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スペンサー商会

8.部屋に2人きり

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「セオ、そんなとこで何してるんだ?」

「えっ、ああ食事に行こうかと思って。リーは疲れたみたいだから、部屋に食事を運ぶつもりだから」

 宿の下働きが下から上がって来た。

「風呂の片付けに来ました。もう良いですか?」

 そう言って部屋のドアに手をかける。

「駄目だ! いや、ちょっと待ってくれ。終わってるか見てくる」

 セオはほんの少しだけドアを開け、体を滑り込ませた。
 セオの怪しい行動に、ヒューと下働きは顔を見合わせて肩をすくめた。

「セオ、さっきはどうしたの?」

 セオはリディアの方を見ずに返事をした。
「なっ何でもありません。桶と湯を片付けに来たので、マントをお願いします」

 リディアはマントを羽織り、顔を隠すために壁に向かって座った。
 セオがドアを開け、下働きが入って来て部屋を片付けていく。

 ヒューが部屋を覗き込み、
「セオ、先に下に行くから」
と声をかけた直後に鼻をヒクヒクさせ、

「この部屋なんか良い匂いがしないか?」

「さっさと出てけ!」
 セオが怒鳴った。


 セオが一階に降りると、ヒュー達は既に食事をはじめていた。

「先にやってるぜ」

 セオは料理をリディアに運んだ後、ヒュー達と同じテーブルについた。

「宿の亭主に確認したが、やっぱり奴らは大人しくしてる。
最後の情報は今年の春先だ」

「どこか別のとこに移動した可能性は?」

「ないと思う、移動する理由がない。
大規模な討伐が行われたわけじゃないからな」

「だが春から今までとなると長すぎないか?」

「ああ、奴らが何を考えてるのか」


 食事を済ませヒュー達は既に部屋に戻ったが、セオはズルズルと部屋に戻る時間を先延ばしにしていた。

(はあ、今晩眠れるんだろうか)

 明日のことを考えしぶしぶ部屋に戻ると、リディアは既に壁側のベッドでぐっすりと眠っている。

 セオはなるべく音を立てない様に気を付けながら、着替えを済ませてベッドに入った。
 静かな部屋の中で、リディアが寝返りを打つ微かな衣擦れの音がする。

(駄目だ、眠れない)


 セオは一睡もできないまま朝を迎えた。着替えを済ませてリディアを起こそうとベッドを覗き込んで固まった。

 リディアは、僅かに口を開き幸せそうに眠っている。


 ドアがノックされた。ヒューが朝食に誘いに来たのだろう。
 ドアを少しだけ開けて
「すぐ行く」
と返事だけしてドアを閉めた。

 セオは大きく深呼吸してリディアを起こした。


 その後準備を済ませ、何とか日の出直後に宿屋を出発することができた。

 宿からは暫くの間一本道を走る。途中二股に分かれ、右が山を迂回する道で左が山越えの道になる。

 別れ道で一度休憩を取った。

 アルザス山脈は朝日に照らされ、所々金色に輝いている。

 ヒューがセオの近くにやって来た。

「本当に山を越える気か?」

「ああ、勿論だ」


「・・女連れでか?」

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