上 下
80 / 93

80.奇想天外なセアラ、計画を練りはじめる

しおりを挟む
「あの爺さん、ヤバすぎだよぉ! セアラ、さっさとここから逃げ出そう。あんな真面じゃないのを相手にしたら駄目だって」

 大司教の話を衣装部屋から聞いていたイリスが震える手でセアラを揺さぶった。

「うん、あの人はヤバい。でも、このまま放っておいたら戦争になるって脅して帰ったから何か考えなくちゃ」

「セアラと戦争は関係ないでしょ? 大司教の話をリチャード殿下に話してアリエノール様と王国へ帰ろう。それが一番だと思う」

 大司教の話では全ての準備は終わっていると言う。だとすればこの場でなんとかするしか方法はない。

「アリエノール様達と部屋が離れているのは何か理由があるのかしら?」

「可能性の一つですが、帝国がセアラ様を警戒しているのかもしれません。アリエノール様やリチャード殿下から引き離す事で作戦を立てにくくさせるとか⋯⋯」

「警戒するならウルリカ様の頭脳の方だわ。知識も何もかも私とは段違いだもの」

「大胆さと勇気の違いかと思われます。ウルリカ様はアリエノール様をお守りする事を第一と考えておられますから、その分守りに入られる事が多いように見受けられます。
その点セアラ様は⋯⋯大胆不敵と言うか奇想天外な行動を取られる事がおありなので、敵として見た時予測不能になる一番厄介な相手です」

 褒められている気はしない⋯⋯。とんでもないお転婆だと言われている気がした。

ライルセアラの兄が言いそうな台詞だけど間違ってないわね。セアラは昔から目を離すととんでもない事をしでかす癖があったもの」

「癖って⋯⋯それより明日の事を考えなくちゃ。大司教は明日旧神殿を視察すれば分かるって言ってた。メアリーアンは何か知ってる?」

「いえ、旧神殿には行ったことがありません。破壊された当時のまま保存されていると言われていますが、三百年も経てばかなり風化しているのではないでしょうか?」

「その辺りがどうなってるのか知りたいわね。大司教があんな顔で騒ぐくらいだから余程丁寧な管理がされているんだと思うけど⋯⋯」

 大司教の手の者が見張っている事を考えセアラは夕食まで部屋を動かないことにした。その代わりにメアリーアンがアリエノールへ報告に行ってくれた⋯⋯が、帰ってきた時にはアリエノールとリチャード殿下を引き連れていた。


「ごめんなさいね。お兄様がどうしてもセアラに会いたいって煩くて。わたくしはセアラの護衛で来ましたの、お部屋に入っても宜しくて?」

「はい、あの。どうぞ」

 パタリとドアが閉まるとそれまで少し困ったような笑顔を浮かべていたアリエノールが真顔になり眉間に皺を寄せた。

「メアリーアン?」

 何故アリエノール達を連れてきたのかと言外に匂わせるとメアリーアンが肩をすくめた。

「ルーク達を護衛につけるからセアラは明日の夜明け前に王国に帰ってくれ」

 リチャードは今までに見た事がないほど険しい顔をしている。

「大司教がセアラを聖女認定したのならどんな手を使ってくるか分からないんだ。奴の一言でイーバリス教会全員がセアラの捕縛に動き始めるかもしれないし、今ならまだ逃げられる可能性が高いと思うんだ」

「わたくしも同じ意見よ。これ以上大司教に関わってはいけないわ。身の安全を第一に考えなさい」

「それで帝国がリチャード殿下やアリエノール様を捕まえるのを遠くの空から見ていろと仰るのですか?
開戦の準備は済んでいると言ってました。それが本当なら殿下がお休みの所を襲われて拘束されるだけではありませんか?」

「そんなことはさせないよ。前もって分かっていれば隙を見せたりしない。王国を出発する前から可能性があると知っていたからね、それなりの準備はしてあるし国境に見張りも残しておいた」

 恐らくリチャードとアリエノールの2人は拘束される前に自害するつもりなのだろう。神殿襲撃の責任を王子王女への襲撃で相殺するつもりだとしか考えられない。

「それは最後の手段。最後の最後まで足掻いてみせるわ」

「⋯⋯中途半端は嫌いなんです。ここで逃げ出すなら初めから同行しませんでした。要は聖女の儀式が終われば良いんですよね。
その上でアリエノール様と私が聖女ではないと公に認められたら問題解決なのではありませんか?」

 リチャードとアリエノールは顔を見合わせた。

「そんな都合のいい方法があるとは思えない。聖女の宝物を使ったって神の神託なんて降りないし、降りたかどうか誰が判断するんだ?」

「そこなんです。誰もそれが神の言葉かどうか分からないですよね。大司教が『セアラが聖女だと神の啓示を受けた』なんて偉そうに言ってましたけど、それが真実だと証明する方法なんてないんですから」

 セアラの言う話は最もだがそれがどう繋がっていくのかわからないリチャードとアリエノールは首を傾げた。

「皇帝と皇太子はアリエノール様を聖女にしたいと狙っています。ウルリカ様もメンバーとしてご指名を受けておられますからウルリカ様にもお手伝いをお願いするかもです。それと私の3人は必須ですが他にも何人か⋯⋯リチャード殿下とルークにもお手伝いをお願いしようかしら?」

 ルークは帝国ともイーバリス教会とも無関係だが、メアリーアンやイーサンは教会と密接な関係があるのでいざという時動きにくくなる可能性がある。

(イリスは破天荒なので却下した方がいいかも)



「そんなに聖女の神託がって騒ぐなら、神の神託⋯⋯降ろしてやりましょう!」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ちびっ子ボディのチート令嬢は辺境で幸せを掴む

紫楼
ファンタジー
 酔っ払って寝て起きたらなんか手が小さい。びっくりしてベットから落ちて今の自分の情報と前の自分の記憶が一気に脳内を巡ってそのまま気絶した。  私は放置された16歳の少女リーシャに転生?してた。自分の状況を理解してすぐになぜか王様の命令で辺境にお嫁に行くことになったよ!    辺境はイケメンマッチョパラダイス!!だったので天国でした!  食べ物が美味しくない国だったので好き放題食べたい物作らせて貰える環境を与えられて幸せです。  もふもふ?に出会ったけどなんか違う!?  もふじゃない爺と契約!?とかなんだかなーな仲間もできるよ。  両親のこととかリーシャの真実が明るみに出たり、思わぬ方向に物事が進んだり?    いつかは立派な辺境伯夫人になりたいリーシャの日常のお話。    主人公が結婚するんでR指定は保険です。外見とかストーリー的に身長とか容姿について表現があるので不快になりそうでしたらそっと閉じてください。完全な性表現は書くの苦手なのでほぼ無いとは思いますが。  倫理観論理感の強い人には向かないと思われますので、そっ閉じしてください。    小さい見た目のお転婆さんとか書きたかっただけのお話。ふんわり設定なので軽ーく受け流してください。  描写とか適当シーンも多いので軽く読み流す物としてお楽しみください。  タイトルのついた分は少し台詞回しいじったり誤字脱字の訂正が済みました。  多少表現が変わった程度でストーリーに触る改稿はしてません。  カクヨム様にも載せてます。

【完結】公爵令嬢は、婚約破棄をあっさり受け入れる

櫻井みこと
恋愛
突然、婚約破棄を言い渡された。 彼は社交辞令を真に受けて、自分が愛されていて、そのために私が必死に努力をしているのだと勘違いしていたらしい。 だから泣いて縋ると思っていたらしいですが、それはあり得ません。 私が王妃になるのは確定。その相手がたまたま、あなただった。それだけです。 またまた軽率に短編。 一話…マリエ視点 二話…婚約者視点 三話…子爵令嬢視点 四話…第二王子視点 五話…マリエ視点 六話…兄視点 ※全六話で完結しました。馬鹿すぎる王子にご注意ください。 スピンオフ始めました。 「追放された聖女が隣国の腹黒公爵を頼ったら、国がなくなってしまいました」連載中!

そんなに私の婚約者が欲しいならあげるわ。その代わり貴女の婚約者を貰うから

みちこ
恋愛
小さい頃から親は双子の妹を優先して、跡取りだからと厳しく育てられた主人公。 婚約者は自分で選んで良いと言われてたのに、多額の借金を返済するために勝手に婚約を決められてしまう。 相手は伯爵家の次男で巷では女性関係がだらし無いと有名の相手だった。 恋人がいる主人公は婚約が嫌で、何でも欲しがる妹を利用する計画を立てることに

転生幼女。神獣と王子と、最強のおじさん傭兵団の中で生きる。

餡子・ロ・モティ
ファンタジー
ご連絡!  4巻発売にともない、7/27~28に177話までがレンタル版に切り替え予定です。  無料のWEB版はそれまでにお読みいただければと思います。  日程に余裕なく申し訳ありませんm(__)m ※おかげさまで小説版4巻もまもなく発売(7月末ごろ)! ありがとうございますm(__)m ※コミカライズも絶賛連載中! よろしくどうぞ<(_ _)> ~~~ ~~ ~~~  織宮優乃は、目が覚めると異世界にいた。  なぜか身体は幼女になっているけれど、何気なく出会った神獣には溺愛され、保護してくれた筋肉紳士なおじさん達も親切で気の良い人々だった。  優乃は流れでおじさんたちの部隊で生活することになる。  しかしそのおじさん達、実は複数の国家から騎士爵を賜るような凄腕で。  それどころか、表向きはただの傭兵団の一部隊のはずなのに、実は裏で各国の王室とも直接繋がっているような最強の特殊傭兵部隊だった。  彼らの隊には大国の一級王子たちまでもが御忍びで参加している始末。  おじさん、王子、神獣たち、周囲の人々に溺愛されながらも、波乱万丈な冒険とちょっとおかしな日常を平常心で生きぬいてゆく女性の物語。

比翼連理の異世界旅

小狐丸
ファンタジー
前世で、夫婦だった2人が異世界で再び巡り合い手を取りあって気ままに旅する途中に立ち塞がる困難や試練に2人力を合わせて乗り越えて行く。

縦ロール悪女は黒髪ボブ令嬢になって愛される

瀬名 翠
恋愛
そこにいるだけで『悪女』と怖がられる公爵令嬢・エルフリーデ。 とある夜会で、婚約者たちが自分の容姿をバカにしているのを聞く。悲しみのあまり逃げたバルコニーで、「君は肩上くらいの髪の長さが似合うと思っていたんだ」と言ってくる不思議な青年と出会った。しかし、風が吹いた拍子にバルコニーから落ちてしまう。 死を覚悟したが、次に目が覚めるとその夜会の朝に戻っていた。彼女は思いきって髪を切ると、とんでもない美女になってしまう。 そんなエルフリーデが、いろんな人から愛されるようになるお話。

侯爵令嬢とその婚約者のありきたりな日常

四折 柊
恋愛
 素敵な婚約者に相応しくありたいと一生懸命な侯爵令嬢アンネリーゼと、アンネリーゼを溺愛する眉目秀麗な公爵子息ジークハルトのお話です。アンネリーゼが彼に思いを寄せる令嬢を無自覚に撃退?したりしなかったり……の予定です。視点が頻繁に変わります。ちょっとシリアス入りますがハッピーエンドです。全18話。(誤字脱字が多くて申し訳ございません)

アリアドネが見た長い夢

桃井すもも
恋愛
ある夏の夕暮れ、侯爵令嬢アリアドネは長い夢から目が覚めた。 二日ほど高熱で臥せっている間に夢を見ていたらしい。 まるで、現実の中にいるような体感を伴った夢に、それが夢であるのか現実であるのか迷う程であった。 アリアドネは夢の世界を思い出す。 そこは王太子殿下の通う学園で、アリアドネの婚約者ハデスもいた。 それから、噂のふわ髪令嬢。ふわふわのミルクティーブラウンの髪を揺らして大きな翠色の瞳を潤ませながら男子生徒の心を虜にする子爵令嬢ファニーも...。 ❇王道の学園あるある不思議令嬢パターンを書いてみました。不思議な感性をお持ちの方って案外実在するものですよね。あるある〜と思われる方々にお楽しみ頂けますと嬉しいです。 ❇相変わらずの100%妄想の産物です。史実とは異なっております。 ❇外道要素を含みます。苦手な方はお逃げ下さい。 ❇妄想遠泳の果てに波打ち際に打ち上げられた妄想スイマーによる寝物語です。 疲れたお心とお身体を妄想で癒やして頂けますと泳ぎ甲斐があります。 ❇座右の銘は「知らないことは書けない」「嘘をつくなら最後まで」。 ❇例の如く、鬼の誤字脱字を修復すべく激しい微修正が入ります。 「間を置いて二度美味しい」とご笑覧下さい。

処理中です...