【第一章完結】相手を間違えたと言われても困りますわ。返品・交換不可とさせて頂きます

マッケンジー邸

8.初めて見た恫喝シーン

「嘘よ！　馬鹿なこと言わないで。
叔母さま、あんな人の言うことなんて信じないで」


　ジェシカが真っ青になって椅子の背を掴んだ。
「セシリア、あなたまさか妊娠してるの？」

「してない、するわけないじゃないですか」
　慌てて首を振るセシリア。

「ライリー、下町のユーリーンって誰？」

「あまり評判の良くない潜りの産婆で、妊娠を秘密にしたいとか堕胎したいとか、そういう女性がよく利用するらしい。
金さえ払えば何でもしてくれるとか」

「ヘントの宿屋は？」

「女性には聞かせたくない類の宿屋だよ」


「セシリアはアンリとそこで会ってたのね。
そして子供をレノンの子供として産むつもりだったと言うこと？」

「違う、私はアンリなんて興味ないわ。
レノンお願い信じて。
私はレノンと結婚するんだもの」

「私はセシリアとは結婚しない」


　リディアを指差し、
「リディアのせいね！　この女さえいなければレノンは私と結婚してたのに」

「リディアは関係ない。私はセシリアと結婚したいと思った事は一度もないんだから」


「関係あるわよ、レノン言ってたじゃない。
叔母さまへの誕生日プレゼントとしてリディアと婚約するって。
レノンがあんな馬鹿なことを言うから、目を覚まさせてあげようとしただけなのに」


　ジェシカは立っていられなくなり、その場にしゃがみ込んだ。
「レノン！　あなたなんて事を」


「リディアが私に全然興味を示してくれないので、ちょっと揺さぶりをかけたと言うか。
失礼な事を言ったと今では心から後悔してます。
すまなかったリディア」


「レノン、あなたの軽率な言葉がとんでもない事を引き起こしたのよ。分かっているの？　
私の誕生日プレゼントだなんて」

「はい、まさかこんなことになるとは」

　レノンは膝をつき頭を下げた。
「リディア本当に申し訳ない」


「本当に何もなかったんですから、どうか立ってください」

　膝をついたままうなだれているレノンと、地面に座り込んでしまったジェシカ。


「リディア、あの日そんな事があったなんて。
ごめんなさいね、どうか許して」

「もう終わった事ですし、誰も傷ついてませんもの」



「ライリー、あなたはどうしたい？　何でも望みを言って頂戴」


「もう全部済んだから、後はジェシカに任せるよ。
この３人の言った事とやろうとした事、我が家に関しては全部はっきりさせたから。
特に希望する事はないかな」

「本当にそれで良いの？」

「そうだ、一つ忘れていたよ」


　ライリーがアンリの元に歩いて行き、にっこり笑った後、
「今後私の娘に少しでも近づいたら、どうなるか分かっているかな？」


　ライリーは不安げな顔のアンリを思いっきり殴った。遠くまで吹っ飛んだアンリに低い声で、

「このくらいじゃ済まないから、覚悟するんだな」


　父、初めての恫喝シーン。