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74.聖女と聖女候補

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(確か、次代の聖女が決まったのは⋯⋯)

「あっ!!」

 思わず声を上げたセアラ。

「「「どうした(の)!?」」」

「あの第一皇子殿下の婚約者が3ヶ月くらい前に決まられたばかりだったと思うのですが?」

「ええ、よく知っていたわね。その方はまだ年齢が足りないから今回の儀式は現在の聖女様が行われるそうよ」

「態々私達を儀式に立ち会わせる理由はなんと仰っておられるのかご存じですか? 帝国や教会は何が狙いなのでしょうか?」

「儀式なんてやっても神の声が聞こえるわけがない! そんなのわかりきってるじゃないか!!」

 取り敢えず椅子に座ってはいるが眉間に皺を寄せて腕を組んでいるルークは憤懣やるかたない様子。今にも部屋を飛び出して王宮に殴り込みをかけそうな勢いで『リチャードは何を考えてるんだ!』と不満を口にした。

(アリエノール様や私達にできることなんて思いつかないし⋯⋯)

「神の声なんて眉唾だとわたくし達も思っているわ。でも、それを証明する方法がないの。賠償金の為ならお兄様達が立ち会うだけで事足りるし⋯⋯何故わたくし達が必要なのかもわからない」

(リチャード王子が立ち会いをされただけでは不足? ⋯⋯何がある?)


「それでも今後のことを考えれば今回の招待を断るのは難しいからわたくしとウルリカは使節団に参加する事にしたの。
セアラは病気療養として暫くの間領地に帰っていてくれるかしら?」

 元々二人で参加するつもりだったのか諦めて二人で参加する事にしたのかわからないが、青褪めて強張っていたアリエノールの顔は晴れやかになり普段と同じ優しい口調に戻った。

 アリエノールとウルリカが『騒がせてしまってごめんなさいね』と言いながら席を立ち、資料を纏めて部屋を出ようとした。



 ガタンと椅子の音を立てて立ち上がったセアラがアリエノール達の後ろ姿に声を声をかけた。

「⋯⋯あっ、あの。衆力功ありと言いますし⋯⋯お役に立てるかどうか分かりませんが私も参加させていただきたいと思います」

「本当にいいの? 信用できる相手でもないし⋯⋯相手の狙いさえわからないのよ」

「はい。乗りかかった船ですから」

「あーもー、はぁ。そうなると思った。なら俺も参加します。どうせこうなると思って俺を呼んだんですよね」

 ガシガシと頭を掻いたルークがアリエノールを睨むとアリエノールとウルリカがありがとうと言って頭を下げた。




 アリエノールとウルリカが王宮へ戻ると言って部屋を出て行くとルークがこれ見よがしに大きな溜息を吐いた、

「はぁ⋯⋯全く⋯⋯セアラは人が良すぎるよ。王家に便利に使われているって分かってるんだろ?」

「そうだけど⋯⋯ 渡りかけた橋と言うか、騎虎の勢いって言った方が合ってるかしら? そんな気がしたの。でも、その所為でルークまで巻き込んでしまったのは申し訳ないと思ってる」

「別に⋯⋯それは良いんだけど、騎虎の勢いと言われるとなんだか心配になるな。何か知ってるのか?」

 騎虎の勢いとは、虎に乗った者は途中で降りると虎に食われてしまうので降りられない事から、やりかけた物事を途中でやめることができなくなると言う意味。

「うーん⋯⋯何となくの勘かな?」

(教会のやってきた事を考えると真面な話じゃないかもしれないなんて言えないし)

 マーシャル夫人に聞いた話や資料の事を話せないセアラは言葉を濁すしか出来なかったが、ルークはセアラの表情で何か気づいたようで片眉を吊り上げた。

「まあ、言えないなら無理には聞かないが。何でも協力するし必ず守ってやる。
騎士の誓いは先を越されたけど⋯⋯あれだから。その⋯⋯うん。
リチャードは王家の人間としての立場を優先せざるを得ないが、俺はセアっ、セアラの為だけに参加するから⋯⋯つまりその、あれだ。この話が片付いたらきちんと話したいと思ってるんだ」

「ん?」

 所々話が意味不明になったルークは顔を赤くして立ち上がった。

「送ってく。りょっ寮に帰るだろ?」

「えっええ、そうね。準備急がなくちゃいけないし」

(ルーク、どうしたのかしら)


 イリスがいたらきっとこう言うかも⋯⋯。

『でっかいクセにルークってばめちゃめちゃヘタレ~。セアラは超絶鈍感なんだから、はっきり言わないとなーんにも伝わんないよ? ファイトッ!』




 学園の寮に戻ったセアラは、

「使節団に参加することになったの。で、出発の準備をお願いできるかしら」

「⋯⋯(やっぱり断らなかったのね)畏まりました。では晩餐会用のドレスなどの必要な品は全て王宮持ちで準備させます。手配はお任せください」

 一瞬目を見開いたメアリーアンだったがニヤッとあくどい顔で笑った。

「いえ、あの。必要最低限で良いの。時間もないし持っている物で使い回しすれば足りると思うし。ほら、以前マーシャル夫人に見立てて頂いたドレスがあるし、アクセサリーもある物で構わないから」

「いえいえ、そうは参りません。ちょうど良い機会ですから王家にうんと豪奢なドレスとアクセサリーを準備させましょう。晩餐会用だけでなくモーニングドレスやデイドレスも。念の為、乗馬用のドレスも作っておきましょう」

「ダメダメ。全部ある物で良いの」

「迷惑料だと思って作って差し上げた方がアリエノール様やリチャード様がお喜びになられますし、前もって確認を致しますのでご心配なく。ルーク様の分も頼んで参ります」

 慌てるセアラを余所にメアリーアンは意気揚々と部屋を出て行った。

(はぁ、メアリーアンの目が笑ってなくて怖かったわ。しかもルークが参加することまで気づいてたし。招待状の事知ってたのね)



 元々帝国や教会との折衝にセアラを関わらせたくないと思っていたメアリーアンはこの時とばかりに王家に仕返しをするつもりのよう。

 セアラが行くことになればルークは必ず付いて行くと言うだろうが、もし行かないと言うならお仕置きが必要とさえ思っていた。メアリーアンの見立てでは護衛役としては今の所ルークが一番腕がたち、自分メアリーアンと二人がセアラの側にいるのが最善だと考えていた。

(あと一人⋯⋯セアラ様のストッパーがいればベストなんだけど)



 メアリーアンの出て行ったドアを見つめながら溜息を吐いたセアラはマーシャル夫人の資料を一から読み直しする事にした。

(ドレスなんかに関しては王家からストップが入ると思うけど、念の為明日の朝一番で手紙を出しておけば良いかしら。
それよりも気になることが⋯⋯もしかしたらだけど)

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