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78.ビックサプライズ
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「よう、お疲れ様」
馬車の旅に続いて休む暇なく帝国貴族達の辛辣な態度や皇帝の威圧に晒されたセアラはいつもと変わらないルークのまったりとした態度に笑顔を浮かべた。
「ずっとここにいたの?」
「ああ、メアリーアン達も中で待ってる」
「ここは大丈夫だから少し休憩したら? ずっと馬に乗っていて疲れてるでしょう?」
「まだ大丈夫。もう少ししたら交代だしな」
ドアをノックして揶揄いまじりに腰を曲げ頭を下げたルークを横目で睨んだセアラの耳元でルークが囁いた。
「姫、どうぞごゆっくり。ビックサプライズが待ってる」
「サプライズ? パーティークラッカーは鳴ってないみたいだけど」
片眉を上げニヤリと笑いながらドアを開けたルークに向けて小さく舌を出したセアラが笑いながら部屋に入った。
アリエノール達の部屋から一人離れた客室を与えられたセアラは必要最低限の家具が置かれた小さな部屋を想像していた。
「まあ、なんて⋯⋯広くて」
型押しされた薄いベージュの壁紙に飾られた巨大なタペストリーには泉で寛ぐユニコーンと乙女が描かれており、紫色がかった暗褐色の床は寄せ木細工のウォールナット。レースのカーテンのかかった天蓋付きのベットは一人で使うには勿体無いほど大きく、ソファやコーヒーテーブルなど全ての家具は繊細な装飾や彫刻が美しいマホガニーで統一されていた。
カーテンやクッションなどは全て金糸で刺繍されたダークピンクで至る所に飾られた観葉植物の濃い緑。
「なんだか⋯⋯うーん⋯⋯これは、ちょっと辛いかも」
これでもかと飾り立てられた部屋に顔を引き攣らせたセアラに小さな笑い声が聞こえてきた。
「ほんと、すごい部屋だよね~」
「イリス!! どうしてここにいるの!?」
ベッドの影から出てきた笑い声の主はセアラの驚いた顔を見て笑い声を上げた。
「ドアを開けた瞬間絶句したもの。セアラにこれほど似合わない部屋ってないんじゃないかって」
「それより、なんでここにいるの?」
ケラケラと笑いながらセアラのそばにやってきたイリスは白いエプロン付きのメイド服を着ている。
「うっうん。え~っと。お疲れ様です、セアラ様。本日より担当させていただきますイリスと申します」
茶化すようにペコリと頭を下げたイリスにはセアラの怒りのオーラがひしひしと感じられた。
「だーかーらー、何でここにいるの!?」
今回の訪問は何があるかわからないと思って警戒しているセアラは猪突猛進が得意なイリスの突然の登場に青筋を立てて睨みつけた。
「この部屋、クローゼットがなくて衣裳部屋があるのにメイドの部屋はないのよ。しかもアリエノール様達のお部屋と離れてるし⋯⋯。ただの客室にしてはおかしくない?絶対なんか怪しいと思う」
「元々、この国も教会も胡散臭い事だらけだもの、部屋が怪しいくらいでは驚かないわ。で、お兄様はこの事ご存知なの?」
「手紙を出しておいたからもう届いてるはず。ライルなら大丈夫、それよりお茶と着替えはどっちを先にする?」
マイペースでセアラの怒りをやり過ごすイリスにため息をついたセアラが部屋を見回した。
「メアリーアンは?」
「アリエノール様のとこに行かれたんだけどもうすぐ帰ってくると思う。じゃあ先に着替えね、宮殿に到着後して旅装のまま謁見室に連れて行かれたなんて信じらんないわよねえ」
準備してあった着替えを持ってきたイリスがテキパキとセアラの服を脱がそうとしたがその手をセアラが捕まえた。
「その前に説明してちょうだい」
イリスの手を引いてソファに向かい並んで座ったセアラはイリスの手を掴んだまま正面からイリスを睨みつけた。
「何でこんな無茶をしたの?」
「私がお願い致しました」
ノックと共にドアが開きメアリーアンが入って来た。苛立たしげなセアラの態度に物怖じした様子のないメアリーアンが紅茶の準備をはじめながら話を続けた。
「セアラ様にはストッパーになる人が必要だと思いましたので、セアラ様の専属メイドとして同行して下さるようにとお願いしました」
「ストッパー?」
困惑したセアラは相変わらずイリスの手を掴んだままメアリーアンの言葉を繰り返した。
「セアラが無茶をしないように見張って欲しいって言われたの。何が起きてるのかはまだ聞いてないけどこんな急な参加なんて碌な事じゃないと思ってたから、メアリーアンからお願いされなかったとしても私からお願いするつもりだったの」
「来てくれてありがとう⋯⋯なんて言うと思った? イリスはほんとに無茶ばかりするんだから」
「ふふっ、私はセアラのお姉ちゃんだもの。妹を守るのは姉の役目だし?」
ドヤ顔のイリスは眉間に皺を寄せたままのセアラに向けてサムズアップして、メアリーアンの淹れてくれた紅茶を口にした。
「あちっ」
猫舌のイリスが赤い顔で慌てる様を見てセアラは大きなため息をついた。
「無茶はしない、メアリーアンのそばを離れない。その二つを守れないなら今からでも王国に帰ってもらうわ」
「セアラも無茶しないって約束してくれる? セアラ的にじゃなく世間一般の常識として無茶しない?」
「まるで私が無鉄砲みたいな言い方だわ。真冬の教会前で座り込みを決行したイリスに言われるのはなんだか納得がいかない⋯⋯」
メアリーアンにしてみればどちらも同じくらい無鉄砲だと思ったがここは下手に口を出さない方が良いだろうと『お風呂の準備をして参ります』と行ってしまった。
「着替えを済ませたら何がどうなってるのか教えて」
真顔になったイリスがセアラに詰め寄った。
「話せることだけで構わないから、セアラが何に巻き込まれてるのか教えて欲しいの」
セアラの帝国行きがなくなって安心していたイリスはセアラが急に使節団に参加する事になったと知って焦っていた。調査団に参加して帝国で情報収集していた時にヒシヒシと感じていた王国に対する国民の嫌悪感と教会への信仰はイリスからすると病的で狂信的にみえた。
「この国の人は真面じゃない。王国への鬱憤を利用して国を纏めているような気がしたもの。それに⋯⋯宝物があったって神様の声なんか聞こえるわけないじゃない。そんな頭のおかしな人と話なん」
ノックの音が響きイリスが言葉を詰まらせた。
馬車の旅に続いて休む暇なく帝国貴族達の辛辣な態度や皇帝の威圧に晒されたセアラはいつもと変わらないルークのまったりとした態度に笑顔を浮かべた。
「ずっとここにいたの?」
「ああ、メアリーアン達も中で待ってる」
「ここは大丈夫だから少し休憩したら? ずっと馬に乗っていて疲れてるでしょう?」
「まだ大丈夫。もう少ししたら交代だしな」
ドアをノックして揶揄いまじりに腰を曲げ頭を下げたルークを横目で睨んだセアラの耳元でルークが囁いた。
「姫、どうぞごゆっくり。ビックサプライズが待ってる」
「サプライズ? パーティークラッカーは鳴ってないみたいだけど」
片眉を上げニヤリと笑いながらドアを開けたルークに向けて小さく舌を出したセアラが笑いながら部屋に入った。
アリエノール達の部屋から一人離れた客室を与えられたセアラは必要最低限の家具が置かれた小さな部屋を想像していた。
「まあ、なんて⋯⋯広くて」
型押しされた薄いベージュの壁紙に飾られた巨大なタペストリーには泉で寛ぐユニコーンと乙女が描かれており、紫色がかった暗褐色の床は寄せ木細工のウォールナット。レースのカーテンのかかった天蓋付きのベットは一人で使うには勿体無いほど大きく、ソファやコーヒーテーブルなど全ての家具は繊細な装飾や彫刻が美しいマホガニーで統一されていた。
カーテンやクッションなどは全て金糸で刺繍されたダークピンクで至る所に飾られた観葉植物の濃い緑。
「なんだか⋯⋯うーん⋯⋯これは、ちょっと辛いかも」
これでもかと飾り立てられた部屋に顔を引き攣らせたセアラに小さな笑い声が聞こえてきた。
「ほんと、すごい部屋だよね~」
「イリス!! どうしてここにいるの!?」
ベッドの影から出てきた笑い声の主はセアラの驚いた顔を見て笑い声を上げた。
「ドアを開けた瞬間絶句したもの。セアラにこれほど似合わない部屋ってないんじゃないかって」
「それより、なんでここにいるの?」
ケラケラと笑いながらセアラのそばにやってきたイリスは白いエプロン付きのメイド服を着ている。
「うっうん。え~っと。お疲れ様です、セアラ様。本日より担当させていただきますイリスと申します」
茶化すようにペコリと頭を下げたイリスにはセアラの怒りのオーラがひしひしと感じられた。
「だーかーらー、何でここにいるの!?」
今回の訪問は何があるかわからないと思って警戒しているセアラは猪突猛進が得意なイリスの突然の登場に青筋を立てて睨みつけた。
「この部屋、クローゼットがなくて衣裳部屋があるのにメイドの部屋はないのよ。しかもアリエノール様達のお部屋と離れてるし⋯⋯。ただの客室にしてはおかしくない?絶対なんか怪しいと思う」
「元々、この国も教会も胡散臭い事だらけだもの、部屋が怪しいくらいでは驚かないわ。で、お兄様はこの事ご存知なの?」
「手紙を出しておいたからもう届いてるはず。ライルなら大丈夫、それよりお茶と着替えはどっちを先にする?」
マイペースでセアラの怒りをやり過ごすイリスにため息をついたセアラが部屋を見回した。
「メアリーアンは?」
「アリエノール様のとこに行かれたんだけどもうすぐ帰ってくると思う。じゃあ先に着替えね、宮殿に到着後して旅装のまま謁見室に連れて行かれたなんて信じらんないわよねえ」
準備してあった着替えを持ってきたイリスがテキパキとセアラの服を脱がそうとしたがその手をセアラが捕まえた。
「その前に説明してちょうだい」
イリスの手を引いてソファに向かい並んで座ったセアラはイリスの手を掴んだまま正面からイリスを睨みつけた。
「何でこんな無茶をしたの?」
「私がお願い致しました」
ノックと共にドアが開きメアリーアンが入って来た。苛立たしげなセアラの態度に物怖じした様子のないメアリーアンが紅茶の準備をはじめながら話を続けた。
「セアラ様にはストッパーになる人が必要だと思いましたので、セアラ様の専属メイドとして同行して下さるようにとお願いしました」
「ストッパー?」
困惑したセアラは相変わらずイリスの手を掴んだままメアリーアンの言葉を繰り返した。
「セアラが無茶をしないように見張って欲しいって言われたの。何が起きてるのかはまだ聞いてないけどこんな急な参加なんて碌な事じゃないと思ってたから、メアリーアンからお願いされなかったとしても私からお願いするつもりだったの」
「来てくれてありがとう⋯⋯なんて言うと思った? イリスはほんとに無茶ばかりするんだから」
「ふふっ、私はセアラのお姉ちゃんだもの。妹を守るのは姉の役目だし?」
ドヤ顔のイリスは眉間に皺を寄せたままのセアラに向けてサムズアップして、メアリーアンの淹れてくれた紅茶を口にした。
「あちっ」
猫舌のイリスが赤い顔で慌てる様を見てセアラは大きなため息をついた。
「無茶はしない、メアリーアンのそばを離れない。その二つを守れないなら今からでも王国に帰ってもらうわ」
「セアラも無茶しないって約束してくれる? セアラ的にじゃなく世間一般の常識として無茶しない?」
「まるで私が無鉄砲みたいな言い方だわ。真冬の教会前で座り込みを決行したイリスに言われるのはなんだか納得がいかない⋯⋯」
メアリーアンにしてみればどちらも同じくらい無鉄砲だと思ったがここは下手に口を出さない方が良いだろうと『お風呂の準備をして参ります』と行ってしまった。
「着替えを済ませたら何がどうなってるのか教えて」
真顔になったイリスがセアラに詰め寄った。
「話せることだけで構わないから、セアラが何に巻き込まれてるのか教えて欲しいの」
セアラの帝国行きがなくなって安心していたイリスはセアラが急に使節団に参加する事になったと知って焦っていた。調査団に参加して帝国で情報収集していた時にヒシヒシと感じていた王国に対する国民の嫌悪感と教会への信仰はイリスからすると病的で狂信的にみえた。
「この国の人は真面じゃない。王国への鬱憤を利用して国を纏めているような気がしたもの。それに⋯⋯宝物があったって神様の声なんか聞こえるわけないじゃない。そんな頭のおかしな人と話なん」
ノックの音が響きイリスが言葉を詰まらせた。
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