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イーサンを探せ

3.探し物はなんだ

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「いらっしゃいって、珍しいね他所から来たのかい?」

「朝食を食べ損ねて」

「カウンターで良いか?」
 リディアが頷くと亭主は調理場に入って行き、パンとシチューとエールを運んできた。

 リディアがチラッとマーサを見ると、
「この位余裕ですよ。もう慣れました」
と、ありがたい言葉が返ってきた。


 リディアは食事をしながら亭主の様子をチラチラと伺っているが、亭主は呑気に鼻歌を歌いながら床を掃いている。

 リディアは意を決して亭主に話しかけた。

「ここに来る前、パルミラは今危険だから気を付けろって言われたんですが」

「ああ、領主と一触即発の状態だな。
だから余所者は滅多に来ないんだが、あんたらは危険だって言われたのに来たのかい?」

「6日前にここに来た兄を探してて」

「へー、名前は?」

「イーサン」

「・・知らねえな、食ったらとっとと帰んな。ガキはお家でお留守番でもしてりゃいい」

(この人、絶対イーサンの居場所知ってる)

「どこに行けば会えますか?」
「知らねえっつってんだろ」

「イーサンを見つけるまで帰れませんの。リディアが会いに来たって伝えて頂けませんか?」

 リディアがフードを脱ぐと、マーサが慌て立ち上がりリディアの前に立ち塞がった。

 
「あんた、女か?」
 亭主が驚いて目を見開いている。

「参ったな、あんた頭がおかしいんじゃないのか? そんな格好で乗り込んできて、無事に帰れると思ってるのか?」

「勿論、無事に帰るつもりですわ。イーサンと一緒に」

「・・はあ、これだから女ってのは。
いいか? のんびりしてる様に見えてもここは今本当に危険なんだ。
気が立ってる奴らに捕まったらどうなるか考えてんのか?」

「そうなる前にイーサンを見つけるつもりですの」

「あいつは今忙しい。女と遊んでる暇はねえよ」


 リディアは天井を指差し、
「ここにいるんですの?」

「しつこい女は嫌われるぜ」

「試してみて下さいます?
しつこいって私が叱られるか、すぐに教えなかったご亭主が叱られるか」


 宿の亭主は眉間に皺を寄せてリディアを睨んでいたが、
「いいだろう、ついてこいよ」

 厨房の横の通路から裏の部屋に入って行き、
「イーサン、客が来てるぜ」

 上掛けに潜り込み、ぐっすりと眠っているイーサンはピクリともしない。


 リディアが大きめの声で叫んだ。

「大変! 報告書に漏れがあるわ」


 イーサンが飛び起きて目を瞬いている。

「お嬢、なんでここにいるんだ?」

「おはようイーサン、あなたはなんでここにいるの?」

「ちょ、待ってくれ。まだ頭が働かないってか、ズボン? マーサ、お前まで何やってんだよ」

「最近のお気に入りですの。この方が動きやすくて男の方が羨ましいですわ」

 イーサンは頭をガシガシとかきながら、
「お嬢、とうとう新しい世界を開いたか」

「それよりも状況説明してくれるかしら?」


「ヘイデンに行く途中で噂を聞いたんだ」

「?」

「あんたの探し物を見つけた」

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