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47.羞恥プレイと生徒会室の攻防戦

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「⋯⋯お仕置きだな。約束を破って心配をかけた悪い子には必要だろ?」

「はっ、はい?」

 顔を引き攣らせたセアラに悪どい顔をしたリチャード王子がニヤリと笑った。


「と、アリエノールなら言いそうだ。本当に心配させないでくれよ、聞いた時は心臓が止まるかと思ったんだぞ。
で、セアラは寮に直行な。しっかりと覚悟しといた方がいいぞ」


 思わせぶりな台詞を吐いたリチャード王子がセアラの頭をわしゃわしゃと撫でた後アーチャーに声をかけにいった。

(吃驚したわ、お仕置きなんて仰るんだもの。寮で覚悟って何かしら?)


 リチャード王子に抱えられ寮の入り口でメアリーアンに引き渡されるまでセアラは真っ赤な顔で俯いていた。





「セアラ様、お顔はこっちですよ」
「セアラ様、アーンですよ」
「セアラ様、抱っこしますよ」

(こっ、コレがお仕置きかしら? 羞恥プレイって言うやつよね)


 リチャードが言っていた『寮に直行、しっかりと覚悟』はメアリーアンの意外な行動を予測してのことだった。

 怪我をして抱き抱えられたセアラをリチャード王子の腕からもぎ取ったメアリーアンはガンガンと階段を登り部屋のベッドにセアラを放り込んだ。

(重くないの? 重いわよね、ごめんなさい)

 と、縮こまっていたセアラにメアリーアンの怒涛のお世話攻撃がはじまった。言葉つきまで若干赤ちゃん言葉になっている。

 夜着に着替えさせられベッドで布団に包まれるまでに、左手は使えるからと言っても聞かず問答無用とばかりに顔を拭かれ紅茶のカップが口元に運ばれ、トイレは勿論抱っこで連れて行かれた。


 ベッドでうとうとしていると蒼白の顔に目を潤ませたアリエノールが飛び込んできた。

「セアラ、生きてる!?」

「アリエノール様、授業は?」

「それどころではありません! セアラが死にかけていたなんて、わたくし⋯⋯」

「あの、転んで少し怪我をしただけですから」

「いいえ、運が悪ければ頭を打っていたかもしれませんし腰を打って半身不随とか! そんな事になったらわたくしも生きてはおりません!! 絶対安静ですわ、メアリーアンの監視からは逃れられませんからね!」

(ああ、なんだかこのリアクション、メアリーアンと似てるかも。主従は似てくると言うけれど正に⋯⋯)


「アリエノール様、ワシにセアラ様の診察をお望みだったのでは?」

 アリエノールの勢いで気付かなかったがドアの近くに白髪の紳士が女性を従えて立っていた。

「まあ、すっかり忘れておりましたわ。この方はリチャード・ホルン様で王宮付きの侍医長ですの。全身隈無くしっかり診察していただきましょうね」

「初めてお目にかかりますな。リチャード・ホルンと申します」


 普段は国王の体調管理と王宮付きの侍医や薬師の管理育成を担当していると言うホルンは、この国で最も優秀な医師と言える。

(陛下の体調管理!? そんな方に診ていただくなんて、転んでちょっとぶつけただけなのに)


 こっそりポニーに乗ろうとして落馬したり木に登ろうとして落っこちたりしても、舐めたら治るが信条のセアラは『コレも王族の流儀かしら』と虚な目をして侍医の診察を受け入れた。

 暇を持て余したセアラが剣技大会参加者の集計くらいならできると言うと、アリエノールからお仕置きだと言って苦い栄養剤が届けられメアリーアンはお風呂上がりの包帯を5割増しにしてきた。



 週末までメアリーアンの羞恥プレイに付き合わされ心身共に疲労したセアラは翌週の月曜日から授業に出られるようになった。休んでいた間の授業のノートやプリント類は毎日ルークが寮の受付に届けてくれていたので戸惑うことはなかったが、未だに右手が上手く使えない。

「ノートはこれからも俺が書いて渡すから、セアラは座っているだけでいいよ」
「移動教室だね、ほら(抱っこしよう)」


 セアラへの羞恥プレイはメアリーアンからルークに引き継がれクラスメイトの視線が痛い。

「あの、ノートは助かりますが足はもう治ったので歩けますから」

 両手を差し出して抱き上げようとするルークを真っ赤な顔で拒絶するセアラを憎々しげな目で睨みつけるシャーロットが『バン!』と机を叩いて立ち上がった。

「セアラ、いい加減になさいませ! 大袈裟に騒いで悲劇のヒロインでも気取るおつもりですの!?」

「シャーロット嬢、俺がやりたくてやってる事だ。口を出さないでもらえるかな」

「ルーク様、あまり甘やかさない方が宜しいですわ。人に迷惑をかけなければならないならお休みすれば良いのです。態々出てきて哀れを装うなんて恥ずかしすぎて見ていられません」

 先週一週間ルークを追いかけ回して玉砕し続けた令嬢達が頷いている。


「ご不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。先ほども申しましたように足はもう治りましたし、手もかなり良くなっていると言ってもらっておりますの。なるべくご迷惑をおかけしないように気をつけるつもりです」




 怪我の功名かルークが常に周りに侍っているせいなのかセアラに対する虐めは鳴りを潜めた。

 剣技大会練習の初日を迎えた今日、生徒会室にはリチャード王子とアリエノール・ウルリカ・セアラ・ルークの5人が集まる予定だった。

 マーカス書記は既に練習場で会計や広報のメンバーと一緒に騒ぎ立てる生徒達の警備に行っているが、ローランドだけが警備に行かず生徒会室に勝手に残っていた。


「では私がリチャード王子殿下を練習場にご案内いたします」

 リチャード王子に向かい礼をしたローランドは張り切って顔を高揚させている。

「ああ、うん。そうだね」

 歯切れの悪いリチャード王子がチラチラとセアラを見ているが、アリエノールと話し込んでいるセアラは気付いていなかった。

「お兄様、どうかされたの?」

「いや、別に」

 ローランドがリチャード王子を促して生徒会室を出ようとした時、書類を読んでいたウルリカが顔を上げた。

「ローランド、殿下の案内は別の人に任せて至急この書類を作り直してくれませんか?」

「それはタイラーかアイシュタインに頼んでいただけますか? 書類の作り直し程度であれば私でなくても事足りると思いますので」

「そうですか。他校に出す案内状の不備を見つけたので書記の仕事だと判断したのですが⋯⋯秘書が自分で仕事を選ぶと言うのであれば仕方ありませんね。マーカスを呼んで彼に頼みましょう。
秘書の管理は担当役員の責任ですからローランドが仕事の選り好みをするのを許しているのは彼の責任においての事でしょう。ルーク、急いでマーカスに声をかけてきて下さい」

 ウルリカの正論にぐっと歯を食いしばったローランドは言い返すことができなかった。ルークが小さく頷いて生徒会室を出ようとするのをローランドが止めた。

「いえ、それには及びません。修正箇所の説明をお願いします」



 ウルリカとローランドを生徒会室に残しリチャード王子達は練習場となるグラウンドに向かったが、グラウンドに近付く毎に予想以上の騒めきと大声で叫ぶ声が聞こえてきた。

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