52 / 95
王都
9.お父様の予想
しおりを挟む
「マーサ、何を書いたの?」
リディアが横目で睨むと、
「“お嬢様の貞操の危機” と書きました」
マーサがドヤ顔で言い返してきた。
お昼過ぎに伯爵家に戻ったリディアは執務室の父親に呼び出された。
「お久しぶりですお父様」
「ああ、座りなさい。紅茶でも持って来させよう。
ミリアーナの事は本当に申し訳なかった。
まさかあんな事をしでかすなんて」
憔悴した様子のポーレット伯爵に比べて、リディアは機嫌が良い。
「ロバート様との結婚のことでしたらお気遣いいりませんわ。
とっても助かりましたもの」
「そう言うと思ってたよ。
リディアは元々結婚したかった訳ではなかったしな」
「はい、私傷物になりましたし当分結婚は無理だと思いますの。
だからと言って爵位を継承するつもりもありませんから」
「さっきのお前の口振りだと、ミリアーナは他にも何かやらかしてそうだな」
「・・このままにするのと責任を取らせるのと、どっちが良いのか悩んでいますの」
伯爵は溜息をつきながら、
「ミリアーナは何を?」
「支店に届いた注文品を持ち出そうとしたのを商会員が注意したら、癇癪を起こして床に投げつけてしまったそうなんです」
「高いのか? と言うより商会への注文品なら高いに決まってるな」
「代替え品は準備できたのですが、納期がギリギリになってしまって」
「相手は誰だ?」
「マッケンジー公爵です」
「となると、母上への誕生日プレゼントか。
間に合わなかったらとんでもないことになるな」
「はい、間に合わなかったらレノンと婚約させられてしまいますの」
「・・はあ?」
「プレゼントがないとジェシカ様が不機嫌になるから、代わりに婚約発表して誤魔化すみたいですわ」
「そんな呑気な。いや、嫁に出すのは困る」
「お父様、本音が漏れてますわよ。
セオが必ず間に合わせてくれると信じてるので、あまり気にしてませんの。
それよりも、レノンは付き合っている方とかいらっしゃらないのか、お父様なら何かご存知ありません?」
「いや、レノンはあのまま独身を貫くんじゃないかと噂されてるくらいだ。
ジェシカは酷く気に病んでいる」
「従姉妹のセシリアとかは?」
「ああ、かなりレノンに夢中だと言う話だが相手にされてないみたいだな」
(と言う事は、セシリアの話は嘘なのかしら)
「お父様、公爵家の関係者で麝香の香油を使っている人をご存知ありません?」
「麝香か、結構な値段だから買える人間は限られてくるだろうな」
「女性からプレゼントされた可能性もありますでしょう?」
「と言う事は、香油を使っていたのは男なのか?」
「昨夜公爵家のタウンハウスで、誰かがベッドに忍び込もうとしてきましたの」
「なっ!」
「勿論何もありませんでしたけど、その時麝香の香りがしたので」
伯爵は腕を組んで考え込んでいた。
「男なら、一人だけ思い当たる奴がいる」
リディアが横目で睨むと、
「“お嬢様の貞操の危機” と書きました」
マーサがドヤ顔で言い返してきた。
お昼過ぎに伯爵家に戻ったリディアは執務室の父親に呼び出された。
「お久しぶりですお父様」
「ああ、座りなさい。紅茶でも持って来させよう。
ミリアーナの事は本当に申し訳なかった。
まさかあんな事をしでかすなんて」
憔悴した様子のポーレット伯爵に比べて、リディアは機嫌が良い。
「ロバート様との結婚のことでしたらお気遣いいりませんわ。
とっても助かりましたもの」
「そう言うと思ってたよ。
リディアは元々結婚したかった訳ではなかったしな」
「はい、私傷物になりましたし当分結婚は無理だと思いますの。
だからと言って爵位を継承するつもりもありませんから」
「さっきのお前の口振りだと、ミリアーナは他にも何かやらかしてそうだな」
「・・このままにするのと責任を取らせるのと、どっちが良いのか悩んでいますの」
伯爵は溜息をつきながら、
「ミリアーナは何を?」
「支店に届いた注文品を持ち出そうとしたのを商会員が注意したら、癇癪を起こして床に投げつけてしまったそうなんです」
「高いのか? と言うより商会への注文品なら高いに決まってるな」
「代替え品は準備できたのですが、納期がギリギリになってしまって」
「相手は誰だ?」
「マッケンジー公爵です」
「となると、母上への誕生日プレゼントか。
間に合わなかったらとんでもないことになるな」
「はい、間に合わなかったらレノンと婚約させられてしまいますの」
「・・はあ?」
「プレゼントがないとジェシカ様が不機嫌になるから、代わりに婚約発表して誤魔化すみたいですわ」
「そんな呑気な。いや、嫁に出すのは困る」
「お父様、本音が漏れてますわよ。
セオが必ず間に合わせてくれると信じてるので、あまり気にしてませんの。
それよりも、レノンは付き合っている方とかいらっしゃらないのか、お父様なら何かご存知ありません?」
「いや、レノンはあのまま独身を貫くんじゃないかと噂されてるくらいだ。
ジェシカは酷く気に病んでいる」
「従姉妹のセシリアとかは?」
「ああ、かなりレノンに夢中だと言う話だが相手にされてないみたいだな」
(と言う事は、セシリアの話は嘘なのかしら)
「お父様、公爵家の関係者で麝香の香油を使っている人をご存知ありません?」
「麝香か、結構な値段だから買える人間は限られてくるだろうな」
「女性からプレゼントされた可能性もありますでしょう?」
「と言う事は、香油を使っていたのは男なのか?」
「昨夜公爵家のタウンハウスで、誰かがベッドに忍び込もうとしてきましたの」
「なっ!」
「勿論何もありませんでしたけど、その時麝香の香りがしたので」
伯爵は腕を組んで考え込んでいた。
「男なら、一人だけ思い当たる奴がいる」
0
お気に入りに追加
784
あなたにおすすめの小説
お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。
ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの?
……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。
彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ?
婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。
お幸せに、婚約者様。
私も私で、幸せになりますので。
【完結】あなたに従う必要がないのに、命令なんて聞くわけないでしょう。当然でしょう?
チカフジ ユキ
恋愛
伯爵令嬢のアメルは、公爵令嬢である従姉のリディアに使用人のように扱われていた。
そんなアメルは、様々な理由から十五の頃に海を挟んだ大国アーバント帝国へ留学する。
約一年後、リディアから離れ友人にも恵まれ日々を暮らしていたそこに、従姉が留学してくると知る。
しかし、アメルは以前とは違いリディアに対して毅然と立ち向かう。
もう、リディアに従う必要がどこにもなかったから。
リディアは知らなかった。
自分の立場が自国でどうなっているのかを。
愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
【完結】白い結婚なのでさっさとこの家から出ていきます~私の人生本番は離婚から。しっかり稼ぎたいと思います~
Na20
恋愛
ヴァイオレットは十歳の時に両親を事故で亡くしたショックで前世を思い出した。次期マクスター伯爵であったヴァイオレットだが、まだ十歳ということで父の弟である叔父がヴァイオレットが十八歳になるまでの代理として爵位を継ぐことになる。しかし叔父はヴァイオレットが十七歳の時に縁談を取り付け家から追い出してしまう。その縁談の相手は平民の恋人がいる侯爵家の嫡男だった。
「俺はお前を愛することはない!」
初夜にそう宣言した旦那様にヴァイオレットは思った。
(この家も長くはもたないわね)
貴族同士の結婚は簡単には離婚することができない。だけど離婚できる方法はもちろんある。それが三年の白い結婚だ。
ヴァイオレットは結婚初日に白い結婚でさっさと離婚し、この家から出ていくと決めたのだった。
6話と7話の間が抜けてしまいました…
7*として投稿しましたのでよろしければご覧ください!
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います
りまり
恋愛
私の名前はアリスと言います。
伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。
母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。
その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。
でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。
毎日見る夢に出てくる方だったのです。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる