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第一章 はじまり

4.在地剰余

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 引っ越しの片付けが漸く終わったリディアは、新しい事務所で仲間と共に紅茶を飲んでいた。

 磨き上げられた広いカウンターの横には、真新しい地図や商品見本などが置かれている。
 革製の接客用のソファとコーヒーテーブルはアンティークの一点物。
 左手の重厚なドアを入ると、さらに豪華な応接室が準備されている。


「河川を使った交易ですか? 引っ越しの荷物が漸く片付いたとこなのに随分また急な話ですね」
 セオが苦笑いしている。

「リディア、人使い荒すぎですね」
 ルーカスが、眼鏡の位置を直しながら言う。

「ファルマス公爵の事は良いんすか?」
 イーサンが、リディアを揶揄う。

「ロバート様の件は、放っておいて良いんじゃないかしら? 今頃ミリアーナと仲良く暮らしてるかもしれないし」

「あり得ますか?」ルーカス。
「いや、それないわー」イーサン。
「公爵家って商会狙いだよな?」セオ。

「でも、ミリアーナが気に入ったからまあ良いかってなってるかも」

「希望的観測」
「願わくば、我に自由と平和を! ってやつか?」
「空想?」

「とっとにかく、螺馬の売買で知り合った領主の方々から聞いた話なの。“在地剰余” で悩んでるって」

「「「在地剰余?」」」

「出来すぎた生産物が領地に溜まってるんですって。それをなんとかしたいって」

「それで河川ですか」

「螺馬を使って運ぶだけじゃいくら隊商を組んでも時間がかかるでしょう?
河川まで螺馬で運んでそこから船を使うの。
幾つかの貴族と連携すればかなり効率よく輸送できると思うの」

「もしかしてもうある程度の構想は練ってあるとか?」
 セオが聞いてきた。

「まずは川の調査をしなくちゃいけないからたいして進んでないの」


「イーサン、ロレンヌ川の利用状況なんかを調べてくれる?
商業ギルドへの問い合わせと川の近隣の方への聞き込み、あと実際に船を持って川を利用している人を探して欲しいの。
特に気になる所には地図に印をつけておいたわ」

 リディアの字であちこち書き込みされた地図を手渡した。

「了解。エリアを区切って人海戦術だな」


「ルーカスは船の調査を。
ハルク船とコグ船の価格や積載量、納入までの期間とかを詳しく調べて来て欲しいの」

「造船業者に当たってみます。商会の名前はまだ、出さない方が良さそうですね」

「うん、今売り込みに来られても困るし」
 リディアはギリギリまで話を広げたくないようだ。


「セオは今回の計画に賛同しそうな貴族の洗い出しと各地の特産品の調査をお願い」

「都市商人は放っておいて良いんですか?」
「うーん、まだいいかな。あの人達は後でも大丈夫だと思う」

「ロレンヌ川辺りだと穀物や羊毛、毛織物なんかになりそうですね」
「結構嵩張りそうでしょ?
でも、もし上手くいけば陸路よりうんと早く沢山運べると思うの。
帰り道にはバザールで輸入品の購入をしてきたら一石二鳥だしね?」


「領主達は売り上げを上げて、商会に巻き上げられると言う訳ですね」
「このまま、婚期逃したりして」
「まだ儲けるつもりとは」


 散々な言われようのリディアだった。

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