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59.無自覚で鈍感なセアラ

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「セアラはリチャード王子殿下とルーク様のどっちなの?」

「おい!」

 キョトンと首を傾げたセアラと声を荒げて少し顔を赤くしたルーク。

「あー、そう言うことか。私としては両方同じくらい応援してるからね。
セアラって全然わかってないし、余程のことがない限りわからない人だから前途多難ですよ。
ルーク様頑張ってね」

「イリス、分かるように話してくれない?」

「いいのいいの。それは自分で気が付かなきゃダメなんだって今のお姉様は知ってるんだから」

 少し前までセアラと同類で自分も気付かないタイプだったイリスだが、一歩大人の階段を登ったつもりの上から目線でイリスはセアラとルークをからかった。



「ライルには私から連絡しておくね」

「ええ、お願い。養子縁組が正式に破棄されたら直ぐに会いたいって伝えてくれる? お父様には今日お手紙を書くつもりなの」

「ライルって結構シスコン入ってるから学園の前で毎日待ち続けそう。調査団の人が言ってたんだけど、ライルってば寝言で『セアラ、お兄様と遊ぼう!』とか『セアラ~』とか言ってたって」

「そっそれは、ほら。今回の件で、ねっ。今は可愛い奥様がいて妹どころじゃないんじゃないかな? 何しろ長年温め続けた初恋が叶ったんだもの」

 真っ赤な顔のセアラが慌てて言い募ったがイリスはケラケラと笑っていて聞いていない。


「もしかして、イリス様とセアラの兄上って」

「はい、わたくし調査中に素敵な教会で素敵な司祭様の前でセアラのお兄様と結婚しましたのよ。ふふっ」

「まだ15歳だろ? だったら婚約だろ?」

「正式な結婚式は私が成人してからもう一度するって約束してるの。でも素敵な司祭様が『神の祝福を』ってちゃんとお式をあげてくださったのよ」

「ほんの少し、ほんのすこーしだけ心配なの。イリスはお兄様と結婚したのか、司祭様に式をあげていただいたのか⋯⋯」

「ん? 同じ事でしょ?」

「いや、かなり違うぞ? ⋯⋯イリス嬢とは今までほとんど話したことがなかったが、セアラと友達な理由がわかった気がする」

「「?」」

「類は友を呼ぶ」





「セアラに報告があるの」

 その日の夕食の時にアリエノールがセアラに向けて最上級のにっこりを見せて微笑んだ。アリエノールがこの笑顔を浮かべた時は危険が迫っている合図だと最近学習したセアラは警戒しながら続きを待った。


「セアラの新しいドレスについて」

「夜会用のドレスはもう手配させて頂きましたが?」

「覚えているわ。でもね、思いっきり豪奢なドレスを作ってアメリアに発破をかけたいからって仰ってるの」

「仰ってる? あの、因みにどなたが注文されたのでしょうか?」

「お兄様よ。セアラが豪華なドレスだって知ったらアメリアは張り切ると思わない? そうすれば益々ティアラをつけてきそうでしょ?」

「そうですね。でも、今まで学園で散々アメリアを煽ってありますから、わたくしのドレスはそれ程豪奢でなくても参加するだけで嫉妬心を刺激できて十分だと思います」

「あら、ティアラに映えるドレスでなくてはインパクトにかけるわ。それにプラスしてお兄様が初めて女性にドレスを贈るのだから社交界で噂になること間違いなしだわ」



「⋯⋯仰っておられる意味がわからないのですが」

「お兄様は派手好きだって有名でしょう? そのお陰で今回の激励会を王宮でやることが出来る事になったのだけど、その激励会の会場を女神のイメージで飾り付けするよう準備が進められているの。そこまでは覚えてる?」

「はい。ティアラをつけるのに相応しい会場にしようと言うお話から女神降臨がテーマになりました」

「で、女神様であるセアラをお兄様がエスコートするの」

「⋯⋯女神様ならアリエノール様が適任ですわ。お姿も人気もお立場も全てがそのままで女神様ですから」

「ふふっ、ありがとう。とても嬉しい言葉だけどもう遅いわね。明日には噂を広める予定だもの」

「また噂ですか?」

「ええ、がセアラにドレスを仕立てているって」

 そんな噂が流れたらと思っただけで胃が痛くなりそうなセアラだったがアリエノールはとても楽しそうに笑っている。


「先日の夜会のアメリアのドレスを覚えてるかしら?」

「はい、何となくですが覚えています。確か、グリーンのガウンのローブ・ア・ラ・フランセーズでした」

「ええ、その通りよ。お兄様の目の色を意識したガウンと髪の色を意識したペチコートで、ストマッカーにもエメラルド。アクセサリーもエメラルドで統一して嫌味なほどだったわ。派手すぎて小柄なアメリアには似合ってなかったし」

「リチャード王子殿下の意趣返しもあるかと存じます。リチャード王子殿下は、勝手に誤解されるようなドレスを着て誤解されるような言動を繰り返され続けて辟易しておられます。
しかも、アメリアが着用している下品なドレスはリチャード王子殿下に贈られた物だと思わせる言動を繰り返され、趣味が悪い・最悪のセンスの持ち主だと悪評が立っております」

「だから、今回の夜会で自分の趣味をご披露したいと思われたのですね。それでしたら最後のお役目を頑張らせていただきますわ」


「お兄様⋯⋯まだ全然伝わってないのね。ファイト」



 セアラの籍はホプキンスに戻り学園での生活に少し変化が訪れた。手紙のやりとりや外出が可能になったのだ。

 マーシャル夫人への手紙にシャペロンをしてもらった時のお礼や、辺境伯への口添えとルークの事について感謝の気持ちを綴ると思った以上の長文になってしまった。

 最後に、諸事情で公爵家からホプキンス伯爵家に籍が戻ったが可能であればこれからも手紙を送らせて欲しいと書いた。

(お会いしたいと望むのは図々しすぎる気がするけど、季節折々にお手紙を出させて頂くくらいなら⋯⋯。次からはもう少し少ない枚数で終わるようにしなくては読むのが大変だと呆れられてしまいそうね)



 反レトビア公爵派がレトビア公爵家から籍を抜かれたセアラを引き入れようと手を尽くしてきた。
 これまで無視したり遠巻きにしていた令嬢や令息が授業の合間や放課後に声をかけてきたり、寮に贈り物が届いたり。

 その中にはナダル・ブラウン伯爵令息やミレニア・イーディス子爵令嬢もいたがセアラは今までと変わらず自分からは関わらず適当な距離を置いた返事を返した。

(アリエノール様やリチャード王子殿下やルーク様狙いだって底が見えてるもの。例の件が終わるまでは誰とも親しくはできそうにないわね)


 セアラ待望の週末がやってきた。

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