【完結】私なりのヒロイン頑張ってみます。ヒロインが儚げって大きな勘違いですわね

との

文字の大きさ
上 下
73 / 93

73.鏡とバクルス

しおりを挟む
 錫アマルガムをガラスの裏面に付着させて鏡を作る方法を発明が出来てから数百年経っているが、鏡の完成までに手間と時間がかかる為現在でもこれほど鮮明に見える鏡はなかなか入手できないだろう。

「年代から考えると随分と高価な品ということになりますね。その割には雑な扱いと言うか⋯⋯」

「さっきのバクルス司教杖も折れたままだったし瓶の中にも液体が残っていたし⋯⋯本当に雑な扱いよね」

 ミリセントが『呆れたわ』と言いながら肩をすくめた。




 当初使節団に参加を予定していたアリエノールやウルリカだったが、教会の所持品に危険な幻覚剤が入っていたことを踏まえ参加を見合わせることになった。使節団への参加を打診されていたセアラとルークも勿論不参加となり使節団のメンバーが確定した。

 使節団のリーダーはリチャード王子。サブリーダーは新しく外務大臣となったマーク・カリスト侯爵で、大臣補佐のタイラー・ディエルバとイーサン・バリューが同行する。
 事務次官や護衛・従者などをあわせ総勢五十名の大所帯で日程の最終調整が行われているようだが、参加する予定のなくなったセアラにはどのような話し合いがされているのか全くわからないまま使節団の出発予定日が近づいてきた。





 授業が終わりいつものようにルーク達と生徒会室に行くと珍しく登校していたらしいアリエノールがウルリカと顔を突き合わせて手元の資料を覗き込んでいた。

「アリエノール様、お久しぶりです」

 ここ暫く学園に顔を出していなかったアリエノールはセアラ達に気づいた途端目を逸らし大きく息を吸って両手を握りしめた。

「⋯⋯セアラとルークに少し大切な話があるの。向こうの部屋に集まってもらえるかしら?」

 少し緊張した様子のアリエノールの声はいつもより低く震えているように感じられた。ただならぬアリエノールの様子にセアラとルークは顔を見合わせて首を傾げ、チラリとウルリカを見遣ったがウルリカは俯いて机の上の資料を集めているので様子がわからない。

 セアラ達の返事を待たずに隣の部屋に入って行ったアリエノールに続いて隣の部屋に入って行くと、最後に入ってきたウルリカがガチャリと鍵を閉めた。


 四人が席に着くとアリエノールがセアラの顔を正面から見つめ口火を切った。

 今までに見たことがない程余裕のないアリエノールの強ばった顔と、書類を握りしめ肩に力が入ったウルリカ。

「急な話なのだけど⋯⋯帝国から友好の証として夜会を開きたいと言ってきたの。帝国の皇子達も参加するから彼等と近しい年齢の学生にも参加して欲しいって」

「後半月で使節団の出発だと言うのに本当に急な話ですね。以前仰っておられた将来的に交換留学生を考えて⋯⋯と言う話なら延期になったはずではありませんか?」

 ルークが目をすがめてアリエノールに詰問した。

「ええ、その通りよ。時期尚早と言う理由で断りを入れて帝国から了承してもらっていたのだけど、昨日帝国から名指しで夜会への招待状が届いたの」

「招待されたのはアリエノール様とセアラ様とウルリカの三名です」

「名指し? この話をするということは王家はセアラに招待を受けろと言う事ですか!?」

 危険回避のために不参加を決めたはずなのに今更打診してきた王家と強引な帝国に気色ばんだルークが立ち上がりテーブルを叩いた。

「ふざけるな!!」

「わたくし達も正直に言うと悩んでいるの。現時点での予定は顔合わせと宝物の確認や神殿跡の視察で、勿論晩餐会も行われる予定になっていたわ。参加予定者は皇族と帝国の大臣と教会幹部だったのだけど、聖女の宝物の返還と交流会を第一皇子がゴリ押ししてるみたいなの」

「第一皇子と言うと次の聖女の婚約者でいらっしゃったと記憶しておりますが?」

 24歳の第一皇子の婚約者はまだ14歳の侯爵令嬢で、現在は40代の聖女が全ての儀式を行っている。

「ええ、その通りよ。折角宝物が見つかったのだからそれを使って正統な聖女の儀式を行いたい。そして、それに併せて交流会をしたいと仰っておられるの」

「⋯⋯まさかとは思いますが、帝国やイーバリス教会は使節団の滞在中に儀式を行われる予定だと言うことでしょうか?」

(14歳の侯爵令嬢では儀式を行うには若すぎる。マーシャル夫人の資料では確か聖女は16歳以上だったはずだわ)

「ティアラとブレスレットの返還は何の問題もないのだけど⋯⋯」

 珍しく口籠もってしまったアリエノールの顔色は更に青褪め、ウルリカが手持ちの水筒から冷たいお茶を淹れてテーブルに置いた。

「俺は反対です! 幻覚剤なんかを隠し持ってる教会ですよ、何があるかわかったもんじゃない。セアラは行かせません! 王国の問題にどこまでセアラを巻き込んだら気が済むんだ!!」

 仁王立ちしたまま鼻息荒くアリエノールを睨みつけているルークにセアラが声をかけた。

「ルーク、わたくしは行けと命令されたわけじゃないんだから落ち着いて」

「王家の狙いは分かってる。どうせセアラが了承するのを狙ってるんでしょう? セアラは今回の問題の被害者ですよね。レトビア公爵家や仲間の貴族達が昔やらかして、王家がそれを見逃してきた! レトビア公爵達をつけあがらせたのだって王家だし、そのツケを一貴族令嬢のセアラが払う必要なんてないって分かってるんですか!? 甘えすぎるのも大概に「ルーク!!」」

 頭に血が上ったルークの言葉をセアラが遮った。このままではルークは何を言い出すかわからないし、既に王家に対する不敬罪だといわれても仕方がないことを口にしている。


「アリエノール様、彼等は聖女の儀式への参加を望んでおられるのですね?」

 敵意を抱えたままのルークがドスンと椅子に座ったのを横目で見ながらセアラが問いかけた。

「⋯⋯ええ、その通りよ。帝国や教会としては襲撃前に行われていた儀式を再現するつもりでいて、わたくし達に是非立ち会って欲しいと言ってるわ。文化交流の一環だと思って軽い気持ちで参加して欲しいって」

 宝物が失われたせいで神の声が聞こえなくなったと教会は言い続けている。ティアラを返還しても聖女に神の声が聞こえなかったら⋯⋯その責任を王国に押しつけるつもりだろう。

 神の声は聖女に聞こえないのだから『以前は聞こえていたのに!』と言われれば反論のしようがない。

(元々神の声が聞こえていたと言う話さえ信憑性がない話なのに)

「聖女の儀式で神の声が聞こえないとなったら⋯⋯聞こえないと言って責任追及する可能性があると言う事ですね」

 セアラの予想にアリエノールが頷いた。

「⋯⋯ええ、陛下やお兄様もそのように考えておられるわ」

「賠償金目当てですよね。神の声なんて聞こえるわけないじゃないですか」

「代表はリチャード王子殿下ですから、賠償金目当てだけなら使節団の方の立ち会いだけでも事足ります。態々三人を指名してきたのは⋯⋯いえ、まさか⋯⋯」

「セアラ?」

 次代の聖女様はまだ年若く第一皇子とは少し歳が離れている。

(確か聖女見習いの方は他にもいらっしゃるはずなのに何故その方が選ばれたのかしら? 次代の聖女が決まったのって⋯⋯)

 確か、マーシャル夫人の資料に⋯⋯。

しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
全てを失った伯爵令嬢の再生と逆転劇の物語 母を早くに亡くした19歳の美しく、心優しい伯爵令嬢スカーレットには2歳年上の婚約者がいた。2人は間もなく結婚するはずだったが、ある日突然単身赴任中だった父から再婚の知らせが届いた。やがて屋敷にやって来たのは義理の母と2歳年下の義理の妹。肝心の父は旅の途中で不慮の死を遂げていた。そして始まるスカーレットの受難の日々。持っているものを全て奪われ、ついには婚約者と屋敷まで奪われ、住む場所を失ったスカーレットの行く末は・・・? ※ カクヨム、小説家になろうにも投稿しています

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する

影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。 ※残酷な描写は予告なく出てきます。 ※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。 ※106話完結。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

すり替えられた公爵令嬢

鈴蘭
恋愛
帝国から嫁いで来た正妻キャサリンと離縁したあと、キャサリンとの間に出来た娘を捨てて、元婚約者アマンダとの間に出来た娘を嫡子として第一王子の婚約者に差し出したオルターナ公爵。 しかし王家は帝国との繋がりを求め、キャサリンの血を引く娘を欲していた。 妹が入れ替わった事に気付いた兄のルーカスは、事実を親友でもある第一王子のアルフレッドに告げるが、幼い二人にはどうする事も出来ず時間だけが流れて行く。 本来なら庶子として育つ筈だったマルゲリーターは公爵と後妻に溺愛されており、自身の中に高貴な血が流れていると信じて疑いもしていない、我儘で自分勝手な公女として育っていた。 完璧だと思われていた娘の入れ替えは、捨てた娘が学園に入学して来た事で、綻びを見せて行く。 視点がコロコロかわるので、ナレーション形式にしてみました。 お話が長いので、主要な登場人物を紹介します。 ロイズ王国 エレイン・フルール男爵令嬢 15歳 ルーカス・オルターナ公爵令息 17歳 アルフレッド・ロイズ第一王子 17歳 マルゲリーター・オルターナ公爵令嬢 15歳 マルゲリーターの母 アマンダ パトリシア・アンバタサー エレインのクラスメイト アルフレッドの側近 カシュー・イーシヤ 18歳 ダニエル・ウイロー 16歳 マシュー・イーシヤ 15歳 帝国 エレインとルーカスの母 キャサリン帝国の侯爵令嬢(皇帝の姪) キャサリンの再婚相手 アンドレイ(キャサリンの従兄妹) 隣国ルタオー王国 バーバラ王女

元カレの今カノは聖女様

abang
恋愛
「イブリア……私と別れて欲しい」 公爵令嬢 イブリア・バロウズは聖女と王太子の愛を妨げる悪女で社交界の嫌われ者。 婚約者である王太子 ルシアン・ランベールの関心は、品行方正、心優しく美人で慈悲深い聖女、セリエ・ジェスランに奪われ王太子ルシアンはついにイブリアに別れを切り出す。 極め付けには、王妃から嫉妬に狂うただの公爵令嬢よりも、聖女が婚約者に適任だと「ルシアンと別れて頂戴」と多額の手切れ金。 社交会では嫉妬に狂った憐れな令嬢に"仕立てあげられ"周りの人間はどんどんと距離を取っていくばかり。 けれども当の本人は… 「悲しいけれど、過ぎればもう過去のことよ」 と、噂とは違いあっさりとした様子のイブリア。 それどころか自由を謳歌する彼女はとても楽しげな様子。 そんなイブリアの態度がルシアンは何故か気に入らない様子で… 更には婚約破棄されたイブリアの婚約者の座を狙う王太子の側近達。 「私をあんなにも嫌っていた、聖女様の取り巻き達が一体私に何の用事があって絡むの!?嫌がらせかしら……!」

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

処理中です...