間にエリーは抱き上げられていた。
「きゃー、ケビンったらちゃんと説明しないんだから。なんて可愛いのかしら、まるでお人形みたい・・ううん、お人形でもここまで可愛いのはないわ~」
(初めて見た・・おネエ様)
「シリル、アリシアが吃驚してるよ」
漸く(シリルの膝の上に)下ろしてもらったエリーは、笑いを堪えて顔を赤くしてプルプル震えているマイケルを睨んだ。
エリーを膝に乗せたシリルの座っている椅子がギシギシと不気味な音を立てている。
「しっ紹介するね。か・・彼女は、けっケビンの兄・・姉のシリル。
駄目だ、ぶはっ」
我慢出来なくなったマイケルが吹き出して笑い転げた。
「マイケル、アンタ失礼すぎ! 出入り禁止にするわよ~」
どすの利いた声で話す女言葉には妙な迫力があった。
「だって、僕の予想以上にアリシアを見たシリルが興奮してるから。シリルの好みだとは思ったけどまさか膝抱っこ迄するとは。ブハッ」
「可愛いは正義なの! アンタみたいな唐変木だって人の美醜位はわかるでしょ」
「うん、アリシアからシリルが喜びそうなお願いがあるみたいだよ」
マイケルは上手く話を切り替えてきた。
「えっ? 何々? 何でも言って良いわよー。お姉ちゃんに任せなさい」
「あの・・平民の服が欲しいかなって。でもあちこち歩き回れないので困ってて」
「そうね~、確かにその格好は不味いわね。一人じゃ着替えもできないでしょう?」
コクリと頷いたエリーにシリルが爆弾を落とした。
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