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75.いざ出陣?

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 急遽参加する事になったセアラ達の専属護衛として剣技大会の上位三名、ルーク・マクルーガーとマーカス・シルバンとイーサン・ホズウェルが同行することになった。

 アリエノールやウルリカの侍女等と合わせて総勢ニ十名が使節団に追加で参加する事になったが、勿論その中の一人としてメアリーアン グロスタール侯爵令嬢もセアラの専属メイドとして参加が決まっている。

(アリエノール様やウルリカ様の侍女や護衛が多いのはわかるけど、三人のための護衛が全員で十人って多すぎないのかしら?)




 総勢七十名の使節団は六台の馬車とそれを守る騎馬兵に囲まれて王都を出発した。メアリーアンが準備した荷物の中身を見せてもらえなかったセアラは少し不安ではあったが、それよりも昨日大急ぎで出した手紙の方が気になっていた。

(上手くお返事がいただけたらいいのだけど。お伺いしてお願いする時間があれば良かったんだけど⋯⋯間に合わなかったらどうしよう)



 出発当日⋯⋯。

 朝靄が立ち込める中で馬車の最終点検や荷物の積み込みが行われている頃、セアラは謁見室で使節団一行と共に国王の前で最敬礼していた。

「此度の会議が我が国にとって非常に重要であることは皆も重々承知しておるであろう。我が国とイーバリス教会との不和に終止符を打ち、我が国と帝国の和平に向けた礎を築いてくるのじゃ。失敗は許されん、良いな」

「この身に代えましても⋯⋯必ず」

 玉座に座る国王は普段よりも厳しい表情で一人一人の顔を見た。右手を胸に厳しい表情で返答をしたリチャード王子や大臣達は帝国や教会からの強引な予定変更等で少し面窶れしているように見えた。

「皆、必ず無事に帰って来るのですよ」

 長年国交を断っていた帝国と教会は未だに何を考えているがわからない。その上、神殿の襲撃について不利な立場で交渉しなければならないリチャード王子達は出来る限りの準備を整えたつもりではいたが⋯⋯王妃の含みのある言葉に全員が頷いた。

 出発日が近づいてからの大幅な予定変更が何を意味するのか短期間の調査では狙いがわからない。結局、暗中模索のままの出発にならざるを得なかった。

「例えどのような腹積りが彼等にあったとしても、必ず全員揃って帰還する事をお約束致します」



 

 その後、リチャード王子は大臣と共に二台目の馬車に乗り込み侍女達もそれぞれの荷物を持って馬車に乗り込んだ。セアラはアリエノールとウルリカとメアリーアンの四人で行列の三台目の馬車に乗りこみ、参加していなかった会議の内容を再確認する予定で足元に資料の入った鞄を積み込んだ。

 馬車の周りを大勢の護衛が固め当初の予定より物々しい雰囲気で使節団が出発した。


「帝国まで一週間以上かかるから分からないことがあれば何でも聞いてね。わたくし達も詰め込みで覚えたので聞き忘れていることもあるかもしれないから、夕食後お兄様と打ち合わせできるように頼んであるの、その時に纏めて聞きましょう」

 使節団一行が王都を抜ける頃には既に多くの人が大通りを行き交い護衛に囲まれた煌びやかな馬車を見遣っていた。

「帝国に行くんだよね」
「すごい人数⋯⋯教会のお宝を返しに行くって」
「上手くいったら帝国と交易がはじまるのかねえ」



 お昼を過ぎた頃にローデンベール伯爵領に入ると街道が段々と荒れはじめ王家の豪奢な馬車に乗っているにも関わらず時折大きくバウンドし資料を見るどころではなくなってしまった。

「打ち合わせは休憩にしましょう。小さな字を見ていたら酔ってしまいそうだわ。
この辺りはローデンベール伯爵の領地よね。王都からたった半日なのに街道整備がこれ程できていないなんて予想以上だわ」

「ローデンベール伯爵領はここ数年日照りによる不作でかなりの財政難に陥っています。そのような状態の中で伯爵は王都で豪遊していましたから領民はかなりの重税を課せられています」

 街道の両脇の雑木林は手入れがされておらず、枯れ枝や大きな轍で思うようにスピードが出せないらしく蛇行や大きな揺れがある度にアリエノールの眉間の皺が深くなっていった。

「リチャードお兄様も気付かれたとは思うけれど今回の件が落ち着いたら手を入れるようお話しした方が良いわね。街道がこれでは話にならないわ」

「この街道は帝国との交易がはじまればかなりの商隊が行き来する事になるでしょうから、早急に手を打つべきですね。ローデンベール伯爵はレトビア派でしたが嫡男のニーリー様は優秀だと言う噂です」

「ニーリー様の事、リアムお兄様はご存じかしら」

「お名前はご存知だと思われますが交流はなかったように思うので覚書に追加しておきます。今日の夜はローデンベール伯爵領の宿に泊まる予定ですし街の様子なども併せて報告致しましょう」

「ええ、そうね。リチャードお兄様達は帝国や教会との折衝で頭がいっぱいだと思うから⋯⋯」

 


 予定より遅くなったものの夕闇が迫る頃にはなんとか宿に辿り着いた。貸し切ったローデンベール伯爵領の宿の三階の部屋にはアリエノール・ウルリカ・リチャード王子・大臣・セアラが分かれて泊まり二階の部屋は護衛と侍女達が泊まることになった。
 その他の護衛達は街外れの広場に大急ぎでテントを張っている。


「お疲れ様でした。すぐに湯浴みできるようお部屋に準備致します。お食事はその後になりますがお部屋にお持ちしますか?」

「リチャードお兄様はどうなさるのか聞いてる?」

「王子殿下は大臣方と一階で召し上がられるそうです」

「そう⋯⋯では、わたくし達も参加して良いか聞いて下さい。でなければわたくしの部屋でいただくので、その時は後でお部屋に来ていただけるよう伝えてくださる?」

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