上 下
57 / 95
イーサンを探せ

4.ワット=タイラー

しおりを挟む
「お嬢の探し物見つけた」

「「イーサン!」」

「まずはなんか食べてからにしてくれ。
明け方漸くベッドに潜り込んだばかりなんだ」

「ご亭主、イーサンに思いっきり香辛料を利かせた食事をお願いします」

 イーサンは寝癖のついた髪をガシガシとかきながら、
「お嬢、それ酷くないか?」

「大丈夫、お話を聞いたら沢山寝かせてあげますわ」

「はぁ、まあ気持ちは分かるけどな」


 宿の亭主がパンとシチューと香辛料の効いたグリューワインを持ってきた。


 イーサンはリディアのズボン姿を見てニヤつきながらワインを飲んだ。

「この街が今どうなってるか知ってるか?」

「貨幣地代制による人手不足?」
「ご明察。その後は?」

「よくあるのは、農奴制の復活・新しい税の導入・奴隷の購入・・まさか?」

「全問正解だな。

賃金労働者は高くて雇えない。
んで奴隷を買ったが高くつきすぎて金庫が空になった。そこでだ、

・12歳以上の農民全てに人頭税を導入
・賦役労働の復活
・住居や職業の移動禁止
・農村共同体の共有地取り上げ

と、とんでもねえお布令を出しやがった」


 亭主はイーサンの説明を聞きながら、
「あいつら、農民を隷農奴隷のような農民みたいにこき使おうとしてやがるんだ」


 宿の亭主の妹は農民と結婚しており、甥が二人と姪が一人いる。
 もし今回の政策が施行されたら、妹家族は隷農の様な生活になると話した。

「そんな家族がごまんといるんだ」

 真剣に話している亭主を他所に、イーサンはリディアの後ろ姿を覗こうとして、マーサに睨まれていた。

「マーサ、そんなに睨むなって。
で、農民達が抗議したら、“領主には賦役を要求する権利がある” とか言い出した。
で、みんなブチ切れてる。当然だがな」

「殆どの農民は今でも地代・結婚税・死亡税・教会への十分の一税を払ってるんだ。
その上人頭税まで増えたらやってけねぇ。
金持ちは金を払って自由民になって、地代だけ払えば良くなった。

でも、貧乏人は貧乏なままだ」


「領主が大量購入した奴隷はな、一部がムスリムで殆どがスラブ人だった」

「その中の一人が?」

「丁度馬車で奴隷達が輸送されてくとこに遭遇したんだが、そいつらが歌ってた歌の歌詞がな、

“アダムが耕しイブが紡いでいた時、だれが領主だったか”

このフレーズ、聞き覚えがないか?」

「平等を説いた僧侶ジョン=ボール、1381年6月ワット=タイラーの乱」

「流石だな。
昔、お嬢の屋敷に監禁された時読んだ本の中にあった。
奴隷が知ってる事もびっくりだが、偶然で片付けていいとも思えなくてな。
後をつけて、領主の館に忍び込んだんだ」

 リディアは両手を握りしめて瞬きもせずイーサンを見つめていた。


「あんたのその目とそっくりだったよ」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

天才少女は旅に出る~婚約破棄されて、色々と面倒そうなので逃げることにします~

キョウキョウ
恋愛
ユリアンカは第一王子アーベルトに婚約破棄を告げられた。理由はイジメを行ったから。 事実を確認するためにユリアンカは質問を繰り返すが、イジメられたと証言するニアミーナの言葉だけ信じるアーベルト。 イジメは事実だとして、ユリアンカは捕まりそうになる どうやら、問答無用で処刑するつもりのようだ。 当然、ユリアンカは逃げ出す。そして彼女は、急いで創造主のもとへ向かった。 どうやら私は、婚約破棄を告げられたらしい。しかも、婚約相手の愛人をイジメていたそうだ。 そんな嘘で貶めようとしてくる彼ら。 報告を聞いた私は、王国から出ていくことに決めた。 こんな時のために用意しておいた天空の楽園を動かして、好き勝手に生きる。

婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。

桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。 「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」 「はい、喜んで!」  ……えっ? 喜んじゃうの? ※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。 ※1ページの文字数は少な目です。 ☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」  セルビオとミュリアの出会いの物語。 ※10/1から連載し、10/7に完結します。 ※1日おきの更新です。 ※1ページの文字数は少な目です。

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

生まれたときから今日まで無かったことにしてください。

はゆりか
恋愛
産まれた時からこの国の王太子の婚約者でした。 物心がついた頃から毎日自宅での王妃教育。 週に一回王城にいき社交を学び人脈作り。 当たり前のように生活してしていき気づいた時には私は1人だった。 家族からも婚約者である王太子からも愛されていないわけではない。 でも、わたしがいなくてもなんら変わりのない。 家族の中心は姉だから。 決して虐げられているわけではないけどパーティーに着て行くドレスがなくても誰も気づかれないそんな境遇のわたしが本当の愛を知り溺愛されて行くストーリー。 ………… 処女作品の為、色々問題があるかとおもいますが、温かく見守っていただけたらとおもいます。 本編完結。 番外編数話続きます。 続編(2章) 『婚約破棄されましたが、婚約解消された隣国王太子に恋しました』連載スタートしました。 そちらもよろしくお願いします。

【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~

Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。 そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。 「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」 ※ご都合主義、ふんわり設定です ※小説家になろう様にも掲載しています

愚鈍な妹が氷の貴公子を激怒させた結果、破滅しました〜私の浮気をでっち上げて離婚させようとしたみたいですが、失敗に終わったようです〜

あーもんど
恋愛
ジュリア・ロバーツ公爵夫人には王国一の美女と囁かれる美しい妹が居た。 優れた容姿を持つ妹は周りに持て囃されて育った影響か、ワガママな女性に成長した。 おまけに『男好き』とまで来た。 そんな妹と離れ、結婚生活を楽しんでいたジュリアだったが、妹が突然屋敷を訪ねてきて……? 何しに来たのかと思えば、突然ジュリアの浮気をでっち上げきた! 焦るジュリアだったが、夫のニコラスが妹の嘘をあっさり見破り、一件落着! と、思いきや……夫婦の間に溝を作ろうとした妹にニコラスが大激怒! ────「僕とジュリアの仲を引き裂こうとする者は何人たりとも許しはしない」 “氷の貴公子”と呼ばれる夫が激怒した結果、妹は破滅の道を辿ることになりました! ※Hot&人気&恋愛ランキング一位ありがとうございます(2021/05/16 20:29) ※本作のざまぁに主人公は直接関わっていません(?) ※夫のニコラスはヤンデレ気味(?)です

妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。 だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。 しかも新たな婚約者は妹のロゼ。 誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。 だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。 それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。 主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。 婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。 この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。 これに追加して書いていきます。 新しい作品では ①主人公の感情が薄い ②視点変更で読みずらい というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。 見比べて見るのも面白いかも知れません。 ご迷惑をお掛けいたしました

大切なあのひとを失ったこと絶対許しません

にいるず
恋愛
公爵令嬢キャスリン・ダイモックは、王太子の思い人の命を脅かした罪状で、毒杯を飲んで死んだ。 はずだった。 目を開けると、いつものベッド。ここは天国?違う? あれっ、私生きかえったの?しかも若返ってる? でもどうしてこの世界にあの人はいないの?どうしてみんなあの人の事を覚えていないの? 私だけは、自分を犠牲にして助けてくれたあの人の事を忘れない。絶対に許すものか。こんな原因を作った人たちを。

処理中です...