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22.お手入れは完璧ですけど?

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(ウォルターには気付かれたかもね)

 シエナを供に屋敷から歩いて出発したサラは商店街を南に進み、街の様子を見ながら店の前までやって来た。

「予想通りと言うか予想以上と言うか、結構やられてるわね」

 壁に落書きをされ窓にヒビが入っている。鍵を開けようと鍵穴を見ると無理やり開けようとしたのか何かが埋まっていて鍵が差し込めない。

「うーん、困った」

「バリッとやっちゃいます?」

「修理業者を呼んでから考えるわ。大工・左官・金属加工となると同職ギルドで聞くのが早そうね。あっ、一応郵便も出しておいた方が良いのかなぁ」

 同職ギルドに向かって歩いていると子供達が前を走り抜けた。

「子供は元気ですね~。で、ギルドで頼むのなら肉屋飛脚ですか?」

 到着時に鳴らすラッパの音が有名な郵便は、騎士・修道士・学生などが運び手となって定期的な経路を運んでいる。

 保冷できないままで鮮度の良い物をはやく目的地に届けるために高機能な馬車や馬・人などを使っている『肉屋飛脚』は、とりわけ確実にはやく届けられると言われている。

「今のところは用事がないけど、送るものができたら肉屋飛脚かな」

「えーっと、あれ?」

「婚姻届なんて送ったら本当に結婚しなくちゃいけなくなるじゃない。勿論、必要になれば結婚する覚悟はしてるけどね」

「⋯⋯あー、そう言うことですね。結婚式をしてないから誰も知らない。婚姻届が提出されてなければ⋯⋯あれ? 司祭様は?」

「ライリーだったんだけど、気付かなかった?」

「ええ! マジですか!?」

「しぃ! 声が大きいわ」

 笑いを堪えたサラを凝視しながら慌てて口を押さえたシエナが『プフッ』と笑い出した。

「も~、みんなで心配してたんですよ~。サラ様が帰ってこなかったらどうしようって」

「私の家族はローゼン商会員だもの。何があっても絶対帰るわ」



 同職ギルドで必要な職人を紹介してもらいサラとシエナは食堂に入ったが、店に入ってからずっとジロジロと見られ居心地悪かったのでサッサと食べて店を出た。

「見慣れない客は珍しいって事ですね」

「そうね、あと2回くらい行けば顔を覚えてもらえそうね」

「ですね。あっ、店の前に人がいっぱいいます」

 集まっている職人達に仕事を説明してドアを外してもらい中に入ってみると大量の土埃が溜まっていた。

「これは酷いわね。中を荒らされてるわけでもないのにこんな状態だって事は建て付けに問題があるみたいね」

「今日の午後には事務と警備の人が来るんですよね」

「ええ。宿は押さえてあるから、荷物を置いたらここで合流することになってるの。それまでに掃除をしとかなきゃ。道具は⋯⋯やっぱり買ってこなくちゃないわよね」

 シエナが掃除道具を買いに走っている間に、サラは建屋の中を細かくチェックしていった。

「やっぱり窓よね、ガタついて⋯⋯あ、開かないっ!」

 ガタン!

「ふう、これって追加工事が必要そう。ここの店の購入って誰だっけ。えーっと、セドリック様か⋯⋯じゃあ、お仕置きはなしね」



 新しいドアをつけて鍵を確認し、窓は枠ごと交換になるようで壁の修理と共に数日かかると言われガックリと肩を落とした。

「サラ様、お久しぶりでーす!」

 元気な声はサラの秘書見習いのルーシーとチェルシーの双子の姉妹で、スカートの裾を翻し猛ダッシュで走って来てサラに飛び付いた。

「も~、寂しくて尻尾の毛が抜けちゃいましたよ」

「アタシはここ、ここです!」

 ほらほらと見せびらかした2人の尻尾は⋯⋯。

「うん、相変わらずのふさふさね」



 ルーシー達と3人の護衛に仕事を指示して公爵邸に帰る頃には夕方を過ぎていた。

「お帰りなさいませ」

「ただいま、遅くなってごめんなさいね。夕食までに湯浴みする時間はあるかしら?」

「はい、奥様はお出かけになっておられまして今夜はお戻りになられません。イーサン様はまだお帰りではなく⋯⋯」

「では、湯浴みのあとは部屋で休んでいますね」

「かしこまりました。すぐに湯を運ばせます」

 毎回湯浴みの手伝いをしたいと言って手をワキワキさせるシエナを追い出して、一人でのんびり湯に浸かりホッと溜め息を吐いた。

(イーサンは帰ってくるのかなぁ。『白い結婚だ!』とか叫ぶの好きそうだよなあ)

 一人で夕食を摂り夜着に着替えてソファに腰を下ろした。

「シエナ、さあやるわよ~」



 問題の初夜がはじまる。

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