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57.セアラの推測
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そのまま公爵邸に連れて行かれるか学園から追い出されるかと不安だったが、レトビア公爵は何もせず意気揚々と帰っていった。
(良かった。取り敢えずアリエノール様に報告する時間だけはできたわ)
休憩時間を狙って教室に戻るとイリスとルークが慌ててやって来た。
「セアラ! 大丈夫だった」
イリスは周りを気にして小声で聞いているが生徒全員が注目しているのでセアラはなんと答えようか悩んだ。
「うん、大丈夫」
「ほんとのほんとに? だって公爵だったんでしょう?」
「ええ、暫く帰れていないから気になって様子を見に来てくださっただけだから」
公爵の指示を無視していることを知っているルークはイリスを止めた。
「イリス嬢、セアラは大丈夫だ」
「う、うん」
イリスも周りの様子に気付いたようですんなりと引き下がった。
「オーシエン先生が授業の妨げになるのを承知で呼び出すなんて何かあったのかと思ったが。何もなかったなら良かった」
ルークの言葉にお楽しみを見つけワクワクしていた生徒の一部が残念そうに肩を落とし溜息をついた。
「今日は何だか落ち着かないみたいだけど大丈夫? 公爵が学園に来たことと関係があったりするのかな?」
情報の早いリチャードがセアラの顔を覗き込み、選手候補の指導の合間に小声で聞いて来た。
「ええまあ。ここではあまり⋯⋯」
「分かった」
罪を保留されているローランドが戻ってきて生徒会室での食事会で余計なことは話せなくなった。今夜の夕食でアリエノールとウルリカに話し、リチャード王子達への報告をお願いするしかないセアラは少しソワソワしていた。
(早く報告したいような、話したくないような。退学になった後どうなるのかしら)
練習が終わり寮への道を歩きながらリチャードが問いかけてきた。
「で?」
「学園を辞めることになりました」
「そうか。あー、寂しくなるなあ。もう会えなくなるって事?」
セアラは人に聞かれでも問題がないことだけを話したが、やはり近くに誰かいるのだろう。
「そうですね。ホプキンス領に戻らなくてはならないと思います(もうお手伝いできなくなりました)」
「じゃあ、その前にデートしよう! それなら今よりたくさん時間ができるし、泊まるところに悩んでるなら王宮の客室があるし。
寮の談話室に申し込みしようかな。予定を組もう(少し詳しく聞きたい)」
「いえ、今日はもう遅いですし明日も授業がありますから(かなり時間がかかる話になります)」
二重音声のような会話を終わらせて寮の前でリチャード王子と別れたセアラは待っていたメアリーアンと共に部屋に入った。
(アリエノール様にうまく伝えられるかしら。ううん、伝えなくちゃ)
いつもと同じようにアリエノールとウルリカと3人の夕食は穏やかな会話と共に進んでいった。
「今日はトゥファルクを使ったチーズケーキを準備したのよ」
トゥファルクは生乳を軽く発酵させて作るチーズの一種で酸味があり真っ白な色をしている。
セアラが食欲がないのを見越していたかのように少し重いデザートが準備されていた。
甘い物は正義なのと笑うイリスを思い出した。
食事が終わり紅茶とチーズケーキを前にセアラが重い口を開いた。
「既にご存知かもしれませんが、レトビア公爵家との養子縁組が破棄されるので学園を退学することになりました。申し訳ありません」
「頭を上げて。セアラが謝ることじゃないわ、それより詳しく話を聞かせてくれる?」
セアラはできる限り正確に感情を込めずに公爵との話を繰り返した。
「つまりレトビア公爵は呪いなんて信じてないけど念の為セアラを養女にした。で、呪いが発動したらお兄様に叙爵して貰ってアメリアを公爵家から出す」
「書類が作成済みと言う事は恐らく国璽を押すだけになっているのでしょう」
「それよりも問題なのは公爵がお兄様を狙っている真の理由ね」
「はい。わたくしの邪推であれば良いのですが公爵は孫を国王にすると決めています。今はどの方法で行うか決めかねているだけなのではないかと」
「⋯⋯お兄様が王家に残っておられる理由は悔しいけれど公爵が言った通りなの。
シルス王太子様は昔大病を患ったことがあって暫くの間寝たきりになられたの。
立太子される頃に、もし病気が再発したらとかお世継ぎが出来なかったらどうするのかとか大騒ぎになって随分揉めたの。
で、お兄様の方が良いんじゃないかって言う勢力があまりにも騒ぎ立てるから、お兄様はスペアとして王家に残るが国王になる気はないって断言された。
これ以上揉めるなら王族を抜けると仰られて騒ぎが収まったの」
「セアラ様の話から判断すると、リチャード王子殿下とアメリアを結婚させた後の公爵の狙いは、シルス王太子を廃するかシルス王太子にお子を作らせない、又は身罷らせる。
王太子を廃してリチャード王子を王太子にするのいずれかだと推測できます」
「わたくしも同じように感じました。リチャード王子殿下とアメリアを結婚させ、最終的に公爵家の血が王の座を手に入れるというのが狙いだと思います。
密約で王の座を手に入れれば公爵家は簒奪者だと言う者がいるでしょうが、リチャード王子殿下やそのお子を利用するならば大手を振って国を支配できます」
「だからお兄様とアメリアの結婚に固執しているのね」
「アメリアがリチャード王子殿下に夢中だというのがあるからこそ思いついたのかもしれません」
「と言うと?」
「時期的な問題です。もし公爵だけの考えならシルス王太子様とアメリアを婚約させれば話はもっと簡単だったと思ったのです。若しくはメリッサをシルス王太子の婚約者にするか。
この後は完全にわたくしの想像です。
公爵は密約さえあれば自分の自由にできるのでそれで満足していた。
ところが、アメリアがリチャード王子殿下と結婚したいと言い出しリチャード王子殿下はそれを嫌がっておられる。
癇癪を起こすアメリアを宥めるため、公爵家には王家に言うことを聞かせる方法があるので公爵家の言うことはなんでも叶うからとでも言って宥めたのではないでしょうか?
そして、これなら公爵家の財政難を根本的に解決できると公爵が気付いた」
「公爵家が財政難? 確か領地の税収は落ち着いているし何も問題は⋯⋯」
(良かった。取り敢えずアリエノール様に報告する時間だけはできたわ)
休憩時間を狙って教室に戻るとイリスとルークが慌ててやって来た。
「セアラ! 大丈夫だった」
イリスは周りを気にして小声で聞いているが生徒全員が注目しているのでセアラはなんと答えようか悩んだ。
「うん、大丈夫」
「ほんとのほんとに? だって公爵だったんでしょう?」
「ええ、暫く帰れていないから気になって様子を見に来てくださっただけだから」
公爵の指示を無視していることを知っているルークはイリスを止めた。
「イリス嬢、セアラは大丈夫だ」
「う、うん」
イリスも周りの様子に気付いたようですんなりと引き下がった。
「オーシエン先生が授業の妨げになるのを承知で呼び出すなんて何かあったのかと思ったが。何もなかったなら良かった」
ルークの言葉にお楽しみを見つけワクワクしていた生徒の一部が残念そうに肩を落とし溜息をついた。
「今日は何だか落ち着かないみたいだけど大丈夫? 公爵が学園に来たことと関係があったりするのかな?」
情報の早いリチャードがセアラの顔を覗き込み、選手候補の指導の合間に小声で聞いて来た。
「ええまあ。ここではあまり⋯⋯」
「分かった」
罪を保留されているローランドが戻ってきて生徒会室での食事会で余計なことは話せなくなった。今夜の夕食でアリエノールとウルリカに話し、リチャード王子達への報告をお願いするしかないセアラは少しソワソワしていた。
(早く報告したいような、話したくないような。退学になった後どうなるのかしら)
練習が終わり寮への道を歩きながらリチャードが問いかけてきた。
「で?」
「学園を辞めることになりました」
「そうか。あー、寂しくなるなあ。もう会えなくなるって事?」
セアラは人に聞かれでも問題がないことだけを話したが、やはり近くに誰かいるのだろう。
「そうですね。ホプキンス領に戻らなくてはならないと思います(もうお手伝いできなくなりました)」
「じゃあ、その前にデートしよう! それなら今よりたくさん時間ができるし、泊まるところに悩んでるなら王宮の客室があるし。
寮の談話室に申し込みしようかな。予定を組もう(少し詳しく聞きたい)」
「いえ、今日はもう遅いですし明日も授業がありますから(かなり時間がかかる話になります)」
二重音声のような会話を終わらせて寮の前でリチャード王子と別れたセアラは待っていたメアリーアンと共に部屋に入った。
(アリエノール様にうまく伝えられるかしら。ううん、伝えなくちゃ)
いつもと同じようにアリエノールとウルリカと3人の夕食は穏やかな会話と共に進んでいった。
「今日はトゥファルクを使ったチーズケーキを準備したのよ」
トゥファルクは生乳を軽く発酵させて作るチーズの一種で酸味があり真っ白な色をしている。
セアラが食欲がないのを見越していたかのように少し重いデザートが準備されていた。
甘い物は正義なのと笑うイリスを思い出した。
食事が終わり紅茶とチーズケーキを前にセアラが重い口を開いた。
「既にご存知かもしれませんが、レトビア公爵家との養子縁組が破棄されるので学園を退学することになりました。申し訳ありません」
「頭を上げて。セアラが謝ることじゃないわ、それより詳しく話を聞かせてくれる?」
セアラはできる限り正確に感情を込めずに公爵との話を繰り返した。
「つまりレトビア公爵は呪いなんて信じてないけど念の為セアラを養女にした。で、呪いが発動したらお兄様に叙爵して貰ってアメリアを公爵家から出す」
「書類が作成済みと言う事は恐らく国璽を押すだけになっているのでしょう」
「それよりも問題なのは公爵がお兄様を狙っている真の理由ね」
「はい。わたくしの邪推であれば良いのですが公爵は孫を国王にすると決めています。今はどの方法で行うか決めかねているだけなのではないかと」
「⋯⋯お兄様が王家に残っておられる理由は悔しいけれど公爵が言った通りなの。
シルス王太子様は昔大病を患ったことがあって暫くの間寝たきりになられたの。
立太子される頃に、もし病気が再発したらとかお世継ぎが出来なかったらどうするのかとか大騒ぎになって随分揉めたの。
で、お兄様の方が良いんじゃないかって言う勢力があまりにも騒ぎ立てるから、お兄様はスペアとして王家に残るが国王になる気はないって断言された。
これ以上揉めるなら王族を抜けると仰られて騒ぎが収まったの」
「セアラ様の話から判断すると、リチャード王子殿下とアメリアを結婚させた後の公爵の狙いは、シルス王太子を廃するかシルス王太子にお子を作らせない、又は身罷らせる。
王太子を廃してリチャード王子を王太子にするのいずれかだと推測できます」
「わたくしも同じように感じました。リチャード王子殿下とアメリアを結婚させ、最終的に公爵家の血が王の座を手に入れるというのが狙いだと思います。
密約で王の座を手に入れれば公爵家は簒奪者だと言う者がいるでしょうが、リチャード王子殿下やそのお子を利用するならば大手を振って国を支配できます」
「だからお兄様とアメリアの結婚に固執しているのね」
「アメリアがリチャード王子殿下に夢中だというのがあるからこそ思いついたのかもしれません」
「と言うと?」
「時期的な問題です。もし公爵だけの考えならシルス王太子様とアメリアを婚約させれば話はもっと簡単だったと思ったのです。若しくはメリッサをシルス王太子の婚約者にするか。
この後は完全にわたくしの想像です。
公爵は密約さえあれば自分の自由にできるのでそれで満足していた。
ところが、アメリアがリチャード王子殿下と結婚したいと言い出しリチャード王子殿下はそれを嫌がっておられる。
癇癪を起こすアメリアを宥めるため、公爵家には王家に言うことを聞かせる方法があるので公爵家の言うことはなんでも叶うからとでも言って宥めたのではないでしょうか?
そして、これなら公爵家の財政難を根本的に解決できると公爵が気付いた」
「公爵家が財政難? 確か領地の税収は落ち着いているし何も問題は⋯⋯」
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